喰霊-廻-   作:しなー

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今回は内面といいますか、そこらを描いてます。
よろしければ今回の補足がありますので、是非後書きを読んでくださいませ。


第4話 -地下鉄銀座線-

 俺がカテゴリーDを初めて、いや、初めて()()を切ったのは10歳の頃だった。

 

 

 

「黄泉!」

 

「切って!」

 

「でも!」

 

 悲痛そうな神楽の声を、黄泉(センパイ)の声が一刀両断する。

 

「もう人じゃないわ!」

 

「でも、人だったんでしょ!?」

 

 元は人だったもの。その人の死体に怨霊が取り付き、身体自体が怨霊と化してしまった化け物、カテゴリーD。

 

「一度怨霊になった霊は浄化するしかないの!」

 

「だからって!」

 

「もうとっくに死んでるのよ!」

 

 正論すぎる、黄泉(神童)の言葉。その言葉には一切の間違いなど存在せず、退魔師の基準に当てはめれば100点満点()答であった。

 

 だが、幼い少女にとってはそうではない。

 

 それはあまりに残酷で、そして歪んだ(ただしい)()答であった。

 

 俺はどうだっただろうか。

 

 いや、どうだっただろうかなどと問うことすら馬鹿馬鹿しい。何故なら、今でもそれを明瞭に思い出せるのだから。

 

「切って神楽!人の世に、死の穢れ(けがれ)を撒くものを退治するのが私たちの使命よ!」 

 

「そんなの、分かってる!けど!」

 

 黄泉が賢明にカテゴリーDを殴り倒してく。ダグラス28号、アイロン型の退魔武器。

 

 優秀な装備ではある。だが、それの殲滅力が獅子王に敵うはず等なく。

 

 頭を潰すか四肢を切り落とさなければ止まらないカテゴリーDを相手にするにはあまりに役者が不足している。

 

 次第に押され始める黄泉。神楽も刀を抜かなければ既に後はない。

 

 だが、その刃を神楽が抜くことは出来なかった。それも仕方ないと言えるのかもしれない。何故なら、目の前に襲い来る存在は、人と同じ形をしているのだから。

 

 神楽は何を思っているのだろう。人だから切れない。そう思っているのだろうか。

 

 さて、では俺はどうだったのか。初めて人を切ったとき、俺は何を思ったのだったか。確かそれは。

 

 あぁ、こんなものか。

 

 というものだった。

 

 

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「買っていくのはこれで全部かな?」

 

 俺は今、家の近くにある大型スーパーに居る。環境省から出た後、少し急ぎ目で家のほうに戻り、クラスメイトに会わないであろうスーパーで買い物をしていたのだ。

 

 親からお使いとして渡された買い出しのメモに目を落とす。

 

 各種食料品に、足りなくなっていたシャンプー類。あとは母さんが欲しいと言っていた本とDVD数点程。

 

 母親特有の不思議な丸みを帯びた不思議な文字を見ながら確認していく。

 

 いかんせん量が多いので見落としがないかを慎重に判断せねばならないのだ。

 

「本もこれでいいんだよな。これ買ったし、これも買った。……よし。問題ないな」

 

 正確に一個一個を確かめて、買い漏らしがない事をきちんと確かめる。別に買い残しがあってもさしたる問題はないのだが、また買いに来るのが面倒だ。どうせ俺が駆り出されることになるわけだしな。

 

「合計で12587円になりまーす」

 

「一括で」

 

「はーい。……こちらご記入お願いしまーす」

 

「はいはい。……どうぞ」

 

「ありがとうございまーす。こちらレシートとお控えになりまーす。ありあしたー」

 

 親父から預かったカードを財布にしまい、俺は店を後にする。

 

 久々にクレジットカードを使った。クレジットカードはやはり使い勝手がよく、家族カードでは無く、自分名義の物を俺も欲しくなってしまう。前世では非常にお世話になったものだ。

 

 どうでもいいちなみに話なのだが本人以外にクレジットカードを使うのは利用規約違反らしい。これは家族カードなので問題ないが、実のところ他名義のクレカを使うのはクレカを止められてもおかしくなかったりする。

 

「さてさて。帰りますか。どのルート通っていこうかな」

 

 頭の中でこの時間の最短ルートを検索する。

 

 東京の道路は半端じゃなく入り組んでいる。それはもう地方民からしたら迷路に居るのかとでも言いたくなるような細かい道が走りまくっていたり、右に曲がると見せかけて斜めに曲がらせたりなど、慣れている人以外には苦行としか言いようのない糞みたいな作りになっている。

 

 なので正直今でも迷うことがあったりするのだが、有事の際に迷うことが無いようにこうやって頭の中で道を組み立てて通行する癖をつけているのだ。

 

 昼の時間帯ならどの道が一番早いかとか、朝はここがバス専用になっているから違う道のほうがいいとか、夜ならこの道にネズミ捕りがいるから違う道で飛ばそうとかなどである。

 

 ……とはいえこのスーパーから家は5分くらいなのだが。

 

 そんなことを考えていると、携帯が振動をし始めた。

 

 さっさと帰ることが先決なので無視してバイクにまたがると、とあることに気が付く。震えている携帯、これは私用ではなく仕事用の方の携帯だ。

 

 急ぎ取り出してそれを見る。

 

 すると添付されていたのは一枚の画像ファイル。旧銀座線新橋駅に異常な霊気圧が観測されていると示されている霊力分布図だ。

 

―――まじかよ!

 

 予想より早い。確かに霞が関から杉並区までそこそこ距離はあるし、大体20分くらいはかかるが、それでも余裕で間に合うと思っていたのだ。

 

 買い物が20分くらいだとしてここまで通算40分。多分結構飛ばしたのと買い物も急いだのでもう少し縮まってはいると思うが、大体はそのくらいだ。

 

「ここからだと一番飛ばせるルートは……」

 

 買い物のために見た目がダサくなることを耐え忍んで付けてきたバイク用の荷物入れに食品の形が崩れることなどお構いなしに買い物袋をぶち込む。

 

 メットを被り、バイクを起動させると駐車場によくいる無駄にスピードを出す馬鹿以上の速度で駐車場を駆け抜け、一時停止もすることなくドリフトみたいな形で車道へと躍り出る。

 

 いきなり飛び出してきた俺にやや後方の車からクラクションが鳴らされるが、そんなことはお構いなしだ。

 

 右手はもう絞れるだけ絞り、こんな平凡な道で出すとは思えないギアと速度で道路を駆け抜けていく。

 

 正直に言ってしまえば間に合わなくたって問題はないはずだ。

 

 前にも考えたことではあるが土宮殿が来てくれるはずなのだから。

 

 しかし、それでもやはり不安は残る。

 

 この世界に絶対は無い。それは俺も経験を通して学んでいる。万が一が起こらないという保証がないのだ。

 

 思い返せば土宮殿は今喰霊白叡を所有していないし、そして一番大きい理由だが、なによりも神楽(妹分)が心配だ。甘いと言われることはわかっているし、甘やかすつもりはないのもその通りであるが、それでも心配なのだ。

 

 黄色信号を突っ切っていく。急がなければならない。

 

 ……間に合ってくれ。

 

 そう願い、俺は最短ルートを検索しながらバイクを走らせるのであった。

 

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 そして話は冒頭へと遡る。

 

 俺が初めて人を切ったのは10歳の時だ。

 

 親父に連れて行ってもらった森で親父とはぐれてしまい、さまよっていると目の前に人が落ちてきたのだ。

 

 自殺。まさにそれだった。

 

 だが幸か不幸かその人は死ねていなかった。目の前で自殺した人が死にきれずに、尚且つ怨霊に乗っ取られかけてカテゴリーDに成りかけていたのだ。

 

 殺してくれとその人は言った。

 

 正直に言って、俺は多少の恐怖を覚えていた。

 

 でも今ならわかるが、それはそれまで生きてきてカテゴリーDを切ったこともなければ、まして人の死に直に触れようとしているのはそれが初めてだったからという訳ではない。

 

 俺が感じていたのは、ただ不気味な森の中で死にかけの人間と相対しているという、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 俺はその人を切った。

 

 殺してくれと言われてからどのくらいの時間が経っていたのか正確にはわからない。だが、少なくとも30秒以内には刃を振り下ろしていたと思う。

 

 俺は割り切れた。生きている人間といえどもすぐに死ぬし、どうせカテゴリーDになるのだと割り切れたから何の躊躇いもなく手をくだせたのだ。

 

 俺は精神が強い人間だ。

 

 それに、俺は必要とあらば手を血に染める覚悟はとっくに出来ていたのだ。

 

 神楽に初めて会った、あの日から。

 

 だから、その人に止めを刺した時にもこんな風にしか思わなかったのだと思う。

 

 あぁ、こんなものか、と。

 

 俺がこの世で切れないのは多分5人だけだ。それ以外の人間ならば、それこそ対策室の人間であったとしても必要に駆られたならば、俺は躊躇いなく殺せると断言できる。

 

 当然、自分であってもね。

 

 

 

 

 

 

 

「旧銀座線の入り口……ここか」

 

 ヘルメットのバイザーを上げて下を見やる。

 

 長い階段。封鎖されてはいるが、開けられた跡がある。黄泉たちが通った後なのだろう。

 

「……耐えてくれよ相棒」

 

 アクセルを吹かす。

 

 周りに人がいなくてよかった。

 

 居たら多分通報されるんじゃないかってことを今からするんだから。

 

 気は進まないがやるしかない。恐らくこれが最短だ。

 

「おらああああっぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 クラッチを繋げて、バイクごと俺は旧新橋駅に突っ込む。

 

 バイクが階段へと突っ込んでいくという荒唐無稽な光景。ほぼ間違いなく通報ものだろう。

 

 当然な話だが、バイクは階段を下りる用に設計されてなどいない。誰がバイクが階段を下りることを想定して作っているというのか。

 

 ……いえ、実はこのバイクはそれも想定されてるんですけどね。

 

 このボディにはちょっと特殊な仕掛けがしてある。その理由はこのバイクの名前を聞けばお分かりになるかとは思う。

 

 このバイクの名前は≪ジョーダン壱号≫。元々の名前は当然違うのだが、このバイクはマイケル師匠によって鬼改造されていたりするのである。

 

 直接マイケル師匠に話を聞いたのは今日が初めてだったのだが、これのチューニングや改造をマイケル師匠にお願いしたというのは室長から聞いていた。

 

 小野寺凜(多少無茶させられる奴)がバイクを所望していると聞いた室長は、俺の祖父に承諾を取って買ってきたバイクをマイケル師匠に流して改造を加えさせる。

 

 喰霊時代の後半の方で出てくる、「人が乗って霊力を注ぎこむだけで動かせる鎧」の開発を進めようとしていた室長の需要と、俺の供給がマッチングし、開発促進の一環として体良く利用されたという訳である。

 

 ……あの人(室長)、俺にならどんな無理をさせても大丈夫とか考えてないだろうな。

 

 あの人に「男の子なんだから」と言われると何故か納得してしまうのだが、よくよく考えるとあの人に無茶ぶりされてることが多いのは否定できない。どころかむしろされまくっている気がする俺であった。

 

 バイクに霊力を注ぎ込む。それに伴って上がる鉄の耐久度。流石にエンジンは難しいと言っていたが、それ以外のパーツは約半分くらいが置換されているそうだ。

 

 いわくつきの刀や鎧、それを鋳造してパーツに落とし込み改造する。まじあの人何者だよとか思わざるを得ないが、とにかくそれがこの無茶な行進劇を可能にさせてくれる。

 

 が、そんなチューニングも実はそこまで必要なかったりする。

 

 バイクで階段を下りながらも、俺にはあまり凹凸の衝撃が来ない。当然多少は来るが、来るとは言ってもそれは微々たるものだ。せいぜい尻が痛くなる程度。

 

 俺がバイクを欲しがった理由もここにあったりするのだが、小野寺の能力はこういう時に本当に役に立つ。

 

 頭をフルで回転させながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 霊力で疑似的に道路を作り出しているのだ。我ながらいい発想だと思う。

 

 霊力をフルに活用して、段差を無くしながら階段を下る。一瞬でも能力の発動場所を誤ればとんでもないことになる。下手をしたら死ぬかもしれないという、そんな緊張感とともにバイクを走らせる。

 

―――改札だ!

 

 目の前に見えた昔の改札を勢いそのまま潜り抜け、またしてもドリフトの要領で線路へと躍り出る。

 

 階段が終わったのを見計らって速度とギアを上げていく。

 

 平坦な道と違って線路上は凹凸がある。流石に先程の階段程ではないがそれでも100km/h以上などだそうとしたら一瞬でハンドルを取られてお陀仏になる可能性だってある。

 

 階段ではギアを落として速度を制限していたために先ほどのようなことが出来たが、残念ながら線路上では俺の能力がバイクに追いつきそうにないため、そのまま走り抜ける。

 

 車ならまだ若葉マークの野郎がよくもまあこんな無茶な機動をするものだ。死にたがりと言われても仕方がないレベルの無茶をしているのではないだろうか。

 

 直ぐに見えてくるカテゴリーDの集団。その数は驚異的で、どこにこんな死体を隠していたのだと突っ込まざるを得ない。

 

 そしてその奥に見える黒の制服の少女と、対照的に白い制服の少女。

 

 色としては対照的だが、どちらも同じなのは今彼女たちは危機的状況に置かれているということだった。

 

「頭下げろ神楽ぁ!!」

 

 エンジンの回転数をさらに上げて速度を上げながら、普通のバイクにはないボタンを押し込む。

 

 同時に発動するタイヤの仕掛け。特戦4課が行っていた、あの礼装である。

 

「うらぁぁぁぁ!」

 

 霊力で疑似的な段差を作り出し、俺は跳躍する。

 

 俺の言葉に従ってとっさに頭を下げた神楽を確認すると、ウィリー走行のようなスタイルで元の神楽の頭があった位置にバイクの後輪を滑り込ませる。

 

 メキッという不快な音が鳴り響く。俺のバイクがカテゴリーDの頭を潰した音だ。

 

 そのまま線路に着地すると、バイクを無理やり横滑りさせ、線路の凹凸を利用して速度を殺し、ついでに黄泉を囲うようにタイヤを地面にこすりつける。

 

 それに伴って地面に疑似的な結界が張られる。低級の怨霊であり、地面を利用する怨霊ならば食い止められる、地面に張る結界。それを俺はタイヤを利用して張ったのだ。まさに特戦4課のあの人と、車椅子で神宮司菖蒲がやっていた戦法である。

 

「凜!」

 

「凜ちゃん!」

 

「無事か!?お前ら!」

 

 俺も特戦4課のようにバイクを自在に振り回して戦えるようになりたいのだが、まだいかんせん運転技術が未熟であるため、あそこまでの機動は出来そうにない。

 

 正直上出来だとは思っているが、俺には出来てここまでだ。だからバイクを停車させ、すぐさま二人に駆け寄る。

 

「ええ、ケガはないわ。凜、この場は任せてもいい?私は神楽を連れて退却する!」

 

「わかった!使えるならあれ使ってくれ」

 

 神楽に近づこうとしていた雑魚を蹴り飛ばし、黄泉にそう叫ぶ。

 

 賢明な判断だ。いくら黄泉が強いといっても神楽を守りながら戦うのは不利だ。

 

 神楽の持つ舞蹴を使えば十二分に守りながらでも戦えるとは思うが、それでも慣れない武器を使いながら黄泉が戦うよりは俺一人が気兼ねなく戦ったほうが間違いなく効率がいい。それが黄泉にはわかっているのだ。

 

 黄泉が俺の単車にまたがる。

 

 黄泉も当然バイクの免許は所持している。大型は持っていないはずだが、それでもMT方式は運転できる免許を持っていたはずだ。

 

 だが、いつもカブを運転している黄泉にしてみれば慣れない操作だ。器用な黄泉とは言え、一瞬操作に戸惑うこともあるだろう。

 

 それは普通なら全く障害にならない時間の操作確認だった。だが、戦場ではやはり長い。

 

 カテゴリーDが停止ラインを越えて黄泉に飛び掛かる。

 

 黄泉もそれは予期していたのか一瞬だけそっちに目線を向ける。流石はベテランだ。ちゃんと周りが見えている。

 

 しかし黄泉はそれを気にせずにバイクの操作に移った。今にも飛び掛かられようとしているのにも関わらず、バイクを優先したのである。

 

―――自分で言うのもなんだけど、信頼されてるね、俺。

 

 カテゴリーDが飛び掛かるのと同時に黄泉の横に躍り出る。

 

 黄泉があいつに目を向けていた時には動き出していたのだが、それは黄泉に見えていなかったはず。

 

 結果として俺は間に合ったわけではあるが、黄泉はその結果になることを完全に予想していたのだ。だから避けも撃退もしなかった。

 

 大げさに聞こえるかもしれないけれど、戦場においてその身を預けるということは相手に命を任せるに等しい。

 

 それには信頼できる実力と、信用に足る人間関係が必要だ。そして俺はそれを()()諌山黄泉から勝ち得ている。その事実に不覚ながら胸が躍る。

 

 横に腕を突き出す感じでカテゴリーDの頭を両断する。

 

 相変わらず人の骨を断つ感覚は嫌なものだ。殺すこと自体に忌避感はないとはいえ、この骨を砕く感覚には慣れそうにない。

 

 ただ、その感覚が適切に俺に響いたということは俺がカテゴリーDを適切に殺せたということを示している。

 

 本当の達人などは切った感覚など感じないレベルで刀を振るうらしいが、俺はそもそも鉈を振るっているみたいな戦法なので、その境地に至ることはないだろう。

 

「まぁ、必要なかったみたいだけど」

 

 ずるりと崩れ落ちるカテゴリーD。その背中に生えているのは金色の棒手裏剣。霊力のこもったそれは、俺の一撃以前にカテゴリーDの活動を一瞬だけ早く停止させていた。

 

「黄泉。バイクはいいし、後退するかどうかも黄泉の判断に任せるからとにかく神楽を守ってあげて。後は俺らで何とかするから」

 

 そう言って、俺が来たのとは反対方向に目を向ける。

 

「……土宮殿」

 

「お父さん……」

 

 目にするのは退魔師で最強クラスと言われる男。

 

 喰霊白叡を操る土宮舞の旦那であり、現当主代理である男。

 

 土宮雅楽。あの人が来たからにはもうこの戦場は戦場としての要件を満たさない。

 

 ……やはり来たか。

 

「神楽。舞蹴を黄泉に渡して。黄泉、神楽は任せたよ」

 

 そう言って地を蹴る。

 

 バイクも好きだが、この自分の身体を使って跳ね回っているという感覚が俺は何よりも好きだ。

 

 何にも拘束されずに、自由な感じがするから。

 

―――さて、真面目な話をしようか。

 

 実のところ、俺は今回、土宮雅楽はこの戦場に来ないと予測していた。

 

 喰霊白叡も居ない、俺も対策室に存在している。この二つの要件が出そろっていて、それでもなおここに来る理由がよくわからないからだ。

 

 俺の実力は雅楽さんからもお墨付きを貰っていたりする。それを経ての神楽を任せるという発言なのだ。

 

 それは今も変わっていない。なのに彼は現れた。

 

「史実は、変わらないってか?」

 

 思わず呟く。そう勘ぐってしまうのは仕方がないだろう。

 

 薄ら寒いものを感じる。俺が活躍してもなんの意味もない。それをこれは示しているのではないかと思わされるからだ。

 

 鬱憤を晴らすかのようにカテゴリーDを切り飛ばす。

 

 殲滅には5分とかからなかった。だが、この一戦は、俺に一抹の不安を抱かせるには十分な時間であった。

 







実はほぼほぼ凛くんの杞憂だったりします。
そして以前から書いていなかった凛くんと神楽の出会いですが、それが凛をここまで努力の狂人に仕立てあげた立役者になります。それは今後記述しようかと。
最初の出会いが病院だと思った人、甘いですぜ!そして分家会議だと思った人、それも違ったりします。
詳しくは後日にと、第1章をば(ステマ)

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