喰霊-廻-   作:しなー

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※まあ当然ながら自己解釈多数ですよね。ここのシーン、原作で詳細に述べてくれないかね。そーしたら書きやすいのに。


第8話 -神童の初陣-

 

 

 

 

 諌山冥との電話の後、しばらく車を走らせて北東のスポットへと到着した俺は、直接戦線には参戦せずに裏方に回って怨霊と戦いを繰り広げていた。

 

 カテゴリーBと戦闘を繰り広げる本隊をサポートすべく、低級の怨霊の息の根を刈り取っていたのだ。

 

 俺がこの戦場で意識すべきポイントは3つ。

 

 あまり消耗しないこと、三途河に見つからないこと、土宮さん達の危機に間に合うこと。

 

 消耗してしまって結局俺も殺されましたーなんて事態になったら本末転倒なんてレベルじゃない。俺の目的はこの戦場を支えるなんて些細な(・・・)事ではないのだ。

 

 土宮さん達の危機に間に合わないなんて事態も決して起こしてはならない。部隊の補助なんて微細な事に囚われて結局土宮舞を助けられませんでした、なんて結末を辿るのならここに俺がいる意味がない。そんな恥ずべき事態を生じさせるくらいならば何もせずに家で寝てたほうがましだ。

 

 また、三途河に目をつけられてしまっては俺の想定が崩れる。俺の実力を加味した上で土宮舞に殺生石を与える計画を立てられては困るのだ。

 

 正直これに関しては俺が「神童」なんて呼ばれている時点でちょっと不味いかもしれない。

 

 一般に強者と呼ばれる部類の人間はリサーチを決して怠らない。だからこそ強者であり、強者は強者たるのである。その調査の段階で俺の名前が引っかからないなんてことは無いだろう。

 

 俺が望むのは、俺の存在を考慮に入れてはいるが、それでも特別な対策を打ち出そうとするほどではないと三途河が考えている状況。

 

 まぁ正直特別目をつけられていたとしても戦略はフレキシブルに変えられる。俺に注目されるのはかなり不味いが、そうなったらそうなったで腹を括るしかない。

 

 だが、やはりそれでも俺の存在が三途河に意識されない事に越したことはないのだ。

 

 なので極力目立たないように、しかし確実に仲間への被害は出さないように気を配りながら怨霊を駆逐し、本隊の行動を支援する必要がある。

 

 見つかると持ち場を指示されたりとかで面倒なので、本隊にすら存在をばれないように森の中をうまく立ち回り、比較的面倒そうな雑魚を選んで除霊して回っていた。

 

 最初の方は全く問題なかった。 

 

 少数の敵を最小限の存在感と的確なタイミングで駆除するなんて、森での動きに慣れている俺にとっては容易い作業だったからだ。

 

 だが、

 

 

 

―――数が多くなってきた。

 

 

 

 目の前に現れたカテゴリーCを一刀両断しながら俺は思う。

 

 新たに目の前に登場する蛇のようなカテゴリーCを地面と垂直に振り下ろした刀で切り裂くと、返す刀で俺の右に存在した怨霊2体をまとめて薙ぎ払う。

 

 更に左手の刃でカテゴリーDの頭を跳ね飛ばすと、足に巻き付こうとしていたC級を踏み潰した。

 

 ここの一連の流れまで2秒も経っていない。その僅かな時間で4体以上の怨霊を屠っている。そして俺は先ほどからそれを結構長く、しかも連続で行っている。流石にちょくちょく休憩を挟んで退治しているとはいえ、俺が退治している数は結構なもんだ。それだというのに怨霊はちょろちょろと湧いてきて、本陣のほうに向かおうとしたり俺に襲い掛かってきたりする。

 

 内心で舌打ちをしつつも、カテゴリーD、つまりはゾンビの群れに突っ込むと霊力で両手に作り出した刃で回転しながらそいつらを切り裂いていく。ゾンビどもから漏れる断末魔のような声に気味の悪さを感じながらもその中心に近い地点で無双する。

 

 

「ああ、面倒くせぇ!」

 

 手に纏わせた霊力の刃で雑魚共の体を切り裂く。

 

 北東に合流して陰から怨霊を退治し初めて大体30分かそこら辺りから、次第に怨霊の数がおかしくなり始めた。

 

 現に今も俺がばれない様にかつ的確なフォローをしてやろうなんて甘っちょろい考えで処理しきれる量を軽く超えている。

 

 1匹たりとも逃がすものかとの心構えでフォローしているつもりだが、それでも実は結構な数殺し損ねて前線に送り出してしまっている始末。

 

 そろそろ俺1人の力では限界が近づいてきた。

 

 

 認めたくはないが、俺には特別な才能がない。

 

 才能に加えて、土宮神楽のように最強の霊獣を持っているわけでも、諌山黄泉のように霊獣が宿った宝刀を持っているわけでもない。

 

 転生したはいいものの俺にチート能力など全く付加されず、幼児期を効率的に使えるという事(これはこれで結構チートなのかもしれないが)ぐらいしか特典と呼べるものは存在しなかった。ちょっとは俺TUEEEEE!出来るような力があってもいいんじゃないかとは思ったのだが、現実とは残酷だ。前世でわかってたけどさ。

 

 だけど、俺にも唯一許された異能の力がある。

 

 それは小野寺に伝わる、霊力を物質化して使用する異能。

 

 俺はこれをもっぱら手に刃の形で纏わせることで使用している。応用が利くのがこの異能のメリットで、足に纏わせれば硬いものも蹴ることが出来るし、悪路で戦わなければならない時もこれを上手く使用すれば最高の足場を作り出して戦えたりするので、非常に便利な能力である。

 

 結構チート臭く感じるやも知れないが、俺はこれ以外に霊術を(才能的な問題で)使えないのと、いかんせんこの能力、乱紅蓮や白叡のような多対一で映える火力にはならないのだ。

 

 恐らくだが、零距離であるなら一撃で乱紅蓮だって沈められる火力はあるし、相手にもよるが、少数対一の接近戦なら応用の仕方ではイニシアチブを握ることも容易い。

 

 だが、今の状況のように雑魚多数VS俺一人みたいな状況では広範囲を一気にカバーできる能力ではないため、かなり苦戦せざるを得なくなる。小野寺のこの能力は近距離かつ少数を相手するのに最も適した能力なのである。

 

 広範囲での火力が俺にはない。だから、いくら雑魚で屠るのに一秒かからないような奴らでも数が増加されると対処しきれない。

 

 ちなみに親父の肋骨を壊したのはこの能力だ。コーティングした拳で殴ったらあっさり折れてしまった。

 

 

 

 ともあれ、四方八方を取り囲む雑魚共のせいで思ったような行動が出来なくなってしまってきていた。

 

 隠密かつ的確なフォローなんて楽観的過ぎる考えは10分以上前には塵と化している。

 

 まだ大丈夫だが、これ以上増加されると土宮舞を救出するのに手間取る可能性が高くなる。

 

 さっきも言ったが、俺には多対一の戦闘における殲滅力は殆どないのだ。白叡とかなら一瞬なんだろうが、俺だとかなり時間を要してしまう。

 

 

(これはもう、撤退すべきだな)

 

 

 正直。俺がこいつらを倒しつくさなければならない義理は無い。別にこいつらを逃したとしても現在カテゴリーBと戦闘を行っているのはそこそこの選りすぐりのメンバーたちだ。この程度のイレギュラーにはすぐ対応してくるだろう。

 

 カテゴリーCに属する雑魚共とはいえども、カテゴリーBと対峙している方々にこいつらを押し付けるのは心苦しいが……

 

 

―――多分、そろそろだ。

 

 

 また、カテゴリーCが増加してきた。確かにさっきまでも相当数存在したが、間違いなく増加している。

 

 広範囲の殲滅能力を持っていないとはいえ、こいつらの相手をしているのは一応神童だとかなんとかと噂されているガキだ。そして今襲い掛かってきているのはそんなガキが全く処理しきれなくなるほどの大群である。

 

 自分の力に自惚れているだけかもしれないし、俺の想定が甘いのかもしれない。

 

 それでも、これ以上の大群がお出ましになるとはとてもじゃないが考えにくい。この大群を俺と土宮が抜けた北東のメンバーが退治しきるのに一体どれだけかかるんだよって量だ。下手したら夜が明ける。

 

 

 

 目の前の一体をぶった切ると、俺に追いすがろうとする雑魚共は無視して森を駆け抜ける。

 

 喰霊-零-でも、特に大規模な被害が出たとは述べられていなかった。

 

 つまりそれはこの大群を俺抜きですべて壊滅させたということになる。

 

 もしかすると三途河が俺の存在込みで量を調節している可能性も否定しきれないが、カテゴリーC程度に後れを取るほど甘い部隊ではないだろう。

 

 

 それならもうこいつらを全部無視して、土宮さんがいる近くに合流した方が―――

 

 

 その時、ブルルルと携帯が軽快に震え始めた。

 

―――来た!

 

 俺の携帯は、携帯のバイブレーションの違いによって誰からメールが来たのかを把握するように設定を行っている。この携帯の震え方はパターン2、つまり霊力分布図の緊急的な配信だ。

 

 そこに映されていたのは俺の想定した通りの情報。

 

 カテゴリーAが、北東地域の更に北東(・・・・)に姿を現した。

 

「ビンゴだ!」 

 

 

 走る速度を上げる。目標地点へ向けて、全速力を出して駆けていく。

 

 俺は車が入れる限界の都合上、北東ブロックの南部分で雑魚を狩っていた。徐々に北上してはいたのだが、それでも雑魚に足を取られて思った通りに北上できていなかったのだ。

 

 だが、もう雑魚などどうでもいい。

 

 霊力を用いて足場を作り出し、俺が最適に走れるよう自分でアシストしながら爆走する。

 

 

「負傷者はいったん退け!」

 

「土宮殿が戻るまでここを死守するぞ!」

 

「カテゴリーCの大群が押し寄せてくるぞ!さっき指示した通りのフォーメーションに切り替えろ!」

 

 

 南部分から突っ切る都合上、どうしても途中で激戦区を通り過ぎなければならない。

 

 遠く前方の橋に見えるのは火車の後ろ姿。カテゴリーBの代表格とも言える怨霊にかなり苦戦しているようで、怪我人もちらほら見受けられる。

 

 普通なら回り道をして速度を優先するべきだが、生憎大河川に掛かるこの橋こそが最大の近道であり、ここを通るのが最短の道筋。

 

 それを橋の向こうのに渡らせまいと退魔士のメンバーが足止めしているようだ。聞こえた声からすると対岸より先に土宮さん達がいるということは確実だ。

 

 

 

 

「―――邪魔だ」

 

 

 火車に後ろから近づくと、その後ろ足をすれ違いざまに切り飛ばす。

 

 驚いたように声をあげ、倒れこむ火車と、何が起こったかわからず呆然としている部隊の脇を瞬速とも言える速度で走り抜ける。

 

「小野寺の息子!?」

 

「今あのチビ、火車をやったのか!?おい待て、どこへ行く!」

 

 

 後ろからかかる静止の声もシカトする。

 

 

―――こんな些末なことに時間を掛けてられない。

 

 

 走る。駆ける(はしる)翔ける(はしる)

 

 

 

 戦場は、目の前だ。

 

 

 

 




今回短めです。
たぶん次の話がかなり長くなりますね。
VS三途河、お楽しみに。

ぐたった文になってたので改稿しました。
友達が来る前の数時間で書き起こしたのでクオリティがさがってましたね。多少は良くなったかと。

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