喰霊-廻-   作:しなー

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しばらくは原作準拠になります。
なので更新は早い、かな?
そのうちにがっつり流れが外れるので、外れるまでの平和をお楽しみに。

※そういえば活動報告で希望ss書くやつ募集してます。
暇な人は覗いて、そして一声くれてやってください。


第2話 -サービスショット-

「んー黄泉、やっぱりこれロックかかってるよー。どうする?壊しちゃう?」

 

「その必要は無いわ。パスワードは200810だから」

 

「わかった!入れてみる!」

 

「ちょっと待って。なんで黄泉お前俺のパスワード知ってんのさ?」

 

 神楽からポッキーの箱で一発貰った頬を押さえながらも抱いてしまった疑問を口に出さざるを得ない。

 

 なんでこいつ(黄泉)は俺のパスワードを知っているのか。当てずっぽうで言ったわけでもなく、実際に当たってるし。

 

「開いた!……うわあ、しっかり録画してある。凛ちゃんのむっつりスケベ」

 

「盗撮とか最低ね凛。見損なったから今度私と神楽をパンケーキ屋に連れて行きなさい」

 

「黄泉それ良いアイディア!青山に美味しいところあるって聞いたー!」

 

「ちょっと待てよお前ら!俺には鼻の骨が心配になるような一撃を加えておいて、凛にはそれで済ませんのかよ!」

 

 まだ多少赤い鼻を押さえながらそう抗議するカズさん。

 

 アニメで見ていた通り見事な蹴りだったため、相当痛かったのだろう。心中と痛みはお察しするが、これが人徳というやつだと上から目線で指摘をしておくのも忘れない。

 

 ……しかし見事に失敗してしまった。

 

 覚えのある人もいるだろうが、このシーンは3話のラストと、4話の冒頭での一幕だ。一般に想定される喰霊-零-の時系列に、そこにようやく追いついた。

 

 俺も高校一年生となり、神楽も中学二年生になっている時点で喰霊-零-の時系列に追いついたことはわかっていたのだが、俺が知る喰霊-零-のこの時間の始まりはこのポッキーの一幕なのだ。

 

 そのため喰霊-零-に完全に時間が追いつき、尚且つ印象深いシーンのリプレイを間近で見られることに感動し、思わず動画に撮ってしまったのである。

 

 当然ポッキーゲームからの百合百合展開もしっかり動画に収めていたので、後で見返すために大事に保管しようとしていたのだが、最後の最後に下手を踏んでしまった。

 

 何かしらの大きな音が鳴るまで録画停止のボタンを押すのは待とうと思っていたのだが、岩端さんとカズさんの下りで笑ってしまい、ついつい停止ボタンを押してしまったのだ。

 

 日本の携帯は盗撮防止機能として録画開始、停止時には音がなるためその音がある程度静かな空間にものの見事に木霊。

 

 勘の良いこの2人から携帯を隠しきれず、まさかの黄泉達にばれてしまった。

 

「凛ちゃんの携帯華蓮(かれん)ちゃんの写真ばっかり。相変わらずのシスコンだね」

 

「おい待て神楽。動画の削除は当然のこととして携帯を渡したが、他のデータフォルダを見て良いとは言ってないぞ」

 

「神楽。そこじゃなくてもっと下の方のファイルとか、色々って名前がついてるフォルダとか探すと良いわよ。あとはブックマークとか」

 

「まてぇええええ!まてこら黄泉!クリークだ!それ以上俺の聖域(sanctuary)に侵入するというのならば聖戦(ジハード)も辞さない!」

 

 戦争だ。それ以上侵略を続けるというのならば俺としても断固抵抗せざるを得ない。

 

「凛ちゃんのスケベ。あ、間違ってカメラ起動しちゃった」

 

 昔の携帯特有の、カメラが開く瞬間のカチッという微かな音。それが俺の携帯から響く。

 

「おいおい。ほんとにあんま変な弄り方はしてくれんなよ?」

 

「ごめんなさーい。間違っちゃった。すぐ消すから……そうだ!」

 

 ひらめいた!という顔をする神楽。

 

 俺の携帯を持って何を閃いてやがるのか。誰かにメールでも送り付ける気でもしてやがるのだろうか。

 

「……よーみ!」

 

 カシャッとシャッター音が響く。

 

 インカメに切り替えられたそれは、所謂自撮りという写真の撮り方で黄泉と神楽のツーショットをその枠内に収めて───

 

 って、んん!? これは!?

 

「おおお!」

 

「凛ちゃんどうしたのそんな大声上げて。黄泉黄泉、赤外線起動してー」

 

「あら、いいショットじゃない。私受信するー」

 

 な、なんということだ。

 

 これはあの伝説のショット。最終話まで見た人ならばこの写真を知らないとは死んでも言わせない2人のツーショット。

 

 何故かポッキーゲームの前に撮ってないなーとか思っていたのだが、まさか俺の携帯を使ってここで回収されるとは。

 

「後で私にも送ってね。……はい、凛ちゃん。さっきの動画じゃなくてこの写メで我慢しなさい」

 

 無邪気な笑顔を浮かべて俺に携帯を渡してくる神楽。

 

「お、おう」

 

 ちょっと感動しており、少しどもってしまう俺。

 

 携帯を受け取ってその画像を見てみる。

 

 ポッキーを咥えていないなど、多少の絵柄の変更点はあるが、作中に見たあの画像とほぼ同じだ。

 

 何故俺の携帯で撮るんだよとか、これはくれるんだとか、そもそも黄泉は何故俺のロック番号を知ってたのかとか色々ツッコミ所はあるが、この画像をくれたことだしチャラにしよう。

 

 ……次回以降黄泉の目の前でロックを解除する時は気をつけよう。

 

 奴の動体視力はさるものだ。ロック解除時の指の動きを見切ることくらい朝飯前だろうからな。

 

「納得いかねぇ……。なんで俺は顔面キックで、凛はパンケーキ奢りで済んだ上にツーショットまで貰ってんだよ……」

 

「俺も神楽から一撃もらってるんでどっこいどっこいですよ」

 

「重みがチゲぇってぇの……」

 

「お前ら。あと1時間くらいで目的地だ。車の中だからやれることは少ないだろうが、ある程度やることやっとけよ」

 

 緩くなっていた空気を岩端さんが諌める。

 

 ホモだけど、こーゆーとこはやっぱ年長者なんだなーと思う。

 

 ほーいとだけ返事をしておいて俺は身体を伸ばし始める。

 

 車の中だし、ほんとに出来ることは少ないが、幸い大きい車ではあるので簡単な伸びくらいならできる。

 

 土蜘蛛戦に向けて俺は簡単なストレッチを始めるのだった。

 

────────────────────────

 

「お待たせ。相手は?」

 

「今、管狐で追ってる。カテゴリーB、土蜘蛛だ。今日のは特大サイズだよ」

 

 車から降りた黄泉が管狐を展開させて周囲を見張っていたノリさんに話しかける。

 

 管狐。飯綱家に伝わる霊獣であり、イタチのような姿をした可愛らしい霊獣である。

 

 管狐をミサイルのように発射して攻撃することもできるし、管狐の目線を借りて周囲を警戒することもできるなど、非常に便利な霊獣である。飯綱家の男子はこの管狐を継承し、増やしていくことを使命としているのだそうだ。

 

「鵺で一気に片付けるわ。紀之、管狐を下げて。皆、後ろはお願いね」

 

 こくりと俺らは頷く。あれだけの大物だ。

 

 俺も空中戦や遠距離戦もできなくはないが、手っ取り早く空を飛ぶ手段を持ち合わせている黄泉に任せてしまった方が楽というものである。俺も足止めとかの妨害に回ろう。

 

「また後方支援?」

 

「ん?」

 

 それに対して不満げな声を上げるのは神楽だ。

 

「……主役はるにはまだ早いわよ。舞蹴十弐号を使いこなせるようになってからね」

 

「使いこなせるもん!」

 

「そーう?じゃあ使えるところ見せて。ーーー乱紅蓮!」

 

 不満げな神楽にそう言うと、黒鉄(くろがね)の刀身を抜き放って黄泉は霊獣の名を叫ぶ。

 

 同時に現れる宝刀獅子王に宿りし霊獣である鵺。相変わらず迫力のある霊獣だ。

 

「凛、神楽と後ろはお願い。ーーー行くわよ」

 

「あいよ、行ってらっしゃい」

 

「むー。凛ちゃんに守られなくたって自衛できるのにー」

 

 そんな神楽の言葉を華麗にスルーすると、黄泉は乱紅蓮に掴まって飛び立っていく。

 

 目指すは土蜘蛛。異常なまでに強大なサイズのカテゴリーBだ。

 

「黄泉の援護に回るぞ」

 

「了解」

 

 岩端さんがそう指示し、カズさんがそれに答え、対策室の面々は俺と神楽を残して去っていく。

 

「そうふて腐れるなよ神楽。俺だって後方支援なんだし、一緒じゃないか」

 

「でも凛ちゃんは黄泉と一緒によく前線でてるよね。私は出れてないもん」

 

「一応俺は多大な実績あるからね。大きな戦いとかになったら嫌でも前線出されるんだし、今は黄泉(ベテラン)の言葉には従っておこうぜ?」

 

 ぽんぽんと頭を叩いてむすくれる神楽を宥める。

 

 俺としてはもうそろそろ神楽は前線に立たせて問題ないと思うのだが、黄泉としてはそうではないらしい。神楽の実力がついてきたとわかっていてもやはり心配なのだろう。

 

 それに、幸か不幸かこの世界には俺がいる。

 

 黄泉と同等クラスに前線で戦える奴がいるのに神楽を前に出す必要はないとか考えてそうである。……俺からも神楽を前線に出すように打診してみようかな。三途河との決戦に備えて神楽にはさっさと俺以上になってもらわなきゃいけないし。

 

「……わかった。後方で我慢する。でも次回はーーーって凛ちゃん!あれ!」

 

「ん?どうした神楽」

 

 神楽が指し示した方向を向く。

 

 その方向にあるのは橋。トンネルの前にかかる、いかにも幽霊が出そうな暗い雰囲気の橋だ。

 

 一体何を神楽は見つけたのだろうかと目を凝らすと、そこにいたのは1人の女性。黄色い服を着た、どこか陰鬱な雰囲気を醸し出す女性だ。

 

「ーーー!?一般人!?神楽、行くぞ!」

 

「了解凛ちゃん!なんでこんな所に一般人がいるの!?」

 

「その答え合わせは後だ!走るぞ!」

 

 全力で女性の元へと駈け出す俺たち2人。岩端さん達も車に乗り込んだのが見えたが、この道ならば俺たちが駆け抜けた方が速い。

 

 そうか。失念していた。

 

 流石に16年もこの世界に生きていると喰霊-零-の知識があやふやになってきてしまう。

 

 転生したことが確定した時点であのアニメの記憶を思い出せる限り全て紙に書き出したため、だいたい全部の流れは家に帰れば把握することができる。

 

 それをたまに読み返したりしているし、暗記の為にそっくりそのまま違う紙に転記したりもしているのだが、それでもたまにこういった出来事を忘れてしまうことがある。

 

 今回のお勤めではあの橋に居る人が神楽にとってなかなか重大なターニングポイントになる。結構重要なことを忘れていたものだ。

 

「しまった!」

 

 微かに黄泉の声が聞こえた気がした。

 

 横目でその方向を見ると、黄泉が切り裂いた土蜘蛛の破片が、丁度例の女の人の方向に飛んでいく所だった。

 

 人1人なら容易に潰せる大きさと質量を持った塊。そんなものがいきなり飛んできたら流石に俺だってビビる。

 

「きゃああああぁーーーーー!」

 

 黄色い服の女の人もそれは同様であったようで、叫び声をあげる。

 

 ……どんな状況の人であっても、やはり死ぬのは怖いのか。

 

 霊力を練り上げながら俺は女の人の後ろ側(・・・)へと回りこむ。そして服の首の部分を強引に引っ張り、俺の前面に防御壁を作り出しながら女の人を背にかばう。

 

 みるみるうちに距離が近づいてくる土蜘蛛の破片。

 

 防御壁を展開したとはいえこれだけの大きさと質量を持った物体がこの速度で近づいてくるのを防ぐのは危険が伴う。

 

 だが、俺はそれを悠々と見送る。ぶつかったら結構しんどい威力なはずだが、それでも俺は何もしない。そう、なぜなら、

 

「ーーーっふ!」

 

 惚れ惚れするような一閃が空を走る。

 

 それが土蜘蛛の一部を真っ二つにし、そして消滅させる。

 

「お見事」

 

 それに伴って防御壁を解除する。一応神楽がミスをした時用にと思い展開したのだが、案の定杞憂であったらしい。今の感じを見ると100回やっても1回失敗するのが奇跡なレベルだろう。大分実力がついてきた。

 

 ……半年かからないかもな。

 

 妹分の成長は誇らしく、嬉しいのだが、やはり悔しいものだ。

 

「大丈夫ですか?お怪我は」

 

 本来ならこれは神楽のセリフなのだが、俺が代わりにそう尋ねる。

 

 へたり込んでしまっていた女性に手を貸していると、神楽も大丈夫ですかと尋ねながら近寄ってくる。

 

 軽く腰が抜けてしまったらしい。あんなことがあった後だ。仕方ないだろう。俺たちの呼び掛けに頭を振って答えているだけでも大したものだ。

 

「神楽」

 

 神楽の名を呼ぶ黄泉の声。その姿をみて神楽は微笑む。

 

 本当に黄泉はエースとしての貫禄がある。そこに居るだけで人を安心させ、気持ちを楽にする。

 

 ……俺にはこんな貫禄が出せているだろうか。出せていれば嬉しいな。

 

「民間人か」

 

「今の、見えてましたよね」

 

 首を縦にふる女性。

 

「なら、話は早ええな。俺たちは環境省超自然災害対策室だ」

 

「簡単に言うと、悪霊退治の専門家よ」

 

「……悪霊?」

 

「霊感の強い人間は悪霊に狙われやすい」

 

「最悪の場合、死に切れなくて、自分が悪霊になることだってある。……あんまり、こういう場所には近づくな」

 

 カズさん、黄泉、岩端さん、ノリさんがそれぞれ説明と注意を促す。俺も何か一言加えようかと思ったのだが、言うこともないし黙っていた。全部言いたいこと言われたしね。

 

「ここで見たことは一切口外しないように。一緒に来て。誓約書を書いてもらうから。ーーーだめよ、命を粗末にしちゃ。これは預かっておくわ。いい?」

 

「ーーー!……すみません」

 

 そういって黄泉は女性の鞄から薬物の入った瓶を取り出す。

 

 あれは毒薬だろうか。睡眠薬かもしれないが、どっちにせよ入手にはそれなりの負担が伴ったはずだ。

 

 企みを暴かれた女性は諦めたように目をつむり、どこか辛そうな顔で「はい」と顔を俯かせて答えた。

 

「もうこの辺りに悪霊はいないってさ」

 

「よし、状況終了だ。引き上げるぞ」

 

 そう岩端さんが言って、女の人を引き連れてジープへと引き上げていく。

 

 あの人のことジープに乗せていくのだろうか。ナブーさん達が何で来たかは知らないが、ジープにのるなんてことはないよな?流石に3人掛けシートで筋骨隆々の男2人と席を共にするのは耐え難いぞ。

 

「あの女の人のこと、なんでわかったの?」

 

 去っていく対策室の面々を見送りながら、神楽は黄泉にそう尋ねる。

 

 なぜあの人がここにいるかの答え合わせ。それはあの人が自殺志願者だということ。死ぬ目的で、こんな危ない場所にいるということ。

 

 それを、黄泉はすぐに察知した。

 

 俺も知識を持っていなくともその回答にならすぐにたどり着けただろう。なぜなら。

 

「経験則よ。場数を踏めばわかるようになるわ。ね、凛」

 

「まあね。あの人の場合そこそこ露骨だったし。神楽もそのうちにわかるようになるよ。……それが、良いことなのかは俺にはわからないけどね」

 

 へぇーと憧れに似た視線を向けてくる神楽に対して聞こえないように呟く。

 

 つまりそれは直接的か間接的かどうかは置いておいて、人の死に多く触れる経験を積むということだ。

 

 俺のような精神年齢が30を超えている(はず)の人間がそれに触れるのならわかるのだが、黄泉も神楽も10代の女の子だ。そんな女の子があのような観察眼を持つようになることは良いことなのかは疑問だ。

 

 まあ、だからと言って神楽を無菌室において育てるようなことをするつもりはない。

 

 この家業に生まれた以上は慣れてもらうしかないし、触れてもらうしかないのだから。

 

 むしろ俺は冷酷な人間だ。割り切る場面では躊躇いなく割り切ることができる。

 

 必要とあれば手を汚せるし、残酷な決断だってすることができる。

 

 そう、例えばーーー

 

「2度は助けないよ。自殺志願のお姉さん」

 

 メリットとデメリットを天秤にかけたとして、もしそれがデメリットに傾くのならば。

 

 これから死にゆく(自殺する)ことがわかっている人間に手を差し伸べない。

 

 こんな決断もできる、そんな人間なのだから。

 




凛くんは身内以外には結構冷たかったりします。
目の前に死にそうな人がいるなら助けるけど、助けるには複雑な手順を踏まなければならない(例えば場所を突き止めて説得したり)などは絶対にしない。
身内には損得勘定抜きで動くけれど、基本は損得勘定で動く人間と解釈ください。

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