one-piece ~Sibling~   作:ゆんあ

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11 張り込み

 マキノ姉ちゃんからあたし達は洋服を貰ったり、賑やかな感じで帰り際に「ここに私たちが来たことはガープさんには内緒ね?」と言いながら2人は帰って行った。

 ルフィはじじちゃんに、何か説教されてたみたいだけど……村にいる時からそんな感じだからいつもの事だ。

 

「洋服貰って、エースお礼言った?」

「……お礼?」

 

 なんだそれ、美味いのか? って顔でエースはあたしを見る。

 言ってないのか。

 

 なんとか、お礼とか挨拶とかさせたい気もするけど……あたしがエースに言った所で文句しか返ってこないだろうからきっと無駄だ。

 

「エース、ルフィ! そろそろ夕飯の調達に行こうぜ!」

「おう!」

 

 サボが2人を呼ぶと、走って出掛けてしまった。

 

「まーまー。アンは行かなかったのかー?」

「うん。マキノ姉ちゃんから貰った本、読みたかったから」

「本?」

 

 マグラがあたしが持ってた本をパラパラとめくりながら、驚いた顔をしている。

 

「どうしたの?」

「これ、地図みたいだな」

 

 ……地図? マグラから本を受け取って本を見る。

 本当に地図だ。少し古ぼけてはいるが、それなりに高価な地図をなんでマキノ姉ちゃんが私にくれたんだろう。

 

「あれ?」

 

 確かに地図だ。だけど、所々にちょっとしたメモみたいな書き込みがある。

 

 『ここで食料を調達した』『ここに一週間滞在した。いい村だった』『お腹が大きくなってきた事にこの町で気付いた○月○日』『この町で初めてお腹を赤ちゃんが蹴った○月○日』

 

 地図の上にそのまま書かれてるから、はっきりと日記とは言えないけど日記みたいなことも書かれて『赤ちゃん』の文字に驚く。

 

 一番驚いたのが『双子だってことが分かった。嬉しい! ○月○日』と書かれていたことだった。

 この本の持ち主の名前はどこにも書いてないけど、なぜかあたしとエースの母親の地図だと確信した。

 

「マグマ! これエースに見せてくる!」

「? まーまー、いってらっしゃい」

 

 本を掴んで家から飛び出して、エースたちを捜しに外に出た。

 

 

「あれー? おかしいなぁ」

 

 食料の調達に行くって言ってたはずなのだけれども、いつも狩りをしている周辺に来てみたけどそんな気配はない。

 来る途中にある秘密基地も見ながら来たし、木の実とかを取ってる場所も通って来たけど人の気配はしなかった。

 

 ということは……調達と言う名の町への食い逃げに行ったのかもしれない。

 あたしが付いて来ないと気づくと毎回そうだ。

 

「みつけたら、ネチネチ文句と説教してやるんだから!」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ほら! やっぱりここに居た! エー……?」

 

 エース! と叫んで呼ぼうとしたが、何か様子が可笑しい。ここで、あたしの存在の気付かれて、食い逃げでエース達が捕まってたとして、自分は巻き込まれるのも嫌だから黙ってその場を観察することにした。

 

「サボを返せよ! ブルージャム!」

「「返せ」とは意味のわからない事を。サボはウチの子だ! 子供が生んで貰った親の言いなりに生きるのは当然の義務! よくも貴様らサボをそそのかし家出をさせたな!」

 

 ルフィが言葉を向けた人を見ると、こないだの海賊の頭のブルージャムらしき人がサボを抱きかかえて「フフフ」と奇妙な笑い声を上げてる。

 その横でこの前サボを呼び止めようとしてたサボの父親らしき人が、何かよくわからないことを言ってる事の方が気になってそっちを見る。

 

「ゴミクズ共め。うちの財産でも狙ってるのか?!」

「何だと?!」

 

 サボの父親の「ゴミクズ」の言葉に怒りを覚えたのかエースが声を張り上げると、海賊の一味らしき人に凄い勢いでエースは殴られる。それで、ケガをしたのか血が飛び散る。

 

「コラ海賊! 子供を殴るにも気をつけたまえ! ゴミ山の子供の血がついてしまった、汚らわしい。消毒をせねば」

「…………!!」

 

 少しだけ子供を庇ってくれる、優しい発言をしてくれたのかと思った。

 だけどその期待は裏切られるわけで、サボの父親がどんな人かは聞いてはいたが『汚らわしい』の発言に、ここまでひどいとは思ってなかったあたしは呆れたと驚いて開いた口が塞がらない。

 

 サボもその言葉に怒ってくれているのか、何か言いたそうにプルプルと震えてる。

 

「やめてくれよ! ……おれは、そそのかされてなんかいねェ! 自分の意思で家を出たんだ!」

「お前は黙っていろ! ――後は頼んだぞ、海賊共」

 

 サボの言葉を一切無視するサボの父親。サボが言ってた理由を聞けばエースとルフィにそそのかされてないことは、一目瞭然。だけど、この父親に言ったってきっと意味がわからないと言われるだけになりそうだ。

 

「フフフ……勿論だ、ダンナ。もう代金は貰ってるんでね。この二人が二度と坊っちゃんに近づかけねェように、始末しておきます」

「し、しまッ?!」

「ちょっと待て! ブルージャム! ……お父さん、もういいよ、わかった!」

 

 始末しておきます。の言葉に思わず叫びそうになったと同時にサボが叫んだおかげか、あたしの声はみんなが居るところには届かなくて済んだ。

 

 エースもルフィも静かに始末されるような玉ではないけど……それでも心配は心配だから、ちらりと二人の表情を見るとサボの顔をジッと見て何か考えてるようだった。

 

「何がわかったんだ? サボ」

 

 サボの顔を睨みつけるようにジッと見つめて、ボソリとつぶやくサボの父親。

 その言葉の意味がわかったのか、エースが声を張り上げた。

 

「やめろよ、サボ!!」

 

 エースの方をチラッと見てからサボは、歯を食いしばりながら口を開いた。

 

「何でも言う通りにするよ……! 言う通りに生きるから……!! この二人を傷つけるのだけは……やめてくれ!!!」

 

 フンっと呆れた顔でサボのことを見下げるサボの父親とは対象的に、エースとルフィは呆然とした顔でサボを見ている。

 

「お願いします……大切な兄弟なんだ!!」

「サボ……!」

 

 どんな思い出でその言葉を言ってるかは、二人に背を向けたサボの表情を見れば、辛いということはわかる。

 逃げ出したいけど、逃げ出せばエースとルフィがどうなるかわからない。なんとか二人を逃してやりたいって気持ちがすごい伝わってくる。

 

 あたしも何か手助けしてあげたいけど、あたしが出て行ってこの状況が好転するとも思えない。

 もどかしいけど、ここはジッと堪えて様子を伺う事しか出来ない。

 

「……おい!? 行くなよ! おれ達なら大丈夫だ。一緒に自由になるんだろ?! これで、終わる気か? それにあのジャジャ馬とルフィの面倒、おれ一人で見れるわけねェだろ!」

「サボーー! ア……ぐほっ」

 

 ジャジャ馬とは、あたしのことを言っているのだろうか。少し腹は立ったが、ルフィが何か言おうとした瞬間エースがルフィを殴った。

 

 それを顔を二人に向けないように横目で見てたサボは、ハッとした顔になるが、慌てて進行方向に視線を戻して大粒の涙を流しながら父親の後に付いて行ってしまった。

 あんなに泣いてるってことは、サボにとっていい状況じゃないってことだけはわかる。

 

 ……あたしは今、どうするべきだろうか。サボを追いかけて、話を聞いたりもしたし、逃げる手助けが出来るならしてあげたい。

 だけどサボは「親の言いなりに生きろ」と言われてるくらいだ。親がサボを殺してしまったりはしないと思う。

 問題はエースとルフィだ。サボが助け舟を出したが「始末しておく」と言っていた海賊たちは、なにをしてくれるのかわからない。

 

 海賊たちに引きずられながら連れて行かれる二人を、足音を立てないように自分をシャボンに包んで後を追うことにした。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 こっそりと後を付いていくと、海賊たち船なのか船内にエースとルフィを投げ入れた。

 

 中の様子が知りたいから入りたいけど、中がどうなっているのかわからない。

 身を隠す場所はどうしようかと思い、船上の帆の陰から様子を伺っているとの屋根の穴が開いてる場所を発見。

 そこから中を覗くと、会話ははっきりと聞こえないが中の様子を見ることは出来たことに少しだけホッとする。

 

 中では鉄パイプを持ったエースとルフィが、ブルージャムと会話しているのが見えた。

 

「良かった。拘束はされてないみたい……」

 

 それに何故かブルージャムは、神妙な顔つきで時には笑顔で二人に話しかけている。

 

「──でもサボは「高町」を嫌ってた!!」

 

 ルフィの大きな声に驚く。きっと、ブルージャムも思うとこがあって、二人を説得しようとしていたんだ。

 

 あれだけ、悪ガキだがゴミ山だのゴミクズだの言ってたサボの父親。

 ブルージャムも「ガキ」を抜けば海賊で、ただの「悪」だ。サボの父親に直接は言われてはいないものの何か感じたのかな。それで、二人に同情したのか。何気にいい人……なのか?

 

 エースとルフィとブルージャムの会話を黙って見守っているのか、他の海賊の一味たちが静かで少しだけ会話が聞こえるようになった。

 

「お前らとは、ポルシェーミの一件での因縁があるが……アレはもういい──むしろ、強ェ奴は好きだ。歳と性別も関係ねェ、おめェらまだ、仲間が居るだろ? 姉ちゃんだか妹だかが」

「あ、俺の姉ちゃんで、ア……っどふっ」

「ルフィ、余計なこと言うな!」

 

 ルフィの言葉の途中で、エースがルフィを殴る。

 なんかデジャブを感じる。さっきもエースはルフィの言葉を遮って、ルフィのことを殴っていた。

 

 エースは、あたしの名前を隠してくれてる……?

 

「何だ、その女はおめェらの姫様かなんかか? 殴られても泣きもしなかった、と聞いてたんだけどな。今……人手が欲しかったんだが、まぁおめェらだけでいい。おれの仕事を手伝わねェか?」

 

 姫様……な、訳ないじゃん。さっき、エースはあたしのことをジャジャ馬って言ったのを、ブルージャムは聞いてなかったのかい!

 

 なんて心の中で突っ込みを入れてると、エースとルフィは顔を見合わせて大きく頷いた。

 

「……わかった。手伝う」

 

 手伝うの? ここでブルージャムの仕事を断ればどうなるかは、わからない。だけど、こいつが言う仕事はまともではない事は確かな気がする。

 

 が、仕事の内容を聞いていると、グレイ・ターミナルのどこだかに荷物を持って行くだけの仕事らしい。

 

 その荷物を運んでる隙にエースと話が出来ないかと思って、近付こうとしてみたものの……ブルージャムの一味も近くに居て話しかけることが出来ない。

 

「……サボがいねェと、イヤだおれ」

「我慢しろ!! おれだって、そうさ……!! ――だけど、本当のサボの幸せが何なのか、おれにはわからねェ。様子を見よう。あいつは強い、本当に嫌ならまた必ず戻って来るさ!」

 

 え、エース! なんてお兄ちゃんらしいことを言ってるの! いやいや、それに感動してる場合じゃなかった。

 盗み聞ぎとは言え、エースの本心は聞けた。やっぱり戻って来て欲しいんだ。

 逃げる手伝いをするかは、サボと話をしてからにして海であたしが溺れたときのこともあるし。

 

「うん。サボにはあたし、借りがあるしきちんとしなきゃ!」

 

 小声で気合いを入れて、あたしはその場を離れた。

 


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