喰霊-零-にようやく追いつきました。
今後は喰霊-零-のパロ+アルファ(こっちがメイン)を行っていきます。
※ちなみにこのシーンは原作準拠です。私が考えたシーンじゃないので原作未読の方はご注意を。
第1話 -原作開始-
第3章 縁歪-ゆかりひずみ-
「ねー
「え?宿題でてたの?」
「えぁ?」
「教えてくれればよかったのに。私風邪で昨日休んでたから」
「―――はぁ!!そっか!やっばぁー!どうしよう美紅をあてにしてたのにぃ。……はっ」
意識がまどろみに沈んでいる。
うたたねとは気持ちの良いもので、私は非常にその感覚が好きだ。いつ寝たかも、どんな体勢で寝たかも意識しないうちに意識が消失している。そんな制御できない感覚に今現在私も身を委ねていた。
うとうとして非常に気持ちがよく、周りの言葉など一切耳に入らないそんな状態。
しかしその気持ちの良い状態は一人のクラスメイトによって打ち砕かれる。
「ねー土宮!」
「……?」
声をかけられるのと同時に、意識が覚醒する。
どうやら自分は頬杖をついて寝ていたらしい。今は休憩時間。みんなが交流を深める時間だ。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。夜遅くまでのお勤めに朝早い学校のせいで疲労が溜まってしまっていたのだろう。休み時間の僅かな間だというのに船をこいでしまっていた。
その時間は10分程度しかないけれど、中学生にはものすごく大事な時間だ。その10分で教師の悪口やコイバナ、果てには喧嘩まで起きるのだから。
声につられて前を見る。
「英語の宿題、やった?」
「えっ?うん、まあ」
「ほんとう!?ねぇ、借りて良い?」
「うん、いいよ」
「やった!サンキュー!」
相変わらず活発な少女だなーと私は思う。
これは決して悪い意味などではなく、本当にいい意味での感想だ。明るくて、もしかすると図々しいととられかねない態度なのに、あまり絡んだことのない私でも全く嫌な感じを覚えない。
そして、その感情は正しかった。
この時の私は知る由もないけど、柳瀬千鶴、将来の私がヤッチと呼ぶようになる目の前の少女は、私のかけがえのない友達となっていくのだから。
「土宮さん、私も」
「あ、うん」
次いで私に話しかけてきたのは
でも、将来かけがえのない友達になると言ってもまだ私達の関係はぎこちない。
正確に言えば私があまりこと2人のことを知らなくて、どう接していいかよく分からないのだ。クラスが一緒と言っても殆ど話したことがなかったのだから。
携帯が、メールの受信を知らせるために振動を始める。
震えたらとりあえず携帯を見るというのは現代人にとって最早条件反射に等しい。何かしらの振動に起こされたのならば十中八九の人間が携帯へと目を向けるだろう。
それは私も例に漏れない。2人と話している最中ではあったが、携帯へと目線を向ける。
―――メールだ。
「何?メール?」
柳瀬千鶴がそう尋ねてくる。
「うん。病院から」
「土宮のお母さん、入院してんだっけ?」
「ごめんね、お家、色々と大変なのに」
「ううん。あ、行かないと。ノートは置いといてくれれば良いから」
柳瀬千鶴の疑問も、真鍋美紅の気遣いの言葉も意識半分に私は立ち上がる。
携帯を手に取る。
送り主が誰だろうかなどと考えるまでもない。この時間帯に連絡を送ってくる存在など対策室以外にありはしないのだから。
「じゃあ」
身から離さずに持ち歩いている舞蹴十二号を手にとって教室を出て行く。
お勤めの招集だ。私が生徒だと言えどこの招集は何よりも優先される。
急いで私は教室を出て行く。だから、
「慌ただしいなぁ」
「大変だねえ」
そんな会話がされていたことを私は知らない。
------------------------------------------------------------
「―――先生。病院からメールで、母の容態が」
「ああ、行ってあげなさい。お大事に」
休み時間の喧騒が漂う教室から抜け出し、廊下で会った担任の先生にそう伝える。
これで何度目だろうか。もう覚えてはいないが、少なくとも片手の指は超えていた気がする。
「いつも、すみません」
届いていなくても、扉の向こうへ行ってしまった先生にそう頭を下げる。
仕方ないことだと割り切ってはいるが、根が優しい神楽は一抹の罪悪感を覚えてしまう。
とはいえそんな大相なものではない。黄泉などと馬鹿なことを話していれば直ぐにでも消えてしまうような些細なものだ。例えるならば友達のペンを借りたまま家に帰ってしまった程度だろうか。
顔を上げる。多分今浮かんでいるのは自信のある笑み。お勤めに向かう自分を誇らしく思っている笑みだ。
―――こういうの、凜ちゃんとかはむしろラッキーくらいに思ってそうだよね。
対策室の準エースである少年の顔を思い浮かべる。言葉にしたことはないが、学校に行くのが面倒くさいと言っている凛ちゃんのことだ。ほぼ間違いなく喜んでいるだろう。
扉越しに先生に頭を下げた後、校門に向かって急いで向かう。
メールの内容はお母さんの容体が悪くなったというもの。
今も母親が入院しているため来るたびに一瞬身構えてしまうが、これは当然の如く招集コードだ。学校などに居る際に抜け出せる口実を作るためのもの。
「授業中に悪いな、神楽」
「もー。毎回先生に嘘ついてくるの気が引けるよ」
ジープの扉を開けてそんな会話をする。このメールが到着したということはもう対策室はここに集まっているということであり、校門の外に待機してくれているのだ。
「寝てたでしょ?」
「―――え?」
「涎の跡付いてるよ」
「えっ!?」
ピロリーン、とシャッターが切られる音がする。
日本の携帯についている、取り外しの出来ないその音。海外だと取り外しができるが、日本では不可能で必ず音がなる―――
と、そんなことに思いを馳せている場合ではなかった。凜ちゃんが語るウンチクはなかなか面白いからよくせがんで聞くことがあるけど、こんなところで出てくる必要はないのに。
「―――あはははは!」
愉快そうな笑い声が響く。落ち着いているのにどこか無邪気な義姉の声。
私にとってはもう本当の姉と言っても過言ではない黄泉の声。普段なら落ち着く声だけど、今回はほんの少しだけ不満が生まれる。
心底楽しそうな声を出しながら私に向けて携帯を見せてくる黄泉。
そこに映っているのは間抜けな顔を晒してよだれを拭っている私。
……撮られるならもっと可愛い顔をしている時に撮って欲しかった。
「……もう!」
「私の神楽の寝顔コレクションがまた1つー」
「消して、そんなコレクション!」
そんな会話を黄泉としながら、車は目的地へと進んでいくのだった。
------------------------------------------------------------
「ーーーやっべ、感動した」
車が出発してから数十秒後、意味のわからない言葉を発しながら後部座席からひょこりと1人の男が起き上がってきた。
「あら凛。起きてたの?目的地に着くまで寝てるとか言ってなかった?」
「それも魅力的なんだけど、それ以上に魅力的なことがあってね」
8人乗りのジープの最後列に寝そべっていた男の名前は小野寺凛。私のお兄ちゃん的存在だ。
私や大半の対策室の女性の恋心センサーには掠りもしないけど(黄泉は悪くないとは言っていた気がする)、頭も良くて強くて格好よくて優しい、理想のお兄ちゃんを体現したような存在だ。
今みたいに意味のわからないことを時折いうが、とにかくいいお兄ちゃんである。
なにやら感動しているみたいだけれど、凛ちゃんがよくわからない行動や言動をするのはしばしばあるので放置しておこうと思う。
そういえば私が小学五年生の頃、黄泉にお母さんの姿を重ねて泣いてしまい、黄泉が気を利かせてお勤めに連れて行ってくれた際にも同じことを言っていたような気がする。
「凛、食べる?ポッキーあるけど」
「あ、欲しい。ありがとう」
「黄泉ー!私も!」
何故か凛ちゃんは2本、そして私は一本を抜き取り、口に運ぶ。
軽快な音を立てて折れるお菓子の枝。この音と、食感がたまらないのです。
「なんか最近、超自然災害増えてない?」
「うん、ちょっと悪霊の出現多いかな」
「しばらく、静かだったのにな」
ポッキーを食べながら黄泉に質問をすると、助手席から声が返ってきた。
かずちゃん。本名を桜庭一樹という。
軽薄な感じのする男性だけど、そんなことは無く、頼りになる男の人だ。
戦闘力では凛ちゃんや紀ちゃんに引けを取るけど、まとめる力などでは引けを取らない、とは黄泉の言だ。
「この増え方は3年ぶりぐらいか」
「……!3年」
かずちゃんにとっては何気ない一言だったのだろう。あくまで事実を言ったに過ぎないのだから。
でも、私にとってその3年という数字は非常に大きな意味を持つ。
ーーーだって、お母さんが昏睡状態に入ったのが3年前なのだから。
「ポッキー最後もーらい!」
お母さんのことを思い出して暗くなっていると、横から黄泉がポッキーの最後の一本を奪い去って行った。
「あ、ずるーい!」
「早い者勝ちー」
そう言って私の目の前でポッキーをプラプラさせる黄泉。
最後の一本とは非常に大事なものだ。それをさらっと奪っていくのは非常に許せない。
……むう。なら。
「……あむ!」
「あっ!」
「早い者勝ちー」
先手必勝である。先手とは言えないかもしれないけど、とりあえず先に口にしたものが勝ちなのです!
ちょっと勝ち誇ってポッキーをぶらぶらさせる。作戦勝ち(正確には違う)をしたのが嬉しかったのだ。
そうやって勝ち誇っていると、負けず嫌いな黄泉は私がくわえているポッキーの反対側にかじりついてきた。
「おお!?」
後ろの座席で凛ちゃんが何やら声を上げているが、それは今関係ない。
黄泉にこのポッキーがとられてしまうことの方が重大な問題なのだ。
お互いに睨み合ったままポッキーを両端から噛み砕いていく。
長いポッキーが両端から少しずつ少しずつ削れていく。
ひと噛みひと噛みはそんなに距離を縮めるものではない。むしろのんびりとしていてあまり進まないくらいだ。
ーーーだけど、ポッキーっていうのは1人で食べるにはちょうどいい長さだけど、2人で食べるには当然短くて。
顔が赤くなるのがわかる。
これはいわゆるポッキーゲームというやつだ。女の子と男の子でやって、唇が触れ合うまでどちらが先に根を上げずに耐えきれるかを楽しむチキンレース。
そう、つまりは今目の前に黄泉の顔がある訳で。
ニヤリ、と黄泉の顔が歪む。顔を真っ赤にしている私とは対照的に余裕綽々な顔をして、それどころかむしろその表情は楽しんでいるようでーーー
そのまま黄泉は私の唇に黄泉の唇を押し付けて体ごと倒れこんでくる。
つまりはキスをしながら黄泉は私に倒れこんで来たわけであって。そう、大事なことだから二回言うけれど黄泉は私にキスをしながら倒れこんできたわけであって。
抗議の声を上げようとするが唇がふさがれているため発声ができない。
正直に言うと別に嫌なわけではないのだが、それでもキスをされているという状況は流石に恥ずかしい。
いくら相手が黄泉と言えどもキスをされて平然としている私ではないのだ。
「ほへほへ(ほれほれー)」
「あっははは!いやっ」
「良いではないか良いではないかー」
「やめてーくすぐったいー!」
「嫌よ嫌よも好きのうちー」
「もう、黄泉のエロオヤジ!」
多少の抵抗を見せる私に、それでもスキンシップを取ってくる黄泉。
やめってったら黄泉。もう、全く子供なんだから。
そう思いつつも黄泉の過剰とも言えるスキンシップを全く嫌がっていない自分がいる。
ほんとうにお姉ちゃんがいたらこんな感じなのだろうか。私は一人っ子だからわからないけど、もし血の繋がったお姉ちゃんがいたのならば黄泉みたいなお姉ちゃんがいいなと、そう思う。
ちょっと今回のスキンシップは過剰だけれども。
「おおっ!おおーー!……っぐおあ!!」
「こっちみんな、変態」
そしてそんな私達を凝視しているかずちゃんに黄泉の強烈な蹴りが入る。鼻っ面に決まったいい一撃。かずちゃんでなければ鼻の骨を心配するほどだった。
……全く、かずちゃんはスケベなんだから。
車内でいちゃいちゃしていた私達が悪く、かずちゃんが見ちゃうのは仕方ないのかもしれないけど、それでもやはり恥ずかしいものは恥ずかしいのです。
「今日は悪かったな。2人とも授業中だっていうのに」
そう岩端さんが声をかけてくる。
別に岩端さんが悪いわけでもないのに、こうやって声をかけてくれるのはこの人が凄い大人である点の1つだと思う。
凛ちゃんも頻繁に「ただ一点を除けば文句無しで尊敬できる社会人」だと言っている。
「気にしないで」
「これも私達の使命だもん」
「お前ら!おっさんは見ても良いのかよ!」
「岩端さんはそっちだから」
「そっちだし」
「そっちなら良いのかよ……」
そう、ホモであるという一点を除けば理想的な大人なのだ。ホモであるという一点を除けば、だけど。
「おい桜庭ぁ!」
「んぁ?」
岩端さんが声を張ってかずちゃんを呼ぶ。
かずちゃんの姿勢は助手席から私達の席に向かって乗り出しており、運転中の車でする姿勢としては非常に危ない姿勢だ。
それを注意されると思って身構えたかずちゃん。でも、岩端さんの興味はそこには無くてーーー
「お前、ーーー良いケツしてんな」
「いぃ!?お、俺を!そういう目で見るなぁ!!!」
かずちゃんの絶叫が響く。
岩端さんがどこまで本気で言っているのかはわからないが、かずちゃんが不幸な目に合わないで済むことを祈っておこう。
私と黄泉が微笑ましい顔でかずちゃんと岩端さんのコントを見ていると、ティロリンと軽快な音が後部座席から響く。
そしてそれに続く「あっ……」というやってしまった感を孕む男の声。
黄泉と私は同時に後部座席を振り向く。
そこにいたのはやってしまったという顔を浮かべる男。
手に持つは携帯。写真の保存も動画の記録もなんでもござれな文明の利器。
「神楽、確保!」
「
「ちょ、待って!」
意図を理解した私達は凛ちゃんの手からその携帯を即座に奪い取るのだった。
このシーンが、喰霊_零_は百合アニメだと言われる所以だったりします。