喰霊-廻-   作:しなー

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第4話 -勧誘-

 神宮司菖蒲。

 

 喰霊-零-における超自然対策室の室長であり、あの組織のあの支部のリーダー的存在である。

 

 つまりは喰霊-零-登場陣の上司たる女性だ。

 

 俺は対策室メンバーとは今の今まで絡みが無かったためにこの人との顔合わせは今回が初めてとなる。

 

「体調は大丈夫かしら?カテゴリーAに結構手酷くやられちゃったって聞いたけど?」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。こう見えてそこまで酷い傷じゃないので問題ありませんよ」

 

「それは良かったわ。ご両親が悲しむような酷い怪我じゃなくて。カテゴリーAに相対してそれだけの怪我で済むなんて流石神童なのかしら?」

 

 右頬に手を当てながら妖艶に微笑む神宮司菖蒲。

 

 穏やかな大人の女性といった微笑み。

 

 この艶やかさは諌山黄泉や諌山冥ではまだ出せないだろうと思わせる笑みである。

 

 喰霊-零-時点の冥さんとかなら出しているのかもしれないけど。

 

 

 ……それにしても神童って言葉が少々鬱陶しくなってきた。

 

 初対面の人とか実力を見せた人とかが次に出すのは必ずこの言葉。

 

 先の戦いで俺の戦闘能力が知れ渡ってしまったためか、この言葉をかなりの回数聞くようになったのだ。

 

 縁談を持ちかけてきた相手も俺の機嫌を取るためにやっていたのかかなりの頻度で連発していたし、見舞客の九割がその言葉を持ち出していた。

 

 最初の方はむず痒いだけで実のところ嬉しかったのだが、もう言われ過ぎて対応するのが面倒臭いレベルになってしまっているのが実情である。

 

「ええ。もし後遺症が残る怪我をされたら退魔士業界にとって痛手になりますからその程度の怪我で済んだのは喜ばしいことです」

 

「ちょっと桐ちゃん」

 

 無表情で本音をサラッと漏らす二階堂桐を困った笑顔で神宮司菖蒲は諫める。

 

 どこぞの防衛省で見た光景だ。

 

 本当にこの人は言葉に飾りが無いな。

 

 知ってはいたつもりだったが、ここまでストレートな言葉を投げかけてくるとは思わなかった。

 

「ごめんなさいねー。決して悪気があるわけじゃないのよ」

 

「いえいえ、お気になさらず。俺としては寧ろ直球で言って貰ったほうが楽です」

 

 これは本音である。

 

 下心しかない人達に心にもない心配をされるほうが正直面倒だった。

 

 それなら心配の句を何分も述べるよりも入ってきた瞬間に本題を切り出してくれた方がこちらとしても何の後腐れも無くて楽だ。

 

 ……まあそんな訳にもいかないのが大人の世界だって分かってはいるんだけどさ。

 

「早速ですが、本題に入ってもよろしいでしょうか?我々としても貴方としても長い前口上など望んではいないでしょうから」

 

「桐ちゃん。……でもそうね。前置きが長くなりすぎても意味ないし、本題に入っちゃいましょうか」

 

 ポンと手を打つ環境省超自然対策室の室長様。

 

 そして俺を見舞う気なんて一切ないとはっきりわかってしまう二階堂桐。

 

 ……なんか俺二階堂桐とは気があいそうだなーなんてちょっと見当違いなことを思ってしまった。

 

 それにしても本題、か。

 

 予測は出来ている。

 

 この人は一体どこの組織の存在で、その立ち位置はどこで、そして日を改めてわざわざ俺を訪ねる予定だったのだ。

 

 ということはつまり―――

 

「小野寺凛君、貴方対策室(うち)に来ない?」

 

 勧誘しか、ないよなあ。

 

「貴方の戦力や置かれている状況などを総合的に考慮して判断しました。貴方ならば対策室でも十二分に即戦力になれるかと」 

 

対策室(うち)としては君みたいな将来ある有望な人材にはぜひ来てほしいのよね。最近霊力場も不安定だし、今回みたいにカテゴリーAが現れるケースがもう無いとは言い切れないでしょう?だから戦力を増強しておきたいのよね」

 

「小野寺蓮司殿には以前から打診していましたが断られてしまっていましたので。本人に直談判できないかと考えていた所、今回諌山黄泉が機会を作ってくれたので訪れたという訳です」

 

「そうなの。元々声は掛けよう掛けようとは思っていたんだけどご両親の反発が凄くて凄くて。話す機会が無かったから会ってくれて嬉しいわ。どうかしら?フリーでやるよりは安定して収入が入るし、今回みたいに色々とフォローしてあげることが出来るようになるけど……」

 

 対策室から打診が来ていたのは知っていた。

 

 親父からもその話は聞いていたし、入ったほうが色々と都合がいいのは分かっていたのだが、今回みたいに自由に動きやすいようにと入らないようにしていたのだ。

 

 それに理由はあまり良く知らないけどうちの母親が猛反発していたから親父も俺の対策室入りを進める気にはならなかったらしい。

 

 多分だけど一度そのお誘いを俺が断ったから対策室入りを嫌がっているものだと勘違いして親父に圧力をかけていたのだろう。

 

 うちの母親は教育を抜かせば俺に非常に甘く、そしてうちの親父は母親の言には逆らえないのである。

 

 尻に敷かれているとはちょっと違うのだが、親父は母親のお願いを断れないのだ。

 

 かなり優しい人で怒鳴り声など上げられた覚えがない程にホンワカとしているのだが、なんか知らないが嫌に押しが強い。

 

 なんと言えばいいのだろう、何でもない言葉で別にこっちが言うことを聞く必要は無いのだが妙に聞いてあげたくなってしまうというか……。流石は小野寺の正式な後継者と言った所……なのだろうか。

 

 なので俺の一家では俺がそこまで反対をしていないにも関わらず「対策室入りお断り」の風潮が芽生えてしまい勧誘は片っ端から拒否していたとのことだ。

 

 そのため俺に取り次がれる前に両親がすべてその依頼を断ってしまっていてよくは知らないが、実のところ東北だの九州だのの対策室からもスカウトが来ていたとかって話を昨日黄泉が言っていた気がする。

 

「……対策室入りですか。背中を任せられる存在が居るっていうのもかなり魅力的ですし、今回助けていただいた恩もありますし考えたい所なんですが……。それは今日すぐに答えを返さなければならない訳じゃないですよね?」

 

「ええ、勿論よ。今日はゆっくりしたいでしょうし、急がなくていいわ」

 

「ゆっくり考える必要があるかは疑問ですが。普通の退魔士なら対策室で働くことはメリットが多いですし断る理由はないかと」

 

「もう桐ちゃん」

  

 再度ズバッと物事を言う二階堂桐を諫める神宮司菖蒲。

 

 やはり物事をズバズバ言うところなんかは共感できるのだが、この人が仕事上の部下に居たりしたら胃が痛くなりそうだ。

 

 よくもまぁ神宮寺室長は平然とした顔をしていられるものだ。俺相手ならともかく防衛省のお偉いさん方相手に啖呵切っても平然と嗜めるだけだったからなこの人。

 

「でもそうねぇ。正直フリーでやるよりも対策室でやった方が警察への口利きとかで行動が楽になるし、メリットが大きくないかしら?もしかしてフリーにこだわる理由があるのかしら」

 

 二階堂桐を嗜める体をとりながらその実グイグイと攻め込んでくる神宮寺室長。

 

 ……もしかしてこれを狙って二階堂桐を助手に置いているのだろうかこの人。

 

「いえ、特にはありませんが……。俺はあまり縛られるのが好きじゃないのでフリーの方が楽なんですよね」

 

「そう。確かに機関に属していると今までみたいには自由には動けないものね。でもこれから先ずっとフリーでやっていくのは辛くないかしら?縄張り争いみたいな個人ではどうしようもない問題に遭遇することはあるでしょうし、今回みたいな高位の怨霊と戦うときに一人だと背中を預けられる相手が居ない場合命を落としちゃう可能性だってあるじゃない?」

 

「ええ、その点に関しては承知しているつもりですよ。現に今回もそちらの諌山黄泉さんに助けられていますし」

 

 それに協力者が居てくれると助かると考えて今回諌山冥に協力を依頼したのだ。

 

 俺は一人で何でも解決できてしまうような化物じみた能力を持っているわけではないし、協力者や組織の存在の大切さなどいくらでも知っているつもりだ。

 

「黄泉ちゃんも凜君の対策室入りを推薦してくれてるし、本当に考えてみてもらえないかしら?凜君他の地方の対策室からも引っ張られてるから東京支部(うち)で確保しておきたいっていうのも本音なんだけど」

 

「推薦……?」

 

 ちらりと黄泉を見る。

 

 昨日とは一転してふわりとしたお姉さん的な笑みを浮かべる黄泉。

 

 いつも俺が画面越しに見ていた笑み。神楽へと向けていたような優しい笑みであった。

 

 黄泉に実力を見せたことはまだ無い筈だが、何やら対策室に俺を推薦してくれたらしい。

 

 何故俺を推薦したのだろう。諌山黄泉に俺の実力を直に知られる機会なんてあっただろうか?

 

 ……イジる対象を増やそうとしたわけではないですよねお姉さま。

 

「内部からの推薦もあることですし是非ご検討を。……室長、そろそろ」

 

「そうね、ご両親が帰ってきたら大変ですし私達はそろそろお暇しようかしら」

 

 ポンと手を打つ室長。

 

 確かにうちの両親(特に母親)が帰ってくると俺の対策室入りが不可能になる確率が高いからな。

 

 多分もう少しで帰ってくるし、タイミング的にはドンピシャだ。

 

「もう少しお話ししたかったけど仕方ないわね。それじゃあ小野寺凛君また今度お会いしましょう。いい返事を期待してるわ」

 

「失礼します」 

 

「私もお暇するわ。まったねー。また来るわん」

 

 そう言い残してそそくさと去っていく三人。

 

 俺の病室に来てから帰るまで僅か2分やそこら滞在していたかどうかというレベルだ。

 

 ……嵐のような勢いだったな。

 

 弾丸のように人の病室に入ってきて弾丸のように去っていきやがった。

 

 勧誘はしたかったけれども俺の母親には会いたくなかったのだろう。

 

 

 打って変わって静かになる俺の病室。

 

 多分5分もすれば母親が帰ってくるので再度五月蠅くなるのだが、一時の静寂が俺の部屋を満たしていく。

 

 ……対策室入りか。

 

 来客対応の為に起き上がらせていた身体をベッドへと横たえる。

 

 対策室入りは考えていたことではあった。

 

 警察への手回しとか、そういった権力系統へのサポートが半端じゃないし、さっきも言った通り仲間が作れる。

 

 背中を任せられる相手というものは本当にいいものだ。

 

 しかも背中を任せるどころか俺がすっぽりと守られてしまうほどの実力者が二人もいるような組織が環境省超自然対策室である。

 

 神童諌山黄泉とその神童を作中で少なくとも三回は負かしている土宮神楽が属する機関だ。

 

 もはや戦力的に気持ち悪い。

 

 おぞましいと言い換えてもいいかもしれない。

 

 そういうのも考慮すると、正直入ったほうがメリットが大きいのだ。

 

 原作(喰霊)の時代も俺は生き抜く予定だし、フリーでいるよりも対策室に勤務して敵勢力と真っ向勝負したほうが戦いやすい。

 

 対策室も得ていないような情報を探り出して推理しながら先回りして行動するのって非常に面倒くさいのだ。

 

 今回はたまたま情報を得ることが出来たが、下手をすれば寝てる間に全部終わってましたーなんてことが起きかねない。

 

 というよりは俺の怠惰な性格的に普通にあり得る。

 

 ターミネーターじゃあるまいし人間が24時間常に気を張っているなど不可能だ。

 

 それに俺は神楽ちゃんたちが敵にやられるのを良しとしないし、そもそも土宮舞が現在死んでいない時点で多少ながら「喰霊-零-」からも「喰霊」からもこの世界はずれ始めている。

 

 今後の俺の行動次第では全く別の世界になる可能性が極めて高い。

 

 もし仮に俺が三途河のクソガキを殺せたとするなら、俺が知っている喰霊ワールドは完璧に消滅する。

 

 「諌山黄泉が生きて」いて「対策室メンバーが全員健在」で「九尾を蘇らせる幹事役」が存在しない喰霊の世界が誕生するのである。

 

 うん。全く先が予想できない。

 

 原作知識の一体何パーセントくらいが使えるんだろうねその世界で。

 

 正直俺の頭だとそんな状況でどう動けばいいかを一人で得られる情報で判断するのは難しいと思う。

 

 土宮舞のことを助けられたのは一応フリーで指令を無視できたからではあるが、同時に助けることが出来たのは対策室のおかげでもある。

 

 ……どうするべきか。

 

 フリーであるメリットは自由に動けるということだけではあるのだが、その自由に動けるということが何よりも大きい。

 

 だが今後フリーで動けることが絶対不可欠の条件として立ちはだかる場面があるかというと……。

 

 そんなことを考えていると、廊下からバタバタバタとはしたない音が響いてきた。

 

 病人が寝ている部屋に面する廊下をダッシュする音である。

 

 ……気が動転してんなぁ。

 

 いつもは礼儀正しくて落ち着いた人なのだが。

 

「凜!戻ってきたよ!」

 

 先ほどの黄泉が扉を開けた時以上の音を響かせて開かれる病室の扉。

 

 廊下から全速力でダッシュしてくる音が聞こえていたのでそんなに驚きはしなかったですがそれでも驚いてしまうものですよママン。

 

 外では看護婦に謝っている親父の声が聞こえてくる。

 

 苦労人だなパパン。肋骨はまだ完治していないというのに。

 

 これ、俺病室を追い出されたりしないだろうか。

 

「凜、寂しかったでしょう!今日は離れな……」

 

 持ってきた荷物を放り出して俺に抱き着こうとしてきた母親がぴたりと動きを停止する。

 

 自信満々で定期テストを受け取ったのに赤点だった時の俺の友人みたいな静止だった。

 

 一体どうしたというのか。

 

「……女の匂いがする」

 

 くるるると喉を鳴らして威嚇しながら病室を見渡し始める我が母。

 

 ……我が母親は犬か何かなのだろうか。

 

「凜、またお見合いの相談でも来たの!?誰!?どこの家!?それも三人か四人くらい来てるよね!?」

 

 人数まで当てやがった。

 

 和服に身を包んだ小柄な身体を機敏に揺らしながら病室内で警戒体制をとる母。

 

 156しかない小柄な身体も相まって小動物みたいである。

 

 まだうちの母は29歳だし結構美人なので見る人が見れば可愛らしいのかもしれないが、俺から見るとただ恥ずかしいだけなのでまじやめてほしい。

 

 ちなみに俺は母が16歳の時の子供だ。

 

 それを知ったとき現在44歳の親父を犯罪者を見るような目で見てしまった俺は悪くないだろう。

 

 だが祖父母と母は懐妊を知って大喜び。

 

 母は円満退社ならぬ円満退学で高校を中退したらしい。

 

 高校を卒業するよりも親父と添い遂げることを選ぶとは流石である。

 

 結婚式に同級生を呼んだらしいが、一部男子はうちの親父を親の敵を見るような目で見ていたとかなんとか。

 

「りーん。そういえば一つ言い忘れてたんだけど……」

 

 そんな中諌山黄泉が再度俺の病室に顔を出す。

 

 不思議そうな顔をして病室を見渡している。

 

 恐らく看護師に謝るうちの親父を見たのではないのだろうか。

 

 だが、いくらなんでもタイミングが悪すぎるぞお前。

 

 きゅっと母の目が諌山黄泉に向く。

 

 そして同時に黄泉の視線もうちの親へと向かい、しばし視線が交差する。

 

 ……まずい、母親のあれは敵を見つけた小動物の目だ。

 

「凜を狙ってるのはおまえかーーー!」 

 

「え、ちょっと、きゃ!!」

 

「やめろ馬鹿母!!」

 

 止める間もなく黄泉にタックルをかますうちの母親(アホの子)

 

 猫に突っ込んでいくネズミみたいなタックルだった。

 

「おまえかおまえなのかぁ!」

 

「ちょっと小野寺さん!?やめ、ちょっと!」

 

 いつもの母親とは思えない程の機敏さで黄泉からマウントを奪う。

 

 神童からマウントを取るとは恐るべき女だ。

 

 ……とかいってる場合じゃなかった。

 

「おいマジで恥ずかしいからやめろこの阿呆!」

 

「おみゃえなのかーー!」

 

「凜君!ちょっとこの人どうにかして!」

 

 マウントをとって攻撃を仕掛ける母親に顔面をわしづかみにして止める諌山黄泉。

 

 騒ぎを聞きつけて駆けつける親父と点滴を気にしながら母親を引き離す俺。

 

 なんとも非常にカオスな空間だった。

 

 

 

 

 事の顛末としては母が看護婦長に怒られ、黄泉に俺と親父で謝らせ、俺が母親を本気で怒ってしまいになった。

 

 ……本当にお恥ずかしい限りだ。

 

 看護婦長に怒られている間自分が怒られているかのような錯覚に陥ってしまったよ。

 

 とりあえず今日は親は泊まらずに帰ることになった。

 

 どうやら親父と看護婦長の配慮らしい。

 

 ……あんたデキ男だよ親父。

 

 この前犯罪者を見るかのような目で見てしまってごめんよ。

 

 

 

 

「ああ疲れた……」

 

 親も他の見舞客も帰りきり、ようやく寝れると思ってベッドに寝転がる。

 

 ひっじょーに疲れた。

 

 流石に反省したのか母親は借りてきた猫のように大人しくなったのは良かったのだが、そのせいか来客が激増した。

 

 どうやら親父が有望株だったというのは本当だったらしく、来客が半端じゃなかった。

 

 親戚回りが毎年面倒だなーとは思っていたがそれでも俺を連れて行っていたのは本当に仲が良い親戚だけだったらしく、遠い親戚とかも一気に来たので俺の時間の殆どが来客対応に回されてしまったのだ。

 

……まじで面倒くさかった。もうしばらくはおっさんおばさんの顔を見たくない。

 

 病院は消灯時間になり、すでに電源は落とされている。

 

 だからもう来客は来る筈がないと思っていたのだが……。

 

 

 こんこんと控えめなノックがされる。

 

 消灯時間はとっくに過ぎているのに一体誰だよ……。

 

「はい、どうぞ」

 

 こんな時間に来るくらいだから一緒に入院している誰かだろうと考えて入室を許可する。

 

 不用心かとも思ったが、流石に三途河とかが来るとは考え辛いし、もし何かしらの敵ならここまで来られた時点で負けだ。

 

 今更警戒したって遅い。

 

「―――失礼します」

 

 静かに扉が開かれる。

 

 そして静かに現れる美しい銀の髪を持つ桜の着物を着た女性。

 

―――諌山冥?

 

 そこに佇むは諌山冥。

 

 先日共闘をお願いした人。

 

 だから敵ではない。

 

 敵ではない、筈なのだが。

 

 

 その手に握られるのは先日見慣れた彼女の得物。

 

 喰霊-零-において彼女自身の命を奪った武器。

 

 薙刀。

 

 それが、彼女の手には握られていた。

 

 

 


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