one-piece ~Sibling~   作:ゆんあ

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12 高町

「……どうしたもんか」

 

 どうやって高町の中に入ればいいのか、最初の壁にぶつかった。

 シャボンで飛んで、どこからか入れると思っていたけどかなりの高さで、シャボンで入るのもかなり目立って入れそうもない。

 しかも出入り口はどうやら検問所という所しかない……らしい。そこで、身分証やらなんやしてから出入りするというなんとも面倒なシステムがある。

 って、さっき、普通に入って行ったら検問所のおじさんに取っ捕まって怒鳴られて、外にほっぽり出された。

 

 でもさ、でもさ、そこしか出入口がなかったとしたら、サボはどうやってグレイ・ターミナルに来れたんだってことになるよねぇ。

 

「ねぇ、おじさーん。あたし、どうしても会いたい人が居るんだけど! 通してよぉ」

 

 検問所の扉の外から、検問所の中にいるおじさんに話しかけてみる。

 

「お嬢ちゃんは、どう見たってただの町娘だろう! なんだって、貴族の方々に会いたい人が居るってんだ」

「えー。こう見えて、あたし王の娘だよー?」

「…………」

 

 ……海賊王のだけどね。とは、冗談でも口が裂けても言える雰囲気でない。当たり前だろうけど、もちろん「王の娘」に対してのおじさんからの反応は何もない。

 

「むぅっ」

 

 扉の外で座り込んで考え込んでみるものの……なんにも思い浮かばない。

 

 うん。強行突破するしかない!

 

「あっ、ねぇ! おじさん、身分証あったよ、あった!!」

「いい加減、お譲ちゃん冗談もほどほどにしないと、俺はあんたを拘束しないといけなくなるんだ!」

「あ、おじさん……これっ!」

 

 怒りながら入り口の扉を開いたおじさんに、手に持っていた母親の地図を目の前に突き出した。

 これが身分証とやらになるとは、少しも思ってない。それにおじさんが視線を向けた瞬間に、シャボンで脅して横を通り抜けようと思ったんだけど……?

 

「し、失礼しました! どうぞお通り下さい!」

「え? あ、ありがとう?」

 

 さっきまでプンプン怒ってたおじさんが、何故かすんなりと通してくれた。しかも、丁寧な対応に急変。

 この本……なんか、あるの? 別に至って普通の、ちょっと高価な本にしか見えないけど。

 しかも、おじさんの言葉遣いまで変わったし。なんでだろ? 一応、貴族のサボならわかるかな? 会えたら聞いてみようっと。

 

「わー……。大きな家だらけ」

 

 しかも町とも違い、道も何もかもが綺麗。そして、あたしの格好はこの高町ではかなり浮いている。

 偶然だかなんだかよくわからないけど、高町に入れたけどこのままじゃあ注目の的。見下したような視線をチラチラと感じる。せっかく入れたんだから、ここで追い出されたらたまったもんじゃない。

 

 高町に入ることしか考えてなかったけど、高町に村娘が入ったからって罰せられたり……しそうだよね。検問所のおじさんの最初の反応を思い出す。

 

「とりあえず、人目がつかない所に隠れよう。そんで日が暮れてから、サボの家を探そうかな」

 

 とは言ったものの、サボのファーストネームも知らないし人に聞いてここから追い出されるだけならいいけど……それ以上のことになったら、じぃじにも迷惑がかかりそうだ。今日は、隠れてコソコソばかりだけどしょうがないか。

 

 ──"グレイ・ターミナル"が火事に?!

 

「ぎゃあ! な、何?! 今の声っ」

 

 頭の中で聞こえたのか、実際に聞こえたのかはわからない。けど、グレイ・ターミナルが火事になるって聞こえた気がして、身動きが取れずに影で縮こまっていたが驚いて飛び上がった。

 

 ──この国はあのゴミ山さえなければ、きれいな国だ。この国の汚点を全部焼き尽くすことは、何ヶ月も前から決まってる……!! 王族たちは"天竜人"に少しでも気に入られようと、な。

 

 この前ダダンは天竜人が「ゴア王国」に来るという、内容の新聞を読んでた。

 確か東の海を回っていて、この国には今日から三日後あたりに来るって記事だった。

 

 何処から聞こえたか、わからない声が2つ。

 なんだ? と、思いつつも、最初に聞こえた焦るような叫び声と違う声の話した内容を、冷静にタダンとの会話してた時の内容と照らし合わせる。

 そうしていると、また最初に聞こえた声が聞こえた。

 

 ──あそこには、たくさんの人間が住んでるんだ!! 住んでる場所も失うし……って、もしかして、人もか?!

 ──この国の汚点は、全部燃やすって言ったろ? ……あ、おい!! ど、どこに行くんだよ!! お兄様、おい!!

 

「もしかして……サボの声? それと誰の声?」

 

 なんかお兄様って聞こえた気がするけど、サボがお兄様って呼ばれてた? でも今はそれより、グレイ・ターミナルが火事になる……と言うか燃やすって言ってなかった?!

 

 この国の汚点と言えばそうなのかもしれないけど、偉い人たちが何か改善をしようともしないで燃やすのはおかしい。確かに怖い人や、犯罪行為をする人もたくさん住んでる。

 だけど、生きて行くにはしたくもないことをして生活してる人も大勢いる。

 それに大規模の火事になんかなったら、そこに出入りしてるエースとルフィも……。

 

「みんなに伝えなきゃ!!」

 

 サボを探すのも大事だけど、このことを伝えるのも大事だ。そう思って勢い良く走り出した。

 

「──ッてえ!!」

「いったぁ!」

 

 な、何?! あたしが走り出そうとした瞬間に誰かと接触した。

 数時間前からここにいるけど、この薄暗い木の陰には誰も近付いて来なくて、誰も来ないと思っていた場所での誰かとの接触。

 高町に入れるわけもない村娘が、貴族に怪我をさせたなんてなったら大事件だ。

 

「……おいっ!!」

「す、すいませんでしたーー!!」

 

 顔を見られる前に逃げようとすると、腕を掴まれて足止めをくらう。

 

「きゃあっ」

 

 腕を掴まれ驚いて思わず声が出る。

 

「なっ……何で、アンがここにいんだよ!」

「……あ、アン?」

 

 名前を呼ばれた。

 ん? 名前を呼ばれた? 高町で? ここには、あたしのことを知ってる人は多分だけど一人しかいない。

 恐る恐る、あたしの腕を掴んでいる人を見る。

 

「さ、サボ?! なんで?!」

「なんでって、おれの台詞だろ!」

 

 ……言われてみれば、貴族でもないあたしがココに居ることがおかしい。あたしがサボに「なんで」と聞いたことが、おかしい話だと気付く。

 

「どうやってここに入って来たんだ。とか聞きたいことはあるが、何しにココに居るんだよ」

「えっと、サボが連れて行かれるの見て……」

「おまえ……あれ見てたのか?!」

「うん。まぁ、一部始終」

 

 あたしの言葉を聞いて「はぁ……情けないところを」と大きなため息を吐くサボ。

 

「その話をしに来たのか?」

「う、うん」

「それだけのために、貴族でもないアンがここに入るのどんだけ問題なのかわかってんのか?!」

 

 最初はわかってなかったけど、検問所のおじさんの反応でなんとなくは分かってたけど……。

 

「でも、サボ泣いてたじゃん……」

「?! そ、そ、それはその……」

 

 あ、ルフィじゃないんだから、男の子に「泣いてたじゃん」は禁句だったかも。

 そのせいか、サボは黙ってしまった。

 

「あ、ね、ねぇっ! グレイ・ターミナルが火事になるとかサボと誰だか言ってなかった?」

「おまえ! 高町に侵入しただけじゃなくて、おれの家にも侵入してたのか?!」

 

 話を咄嗟に変えると、サボの表情が強張る。

 

「ん? サボの家の場所なんて知らないよ?」

「じゃあなんで、おれが言ってたとかって」

「なんか聞こえた気がしたんだけと、やっぱり本当なの?!」

「おれもそれを、確認しに行く途中なんだよ! 今、こうやってアンと話してる場合じゃねェんだった。とりあえず、付いて来い!」

「え、あ、ちょっ?!」

 

 あたしの腕を掴んで、走り出したサボ。

 いや、あの、付いて行くのはいいんだけど……あたし、すんごい村娘の格好だし大丈夫? と、焦ってはみたものの、サボは裏道っぽい道を走って行く。

 

 ──だけど、日はとっくに暮れいた。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねぇ、サボ~? どこ向かってんの?」

「もう着いたから、静かにしてくれ」

 

 あたしの顔も見ないで、何かの建物の中をジッと覗き込むサボ。それを見習って、あたしも静かにそこを覗き込む。

 

 建物の中には覆面マスクの兵士みたいな人たちがいる。どうやら、サボは中の人たちの会話を聞いているようだ。

 

『明日の作戦は完璧か? 決して不備があってはならない!!』

『我々は完璧だが……問題は海賊達だ。うまくゴミを燃やして貰わなきゃな』

『今ゴミ山中に、油と爆薬を配置してくれてる頃だ……』

 

 中の人の会話を聞いて、あたしとサボは思わず声を上げそうになる。

 ゴミ山を燃やすのはもうわかった。良くないけど、それはもういい。次の問題は「油と爆薬の配置」の話だ。

 

「サ、サボ! 油と爆薬……エースとルフィもブルージャムにやらされてる!!」

「そんなことになってたのか?!」

「半分はあたしのせい、かも?」

「アンのせい?」

 

 高町に来る前のエースとルフィの状況を話すと、サボの表情が固くなった。

 

「ルフィはバカだが、エースはそこまでバカじゃないはずだ! 海賊のやることだから、お前のことを隠したんだろ」

「う、うん……」

「こんなバカげた話、本当なんだな……とりあえず、帰らねェと」

「え?! 帰る?!」

 

 サボは家がある。あたしも高町から出れば帰る所はあるけど、今ここで1人でここから街に戻る手段はわからない。

 

「あー。そうだよなぁ……お前だったらきっと大丈夫だ! おれん家まで着いてこい」

「サボの家?!」

 

 貴族の家出息子の家に小汚い格好のあたしが、泊まることが出来るのか? なんて、オドオドしながらサボに付いていくと、その心配は無用だった。

 

「お仕置き部屋だ。ここなら、多分誰もこねェ」

「……は?」

「だから、物置兼、お仕置き部屋だって」

 

 サボの家であろう敷地内にある、離れの家に連れてこられた。

 家だよ。家! 物置だかお仕置き部屋だかって言ってるけど、ダダンのアジト……むしろ、じじちゃんの家より広いし綺麗。

 

「だから、アンなら大丈夫って言ったろ。ここが、怖いとか言わねェだろ」

「いや、ここがお仕置き部屋とか……ないでしょ」

「おれは一応、自分の部屋に戻る。明日、どうするかまた話そう」

 

 部屋の中の物は使っても大丈夫。だけど、誰か来たらうまく隠れろ。とだけ言って、サボはお仕置き部屋から出ていった。

 

「このバカ広くて綺麗な場所が、お仕置き部屋とか。貴族ってなんなんだろうか……」

 

 広くて綺麗な部屋に、あたしのボソッと呟いた独り言が静かに響いた。


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