喰霊-廻-   作:しなー

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続き期待してた方まじすんません。
ツイッターで先行公開してた、ポッキーの日SSです。


間話6 -ポッキの日-

「ポッキーゲームをしよう!」

 

 その神楽の一言に、ガタっという音を鳴らして俺と剣輔は椅子から立ち上がる。

 

 隣に座っていた黄泉がドン引きするほどの速さだっただろう。気持ち悪いものを見る目でガン見されているが、そんなの知ったこっちゃない。

 

「ポッキーゲーム、だと?」

 

「そう、ポッキーゲーム!皆さん!今日が何の日かご存知でしょうか!」

 

 知らないわけがない。喰霊-零-ファンならば毎年騒ぐお祭りの日。それが11月11日、ポッキーの日なのだから。

 

「と、いう訳でポッキーゲームをします!」

 

 論理もロジックも何もない神楽の発言。

 

 いつもなら茶化しながらツッコミを入れる所だが。

 

「わかった。最初は誰だ」

 

「即答!?ていうかどんだけ乗り気なのよアンタ!」

 

「いいねー凛ちゃん!」

 

 鋭い黄泉の突込みになど負けやしない。

 

 やるぞ剣輔。伝説のゲーム、ポッキーゲームだ。

 

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ROUND1:俺VS剣輔

 

 

 

 

 

「おいまてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「何よ凛。音量設定間違ったラジオみたいな声ださないでよ」

 

「その突込みのセンスにはモノ申したいこと大量にあるけど、それは置いておいて!なんで俺と剣輔なんだよ!」

 

「仕方ないじゃない。一回目のくじ引きの結果なんだから」

 

「6通りある中の選択肢で最低な選択肢っすね……」

 

 げんなりした顔で言う剣輔。

 

 わかる。わかるよお前の気持ち。

 

 お前のことは嫌いじゃないし、むしろ好いてるけど、これをやりたいのお前じゃないんだわ。

 

「とはいえ、やるしかないか」

 

「っすね」

 

 チョコレートの部分を剣輔が、柄の部分を俺が咥える。

 

 男同士のポッキーゲームとか見てられないが、俺らがこれをやらないと次に繋がらない。エデンへと繋ぐためのワンシーンだと思い割り切ろう。

 

「それじゃあ位置について~よーい、ドン!」

 

「その掛け声はどうなのかしら」

 

 黄泉の突込みに同意しつつ、俺と剣輔はポッキーを互いに端から齧っていく。

 

 ……ポッキーゲームってなんだかんだ初めてやったけど、意外に距離短いんだな。

 

 距離感としてはほぼほぼキスしてるのと変わらないような距離感だ。普通の人間と話すとき、こんな顔を近くに寄せられたら俺は間違いなくそいつをぶん殴るっていう距離感だ。

 

 コリコリと少しずつ進んでいく距離。

 

 流石に剣輔とファーストキスは嫌だが、恥じらっていてはこのゲームは何も面白くない。

 

 真顔全開で推し進める俺と、流石にちょっとマズくないっスか?と言いたげな恥じらいの表情を見せる剣輔。

 

 そして

 

「黄泉……」

 

「これは、案外悪くないわね……」

 

 と多少頬を赤らめながら見ている神楽と黄泉。そして二階堂。

 

 確かに俺と剣輔は結構顔立ちが整っている方なので、まぁ見る人が見れば喜ぶかもしれない。

 

 中学生にしては凛々しく、二枚目俳優と言ったような系統の顔立ちの剣輔に、

 

 今どき人気の中性的な顔立ちである俺。まぁ分からなくはないか?

 

 けどお前ら、これで喜ぶなよ……。

 

 って二階堂!?止めないなーとか思ってたら、お前腐女子(そっち)なの、もしかして。

 

 刻一刻と縮んでいく距離。

 

 流石に俺も気恥ずかしくなってきたが、負けるわけにはいかない。

 

 さあ、後三噛でいよいよだぞ―――

 

 という所で剣輔がギブアップした。

 

「っだー!無理っす!なんでアンタ表情一切変えないんだ!」

 

 これ以上は無理!と言いながら後ろに倒れる剣輔。ふん、この程度で恥じらうとはまだまだ甘いな。

 

「あちゃーもう少しだったのに」

 

「剣ちゃんもう少し頑張ってよー!」

 

「いや無理だって……。もう少し頑張れってなんだよ……」

 

 今だ少し顔の赤い女性衆(特に神楽)から非難轟々な剣輔。

 

 とかく、この勝負、俺の勝ちで幕を閉じた。

 

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ROUND2:凛VS黄泉

 

 

 

「そう!これ!俺らはこういうの見たいの!」

 

「凛、煩い」

 

 対面に座る黄泉が俺をたしなめながらぽっきーを取り出す。

 

 黄泉の非難など知ったこっちゃない。俺が求めてるのはこういうのなんだよ。

 

「……」

 

「まぁまぁ落ち着けって紀之。あくまで遊びなんだからさ」

 

 むすっとした顔をしている紀さんと、別に俺とポッキーゲームをすることに抵抗感を示していない黄泉。そして超乗り気な俺。この対比が非常に面白い。

 

 ごめんね、紀さん。もし万が一が起こっちゃっても……事故だからさ。

 

「この状況で乗り気なあの人、ホントどんな心臓してんだよ……」

 

「凛ちゃんって時折ホントに馬鹿だよね」

 

「同感です」

 

「でも止めはしないんすね、二階堂さん」

 

「室長に止めるなと言われているので」

 

 剣輔や二階堂たちの声が向こうから聞こえてくるが、シカトだシカト。

 

 でも神楽ちゃん。最近俺に対する当たりが容赦なくなってきてないかい?

 

 ん、と言いながらポッキーを咥え、俺に向かって突き出してくる黄泉。

 

 そこに気負いとか恥じらいは一切感じられない。結構平然とした顔で、何でもないような顔でポッキーを咥えている。

 

 ……ほほう。そういう方向か。あくまで私は何にも思ってませんよー。別にアンタとキスするのぐらいなんでもないですよーって、そういう考え方か。なるほど、理解した。

 

 なら、俺もその方向で行くしかあるまい。

 

 黄泉から差し出されたチョコ側のポッキーに齧りつく。

 

 すると面前に映し出される黄泉の顔。

 

 相変わらず一分の隙も無く整っていて、惚れ惚れするほど美しい。

 

「……」

 

 紀さんからの殺気が凄いが、完全にスルーする俺。

 

 そんなことよりも目の前のバトルが優先だ。

 

 剣輔の時同様、ゆっくりと歩み(?)を進める俺たち。

 

 ポッキーの距離など、普通に食べ進めて行けば一瞬だ。

 

 ポッキーを食べるのに5分かかる!なんて人間、少なくとも俺は知らない。

 

 そう、ポッキーとはそれだけ短いものなのだ。つまりほんの少しでも俺らが食べ進めればその距離は一気に縮まる訳で。

 

 余裕たっぷりな顔でポッキーを食べ進める黄泉。顔と顔の距離はみるみるうちに縮まっていく。

 

 これには俺がちょっと恥ずかしくなってしまった。

 

 俺の予想だと、このぐらいの距離まで来たら黄泉が恥ずかしがり始めるだろうから、俺が平然とした顔で主導権を握ってやろうかと思っていたのだが、どうもおかしい。

 

 この女、全く恥ずかしがらないのだ。

 

 どころか、余裕そうな顔でこっちを挑発してきやがるまでである。

 

 ……くっそ、この女は。

 

 恥ずかしさで背中が流石にチリチリしてきたが、俺も男だ。負けるわけにはいかない。

 

 そして到頭、ポッキーゲームにおける分岐点がやってくる。

 

 こつっと、鼻と鼻がぶつかる。

 

 お互い一歩も引かない攻防。先程の剣輔はここから少し行った辺りでギブアップをしたが、果たして今回はどうだ。

 

 じっと黄泉の瞳を見やる。

 

 同じくじっと俺を見返してくる黄泉。

 

 そのまま硬直すること数秒。

 

 さて、どうしたものかと攻めあぐねていると、黄泉は優しく微笑むと顔を少し斜めにして、

 

 そのまま瞳を閉じた。

 

 これには思わず目を見開く俺。

 

 周囲がざわついたのが、震える鼓膜から伝わってくる。

 

 ポーカーフェイスを保ってきた俺だが、これには流石に度肝を抜かざるを得ない。

 

―――え?いいの?

 

 ゴクリと喉を鳴らしてしまう俺。え、これってそういうことだよね?

 

 神楽なんてキャーキャー騒いでいる。

 

 黄泉から目が離せないので見れていないけど、剣輔すら動揺しているのが感覚でわかる。

 

 そんな喧噪をモノともせず、黄泉は進行を止め、いわゆるキス顔をしながら俺の進行を待っている。

 

―――いいんだな?俺はやるときはやる男だぜ、黄泉?

 

 すっと、表情を切り替える。

 

 後で剣輔に聞いた話だが、「まるで宿敵に立ち向かう漢のような顔」を俺はしていたらしい。

 

 俺も顔を斜めにして、ポッキーへの進行を再度開始する。

 

 もはや、黄泉の顔は見えない。

 

 それだけ、俺たちの顔は、いや、唇は接近していた。

 

 その状況でも、黄泉は一切動かない。ねだるかのように、じっと俺の接近を待ちわびている。

 

 これは、行くしかない。

 

 そう決めて進行を進めた瞬間、万力の如き握力で頭をがっちりホールドされる。

 

 そのままゆっくり後ろに引きずられ、黄泉から引き離される俺。

 

 動かない頭を何とか無理くり力づくで動かすと、そこに居たのは飯綱紀之。黄泉の将来の旦那さんだった。

 

「おっとそこまでだ小野寺凛。言いたいことは、分かるな?」

 

「ウィッス」

 

 婚約者さんの顔は、満面の笑みなはずなのに、目とこめかみが全く笑ってなかったそうな。

 

 

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「ひゃーすごかったね、剣ちゃん」

 

「ホントにな」

 

 管狐が飛び交い、それを華麗によける小野寺凛を見ながら、神楽と剣輔が雑談を交わす。

 

 見事なまでの身のこなしで管狐を避ける小野寺凛の動きは素晴らしいの一言に尽きるが、2、3回くらい喰らっても罰はあたらないのではないだろうか。

 

「凛ちゃん流石だよね!あそこまで攻めるなんて!」

 

「あの人は心臓が鋼で出来てるとしか思えないな、ホントに」

 

 実際は剣輔以上の小心者ではあるが、周りからそう認知されていない辺り、彼の擬態能力が向上した証なのだろう。

 

 確かにさっきの一幕は、凛の情熱的なアタックに、黄泉が思わずオーケーをしてしまったと、そう見えなくもない状態だったのだ。

 

 だが、と剣輔は思う。

 

 それは全く以て、真実ではないのだろうと。

 

 珍しく感情的に管狐を操る紀之。それを見てこっそりと、嬉しそうに笑う黄泉。

 

―――やっぱ一番すごいの、アンタっすよ、黄泉さん。

 

 凛を利用して彼氏を手玉に取った乙女を見て、やれやれと剣輔はため息をつくのだった。


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