シャワーにキッチンがある。足りないものをあえて言うならば、食料がない。だから、キッチンがあっても何か作ることは出来ない。
一応、寝はした。えぇ、もちろんふっかふっかのベットで、グッスリと寝かして頂きました。
お腹が減った……けど、そんなことを言ってる場合ではない。
昨日の覆面の兵士たいな人は「明日の作戦」とかなんとか言っていた。
そうだとすればグレイ・ターミナルが今日、火事に……燃やされるかもしれないと言う事だ。
日が昇ってから起きて数時間は経ったけど、サボがお仕置き部屋に来る様子はまだない。
「サボの意見を聞かないで、勝手に行動するのはヤバいよねぇ……」
それに高町の土地勘もないから、自由に自分が動るとは思えない。
独り言をブツブツ言いながら、何か使えるものはないかと部屋の中を物色をする。
部屋の中には高級そうな家具。
とりあえず、高町の中を歩いてもジロジロと見られない高町風の服が欲しい。
この家にあたしのサイズの女の子の服があったり……しないよなぁ。
子供はサボ男。なんか、サボのことお兄様って呼んでた子が居た気がするけど、男の子っぽかったしなぁ。
……あ。別に女の子の服に、こだわらなくてもいいじゃん! あたしとエースはなんだかんだ言って、同じような顔してんだから髪の毛を隠せれば、あたしだって男の子の格好しててもおかしくないはず!
その逆はエースがキレるから、考えたくても考えちゃダメだ。うん。
ルフィは文句を言いながらでも、やってくれそうな気はする。
「あ、あったあった!」
予想通りに、サボが昔に着てたであろう服があった。
今の服だと確実にサボの方が少し大きいから、昔のならきっとあたしでも丁度いいはず。
「アン、起きてる……か━━っ?!」
「え?!」
着替えてる途中に誰か来たことに驚いて、近くにあった高級そうな何かを誰かに投げつけた。
って、あたしの名前を高町で呼ぶのは、サボだけのはずなので……。
「おれじゃなかったら、怪我させたら面倒なことになるんだからな! おれは、誰か来たら攻撃しろなんて言ってないからな。隠れろって言ったんだからな!」
「やっぱり、貴族に怪我させたら面倒なことになるんだ……」
お互いの意見は、着替えを見たこと、見られたことじゃなかったらしい。
あ。年頃の二人だったら、お約束ってやつになるのか?
「てか、なんだよ。その服装」
「え、変?」
「いや、そういうわけじゃねェけど」
「だって、昨日の格好だと高町だとジロジロ見られるんだもん」
「じゃあなんで、おれの昔の服を着てんだ?」
「この家にあたしのサイズの女の子の服があるの?」
とは聞いてみたものの、高町を歩いてたあたしと同じ年くらいの子たちはヒラヒラとあたしがお出掛けの時に着る洋服よりカワイイ服を着てた。
そりゃあ……あたしも女の子だ! ちょっと着てみたいとか思ったけど、男の子の服装より高町を出た時にそっちで浮きそうだし、何せ今は動きにくそうだった。
あたしの言葉に「ねェな」と言いつつも、あたしの言いたいことはサボに伝わったらしい。
「アンは、突拍子もなく行動する時あるよな……まぁ、いいや。パンしか持ってこれなかったけど、お前がこれ食ったら行くからな」
「あーっ! ありがとう! 夜も食べてなかったから、お腹空いてたんだ。で、何処に行くの? 早くエースたちの所に戻らないと」
物を投げつけたことを言ってるのか、あたしがサボの服を着たことを言ってるのかわからないが、少し困った顔をしながら、サボが口を開く。
「火事……本当になるのかと思ってさ」
「え、大丈夫なの?!」
「いや、そういう意味じゃない。高町に異変が、何もないんだ。皆が知らねェからなのか、あまりにも普通すぎて昨日のことがウソみてェで……」
「それを誰かに確認したいの?」
あたしの顔をジッと見ながら、無言でサボは頷く。
あたしはここに居たから、外の雰囲気……と言っても普段の雰囲気もわからないから何も言えないけど、高町に住んでたサボが言うんだから火事にならないなら、今はそれ以上に良いことはない。
エース達のことも心配だけど、火事が起こらないのであれば高町から焦って飛び出して余計な問題も増やさなくてもいいはず。
──なんて思ってたの甘かった。
◇◆◇◆◇
「"ゴミ山"で今夜火事が? ……そんなこと知ってるが、それがどうかしたのかね? 君らはどこの家の子だ?」
「知ってるの?! じゃあ、どうしてそんなに……むぐぐぐぐぐ」
「のんきにしてられるの?!」とは、サボに口を塞がれて人気のない通りに引きずられて、最後まで言い切れなかった。
「アン! 言いてェことは、わかる! だけど今は少し堪えてくれ……」
「だ……だって!!」
「だっても、こうもねェ。もしかしたら、本当に一部の人間が適当なこと言ってんのかもしんねェだろ! 火事になったら、人が死ぬかもしれねェんだ。あんな……あんな、冷静にしてられるわけねェよ……きっと」
サボはそう言いつつも、言葉の語尾は小さく自信なさげで顔色も悪い。
きっとサボは何かを信じたいんだ。グレイ・ターミナルの人間も、高町の人間も同じ人間。
だから、人が死ぬってことを……殺すことを平気で貴族の人達が、するとは思いたくないんだ。
「少しだけ待っててくれ。もう一人くらい、聞いてくるから」
「え、でも……っ!!」
あたしの返事も聞かずに、サボは走って行ってしまった。
サボの気持ちが、わからない訳ではない。出来れば、サボと同じように貴族のことを信じてあげたい。
ここで「火事を止めなければ!」と言って、行動してくれる大人の貴族の人がいればとも思う。
だけど、その人を探してる間にも時間は過ぎて行く。ここで高町を出て、ゴミ山の人たちに逃げて貰うだけでも火事に巻き込まれる人は減る。
どうやったらサボを納得させて、あたしは高町から出れるかなぁ。それに、サボも高町からまた出るつもりでいるのか。
そこんとこまだ話してなかった。
「アン! 行くぞ! 早く付いて来い!!」
「え、何?! どうしたの?!」
「いいから早くしろ!」
サボが声を張り上げて、目の前を走って行く。
何があったのかわからないが、言われるがままサボを追い掛けていると何やら大人の怒鳴っている声が聞こえた。
「いたぞ! あれだろ、家出の少年!!」
「早く捕まえろ!!」
……見付かってたのね。ここでサボが捕まって、村人のあたしも捕まるのもヤバイ。
「この町はイカレてる……! 火事になることを知っても、普通に生活をしろと言う。早く、エースとルフィに言いに行くぞ! やっぱり、今夜この国の汚点を焼き捨てる気だ!!」
走りながら色々な感情……悔しい、悲しい、不安、を混ぜ込みながらサボは叫ぶ。
あたしはその声を聞いて同じ気持ちになり、泣きそうになったが黙ってサボの後ろを走って追い掛けた━━。
◆◇◆◇◆◇
「あた……し、じゃなかった。おれを中に入れて!!」
「ゴミ山になんの用があるんだ? 子供は大人しく、町で遊んでなさい」
「おじさん、いいから入れて!」
「だから、君みたいな子供がごみ山なんかに、入ったら危ないんだ。大人しく帰りなさい」
高町に入るのに面倒な思いをしたのに、出るときは入る時よりすんなりとあたしは出ることが出来た。
サボは家出の少年と騒がれてたからか、何かゴチャゴチャ言われて捕まりそうになってしまった為「アンだけでも先に行け」と言われて飛び出して来た。
……のだけれど、今度はゴミ山に入れないと言う状況に陥っている。
普段だったらゴミ山の入口だか出口になんか、兵士みたいな人の監視なんていないのに。
ゴミ山が燃やされるとということが、益々と現実味を帯びて来る。
まだゴミ山は燃やされてはいない。でも、こんなところでシャボンを使って、堂々と入って行ったら不審人物だかで銃で撃ち落とされそうだ。
「警備みたいな人が、少ない所を探そ……」
高町からここまで走ってきたが、距離があったため日は沈んでいる。
せめて人の目が少ない所を探しながらと、海の方から入ろうと端町を走る。
「なんだあれ?」
暗くなっているからか、船が黒いのかよく見えないが、少し遠くに海に船が浮いている。この時間に漁船でも商船でも船着場じゃなく、海に浮いてるのは珍しい。
それに、こっちに向かっ来てる気もする。
これからゴミ山が火事になるのに、ブルージャムたちじゃない海賊が増えても厄介だと思い、目を凝らして船を見る。
「海賊旗はなさそうだけど……」
近くで見比べた訳ではないが、ブルージャムなんかよりの船より大きく見える。だからと言って海軍の船でもなさそう。
「気になるけど、今はゴミ山に入ってエースとルフィを捜してゴミ山の人たちも一緒に避難しなきゃ」
船に気を取られながらも、走っていると人影もなくなる。
「ここなら、銃で撃ち落とされたりしないよね」
独り言をブツブツ言いながら、シャボンの中に入って浮遊して壁の頂上に上がってゴミ山の様子を伺う。
「いつも通りの光景……これから、火事になるなんてここに居る人たちも知らないんだ」
グッと歯を食いしばる。
サボを置いてきたけど、サボもどうなったのだろうか。もしこっちに向かって来れてるなら、行き違いにならないといいな。と、考えながら、もう一度シャボンに入ってゴミ山に入ろうとした瞬間にパチンと衝撃が起きた。
「ちょっと、ヴァナータ?」
「え?! あ、何?! あ、ちょ、落ちる、落ちる!!!! きゃあああ……?」
下に降りようとしたら、シャボンも背後から割られた。飛び降りるつもりも、何もなかったのだから、落下する受身なんか考えて無かった。
落下の衝撃に焦って、叫び声を上げたが衝撃は起きない。
「……ぐ、ぐるじい……」
「ボーイがガールみたいな悲鳴あげるなんて、なっティブルね」
シャボンを割られて、変な話し方の誰かに首根っこを掴まれて助けられたからなのか、落下の衝撃は無かったものの、苦しい。
そしてその人はあたしの首根っこ掴んだままブツブツと何か言っている。
「最弱と言われてる東の村で、悪魔の実の能力を持ったボーイがいるなんて……一本取られたよ!!」
……な、なんだ?! えーっと、なんだ?! うん。なんだ?! しか言えないし、言ってない。
「あら、ヴァターシとしたことが」
「痛っ! 何するんです……か……?」
その人の身長の高さで、掴まれてた首根っこを離されボスンと尻もちを付いたと同時に振り返って抗議をしようとした。
でも、あたしの語尾が小さくなってしまったのは、しょうが無いと思って頂きたい。
黒いマントを被った人がいる。
怪しい人物だが、そこはとりあえず目を瞑ろう。
それはまだイイ。それは。
「顔が……」
「美しいって? ……知ってるーー!!」
「うわっ!」
瞬きだか、ウィンクだかよくわからないが、その人がそれをしたら折角立ち上がったのに、何故か風圧でまた尻もちを付く。
あ、あれはつけまつ毛と言うものか? それに、顔が驚くほどデカくて、それを言おうとしたらその人のノリツッコミのせいで言えなかった。
その大きい顔? 目? で、気合の入ったら瞬きなんかされたら風圧が来るのは必須なのかもしれない。
だけど、あたしは言いたい!
黒マントって、きっと何かコソコソする時に身に着けるやつだよね?!
その顔の大きさと、メイクの派手さで黒マントの意味がない気がします!
「……あれ? 黒マントでコソコソ? もしかして、ゴミ山の火事起こそうとしてる人じゃ……」
「ヴァナータ、失礼ね! ヴァターシ、そんなこと知らなぁい。もし仮にヴァターシだったら、それ口に出して本人に言うなんて、ヴァカか! ヒーハー!!」
「ひ、ひぃっ」
デカイ顔が目の前に迫って、恐怖の声が上がる。
「で、ヴァナタ、何してるの?」
「あ、あなたこそ!!」
「ヴァタシ? ヴァターシはねぇ……そう、ヴァターシは……教えないーーー!!」
……話してる時間が無駄な気がする。