喰霊-廻-   作:しなー

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第5話 -諫山の令嬢-

 

 

 

 

 

 諌山冥。喰霊-零-における敵キャラの一人。

 

 現諌山の党首である諌山奈落(黄泉の父親)の弟、諌山幽の娘。

 

 諌山奈落には実子がいないため、諌山の血を継ぐ実質的な継承権1位の跡継ぎであるはずなのに、諫山奈落の気まぐれのせいで養女(・・)である諌山黄泉に家督を奪われた人である。

 

 正常な状態では家督の件について「黄泉さんが死ねば家督は私のもの。この業界で家督を継ぐことは早いか遅いかでしかないのです」と発言している。

 

 つまり退魔士は死亡率が高く、黄泉もそのうちさっさと死ぬのだから、自分が家督を継ぐのは時間の問題。自分が家督を継いだようなものなのだから気にする必要はないと言っているのだ。

 

 もしかすると自分が黄泉を殺すから、といった意味なのかもしれないと解釈は出来るが、時折正気に戻った際の発言から推測するとこんな意味だと思われる。

 

 一見それ(家督)に大した拘りはないかの如く見えた。

 

 だが殺生石を体に埋め込まれてからはその主張が一変。

 

 諌山奈落をその手にかけて殺すと遺書を書き換えて家督を自分のものに変更。諌山家に代々伝わる宝刀である獅子王を黄泉から無理やり奪い取る。

 

 それだけに留まらず黄泉が住んでいた部屋をも自分のものとして奪い取り、黄泉から徹底的に「諫山」と居場所を奪い去ってしまうのだ。

 

 諫山黄泉の命の恩人たる諫山奈落。黄泉の親が怨霊に殺された際に救ってくれたのが奈落で、その後の面倒すら見てくれて、そして実の子ではない黄泉に「諫山」と諫山の象徴とも言える宝刀「獅子王」を託したという。

 

 

 そんな奈落も、獅子王も。

 

 黄泉の諫山における全てと言っても過言ではないそれらを冥は奪い去った。

 

 そして最後にはその胸に秘めた思いを爆発させて黄泉を殺そうとするが、殺生石との相性の悪さなどの要因が重なって返り討ちに遭い、二度と帰らぬ人となる。

 

 この人の説明をするとすればそんなところだろうか。

 

 黄泉をダークサイドに落とした原因となった最も大きなファクターたる存在である。

 

 この人が殺生石を得ることがなかったならば、あの世界はあそこまで崩れなかった。

 

 ただ、石を得てから時々正気に戻った際に、「私は一体何をしているんだ」と後悔どころか自分の行為に理解不能さを示していたため、もし石を得ていなければあんな事態にはならなかったのではないだろうか。

 石を得ずともどこかで爆発していたかもしれないが、それでも石と、何より最悪なのが三途河の野郎である。

 

 この人に殺生石を渡したのも、黄泉に殺生石を渡したのも、あのマザコンであって、 この人もまた被害者の1人だと俺は考えている。

 

 やった行為は許されるべきことではないが、まず最初に憎まれるべきは三途河であって、その次にこの人だ。

 

 多分視聴者もこの人に嫌悪を抱く人は少ないのではないだろうか。

 

 

 

 

 俺は目の前に立つ諌山冥を見据える。

 

 その美しいふるまいと立ち姿からは気品と確かな知性が感じられ、そんな愚行を犯すような人には決して見えない。ただ想定してたより息をのむような美人であるだけである。

 

 だが、この人の内面には自分が思っている以上の黄泉に対する嫉妬と妬みの感情が渦巻いていて、放っておけばそれを爆発させてしまう。

 

 この人を止めなければ、この物語に救済はないのだ。

 

「直接お会いするのは初めてですね。初めまして、諌山冥と申します」

 

 綺麗にお辞儀をする諌山冥。

 

「こちらこそ初めまして。小野寺凜と申します」

 

 年上に名乗られた上にお辞儀までされて黙っているわけにはいかないので俺は慌てて立ち上がりお辞儀を返す。10歳そこらのガキとは思えぬほど固くなってしまったが、とりあえず名乗り返す。

 

 いつか会いたいと思っていた人ではあるが、まさか向こうから接触してくるとは。機会を窺っていたのだが、機会がほとんどなかったために今日の接触は諦めていたので少々面喰ってしまったのが正直なところである。

 

「噂はかねがねお聞きしています。一度お話ししたいと思っておりました」

 

 クスッと15とは思えない妖艶な笑みを冥は浮かべる。前世の頃からしてみると15なんてまだまだ子供といった感想を抱いたものだが、13の現在からしてみると非常に大人に見えて仕方がない。

 

 子供のころは女性のほうが成長が早いと聞くし、このころの2歳差というのものはかなり大きい差だ。

 

 ぶっちゃけこの二言三言だけで自分が押されているのが否めない。

 

 鍛錬とかを積んでいても性根がヘタレなのはあまり変わっていなかったりする。

 

「色々伺っております。なんでも一人でカテゴリBを2体相手に立ち回ったとか、退魔士歴代でも類を見ないような鬼才の持ち主であるとか。小野寺の期待の星なんて呼ばれてたりもしましたね」

 

「……そんな噂をされてるんですか、俺?なんていうか、それは買い被りが過ぎますよ。そんな大層なもんじゃないですよ」

 

「ご存じないのですね。退魔士の中では有名な話です。あの黄泉ですら凌ぐ神童なのではないか、と」

 

 そんな噂をされていたのか俺。フリーで退魔士やってたし、あんまりこっちの業界の人と絡む機会がなかったからそんなことを噂されているとは全く知らなかった。

 

 ちょっと嬉しい反面、面と向かってそういうことを言われるとなんて反応すればいいかわかんなくて背中がむず痒い。

 

 そんな俺の反応を見て悠然と微笑んでるし。余計むずがゆい。くそう。

 

「……親父のスパルタ教育のおかげですよ」

 

 つい少々ぶっきらぼうに返してしまう。年上の美人なお姉さんにからかわれて格好つけようとする背伸びをした中学生かよ俺は。

 

 ……寸分違わずその通りだった。少なくとも見た目上は。精神も肉体に引っ張られでもしてんのかね?

 

「……挨拶まわりとかもう大丈夫なんですか?さっきまで諌山さんと色々回ってたみたいですけど」

 

「ええ。もう大抵は済みましたので。後は特に何をするでもないのでお父様に預けてしまおうかと。それに、それを言うなら凛さんこそでしょう?お父上に付いて回っているようには見えませんでしたが」

 

「……おっしゃる通りで」

 

 よく見てらっしゃる。実はこういった場で大切な日本の儀式である「挨拶回り」を今日俺は一切やってないのだ。

 

 中学1年生だからで許されることではあると思うが、それでも親の後ろにくっ付いて自己紹介ぐらいはするのが普通な光景だろうなーとは思っているのだが。

 

「貴方は今この業界において時の人。見られていないことの方が難しいでしょう。珍しく"小野寺凛"が来たということで分家一同楽しみにしておられたのに、お話が出来ないとの事で皆様残念そうにしていらっしゃいました」

 

 クスッというよりはフッといった擬音がつきそうな微笑。ほんとにこの人の笑みは掴みどころがないな。

 

 ……それにしても皆に注目なんてされてないだろうと思ってここに来たのに、なんでこの人に見つかったと思ったらそういう事か。

 

 どうやら結構注目されているようだ。やるじゃないか俺。

 

 が、男として武力で皆の感心を得ることが出来たのは嬉しい反面、それのせいで三途河に注目されてしまいそうで多少怖い。

 

 黄泉とか完全にあいつに目をつけられていたし、原作の主人公の名前ですら覚えてるような奴だ。

 

 皆を殺生石から救おうとして動いてるうちに俺が殺生石にやられてしまっては元も子もない。

 

 ミイラ取りがミイラにならないように警戒はしておこう。

 

 

 それはそうとして、そんな一躍時の人として世間様に名前が躍り出ているらしい俺氏こと小野寺凛が何故挨拶回りをしていないのか。

 

その理由を話すと多少長くなるのだが、一言でその原因をまとめるとするなら

 

 

「いやぁ、皆さんには悪いんですけど、俺今親父と喧嘩してまして」

 

 

こうである。俺氏、だだいまパパンと絶賛喧嘩中なのである。

 

 

「分家会議に出たいってごねたら少々怒られてしまいまして。ヒートアップした俺も『親父から1本取ったら分家会議に出させろ』なんて事を言い始めてしまって……」

 

 それに更に激高した父親がその申し出をまさかの快諾。母親が監督を努める中、恐らく過去最大級の親子喧嘩が勃発したのである。

 

「あぁ、それで小野寺殿の立ち振る舞いに違和感があったのですね。肋骨を傷めている人間の動きでしたので、どうされたのかとは思っていました」

 

「……随分と目敏いですね。ええ、ちょっと白熱し過ぎて思わぬラッキーパンチを父親の肋骨にぶち込んでしまいましてね。分家会議の2日前だというのに我が父は心臓側の肋骨を3本折る重症ですよ」

 

 実際はちょっと違うのだが、いいのをぶち込んでしまって父親を重体に追いやってしまったのは事実である。

 

「その結果顔を合わせ難くなってしまってて。なんとか要求は呑ませてここには来れたんですけど、一緒に挨拶回りをする気にはちょっとなれなくて1人で黄昏てた訳です」

 

 行きの車とか終始無言だった。

 一応昨日謝ったんだけど、それでもやっぱお互いに気まずいものだ。

 

 まさかの親父が客として来店してきたキャバ嬢でももっとしゃべるんじゃないの?っていうぐらいにはシュールな空間だった。

 

 その割を食った運転手さん、まじでごめんなさい。

 

「……なるほど。小野寺殿がけがを負うとは相当に白熱したのでしょう」

 

「正直かなり。俺、何回か死を覚悟しましたもの」

 

「それはそれは。小野寺殿も大人げないのですね」

 

「ええ。そうなんですよね。ガキ相手にあそこまでムキになるとは思ってもみませんでしたよ」

 

 顔面に後ろ回し蹴りとか飛んできたときは鳥肌が立ったものだ。

 

 膝蹴りが顔をかすめた時なんかは走馬燈が見えるかと思った。

 

 俺がそう付け足すと、今度こそ本当に可笑しそうに(・・・・・・)、それでいていつものように妖艶に、目の前の彼女は笑った。

 

 

 「でも、貴方は無傷(・・・・・)

 

 

 そうぽつりと漏らすと、諌山冥は優雅にそして唐突に一礼をして踵を返した。

 

 

 「それでは(わたくし)はこれで。またお会いしましょう、小野寺凛さん」

 

 こちらを振り向かずにそうつぶやくと、華麗な足取りで諌山冥は歩き出した。

 

 その視線の先には諌山幽。

 

 後ろを一回も振り向いていないのにその存在を把握する技量には感服するしかない。

 

 本当に掴めない人だ。何を考えているんだかがよくわからない。

 

 

 

 「―――」

 

 「―――え?」

 

 

 ふと、諌山冥は顔を半分だけ向けて、何かを小さくつぶやいた。

 

 歪な笑みを、口元に残しながら。

 

  

 

 

 

 

 ……なんと言ったか全く聞き取ることができなかった。

 

 だから、これは俺の聞き違いなのかもしれない。

 

 でも、去り際に彼女は

 

 

 

 ―――期待しています。

 

 

 黒い笑みの下で、そう呟いた気がした。

 




私結構ミスが多くて、更新されたてだと文章がややぐだってるときあるかもです。今回もちょい大幅に改稿しました。一応時間たってから読み直しを着て書き直ししてたりするので、何か明らかに変なのとかあったら連絡頂けると助かります。

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