東方大戌伝   作:-褌-

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拾肆 一時の別れ

永琳が去りガランとした研究室には犬が一人(一匹)座っていた。

何か物寂しそうに座ってるその姿はまるで捨てられた子犬のようだった。

 

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急用で永琳が家を出てから結局日が変わった。

今日はついに発射する前日だ。この屋敷も準備に追われている。月に行けない俺は何もすることがないのでいつもの縁側で丸くなった。

そこをせかせかと通る人は俺を見て少し苦笑いをしながら歩いていく。依姫はそんな俺を見て、

「戌姫はなにも用意しなくていいなー、私疲れたー」

と愚痴を漏らし少し撫でてくれた。

こんな感じに話したり触れ合ったりするのは恐らく最後だろう。この愛情を当分もらえなくなると考えると少し悲しい。

 

彼是5時間ほど過ぎただろうか、今はやっと夕時といっていいくらいの時間だ。

実際俺はあれからずっと縁側に寝そべっていた。決して暇人ではない。

因みに今は依姫に抱かれて食事を共にしている。俺は食えないから抱かれてるだけだけど...

 

「あぁ...もうここをでるのね...なんか不思議ね」

 

豊姫が食卓で言葉を漏らした。

 

「いいじゃん、ここにいるよりは長生きできるのよ?」

「確かにそれもそうね...妖怪なんて穢れの塊に近づいたら寿命が減っちゃうからね」

「そうよ、私は強くなって生きれればいいよ」

「そう、頑張ってね」

 

穢れの塊...それはまさしく俺ら妖怪のこと。

現実がこうであると自分がなぜここにいるのか、いていいのかが分からなくなる。

正直騙しているだけでも俺はきついのだ。その中ここまで自分を否定されたら悲しくなる。

まぁ、これはしょうがないことだ。妖怪になってしまった以上誰にも罪はないのだ。

こう言う関係になるよう神が仕込んだのだから...

 

「ご馳走様~...明日早いので私は寝ますね」

「あ、お姉ちゃん待って!」

 

そう言い食べ終わり部屋を出ようとする豊姫に依姫はついていく。

俺はいまだ捕まっているので一緒に行かなければならない。

こんなにも大きい俺を抱き上げるなんて依姫力持ち過ぎるでしょ...

少なくとも1mはある。体重は18㌔はある。

 

そんな依姫の力に驚きながら俺は依姫に連れられ寝室へと姿を消したのだった。

変なことはなかった。

普通に寝ました。

 

 

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発射当日

 

ついに来た。俺の感想はただそれだけだった。

朝5時なのに対し今屋敷の人たちは全員が起きている。

皆荷物を持ちここを出る準備を整えていた。

 

「まだ眠い...」

 

そんなことを言い俺をがっちりと抱きかかえる依姫、死ぬから首を絞めないでくれ

朝から死ぬ寸前の体験をした俺は目が覚めてしまった。

 

「それでは...出発するぞ」

 

綿月家当主がそう言い先陣をきり先を進んでいった。

俺は依姫の腕から降り足元の近くで歩いた。

向かう先は方向的に中央の実験施設だろう。

東京ドーム3個分くらいありそうだ...ここからみるとドーム状になってるから余計それっぽいのである。

所々行く先には散歩している者からジョギングをしている者などたくさん(・・・・)の人がいた。

 

 

歩く事20分

 

ついにそこへとたどり着いた。

依姫の父はそこにいた警備の男に何かを言った。

 

「はい、綿月様御一行ですね、どうぞお入りください」

 

そういいそこを通してくれた。

俺はここで回収されると思っていたが普通に中まで入れた。

 

依姫たちは中に入るとすぐに荷物を回収された。

俺はここでやっと回収された。正直中に入れてもらえるとは思ってなかったので特に問題はなかった。

 

「なんで戌姫を連れてくの?一緒にのらないの?」

「一旦こちらで預かるだけですよ」

「へー、まぁ大丈夫か」

 

依姫は納得した様子で豊姫の元に戻った。

この人は今さり気に依姫を騙した。俺をいったん預かるなんて大嘘だ。

俺、また犬・猫はここで逃がされるか...殺される。

俺はそんなことごめんなので此処で能力を駆使して脱出させていただく。

俺自身の速度を通常の3倍にした。速さの増した俺は彼の腕から脱出した。

俺が逃げる際に何か言っていたが俺は気にもせずに逃げ出した。

 

 

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建物から脱出し外からロケットが出るのを俺は見守ることにした。

だがその前に屋敷に戻り薬を取ってこなければならない。そう永琳からもらった黄金色の解毒剤だ。

ロケットが発射するのと同時に飲めば大丈夫だろう。

俺は3倍の速度のまま屋敷へと戻ることにした。

 

~移動中~

 

屋敷に着いた、中は寂しくガランとしている。まぁ当然だろう、この屋敷には誰にもいないのだから...そしてまだ長い間帰ってくることはないのだから...

 

俺は研究室に一直線にはいかずに屋敷を回りながら向かった。

屋敷の広間...俺と永琳と豊姫が初めて出会ったところだ...ここに来たとき急に抱き着かれたもんであまり覚えてないが、大切な場所だということは簡単に分かった。

屋敷の居間...いつも俺が依姫に抱かれ食事を共にする場所だ...

ここでは笑顔が絶えず、いつも明るい雰囲気が漂っていてとても明るい気持ちになれる場所だった。

 

屋敷を回るたびに思い出してくる数々の大切な時間。

思い出はどんな場所からでも出てくる...嫌な思い出、温かい思い出、悲しい思い出まで...様々だ。

俺はこんなにもたくさんの思い出に出会えたのだ、幸せじゃないか。

何まだ死ぬわけでは無い、これからこの先俺はたくさんの思い出を作るんだ。

そう自分に強く言い聞かせた。

そうしていると目的の研究室の前に出た...

 

 

 

一番の思い出の扉と...

 

 

研究室の扉に、優しくノックをし

 

 

俺は中へと入っていった

 

 

 


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