「ゴール・D・ロジャー? ゴールド・ロジャーの事か? 知ってるかって? お前、世の中なんでこんなに海賊達の被害が多いのか知らねェのか?!」
あたしが生まれた時からこんな感じだったから、被害が多いか少ないかはわからない。
でも不良が言うくらいだから、きっと多くなったとは思うんだけど、なんであたし不良と話してるんだ?
「全部そのゴールド・ロジャーのせいなんだぞ?! アレは生まれて来なければ、よかった人間なんだよ。とんでもねェクズ野郎さ!! 生きてても迷惑、死んでも大迷惑!! 世界最低のゴミだ、覚えとけ!」
この人たちはただの町の不良だ。
あたしがロジャーの子供ってことは知らないし、きっと何かの被害にあったんだとは思う……だけど、ひしひしと何かが湧き上がって来る。
――黙れ。黙れ、黙れ、黙れっ!!
何っ?! あたしの声じゃない……エースの声だ。
その声の正体が分かった時には遅く、ヘラヘラ話して不良は目の前で傷だらけで倒れてる。
どうしようかと、慌ててると意識が遠のいて今いた場所とは違う場所にいた。
「ぶわっはっはっ! おい、エース最近荒れとるらしいな!」
「……! ジジイには孫が居るんだろ? そいつらは……幸せそうか?」
「あぁ。ルフィと……か元気に育ってるわい」
エースとじぃじが話してる所に、あたしも会話に加わろうとしたけど声が出ない。
……こんな感じ、前にもあったような気がする。
「おれは、生まれて来て良かったのかな……」
「?! そりゃあ、おめェ……生きてみりゃわかる」
あたしは……そんな事を考えてみたこともなかった。
何かわからない感情が溢れ出して来て涙が零れそうになった瞬間、またフワッと意識が遠のいてまた別の場所に移動してた――。
「エースさん、待っとれよ!!」
「エース、必ず助けるぞーー!!」
「待ってろよォ、エース!」
この光景……あたし、知ってる。
そうだ、すっかり忘れてたけど、あたしの1番初めの記憶で、あたしが居ない世界だ。
エースの公開処刑。
海軍本部、マリンフォード……行った事がないのに何故か地名がわかる。
そこでは大勢の人達がぶつかり合って、海賊はエースを助ける為に戦い、海軍はそれを阻止する為に戦ってる。
「帰れよ、ルフィ!! なんで来たんだ!! おれにはおれの仲間がいる、お前に立ち入られる筋合いはねェ!! それに、お前みてェな弱虫におれを助けに来るなんて……それをおれが許すとでも思ってんのかっ?! こんな屈辱はねェ!!」
口では強がってる事を言ってるけど、エースの心の中はグチャグチャになってるのが、何故かあたしの心の中に伝わって来る。
ただルフィを巻き込みたくないってエースの気持ちだけが膨れ上がってる。
「おれは、弟だっ!! 海賊のルールなんて知らねェ!!」
ルフィが叫ぶと周りがざわつく。
そうだ、母親はあたしが中々生まれなくて20ヵ月もお腹に入ってて……体力を消耗して産んでから亡くなったとじぃじに小さい時に聞いた。
ロジャーがいつ処刑されたか調べたら、あたし達が生まれる前に処刑されてるからルフィが血の繋がりは、ないのは明らかだからルフィがエースの弟って事にみんな驚いてるんだ。
「そいつ、麦わらのルフィは……幼い頃、エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は「革命家ドラゴン」の実の息子だ!」
海軍の偉い人の説明にまた「有害因子」「麦わらも鬼の子だったか」など、どよめき始めた。
……革命家ドラゴン、誰それ? ルフィまで鬼の子って言われるくらいなんだから、きっと凄い悪人なんだ。
あたしの知らない事ばかりで混乱して来た。
そういえば……サボが居ない。
盃交わしてサボも兄弟だから、ルフィだけじゃ絶対に心配だから来ててもおかしくないと思うんだけど。
――サボ……お前だったらどうした?
エースの思った事だろうか、あたしの頭の中に響いた。
どういう意味なんだろう?
――と、思った瞬間に前と同じように意識がブチっと途切れた。
◇◆◇◆
「久しぶりじゃのぅ……ほっほっほ!」
「……だ、だれっ?!」
「お、今回は寝惚けてないんじゃなぁ?」
「うわっ?! えぇっ?!」
声に驚いて飛び起きると目の前には、白銀の長めの髪の毛の知らない男の子がいる。
ずっと気のせいだと思ってたけど、この声……空耳だと思ってた人の声だよね? どうしたらいいのか、わからず男のを凝視する。
「まぁ、悪魔の実も少し食べたことだしな。顔くらいはと思って見せてやった! ……わしに惚れるでないぞ?」
……何を言ってるんだ、この子は。
明らかに話し方が、おじいさんだし惚れるとかありえない。
それにまだ惚れるとか惚れないとか、意味自体がまだわからない。
「おじいさんとは失礼じゃのっ」
「え?」
言葉におじいさんとは出してないのに、あたしが思ってた事がわかった?!
「目の前にいるわしを見て、おじいさんと言っておるのか?」
「…………っ」
ゴホンっと、軽く咳払いをして自慢げに男の子はあたしの前に立ってる。
「えっと、じゃあ……誰?」
「おじいさんって、もう話し方で勝手に決めつけるでないぞ?」
「ご、ごめん……」
「まぁ、そんな事はどうでもいい。話はまた今度じゃ……! さて、起きる時間じゃよ?」
あれ? 起きるって……今、あたし起きたんじゃなかったけ?
「さてと、次に会うのはいつになるかのぉ? では……!」
「え、な、何っ?!」
あたしと会話をする気はなかったのか、男の子があたしのおでこを指でツンと突くとあたしの意識が遠のいた──。
◆◇◆◇
「……ん。い、痛い」
「アーイッ! もう、朝だぞー起きろよォ」
ペチペチと頬を叩かれてる……気がする。
それにしても頭がガンガンする。
じじちゃんが飲み過ぎた時に頭が痛い、気持ち悪いって騒いでたのを思い出す。
……もしかして、あの少量のお酒のせい?
「おーきーろー!」
いんや、起きてる、起きてるんだけど……ま、まって……!
「う、うるさい……起きてる……よ」
「あ! 起きてるじゃんっ! エース、サボー、アイ起きてたぞっ!」
声でかいぃぃぃぃっ!! 頭にルフィの声がガンガン響く。
「アイ、マキノが来てるぞ」
「……ん」
頭が痛くてから返事をする。
「今、マキノ姉ちゃんって言ったっ?!」
「お、おう?」
ウダウダしてたのが一気に頭が痛いのもすっとんで、マキノ姉ちゃんと聞いて目が覚める。
「マキノねぇ……っ?!」
「アイっ!!」
「?!」
マキノ姉ちゃんが居る部屋にすっ飛んで行くと、思ってもみなかったの人の登場にあたしは硬直した。
「じ……じじちゃん……」
こんなタイミングでじじちゃんに会うなんて、思ってもみなかった。
なんでルフィは、マキノ姉ちゃんの名前しか言わなかったの?! じじちゃんがいるのが分かってたら、部屋でおとなしくしてたのに。
文句だけ言って悪魔の実の力でじじちゃんを脅して、家を出たからなんて言えばいいか分からない。
「なんだ? アンの奴、いつもうるせェのに今日は静かじゃねェか?」
「おう?」
あたしの変な様子に気付いたエースとサボが、あたしとじじちゃんを交互に見ながら、エースがそっとあたしの前に立つ。
「……なんだよ、お前の知り合いだろ?」
小声であたしに話し掛けるエースにコクリと頷く。
「じゃあ、なんで黙ってんだ?」と不思議そうな顔であたしを見る。
黙ってちゃダメだとも思うけど、どうしてもじじちゃんの顔が見れなくて、目の前に居るエースの服をギュッと掴むとエースは驚いたのかビクッとする。
いつもだったら「離せ、バカ!」とか言いそうなのに、何故か今日は黙ってくれてる。
「えーと……じいさん、誰?」
「え、エースっ?!」
自分の頭をグシャッとしながら、じじちゃんに声を掛けたエースに驚いて思わず声を上げる。
「お前さんがエースかっ?!」
「お、おう?」
あたしがエースの名前を呼んだら、その名前にじじちゃんは反応したのかあたしからエースに視線を移した。
「そうか、お前さんがエースか……大きくなったな」
「な、なんだよっ?!」
ジリジリと自分たちに近づいて来たじじちゃんに、引きつった顔になったエースもジリジリと後ろに少しづつ下がる。
そんなじじちゃんの顔を見ると、複雑な表情で今にも泣きだしそうな顔をしてるのがなんとなくわかる。
――なんで、じじちゃんがそんな顔してるの?
「……兄妹を離れ離れにして悪かった!」
「っ?!」
なぜか、じじちゃんがエースとあたしに床に頭をつけて謝った。
土下座というやつだ……なんで、じじちゃんがそこまでして謝ってるのか分からずあたしは複雑な気持ちなる。
「じじちゃん?!」
思わず声を上げてた。
離れ離れになってた事は本当にどうかと思うけど、あたしの記憶ではじじちゃんは関係ない。
ガープのじじぃの独断の判断でのことだ。
あたしの思い違いじゃなければ、あの時じぃじは「女の子だからどうしよう」って、言ってた。
あたしも男の子だったなら、最初からきっとここに預けられてたと思うから、それはあたしが女の子だったのがいけなかったってだけの話だと思う。
「アイをガープが連れて来た時にエースの事は知ってたんだ。わしはそろそろ、エースの存在をアイに教えようと思ってたんだが……アイに言うタイミングがだな、そのなぁ?」
チラっとエースの反応を見るためか、じじちゃんはエースを見るとエースは「だから?」と、どこ吹く風。
「エースのことを話したら、アイが居なくなると思ったから言えなかったんじゃ……だから、アイにはコルボ山に近づいてはダメだとうるさく言っていた。そしたら、ガープがルフィを問答無用にここに連れてってしまうだなんだって……ガープは何を考えて、お前たちの事を隠してたかはわしは知らんが……わ、わしはだな、その……」
じじちゃんの言ってる事がよくわからなくて、マキノ姉ちゃんの顔を見るとマキノ姉ちゃんは「ふふふっ」と、笑って見てる。
「……エースにアイを取られたくなかったんじゃ」
「「は?」」
あたしとエースが同時に声を出す。
なんだ、えーっと? あたしゃ……嫁にでも出したくないとかって言う話だったけ? あたしはまだ10歳だし結婚とか考えた事ないし……って! いや、待て、あたしとエースは兄妹だ。
それになんだか、話がなんかよく分からない。
「あの、じじちゃん……? あたしのこと、怒ってないの?」
「なんで、わしがアイの事を怒らないといけないんじゃ?」
エースの後ろから顔だけ出してじじちゃんに声を掛けるとやっぱり何か変だ。
よし、少し話を整理してみよう!
1.じじちゃんの制止を振り払って、ルフィの事を捜しに行った事。
2.じじちゃんに悪魔の実の能力の事を隠してた。
3.その悪魔の実の能力で、じじちゃんを脅した。
4.無断外泊、数か月。
で、あたしはお世話になってた癖にそんな事をしたから、申し訳なさすぎて顔を合わせにくかった。
じじちゃんの言い分は……。
1.エースの事は知っていた。
2.ルフィを捜しにコルボ山に行けばエースが居るから、行って欲しくなかった。
3.エースとあたしが再会したら、エースと暮らすと思った。
4.そして、再会してやっぱりエースの事を隠してたから怒ってあたしが村に帰って来てない。
って、解釈でよろしいのでしょうか?
「おい、アン。このじいさん、俺たちが兄妹ってわかってんのに何変な事を言ってんだ?」
「あたしも一瞬、何言ってるのかサッパリわからなかったよ……」
同じ事を思ってたみたいで、エースはじじちゃんを頭のおかしい人認定したらしい。
ま、まぁ……あたしも、なんでここに留まってるかとか説明した事なかったから、あのじじちゃんの話だけじゃじじちゃんがそう思われてもしょうがない。
「あ、村長! これ、アイが村長に作ってたんだぜっ」
「ちょっと、ルフィ勝手に持って来ないでよっ」
「これは?」
ルフィが手に持ってた物を取り返そうと、ひったくろうと手を伸ばしたけど少し遅かったみたいで、その物はじじちゃんの手に渡った。
「……冬になったら、渡そうと思ってたのに」
その物とは、いつかきちんとじじちゃんに謝りに行こうと思ってたからその時に渡そうと思ってた手編みのマフラー。
怪我をしてた時にやることが無くて、いつか渡せたらいいな程度に作ってた。
渡せなければ渡せないで、自分で使おうとも思ってた程度の物だ。
「……ありがとう。大事に使わせて貰う」
「う、うんっ!」
「で、アンはどうすんだよ?」
和やかムードになった所に、サボがボソッと言うと一気にみんなの視線があたしに集まる。
「え? えっと、村には時々……行ってもいい?」
「もちろんだっ! みんなで来なさいっ」
「本当?! じゃあ、ダダン達も一緒に行こうねっ!!」
「そう言う意味では……」
あたしがそう言うと、ダダンと村長の間に少し変な空気が流れた気がしたけどマキノ姉ちゃんがお酒を出すと「わぁっ!」と明るい雰囲気になって、大人達はまだ明るい時間なのにマキノ姉ちゃんが持って来たお酒で宴会が始まった――。