one-piece ~Sibling~   作:ゆんあ

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4.山賊の子供とあたし

「うぅん……ルフィ? 朝だよ、起きよう……って、あれっ?! いない?!」

 

 あたしとルフィはいつも、どちらかが早く起きた方が起こす……って言ってもルフィがあたしより早く起きることなんか滅多にないし、あたしより先に起きた場合は「腹減った!」って、騒いで起こされる。

 

 だから、あたしより先に起きて居ないなんて絶対にありえない。

 

「じじちゃん! ルフィが居ないっ!!」

 

 村長のじじちゃんの部屋に慌てて行くと、普通に寝ているルフィを片手で担いでるガープのじぃじと、じじちゃんが向かい合っている。

 

「なっ、なにやってんの?!」

「おお、アイか。愛しいじぃじの匂いを嗅ぎつけて来おったか! あはははは!」

 

 なんか匂いを嗅ぎつけては、半分正解の気もするけど……じぃじがルフィを担いでる時点で嫌な予感しかしない。

 呆れて目が点になって何も言えなくなったけど、そんな事を言ってる状況ではない。

 

 だって、この状況は……崖からルフィが突き落とされる、ルフィを風船でくくってどっかに飛ばす……とか危険な所に追いやる事をしそうな状況にしか見えない。

 

 あの風船でどこかにルフィを飛ばした時は、あたしも散々な目に合ったよ……。

 

 あれから、自分のシャボンの能力を少しだけコントロール出来るようになって、シャボンの中に入れば空に浮けるんだけど……ルフィを捕まえたて自分のシャボンの中に入れようとしたら、風が強くてルフィを掴んだ瞬間あたしも一緒に飛ばされてからの、空を飛んでた鳥に突かれて風船もあたしのシャボンも割られて落下。

 

 それから運が良かったのか悪かったのか、落下した所は大きな湖で慌てて自分はシャボン作って入ったから大丈夫だったけど、まだ水の中でシャボンのコントロールのやり方のコツを掴んでなくて湖の生物たちに……もう、思い出すのはやめておこう。

 

 それに、じぃじはあたしがルフィを隠れて助けに行っていることも、シャボンの力があたしにあることは気付かれてない。

 

「じぃじ! またルフィを何処にやるつもり?! じじちゃんも何とか言ってよ!」

「そ、それは……」

 

 いつもはあたしと一緒に反抗してくれるのに、珍しくじじちゃんが口ごもる。

 

「じゃあ、わしはルフィを連れてそろそろ行くかのぅ」

「ちょっと、じぃじっ?!」

「待て、アイよ……」

 

 じぃじを追い掛けようとすると、じじちゃんに腕を掴まれて制止される。

 いつもだったら、素直に追い掛けさせてくれるのにやっぱり今日は何か変だ。

 

「ルフィはゴムゴムの実を食べたから、アイとルフィは別々にと……」

「は? なんで悪魔の実を食べたからって!」

「それは、わしにもわからんがガープにも考えがあるんだろ」

 

 無言で腕を掴まれたまま、何も話してくれないじじちゃんにイライラして来る。

 

 

「……じゃあ、あたしも悪魔の実を食べたから行かないとね!」

「なんじゃと?!」

 

 じじちゃんにもあたしが悪魔の実の能力が、あることは隠してた。

 驚くじじちゃんを軽く睨んで、シャボンを出す。

 

「お、お前っ?!」

「あたし、行くからっ!!」

 

 そう言って、じじちゃんの目の前でパチンと音を立ててシャボンが割れると、どんな能力か知らないじじちゃんは驚いてあたしから手を離した。

 

「……どっちに行ったか、わからない」

 

 走って外に出て周りを見渡したけど、じぃじとルフィの姿は見当たらない。

 

 あのじぃじだ、きっとルフィを安全な場所に連れて行くわけはないし、あたしが行きそうな所に連れて行くわけもない。

 

 ……ルフィ、何処?! じじちゃんには、お世話になって可愛がってくれていると思う。

 だけど、ルフィはあたしの弟なのにじぃじに兄のエースとまで離れ離れにされて、ルフィとも離されるなんてもう嫌だ!

 

 

 ――だから、じいちゃんおれは! 海賊王に……!

 ――何が海賊王じゃあ!! 悪魔の実なんか食うた上にフザけた口たたきおって!!

 

 

 今の声は……ルフィとじぃじの声だ。

 コルボ山の方からした気がする……? あそこには、怖い山賊が住んでるから近づくなって言われてた所だ。

 

 ……怖い山賊、いや今はそんなことを考えてる場合じゃない。

 

 ルフィを早く連れて帰らないと……って、言っても何処に? じじちゃんに啖呵切って出て来たし、ルフィを見つけても今度はじぃじに何かされてしまう。

 

 で、でも! とりあえずは、ルフィの安全を確認してこれからの居場所も知っておかないと!

 

 あたしは走って、山を登った──。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「はぁはぁっ……んもぅっ! この山ってば、広すぎっ」

 

 あれからルフィとじぃじの声は聞こえなくなった。

 だからと言うか、山で絶賛迷子中。

 

「おーい! おれルフィって言うんだ! ツバつけられたこと、おれはもう怒ってないぞ! 怒る程のことじない。友達になろう!」

 

 この声はルフィの声っ?!

 しかも、ツバつけられるとかなんだか、微妙な台詞も聞こえた気がする。

 

 木の影からルフィの声がする方を探すと、あたしと同じ年位の男の子にルフィは話している。

 

「…………」

 

 男の子はルフィの事を睨み付けて、無視をして近くにあった木を蹴り倒した。

 

「え、ちょっと待って?! 蹴り倒したの凄いとか、少し思ったけどルフィ危なくない?!」

 

 ……案の定。

 

「うわあああああっ!」

 

 転がり落ちって行った。

 ま、まぁ、あれくらいだったらルフィは大丈夫だとは思うんだけど……。

 

 この生意気そうな、男の子はなに? 山賊の子供?

 

 男の子を観察していると、やっぱりルフィは大丈夫だったみたいで、必死になって男の子を追い掛けて行く。

 

 流石にあたしも走って追い掛けたら、存在に気付かれそうだしシャボンを出して、中に入って少し離れながら2人を追い掛けることにする。

 

「ちっ」

 

 ルフィが追い掛けてる事に気付いた男の子は、軽く舌打ちをして渡ってた橋を引き返す。

 

「なんだ、実はやっぱり優しいんじゃ……って!」

 

 優しくなんかないっ!

 橋の真ん中でルフィに攻撃して、ルフィが橋から落ちてるよっ!

 

「あぁぁあぁああああ……!!」

 

 慌ててシャボンを出して、ルフィの下にシャボンが行くようにする。

 こうしとけば、落下しなければルフィは死んだりしない……多分。

 

 しかし……あんの、くそガキっ! あたしの弟に何してくれてんだよ。

 自分より年下の子が、友達になろう! って言ってるんだから、嘘でも「うん」って言ってやれっちゅうの! あ、でも、ルフィには嘘でも本気にするから、あんまり意味ないか。

 

 それにしても、あいつ……何処に行くんだろ?

 

 ルフィの方を見ると、ユックリ崖の下に降りて行くのが見える。

 ルフィは、大丈夫だと判断して男の子の後をつけることにする。

 

 だって、友達になろう! って、ルフィ言うんだから、これから住む所で何かしら関係がある子なんだろうと直感が言ってる。

 

 

 男の子の後をついて行くと、前にじじちゃんに聞いた事がある「グレイ・ターミナル」通称ゴミ山。

 

 あたしは行くことはないと思ってたけど、コルボ山よりここはもっと近づくなって言われた場所だ。

 

 なんで、こんな所に……あ、あれ?

 

「遅かったなぁ」

「じじぃが来て、変なガキをちょっと巻いてきたからなぁ」

「変なガキ?」

「じじぃの孫だってさ」

「ふーん」

 

 あの変な男の子と一緒に居る男の子……あたしを助けてくれた子だよね?

 凄く優しいとまでは言わないけど、ルフィを橋から落とすような子となんで一緒に……しかも、どうしてこんな場所にいるの?

 てっきり、裕福な家の子だと思ってたんだけど、勘違いだったのか。

 

 しかも、変な男の子……ルフィのことをじじぃの孫って言った? じぃじと知り合いなのか。

 って事はやっぱり、ルフィがこれから住む所に関係あるんだ……!

 

「うん! 直観が当たったから、ルフィのとこに戻ろっと!」

「誰だっ?!」

 

 げっ、思わず声出しちゃった! 

 あたしの居る場所を特定はしてないのか、2人は木の上から飛び降りてあたしを探してる。

 

 うん、まぁ……あたし、木の上の上に居たから、下に降りてもいませんけど……とりあえず見つかる前にルフィのとこに行こうっと。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねぇ……ルフィ。カエルってそんなに美味しいの?」

「ふまいよ! あひもくうか?(うまいよ! アイも食うか?)」

 

 勧めてくれるカエルを丁寧にお断りして、あたしは自分で見つけた木の実を頬張る。

 

「しかも、山賊の所に住むって本当なの?」

「じいちゃんがそう言ってた。アイも住むか?」

 

 カエルを頬張りながらあっけらかんと答えるルフィ。

 アイも住むかって……じじちゃんにシャボンの力を見せちゃったし、家出みたいに出て来たから確かに帰れはしないんだけど、じぃじに見つかるよねぇ? そしたらどうなるかわからないよね……。

 

「あたしは少し考える」

「そっか」

 

 そういえば、ルフィにはまだエースの話したことなかったしこの際、探しに行ってもいいかもしれない。

 とりあえずこの機会に話しておこう。

 

「ねぇ、ルフィ。あたしたちには、何処かにお兄ちゃんが居るの」

「兄ちゃん?」

「あたしの双子の兄でエースって名前の……」

「エース? なんか、どっかで聞いたことある気がする」

「えぇ?! 何処で聞いたの?!」

 

 なんでルフィがその名前を知ってるのかと思って、顔をジッと見ると、考えてる素振りをしているルフィの言葉を待つ。

 

「……忘れた! あははっ」

「忘れたって……!」

 

 期待して答を待ったあたしがバカだった気がする。

 ここはこれ以上は、問い詰めても無駄な気がするから、やめておこうっと。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 あれから、一週間。

 

 あたしのシャボンの力は借りない! と言って騒いでケガだらけになって、やっとルフィがこれから住む家……山賊の家についた。

 

 シャボンで飛んで行けばすぐなのにって、何回言ったことやら。

 でも、あたしも行くあてがないから、時間稼ぎにはなったっちゃあ、なったんだけど。

 

「お頭! ダダンのお頭! ルフィの奴、帰って来やがったぜ!」

「こいつ……生きてやがったのかいっ! おめェ一体どこに行ってたんだよ!」

 

 屋根の上から中の声を聞く。

 

 この山賊のお頭って、女の人なの? じゃあ、やっぱりあの男の子は山賊の息子か。

 だったら、やんちゃ坊主……と言えば聞こえがよさそうだけど、あんな感じは当たり前か。

 

「……谷の下で狼に……追いかけられてた……」

 

 ぶっは! ルフィは間違ったことは言ってないや。

 

 あたしのことは、とりあえず誰にも言わないでって言ったけど、これはあたしのことを隠そうというよりは、狼に追いかけられたことの方が重大事件だったたんだ。

 

 まぁ、隠しごと出来ない子だから、これからのことは早くなんとかしないと。

 

「今日はもう寝ちゃいな! 明日からキッチリ働くんだぞ!」

 

 山賊たちにとっては、ルフィは厄介者か。

 ドスンと音がしたから、ルフィはきっと何処かの部屋に投げ込まれた? そおっと、窓の外から部屋を確認してルフィが居る部屋を見付けて窓から忍び込む。

 

 ……あれ? 生意気な男の子がルフィと同じ部屋で寝てる。

 おかしいなぁ、息子なのにルフィと同じ部屋なんだ。

 

「じゃあ、姉ちゃんのあたしはお兄ちゃんを探しに行くから、ルフィはそれまで逞しく……」

 

 寝てるルフィの顔に手を当てて、聞いてはないと思うけど声を掛けてると、山賊たちの話してる声が耳に入った。

 

「……自分の孫と鬼の子を押し付けやがって。まったくガープの奴は何を考えてるんだ! 万が一に鬼の子が政府が嗅ぎ付けてみなよ?! あたしら、一体どんな目に合うと思うっ?!」

 

 鬼の子? 政府? ちらっと、寝ている男の子の方を見る。

 

 この子は山賊の子供じゃなくて、じぃじがここに預けた子?

 まったく……じぃじは引き取っておいて、自分が育てられない癖に。

 

 ん? 鬼の子って意味がよくわからないけど、山賊の間ではもしかして悪魔の実を食べた人のことを、そう呼んだりするのかな?

 

 だから、こんな山奥にルフィもこの子も追いやられたの? わー、なんか、本当によくわからないけど不憫だ……。

 

 って、ことは、あたしも鬼の子?! しかも政府がどうのこうのって山賊言ってなかった?!

 あたし……能力者だってこと、これからも隠して生きた方がいいの? うん、隠して生きよう。

 

「……誰だっ!?」

「げっ!」

 

 鬼の子と呼ばれてる男の子が目を覚ましたのか、声と一緒に暗闇で目がバッチリ合う。

 

「あ、あ、あたしは……ただの通りすがりの……!」

 

 や、やばい。

 部屋の中に居て、通りすがりとかまじでありえない言い訳を……!

 この攻撃的な目、絶対にあたしボコボコにされるっ!

 

「煩いよ! 何してるんだいっ!」

 

 こ、これはダブルでヤバい。

 あたしの声が聞こえたのか、男の子の声が聞こえたのか、女山賊の人がドスドス歩いてこっちに来てる。

 

 わー! もう、こっちはこっちで、いつ飛びかかって殴られてもいい状況だし、逃げようにも窓の近くは男の子があたしを睨みながら陣取ってる。

 

「ちっ」

「え、あっ?! えぇぇぇっ!」

 

 舌打ちが聞こえたと同時に、あたしは空中を舞ってる。

 男の子に窓の外に投げられた?!

 

「お、落ちる、落ちるっ! ああああ……あ!」

 

 っと、シャボンを使えば大丈夫だった。

 地面に落ちる瞬間にシャボンを出して、クッションの代わりにしてそこに落ちる。

 

「逃がしてくれた……?」

 

 ま、まさかね。

 ルフィを橋から落としたりする子が、あたしを逃がしてくれるなんてあるわけがない……か。

 


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