ダンジョンに竜の探索に行くのは間違っているだろうか   作:田舎の家

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第十四話 黒衣の殺人者

 ヒュンケル達が立ち寄った、ダンジョンの地下に建設された『リヴィラの街』で発生した、冒険者殺人事件。

 捜査の為か、街は門を閉ざして封鎖される事が決まった。

 街に居る冒険者達には、広場に集合するよう街の大頭から指示が出る。

 そして、広場に呼び出されたヒュンケル達の前に、都市最強派閥【ロキ・ファミリア】の幹部達と、彼らの派閥団長の姿があった。

 

 

 

 「君達が、【ヘスティア・ファミリア】の第一級冒険者だね?」

 

 黄金色の髪を持つ小柄な少年は、水晶広場にやって来た四人の戦士達にそう声を掛けて来た。

 彼の後ろに並ぶ女性達も、ある者は警戒し、ある者は好奇心一杯の眼で、ある者は無表情で彼らを見つめる。

 

 「ああ、そうだ」

 

 彼らと対面する位置にやって来たヒュンケルの鋭い眼差しと、金髪の少年の澄んだ碧眼が交差する。

 

 「じゃあ、まずは名乗って置こうか。僕はフィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】で団長を務めている者だ」

 

 彼の名は、【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナ。

 数少ないLv6の冒険者であり、【勇者】の二つ名を持つオラリオでも屈指の有名人だった。

 

 「オレの名はヒュンケル。【ヘスティア・ファミリア】の一員だ」

 

 ヒュンケルも、小人族の勇者に自分の名を告げる。相手が『勇者』でも有名人でも、彼の態度は変わらない。

 

 「おや? 君が団長じゃないのかい?」

 

 四人の中でも、リーダー格と見たヒュンケルが団長ではなく派閥の一員と態々名乗った事を、フィンが不思議がる。

 

 「いや、そういう事は決めていないな。ヘスティアの派閥はまだ結成して間もないし、オレ達にも少々事情があるからな」

 

 実際ヒュンケル達を除けば、ヘスティアの眷族はベル一人だけだ。

 彼らがダイを捜し出すまでの所属と断ってある以上、団長になるとしたら、必然的にベルがなるしかないだろう。

 

 「へえ、そうなのかい。ああ、【ファミリア】の内情に踏み込むのはマナー違反だったね、これ以上は訊かないよ」

 

 フィンは、相手を警戒させない笑顔で話を進める。

 彼は自分の後ろに並ぶ女性達、【ロキ・ファミリア】のメンバーをヒュンケル達に紹介した。

 いずれも、フィン同様に都市の隅々まで名を轟かせている強者達だった。

 

 二人のエルフの魔導士は、【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴと【千の妖精】レフィーヤ・ウィリディス。

 双子のアマゾネス姉妹は、【怒蛇】ティオネ・ヒリュテと【大切断】ティオナ・ヒリュテ。

 そして、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 リヴェリアを除けば皆十代の娘達だが、いずれもヒュンケルのかつての仲間達に負けない実力の持ち主だという事を、彼らは悟る。

 

 「ふむ、ではこちらも名乗ろう。オレの名はクロコダイン。見ての通り、ただの戦士だ」

 

 全身に白銀の金属防具を纏い、大斧と棘付き鉄球を背負った人間の大男に変身した、『リザードマン』の戦士クロコダインがそう名乗った。

 

 「オレはヒム。まあ、武闘家ってやつかな」

 

 ヒムが無手の拳を突き上げ、グッと握って見せる。

 

 「ラーハルトだ」

 

 槍使いのラーハルトは、彼と同じく長槍を手にしたフィンに鋭い視線を送る。相手の力量を測るかのようにだ。

 

 「それで、オレ達をここに呼び出した理由はなんだ?」

 

 互いの自己紹介を終え、ヒュンケルがフィンに用件を訊ねる。

 

 「ああ、その事なんだけどね」

 

 ヒュンケルに訊かれて、フィンは彼らをここに呼び出した理由を説明し始める。

 まずは、街の宿屋で発生した殺人事件の概要。

 一人の冒険者が宿で殺され、荷物が荒らされていた。

 宿の主人の証言から、犯人は被害者と一緒に宿に入った『女』である可能性が高い。

 そして、死んだ冒険者の【ステイタス】を調べて身元を割り出したところ、被害者は【ガネーシャ・ファミリア】に所属するLv4のハシャーナ・ドルリアであった事が判明した。

 

 「犯人は、情事に誘って油断させたとはいえ、Lv4のハシャーナを抵抗する余地も与えずに殺している。それも、片手で首の骨を圧し折ったらしい」

 

 そのフィンの説明を聞き、ヒュンケルも自分達がここに呼ばれた理由に見当が付いた。

 

 「なるほど、Lv4を簡単に殺した犯人。その女は、それ以上の力の持ち主という事か」

 

 即ち、犯人は第一級冒険者。

 それに匹敵する者でなければ、説明がつかない。

 

 「でもよ、犯人は女なんだろ?」

 

 話を聞き、ヒムが首を傾げる。

 

 「オレ達は、全員男だからな。それに夕べは、二十五階層で休んでいたぞ」

 

 少なくとも、自分達は事件とは無関係。

 クロコダインは、そうアリバイを主張した。

 

 「それは判っている。そちらが、姿形や性別を変えられるような『魔法』でも持っているのなら話は別だが、来て貰ったのは万が一の確認の為だ」

 

 エルフの麗人、リヴェリアが冷静な口調でそう告げた。

 彼らも、ヒュンケル達が犯人だとは本気で疑っている訳ではない。

 ただ、今この街にいる第一級冒険者を確認するという事で、彼らを呼び出したのだろう。

 

 「……………」

 

 しかし、彼女が何気なく言った言葉に、ヒュンケル達が沈黙した。

 クロコダインらが姿を人間に変えている魔道具『変化の首飾り』。これを使えば、見た目や性別を変えるくらいは問題無く可能だった。

 勿論、話せる事ではないので皆口を閉じるしかない。

 

 「それと犯人の女は、ハシャーナが持っていた『何か』を奪う事が目的だったらしい」

 

 彼らの沈黙の意味には興味が無かったのか、フィンが話を続ける。

 犯人はハシャーナを殺した後、彼の荷物を荒らして、バックパックの中を漁っていた。

 状況から考えても、フィン達の推測通り、犯人の目的はハシャーナが持っていた筈の『何か』なのだろう。

 

 「その『何か』とやらは、犯人に奪われたのか?」

 「いや、おそらくだけど犯人は、それを手に入れる事が出来なかったと思うよ」

 

 現場を調べ、犯人が相当苛立っていた様子が見て取れたと、フィンは言う。

 さらにはその苛立ちからだろう、ハシャーナの顔面は叩き潰され、人相すら判別出来ない状態にされていた。

 

 「だから、もう一つ質問があるんだ。さっき聞いた話だけれど、君達はダンジョンの中で『何か』を探しているらしいね?」

 

 犯人の狙いは依然不明ながらも、第一級冒険者並みの力を持ち『何か』を探している者らしい、というところまでは彼らの推理は進んでいた。

 そしてヒュンケル達は第一級冒険者であり、『何か』を探しているとの噂がある。

 可能性は低くても確認はして置くとの、フィンの質問だった。

 

 「生憎だが、オレ達の探している物は、そのバックパックに入る大きさの物ではないな」

 

 ヒュンケルは広場に持って来られていたハシャーナの私物、破かれた血塗れのバックパックを見て、そう説明した。

 犯人がハシャーナの荷物を漁って『何か』を探していたのなら、その『何か』はヒュンケル達の探し物とは無関係だった。

 何しろ、彼らが捜しているのは十二歳の少年なのだ。

 いくらダイが小柄でも、そこに置かれた普通サイズのバックパックに入る筈がない。

 

 「間違いないかい?」

 「ああ、少なくともその犯人が探していた『何か』とやらと、オレ達は無関係だな」

 

 ヒュンケルとフィン、かつての『魔剣戦士』と『勇者』の視線が交差する。

 

 フィンの碧眼が、ヒュンケルの真意を見抜こうと真っ直ぐに彼を見つめる。

 見た目は幼くても、相手は【勇者】の二つ名を持つ男。

 彼の静かなプレッシャーは、並の冒険者では耐えられないものだった。

 しかし、ヒュンケルは並ではなかった。その眼光を真っ向から受け止めても、微塵の揺らぎも見せはしない。

 

 「ふうっ、判ったよ。今回の事件と君達は関係無い様だね。何を探しているのかも、これ以上は訊かないで置くよ」

 

 軽く小さな息を吐き、微笑を浮かべながらフィンは言った。

 【勇者】は、彼らを無実と判断したのだ。

 そしてヒュンケル達が無関係なら、彼らが何を探しているのか聞くのはマナー違反になる。

 

 「でもそうなると、犯人の女は完全に正体不明ですよ、団長?」

 

 アマゾネス姉妹の姉、妹よりも豊満な身体付きをしたティオネが、フィンに訊ねる。

 

 「そうだね、やっぱりまだ一騒動ありそうだ」

 

 そう言いつつ、フィンは不敵な笑みを浮かべると、右手の親指をぺろりと舐めた。

 

 「……勘だけどね」

 

 【勇者】フィン・ディムナの親指は、危険を告げてくれる力を持つ。

 その彼の親指が言っていた。

 事件の本番は、これから起こるのだと。

 

 

 

 街の二つの出入り口、北門と南門は閉ざされた。

 今街の広場には、街の住人や冒険者が合わせて五百人程も集まっている。

 自分達よりも強いらしい殺人者が、街のどこかに潜伏しているとの情報に、冒険者達もザワザワと騒がしくしていた。

 

 その様子を、ヒュンケル達も見ている。

 

 「結構、人がいるもんだな、こんな地下の街によう!」

 

 集まった冒険者の数に、ヒムは感心した。しかし、オラリオにいる冒険者の数から言えば、これでも三分の一以下なのである。

 

 「ふーむ、だがこの中から犯人の『女』を捜すのは、難しそうだぞ」

 

 流石に男よりは少し少ないが、冒険者の中には女性も多い。

 この場にいる女性は二百人程にもなり、一人一人調べるだけでも、時間が掛かりそうだった。

 

 「それくらいの事は、あの男が考えるだろう」

 

 ラーハルトは常に冒険者達の中心にいる男、フィンに視線を向ける。

 

 「あの男が、この世界の『勇者』か……」

 

 どこの世界であろうと、人々の敵に立ち向かい、『勇気』を持って偉業を果たす者をそう呼ぶのかと、ラーハルトは思う。

 

 「あのフィンという男を、どう思うヒュンケル?」

 

 勇者ダイに仕える事を決めている男が、ヒュンケルに訊ねる。

 

 「切れ者だな。それも、アバン並に頭が回る。そして、強い」

 

 ヒュンケルは僅かな時間での邂逅で、フィン・ディムナという彼らが出会った新たな『勇者』の力を見極めていた。

 戦って、勝てない相手ではないだろう。

 しかし、楽に勝てるような相手でも決してない。

 一手読み間違えれば、ヒュンケルでも危ういかもしれない油断のならない相手だ。

 

 その上、大魔王バーンですら危惧した、あの勇者アバンと同じ底の知れなさがあると、ヒュンケルは思う。

 ただ強いだけではなく、それ以上の『何か』を持つ勇者。

 圧倒的な戦闘能力を持っていても、まだ子供のダイでは持ち得ない、それは老獪さや成熟さと言ったものだろう。

 

 「出来れば、敵には回したくない男だな」

 「……………」

 

 そのある意味最高位の賛辞に、ラーハルトも沈黙する。

 かつて『勇者』を殺そうとしてアバンとダイに戦いを挑み、二度とも『勇者』に敗北したヒュンケルの言葉は重い。

 だが今回、ヒュンケルと新たな『勇者』との出会いは、取り敢えず友好的に始まった。

 

 

 

 「ねぇねぇ、おじさん達本当に第一級冒険者なのー?」

 

 そして、ヒュンケル達に堂々と話し掛けて来たのは、褐色の肌を露出した水着のような服に、巨大な双刃の剣を持ったアマゾネスの娘だった。

 顔は姉と良く似ているが、身体の一部が引っ込んでいる妹の方、ティオナ・ヒリュテだ。

 

 「うむ、女神殿がオレ達の【ステイタス】とやらを確かめて、そう言っていたからな」

 

 話し掛けられたクロコダインが、ティオナにそう答える。

 彼女の後ろには、姉のティオネやアイズ、それにレフィーヤがいた。

 

 「へー、でもオラリオに来たばっかりなんでしょ? どこで、そんなに強くなったの?」

 

 巨漢のクロコダインを見上げ、眼を輝かせて質問するティオナ。

 

 「ティ、ティオナさんっ、そんな事を聞いたらっ、駄目ですよ!」

 

 そんな無邪気な質問を、平然と格上の相手方にするティオナに、後ろからレフィーヤが慌てた様子で声を上げる。

 

 「ぐわははっ! 別に質問くらいは構わんぞ。まあ、答えられない話もいくつかあるがな」

 

 好奇心から彼らに近付いて来た娘達に、豪快に笑いながらクロコダインが言う。

 彼らも自分達に伍する強者には、興味があるのだ。

 そして、主にティオナによってヒュンケル達に遠慮なく質問が飛んで来る。

 

 「なんでそんなに強いのに、小さな【ファミリア】に入ったの?」

 「街に来て最初に出会った神がヘスティアで、彼女がオレ達の条件を聞いてくれたからだな。オレ達の目的には、派閥の規模など関係ない」

 「目的って?」

 「それは秘密だな」

 

 ダンジョンの中でダイを捜している事を秘密にしつつ、ティオナの質問にヒュンケルが答えた。

 

 「それにしてもよう、『勇者』ってやつは、皆小柄なやつなのかな~」

 

 ヒムが、広場の中央にいるフィンを見ながら、そう呟く。

 彼の知る『勇者』はダイであり、まだ子供だった。

 そのダイと同じ『勇者』であるというフィンは、体格的には大してダイと変わらないのだ。

 

 「それって団長を、非力な小人族だと見縊っているの?」

 

 ヒムのその発言に対して、少し目付きを険しくしたティオネが彼を睨んだ。

 派閥の団長であるフィンに、少々危険な程の愛情を抱く彼女にとっては、想い人のフィンを侮辱するような言葉は看過出来ない。

 

 「いや、小さくても強いやつは強いぜ。オレ達の知ってる『勇者』も、小柄なやつだったからな~」

 

 ダイという前例を知る彼らにとっては、体格など軽視する理由にはならないのだ。

 

 「えー、【勇者】ってフィン以外にもいるの?」

 「ああ、二つ名の【勇者】とは意味が違うが、オレ達のかつての仲間に『勇者』と呼ばれる男がいた」

 

 ヒュンケル達の世界では、『勇者』は個人の呼び名ではない。

 一種の称号であり、『職業』としての側面も持つ。

 

 「うむ、『勇者』とは心に大いなる勇気と正義を秘め、その勇気で皆を鼓舞し、強大な敵に立ち向かう者の事だな。あの男も、そういう者だから【勇者】と呼ばれているのではないのか?」

 

 かつての戦いで、クロコダインに挑み掛かって来た小さな少年。

 一時とはいえ武人の誇りを忘れた彼に、その誇りを取り戻し、誇り高き敗北をも与えてくれたダイが、クロコダインの知る『勇者』の姿であった。

 

 「当然よ! 団長は、種族の再興と彼らの誇りになる為に、勇気を示す【勇者】になったんだからっ!」

 

 自身が惚れ込むフィンを誇るかのように、ティオネが豊かな胸を反らして自慢げな顔でそう言った。

 

 

 

 そんな他愛もない会話を少しの間していると、漸く広場に街中の冒険者が集まったようだった。

 そして集まった冒険者の中から、犯人と同じ『女』を一か所に集めて、その周りを男達が取り囲む。

 

 「よぅし、女どもぉ!? 体の隅々まで調べてやるから服を脱げーッ!!」

 『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

 

 街の大頭ボールスの号令と共に、男共のそんな雄叫びが安全階層内に響く。

 しかし、そんな歓声を無視して【ロキ・ファミリア】の娘達が、女性冒険者の検査を行う事となった。

 

 その様子を、ヒュンケル達は離れた場所から見ている。

 すると女性冒険者達が、一斉に彼女達の前ではなく、フィンの前に群がって行くのが見えた。

 どうやら、多くの女性がフィンに検査して貰いたがっているらしい。

 【勇者】も、これには遠い眼をしている。

 

 「へー、やっぱり『勇者』って女にもてるんだな~」

 

 そんなフィンの姿を、ヒムが興味深そうに眺める。

 彼の記憶では、勇者ダイにはレオナ姫という彼女がいたし、勇者アバンは散々逃げ回った挙句ついに観念して女王フローラと結婚した。

 やはり、『勇者』には女が付きものなのだろう。

 

 そしてフィンに群がる女達の姿に、先程話をしていたアマゾネス姉妹の姉ティオネが憤激し、暴れ出した。

 犯人の『女』を捜し出す筈の広場は、たちまちの内に混沌の坩堝と化す。

 

 「一騒動起こったな……」

 

 その事態を眼にし、ラーハルトが呆れた様子で一言呟いた。

 ヒュンケルは、今の時点では自分達に出来る事はないので、何気なく冒険者達の集団に視線を送っていた。

 その時、ふと人混みの中から素早く逃げ出す獣人の娘の姿を目撃する。

 中型の鞄を抱え、小麦色の肌をした犬人だが何かに恐怖しているかのように、顔色が悪い。

 

 そして、それに気が付いたのは、彼だけではなかった。

 犬人の娘の跡を、アイズ・ヴァレンシュタインと先程名前を聞いた、レフィーヤ・ウィリディスというエルフの少女が追う。

 ヒュンケルもこの状況でここから逃げ出した者の事は気にはなったが、あの二人が追って行ったなら問題はあるまい、と考えた。

 

 しかし、彼女達をさらに追おうとする者の姿を見ては、放って置く事も出来ない。

 ヒュンケルの視線の先に、冒険者の集団から離れて行く『二人』の人影が映る。

 一人は、全身に黒い金属鎧を身に着け、腰に抜き身の長剣を吊るす男。

 その男に従うかのように付き添うもう一人の男は、黒いローブとマントで頭から爪先まで覆い隠し、背中に大剣を装備している。

 

 不気味な気配を漂わせる、黒尽くめの二人組の『男』。

 その二人の事が、ヒュンケルはなぜか気になった。

 どうにも、悪い予感がする。

 

 「どうしたのだ、ヒュンケル?」

 

 少し表情を険しくした彼に気が付き、クロコダインが声を掛ける。

 

 「いや、少し気になる事がある。ここはおまえ達に任せる。何かあったら頼んだぞ」

 

 そう仲間に告げると、ヒュンケルもまた立ち去った者達の跡を追うように、広場から飛び出して行くのであった。

 

 

 

 十八階層の空が、昼から夜に変わろうとしていた。

 天井の水晶の発光が弱まり、周囲が蒼い薄闇に覆われ始める。

 そんな中を、広場から逃げ出した獣人の少女が走っていた。街の北西、岩と岩との間の路地を、彼女は荷物を抱えて逃げていた。

 

 その逃亡者を、アイズ・ヴァレンシュタインとレフィーヤ・ウィリディスの二人が追っていた。

 魔導士のレフィーヤは兎も角、アイズの俊足からは逃れられない。

 結局、犬人の少女は挟み撃ちに合い、二人に掴まってしまったのであった。

 

 「はぁ、はぁ……捕まえましたね。流石アイズさん」

 「ううん。レフィーヤの、お蔭だよ」

 

 そして、彼女達が広場にいるフィンの下に連れて行こうとすると、その犬人の少女が激しく抵抗。

 仕方なく話を訊く為に、三人は物資運搬用のカーゴが無数に置かれた人のいない街の一角にやって来た。

 そこで彼女に事情を問い質す、アイズとレフィーヤ。

 結果、明らかになった事実。

 

 犬人の少女は、【ヘルメス・ファミリア】に所属する、Lv3の冒険者ルルネ・ルーイ。

 彼女は依頼を受け、『リヴィラの街』でハシャーナと酒場で接触し、彼から荷物を預かっていた。

 犯人の『女』が狙っていた『何か』は、今ルルネの鞄の中にあるのだった。

 

 「私達に、その荷物を渡して」

 

 アイズが、ルルネにそう要求する。

 少しの間迷っていたルルネだったが、命には代えられないと二人に荷物を見せる事にした。

 そして、彼女がハシャーナから受け渡された物が、アイズとレフィーヤの前に明かされた。

 

 「……!」

 「な、何ですかっ、これっ……?」

 

 彼女達が眼にした物、それは不気味な胎児を内包した『緑色の宝玉』だった。

 

 しかも、それが『二つ』。

 

 アイズとレフィーヤの手にそれぞれ渡された宝玉に、二人の視線が釘付けになる。

 すると、アイズの身に異変が起こった。

 眩暈を起こし、膝を突いて宝玉を手から落としてしまう【剣姫】。

 事態は徐々に悪化を始める。

 

 「これは私が持って、団長に渡します」

 

 アイズに原因不明の不調を齎した二つの宝玉は、レフィーヤが預かる事にした。

 そして広場にいる仲間達と合流する為、移動しようとしたその時、彼女達は遠方から轟く冒険者達の悲鳴とモンスターの雄叫びを聞いた。

 

 「!?」

 

 急いで視界が開けた高台に移動した彼女達の眼に飛び込んで来た光景、それは『リヴィラの街』の中で暴れ回る無数の『食人花』の姿であった。

 

 

 

 「レフィーヤ、先に広場へ行って!」

 「アイズさんっ!?」

 

 突然『リヴィラの街』に攻め寄せて来た、食人花の大群。

 彼女達の下にも殺到して来たそれを、アイズが愛剣『デスペレート』を振るって切り刻んで行く。

 レフィーヤは躊躇しつつも、アイズに戦いを任せてルルネと共にフィン達の下へ急ぐ。

 

 そして、レフィーヤとルルネは水晶の柱で構成された通路、『群晶街路』に出た。

 その細長い道を走り街中に急ぐ二人の眼が、『リヴィラの街』に屹立する何本もの火炎の柱を捉えた。

 

 「あれは……リヴェリア様の魔法!」

 

 街の空が赤く燃えるその様は、オラリオ最強の魔導士リヴェリアの魔法が炸裂したに違いなかった。

 街の中でも、既に壮絶な戦いが行なわれているのだ。

 二人は先を急ごうと、魔法の火の粉が降り注ぐ水晶の通路を進む。

 そんな彼女達の前に、二つの黒い影が現れる。

 

 (男性の、冒険者……?)

 

 レフィーヤが眼にしたのは、二人の男性冒険者だった。

 一人は、全身に黒い金属鎧を身に着けた男。顔には包帯が巻かれているが、そこから覗く浅黒い肌や顔立ちは確かの男のものだった。

 もう一人は、黒いローブと黒いマントで全身を覆っている男。こちらは顔こそ見えないものの、体格から見て男に間違いない。

 二人共剣を装備し、無言で彼女達の前に立ちはだかっている。

 

 「ル、ルルネさん、あの人ルルネさんの依頼人じゃないですよね?」

 

 レフィーヤは、先程彼女から聞いた話を思い出す。

 ルルネに荷物の運び屋を依頼したのは、真っ黒いローブを被った怪しい人物だったと。

 

 「い、いや違う。良く似た格好だけど、雰囲気が全然違う!」

 

 街で会った黒いローブの怪人物を思い出し、ルルネが首を振って否定する。

 あの人物からは、まだ何らかの人間味が感じられた。

 しかし、今眼の前にいる黒衣の人影からは、寧ろ何も感じられないのだ。

 そして、鎧を着た男が無言のまま彼女達に近付く。

 

 「と、止まってくださいっ!?」

 

 その男達の不気味な雰囲気に、レフィーヤが恐怖を感じて叫ぶ。

 だが、黒鎧の男はそれを無視して歩み寄ると、彼女に避ける判断さえ許さぬ速さで、その細首を片手で掴み上げた。

 

 「がっ――!?」

 

 強力な力がレフィーヤの首を締め上げ、握り潰そうとする。外そうにもLv3の彼女の力では、男の指一本すら動かせない。

 ルルネがナイフを抜いて切り掛かるも、あっさりと片腕で弾き飛ばされ、水晶の柱にぶつかって気絶させられる。

 

 「ぁ……! ぅ、っ……!?」

 

 レフィーヤの喉から最後の息が漏れ、意識が遠のいた。

 

 その時、水晶の破片と食人花の肉片を派手に撒き散らしながら、アイズがその場に飛び込んで来た。

 【剣姫】の刃が、仲間のエルフの首を握る黒鎧の男へと振り下ろされる。

 男は即座にレフィーヤを手放し、攻撃を回避する。

 アイズは、レフィーヤを後ろに庇って、鎧の男と対峙した。

 

 

 

 咳き込むレフィーヤの前で、アイズは二人の男を見る。

 抜き身の長剣と大剣を装備した、黒い鎧を着た男と全身黒尽くめの男。

 アイズが食人花との戦いに掛かり、二人と離れるのを狙ってレフィーヤ達を殺そうとした人物達。

 

 「……貴方達が、ハシャーナさんを殺した人?」

 

 その男達に向かい、アイズは半ば確信してそう問い掛けた。

 

 「だったらどうした?」

 

 黒鎧の男が口を開く。

 しかし、その『男』の口から出たのは、紛れもなく『女』の声。

 驚愕する、アイズとレフィーヤ。

 ハシャーナを殺した女は、彼の顔の皮を引き剥がし、それを被って男に変装していた事を平然と二人に告げる。

 

 そして女は、纏っていた鎧を脱ぎ捨てた。

 露わになる、豊満な女の身体。

 

 「いい加減、宝玉を渡して貰う」

 

 その言葉と共に、女がアイズに襲い掛かって来た。

 二人の剣が激突し、激しい火花が散る。超高速で繰り出される無数の斬撃。レフィーヤの動体視力では、残像しか見えないような激しい攻防が続く。

 

 (強い――っ!)

 

 女との攻防を繰り広げながら、アイズは瞠目した。

 剣だけでなく、蹴りも拳も入り混じる凄絶な攻撃。彼女ですら今まで経験した事のない、苛烈なる攻防戦。

 

 (この人まさか、Lv6っ!?)

 

 アイズ・ヴァレンシュタインと互角以上の戦いを平然と繰り広げられる者、それは彼女よりも上位にあるものとしか考えられなかった。

 

 「面倒だな」

 

 そして、戦いながら女がそう呟いたかと思うと、彼女は背後にいた連れの黒尽くめの男に対して命令を下した。

 

 「おまえも来い。役に立って貰うぞ」

 

 その言葉に、今まで彼女達の戦いを傍観していた黒尽くめの男が動く。

 男は背から大剣を引き抜くと、女にも劣らぬ超速度で猛然とアイズへと切り掛かった。

 

 「ッ!!」

 

 その勢いと剣速に、【剣姫】の唇から息が漏れた。

 サーベルで受け流すも、即座に第二撃、第三撃と止まらない連続攻撃が襲い掛かって来る。

 黒尽くめの男の戦闘能力。

 それは、ハシャーナの顔の皮を被った女と同等、或いはそれ以上だった。

 

 アイズの前に現れた、推定Lv6の二人の殺人者。

 大剣を振るう男のマントが跳ね上がる。

 男の全身は黒衣に隠されているが、唯一左腕だけが布地から剥き出しになっていた。その腕は、光沢を放つ金属と関節部に使用された『魔石』によって出来ている。

 

 (あの輝きは、『アダマンタイト』!?)

 

 黒尽くめの男の左腕は、超硬金属『アダマンタイト』製の魔道具の義手であった。

 

 「他所見している余裕があるのか?」

 

 『左腕が義手の男』と共に、謎の女の攻撃も再開される。

 

 「アイズさんッ!!」

 

 離れて戦いを見ているしかなかったレフィーヤの声が飛ぶ。彼女も、アイズが苦戦しているという事実に、顔を真っ蒼にしていた。

 

 だが、アイズには彼女の声に応える余裕はなかった。

 Lv5の剣士、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインよりも強い敵が、今この場に、それも二人も同時にいるのだ。

 辛うじて防戦を行っているが、一瞬でも隙を見せれば間違いなく殺される。その二人の激烈な攻撃は、彼女に必殺の魔法を使うほんの僅かな精神集中をも許さない。

 

 「【アルクス・レイ】!!」

 

 アイズの背後で魔法の詠唱が行なわれ、レフィーヤの杖の先から光の矢が撃ち出される。

 それは絶対に命中する強力な『大閃光』。

 魔力だけは反則的に強い、【千の妖精】レフィーヤ・ウィリディスの攻撃魔法。

 

 しかし、その魔法すらも、女はものともしなかった。

 光の矢を片手で受け止めると、それを力任せに逸らして水晶の壁に激突させる。魔法が壁を爆砕し、レフィーヤと気絶したルルネを吹き飛ばす。

 アイズですら、ほんの僅かに体勢を崩した。

 その僅かな隙を、男女は逃さなかった。

 女の長剣と男の大剣が、同時に容赦なくアイズの身体に襲い掛かる。

 

 (避けられないっ!)

 

 さらに加速した、二人の剣速と膂力。

 どちらか一人ならば彼女も対処出来たが、各上の実力者二人の連携による正確無比な斬撃を、魔法無しで同時に処理する事はアイズを持ってしても不可能だった。

 

 死の足音が、【剣姫】の耳元直前まで近付いた。

 

 「アイズさんッ!」

 

 レフィーヤの絶望の声が、彼女の耳朶に響く。

 

 その瞬間。

 

 「『空裂斬』ッ!」

 

 アイズに迫った剣を弾き飛ばすかのように、上から放たれた『光の刃』が地面を斬った。

 突然の攻撃に、『左腕が義手の男』が斬撃を中断して飛び退く。

 瞬時の判断で、アイズのサーベルが女の長剣を弾いた。

 直前までに迫っていた死から辛うじて逃れ、アイズは体勢を立て直す。

 

 「間に合ったようだな」

 

 その場へ、先程の光る斬撃を水晶の柱の上から放った男が、飛び降りて来た。

 銀髪に鋭い眼差しを持つ、二十歳前後の若い男。

 引き締まった身体には装飾鎧を身に着け、手には抜き身の長剣を提げている。

 

 その男には、アイズも見覚えがあった。

 つい先程、広場でフィン達と話していた新興派閥【ヘスティア・ファミリア】の四人の第一級冒険者の一人で、彼らのリーダー格らしき男だった。

 

 前歴は全く不明ながらも、ギルドに登録された情報ではフィン、リヴェリア、ガレスらと同じ、Lv6に至った者。

 アイズは余り興味を持っていなかったが、今オラリオを騒がせている冒険者の一人であった。

 

 

 

 広場から黒尽くめの二人組の男を追ったヒュンケルだったが、二人はすぐにその姿を晦ませてしまった。

 それを捜して街の奥を探索していた時、彼は食人花の襲撃に遭遇した。

 幾体かの食人花を倒しながらさらに進むと、ヒュンケルは激しい戦いの気配を感じ取り、この場にやって来たのだった。

 

 ヒュンケルは眼前の光景を考察し、起こっている事態を判断する。

 そこにいたのは、街の広場から逃げ出した犬人の少女と、彼女を追って行った筈のアイズとレフィーヤ。

 そして同じく広場から姿を消した筈の黒鎧の男と、黒尽くめの男。

 

 「なるほど、そうやって男に化けていた訳か」

 

 鎧を脱ぎ去り、露わにされた女の身体を見てヒュンケルは納得する。

 やはり【勇者】フィン・ディムナの判断は正しかった。殺人犯の女は、男に姿を変えるという手段を用いて、街に潜伏していたのだ。

 

 「状況を教えて貰えるか?」

 

 対峙する二人を油断なく見つめながら、ヒュンケルは傍にいるアイズにそう訊ねた。

 

 「……あの人が、ハシャーナさんを殺した犯人。ハシャーナさんの荷物を預かったルルネさんを追って来て、私達と戦いになった」

 

 アイズは淡々とした口調ながらも、手短に状況をヒュンケルに説明する。

 ハシャーナを殺した女は、仲間らしき黒尽くめの男と共に、探していた『何か』とやらを持つ彼女達を襲撃したとの事だった。

 

 「気を付けて下さい。あの二人は多分、Lv6」

 

 先程までの戦慄すべき攻防から、アイズはそう確信するに至っていた。

 あの同時攻撃は、彼女を持ってしても回避不能だった。彼が戦いに介入して来なければ、自分は死んでいたとアイズは思う。

 

 「Lv6、か」

 

 ヒュンケルは剣を手に彼らと対面する男女を、鋭い視線で射抜く。

 この世界は、強さが明確な数値で示される。

 それが意味するところは、その二人がアイズよりも強く、ヒュンケルと同格に戦える者であるという事を示唆していた。

 

 「殺人犯とはいえ、女は殺したくないのだがな」

 

 女性に対しては紳士的に振る舞うよう、父バルトスから教えられているヒュンケルは、例え敵でも女を殺す事を良しとはしない。

 

 「……それなら、貴方はあの黒い男の人をお願いします」

 

 意外な主張をする冒険者だと思ったが、Lv6の助っ人はありがたいので、アイズはヒュンケルに男の相手を頼み、自分が殺人犯の女の相手を引き受ける。

 そして、戦いは再開した。

 

 

  

 アイズ・ヴァレンシュタインが、兜と人皮で顔を覆う女と切り結ぶ。

 その傍で、ヒュンケルは大剣を持つ黒尽くめの男と対峙する。

 全身が黒衣で覆われている為だろうか、男の顔は勿論の事、気配すら感じ取る事が出来ない。唯一露わになっている、左手の代わりに取り付けられた金属製の義手だけが煌びやかな光を放っていた。

 

 「貴様、何者だ?」

 

 ヒュンケルが『左腕が義手の男』に問う。

 それに対する男の返答は、無言での斬撃だった。

 抜き身で構えていた『覇者の剣』が跳ね上がり、男の大剣とぶつかり合う。

 

 そしてそのまま、男とヒュンケルの間で猛烈な斬撃の嵐が吹き荒れる。

 僅かな時間に数十合に渡る斬り合いが巻き起こり、周囲に無数の火花が飛び散る。

 男の攻撃はまるで機械のように正確で、ヒュンケルを相手にしてさえスピードでもパワーでも、全く負けていない。

 

 「オレと互角だとっ!?」

 

 相手の男の技量を肌で感じ取り、ヒュンケルは驚愕する。

 ヘスティアによると、ヒュンケルを筆頭にラーハルトやヒムの【ステイタス】は、既にLv6の冒険者の中でも上位に数えられる域に達しているらしい。

 彼らよりも明確に強い冒険者となると、オラリオには現在唯一人しか存在しない筈だった。

 

 しかし、今ヒュンケルと斬り合う『左腕が義手の男』は、彼に全く引けを取らない互角の攻防戦を繰り広げている。

 一言も喋らず、殺気も、闘志も、気配さえ感じさせない、謎の男。

 

 「クッ! 誰だ、おまえはっ!」

 

 そう叫び、渾身の『大地斬』を繰り出すも、男は大剣で受け流しただけで答える事はない。

 『左腕が義手の男』は、ヒュンケルといえども容易に勝てる敵ではなかった。

 

 

 

 「【目覚めよ】!!」

 

 アイズがその唇から詠唱を紡ぐ。

 対人戦では強力過ぎる為に、普段は使わずにいる彼女の風の付与魔法【エアリエル】。

 しかし、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。

 ハシャーナを殺した犯人の女は、確実にLv5の彼女よりも強い。アイズも全力を振り絞らなければ、殺される程の相手なのだ。

 

 そして、風を纏った強烈な一撃が女の身体に炸裂する。

 女が被っていた兜が外れ、人皮も剥ぎ取られて、その身体が派手に街路を舞う。

 それでも崩れる事無く、女は正面を向いてアイズと対峙した。

 女の顔が露わになり、血のように赤い髪や緑色の瞳を持つ白い肌の美女がそこにいた。

 

 「今の風……そうか、お前が『アリア』か」

 

 赤い髪の女が、突然そんな言葉を口にする。

 その名前を聞き、アイズは激しい動揺に襲われた。

 

 その時だった。

 

 『『――ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!』』

 

 先程の魔法の影響で、レフィーヤの手から零れ落ちた二つの宝玉の胎児が、叫喚を上げる。

 胎児達は暴れるように緑色の幕を突き破ると、宙に飛び跳ね、アイズが斬り倒した瀕死の食人花二体にそれぞれ接触し、寄生した。

 

 『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?』』

 

 胎児に同化された二体のモンスターの身体が膨れ上がり、おぞましく変化して行く。

 人の身体のような輪郭が生まれ、巨大化する。

 

 「何だ、これは!?」

 

 『左腕が義手の男』と戦うヒュンケルも、その異形に変わって行く食人花を見た。

 それは変態しつつも暴れ回り、彼らにも襲い掛かって来る。

 この場所での戦いは、互いに一時中止となった。

 

 アイズがレフィーヤとルルネの身体を抱えて、脱出する。

 ヒュンケルも彼女達に続いてその場を離れる。

 

 しかし、異形のモンスター二体は暴れ狂い、他の食人花を吸収しながら彼らを追い掛けて来た。

 モンスターはその身を繋げ、さらに異形へと変貌を遂げる。

 

 「女、だと?」

 

 ヒュンケルはモンスターと女体が合わさったような、不気味な怪物の姿を眼にした。

 

 

 

 混沌とした戦いは、まだ続くのであった。

 

   

 

  

 

  

  

 


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