喰霊-廻-   作:しなー

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※かなりの自己解釈を含みますのでご注意ください。


第7話 -開始の狼煙-

 「―――来たか」

 

 

 携帯を買ってからおよそ二週間後。

 

 ついにその時がやってきた。

 

 

 カテゴリーBの同時大量出現。

 

 俺が想定していたほぼ最悪と言って過言ではない状況の爆誕である。

 

 今俺の手元に来た霊力図を見る限り、少なくとも4か所にカテゴリーBが出現している。そして恐らくその付近には大量のカテゴリーCとかDも存在しているだろう。

 

 上位に属する怨霊は下位に属する怨霊を呼び覚ます。これはかなりのでかい戦争になることは間違いない。

 

 

 一人でも多くの戦力に参戦してもらいたかったため、出来れば親父にも出てほしかったのだが、流石に一か月とかそこらじゃ骨は治癒しなかった。

 

 自分の行動が自分の足を引っ張る最悪の形だ。

 

 もっと手加減をちゃんとして戦っておけばよかった。

 

 

 

 だが、もはや後悔している暇はない。

 ここから先はたとえ一分たりとも無駄には出来ないのだ。その一分が誰かを殺す。

 固形の栄養食を液状の栄養食で流し込み、戦闘用の服に着替えると母親と父親にこの戦場に参戦することを伝えた。

 

 親父たちも俺が行くであろうことは何となく察してくれていたらしく、予想に反してあっさりと参戦の許可を貰うことが出来た。ここで多少ごねるだろうと思っていたので嬉しい誤算だ。

 

 いつもお役目に行く際に使う車を一台借り受けると、屋敷内の使用人に運転者を依頼してそれに乗り込む。

 

 こういう時に自分がハンドルを握れないのは非常に不便だ。運転手をまさかお役目のど真ん中に連れていくわけにはいかないし、法定速度をガン無視した速度で走らせることもさせられる訳がない。行く場所も逐一指示しなければならないし、とっさの判断で道を変更するなどの小回りが利かなくなる。

 

 年齢の壁は非常に面倒臭いものだ。

 

 心の中で舌打ちを一つぶちかましながらも、俺は車を走らせるべき場所を思考する。

 

 

 カテゴリーBが現れたのは少なくとも4か所。観測班が間違えたことを俺は見たことがないので4つで間違いはないだろう。今のところは(・・・・・)

 

 その4つにも大小が存在する。北東に存在する特異点が一番大きく、南西に存在する特異点がその次に大きい。北西、南東に存在する特異点事態はその二つに比べて相対的に小さくなっている。絶対的な視点から見ればそれでも異常な大きさではあるが。

 

 その中で俺が行くべき場所はどこか。これは簡単だ。

 

 

「北東の特異点に向かってください」

 

 一番デカい所に決まっている。

 

 一番強大なところに腕のある退魔士は投入される。土宮家が投入される戦場は間違いなく北東の特異点だ。戦力バランスを考えた上で諌山黄泉は恐らく南西に投入されるだろう。

 

「え?坊ちゃん、確か坊ちゃんは南東の特異点が担当じゃあ……」

 

「その指示は無視します。確かに南東を担当するように指示は来てますが、俺はフリーですから自分の意思で判断して動きます。出してください」

 

「いやしかし、北東は異常なほどの特異点ですし、土宮殿が担当されるとの話も聞いています。そこにわざわざ坊ちゃんが出向かなくても大丈夫なのでは?」

 

「かもしれません。ですが、俺は北東に向かいます。金田さん、車を出してください」

 

「いや、しかし―――」

 

「―――出せ(・・)

 

 

 年上に対して命令をするなど言語道断だ。でも、金田さんには悪いがこんな下らん問答で貴重な時間を消費している余裕なんてない。お願いが聞き入れられないのならば命令をするまでだ。

 

「……は、はい」

 

 普段使用人に対して横暴な態度などとったことの無い俺がいきなり命令口調を使ったから驚いたのか、慌ててアクセルを踏む金田さん。うちの車はなかなか速度が出るので、加速の勢いでシートに押し付けられる。普段は絶対こんな運転をしない人だが、焦ったのだろう。

 

「特異点までできる限り飛ばしてください。有料道路を使った方がいい場合は当然小野寺で全額持ちますので迷わずに使ってください。お願いします」

 

 その指示に金田さんがうなずいたのを確認すると俺は携帯を手に取る。

 

 電話帳など参照しなくとも緊急事態に備えて電話番号の暗記は既に終わらせた。

 

 迷うことなくとある電話番号をダイヤルする。

 

 1コール、2コール。3コール目でお目当ての人物は電話に出た。

 

『―――はい』

 

「こんばんは諌山冥(・・・)さん。小野寺です。今お電話よろしいですか?」

 

 

 

 俺は、諌山冥に電話を掛けた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

『小野寺凛?何故この番号を?』

 

 さも不思議そうに諌山冥は訪ねてくる。それも当たり前だろう。彼女は俺に連絡先を教えていない(・・・・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

「そのことについてはお詫びします。勝手にプライベートな情報を得てしまい申し訳ございません。ただ、緊急で相談したいことがあるので今は不問に付してくれると助かります」

 

 この時代は携帯があまり広く浸透しておらず、中高生で持っているなどほんの一握りの時代だ。しかもまだ連絡網に電話番号を載せることが普通な、個人情報保護の概念があまり浸透していない時分なのだ。

 

 特に、あまりメディアに詳しくない世代の人間は特にその管理が甘い。そして個人情報の取り扱いは身内内のみしか閲覧しないような状況においてその甘さは極まる。

 

 だから分家会議の資料(・・・・・・・)に個人の連絡先を載せてしまったりするのだ。現代からすれば誰でも目を通せる所に置いてある出席者名簿に住所、電話番号、携帯電話番号を書いているなど言語道断であるが、ここら辺がやはり古き時代なのだろう。管理がゆるゆるだった。

 

 諌山冥の電話番号もそれで普通に手に入ってしまった。ちなみに諌山黄泉の連絡先もあったりする。

 

 分家会議にはそのためもあって参加したのだが、あっさり手に入りすぎて拍子抜けした。この方法が不可能だった場合直接諌山冥の固定電話にダイヤルして聞き出そうかとしていたのだが、そんな恥ずかしいことをせずに終わらせることが出来て助かった。ちなみに挨拶周りをしなかったのは電話番号を入手するためでもあったりする。親父との喧嘩で唯一得をした部分だ。

 

 

『……わかりました。今は問わないでおきましょう。それで、緊急の要件とは?』

 

「ご理解ありがとうございます。冥さん、今回の招集には応じますか?」

  

『ええ。北西の特異点を担当しろとの命ですのでそれに従おうと思います』

 

「そうですか。――-冥さん。無理を言っているのはわかっていますが、それ無視して北東に来てもらえないですか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 これが、今回俺が考えた策の一つ。

 

 

 ―――諌山冥を、俺の戦力として駆り出す。

 

 

『……北東には土宮殿と他にも優秀な方々が参加なさると聞いています。我々が新たに参加する必要はないかと思いますが、理由をお聞かせ願えますか?』

 

 諌山冥のいう通りだ。正直、北東は誰が行かずとも問題ない。なぜならそこには土宮(・・)が居るからだ。俺が参加したら流石に強大な特異点といえど確実にオーバーキル。それなのに俺は諌山冥までも駆り出そうとしている。

 

 それはなぜか。それは、

 

「恐らく、北東付近にカテゴリーAが出現します」

 

 

 今回のこの異常事態。ほぼ間違いなく三途河が起こしたものと見て問題はない。あいつがカテゴリーBを呼び起こしたのだ。

 

 それじゃあこんな事をわざわざするその意図は何か。

 

 あいつの最大の行動動機は九尾を復活させて母親を蘇らせること、この一点に尽きる。そのためには九尾の力を引き継ぐ後継者の存在が不可欠であり、その後継者を探し出すために殺生石を皆にばらまいているのだ。

 

 つまりは今回の襲撃もその為だと考えられる。そしてその標的になるのが土宮舞、神楽の母親だ。神楽の母親を九尾の後継者候補として殺生石を与えようと目論んでいるのである。 

 

 そのためにはどうするか。簡単だ。土宮と1体1に近い状況で戦い、敗北させればいいのだ。諌山黄泉や諌山冥のように。

 

 戦場に、土宮なら確実に負けることはないが、それ以外の退魔士だと除霊が難しいレベルの怨霊を配置し、戦わせる。そしてある程度片付いた段階でその付近に三途河自ら登場すればいい。そうなれば土宮はすぐにでもそちらに急行しなければならないだろう。ほかの戦場にAクラスが乱入すれば壊滅待ったなしであるからだ。

 

 土宮がカテゴリーAの討伐に向かうとどうなるか。その戦場にはカテゴリーAには対応できないが、その戦場ならば食い止めることができるレベルの退魔士が残ることとなる。つまりは土宮だけをおびき寄せることができる。

 

「はっきり言って、冥さんを納得させられるような決定的な証拠はありません。ただ、信じてくれと言うしか」

 

 問題は諌山冥を納得させるような情報が存在しないこと。三途河が主犯だと俺が知っているのは何故かという話だし、そもそもそれをばらしても納得してくれるとは思えない。

 

 残念ながら、俺にはこの人を確実に動かす手段はないのだ。

 

 

『俄かには信じがたい話ですね。確かに私はフリーであり北西を担当しなければならない義務はありません。しかしながら貴方の推論は担当を依頼された北西を投げ出してまで北東に向かう理由にはなりません』 

 

「……そうですよね。無理を言ってるのは俺もわかってます」

 

 奥歯を噛み締める。こんなふざけたお願いで動いてくれるのは、それこそ絶対的な信頼をおいているような相手だけだろう。特に、理知的な相手であればあるほどそれは顕著だ。 

 

 ……分の悪い賭けだとわかってはいたがやはり動いてはくれないか。

 

 確実性は低くなるが、北東には俺一人で―――

 

 

 

 

 

『ただ、その仮説は北東に向かわない理由にも成り得ません』

 

 

「―――え?」

 

 

『残念ながらその仮説を全面的に信用をする訳にも行きませんが、北西部を片付け次第そちらへ向かう動機づけくらいにはなります。手早くこちらを片付けてそちらに向かいましょう』

 

 呆けている俺の耳に、相変わらず老成した、年の割には大人びた声がスピーカーを通して伝わってくる。

 

『なぜ貴方がその情報を知っているのかはわかりません。ですが、貴方の事は信じましょう。―――それでは。ご武運を』

 

 

 

 

 

 ツーツーと無機質な電子音が鳴り響く。

 

 諌山冥の協力を得て、思わず俺はガッツポーズを決めていた。諌山冥の協力を得れたのは大きい。可能性はかなり低いのではないかと予測していたが、これまたいい意味で予測が外れてくれた。

 

 これでまた、救済に近づいた。

 

 

「金田さん、もっと飛ばしてください」

 

 指示通りに踏み込まれるアクセル。

 

 さっき法定速度を無視して走らせることなどとかなんとか俺が言っていた気がするが気のせいだ。あまり対策室に借りは作りたくないのでやりたくはないが、いざとなれば環境省を通して警察に口を利いてもらえば済む。権力とは使うためにあるものだ。

 

 法定速度は余裕で超過しているため、風景がかなりの速度で流れていく。

 

―――条件は整った。

 

 あとは、俺が実行するだけだ。

 

 初めてのお勤めでもなかったほどに緊張しているのがわかる。

 

 焦るな、ビビるな。

 

 俺なら出来る。

 

 

 

―――やってやるさ。

 

 

 流れていく風景を見つめながら、俺はそう呟いた。

 

 




あまり話がすすまんなあw
あとまともに絡んでるのが冥だけな件について。
よろしければ評価とかいただけると幸いです。

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