ダンジョンに竜の探索に行くのは間違っているだろうか   作:田舎の家

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第十三話 勇者との出会い

 『怪物祭』の事件の翌日。

 ヒュンケル達は、今日から再び『ダンジョン』に潜る為に『バベル』まで来ていた。

 本来ならベルの特訓を引き受けていたので、もう何日かは地上で彼を扱く予定でいたのだが、ヘスティアから無茶な修行の中止命令が出てしまったのである。

 

 先の事件で、ヘスティアはベルの【ステイタス】を更新した。

 その結果、ベルの『耐久』と『敏捷』は一気にD評価まで上がっていたのだ。

 その理由、特に『耐久』の成長が著しい理由をヘスティアに問われ、『アバン流刀殺法』の修行風景をヒュンケルが話すと、彼女のツインテールが文字通り怒髪天を衝いたのであった。

 

 「あんなに怒られるとは思わなかったな……」

 

 その時の女神の剣幕を思いだし、ヒュンケルは眉を顰めた。

 強くなりたいと言うベルの為に、出来る限りの限界まで特訓を行なわせたのだが、『特別』ハードコースの修行は、少年の身を案じる女神の逆鱗に触れてしまったらしい。

 そしてベルの集中特訓は二日で終了し、これからの修行は今まで通り早朝や休みの日に行う事にして、ヒュンケル達四人は改めてダイ捜索の為に『ダンジョン』に向かうのであった。

 

 

 

 「それにしても、『ダンジョン』に向かう前にバベルに立ち寄って欲しいとは、女神殿も珍しい事を言うな」

 

 今朝方ヘスティアに言われた事を、クロコダインは思い出していた。

 『青の薬舗』でポーションを仕入れてからダンジョンに向かう予定を立てていた彼らに、ヘスティアはそう告げると、自分も足早にホームを出て行ったのである。

 新しい武器を手にしたベルも意気揚々とダンジョンに向かい、いつものように彼らとは別行動を取る。

 

 「行き先はバベルの四階、【ヘファイストス・ファミリア】の店だったな」

 

 その派閥の名は、ヒュンケルも良く耳にしていた。

 オラリオのみならず、世界にその名を轟かせている鍛冶師の大派閥。

 派閥の主神にして鍛冶神ヘファイストスとは、神友同士だとヘスティアが言っていた。

 ベルの武器としてヘスティアが調達して来たあの漆黒の剣『ヘスティア・ソード』も、かの女神に無理を言って頼み込み、譲って貰った品だそうだ。

 

 「オレ達には、それぞれの武器が既にある。今更武器屋に立ち寄る用事は無い」

 

 片手に『鎧の魔槍』を持つラーハルトが言う。

 武器と鎧が一体化した武装を持つ彼にとっては、全ての戦いはこの一本で十分なのだ。

 

 「武器か~、もしもオレが使うとしたら『オリハルコンの爪』とかだな~、あればだけどよう」

 

 最強の超金属『オリハルコン』の肉体を持つヒムは、その素手と身体が最強の武器であり防具である為、迷宮探索にも何も持たずに挑んでいる。

 

 そして彼らは、巨塔バベルの中に入った。

 この巨大な塔は地下にダンジョンへの入り口を持つが、その他にも様々な設備を兼ね備えている。

 

 「ほう、これが『魔石昇降機』かっ!」

 「へー、本当に上に移動してやがるぜっ」

 

 四人はバベルの上階に上がる為に、広間の中心に設置された円形の台座に乗った。

 それは、『魔石』によって生じる魔力を浮力に転用した昇降機だった。

 彼らの世界でも、ベンガーナ王国のデパートに同じような設備がある。

 しかし、それを利用した事の無いクロコダインとヒムは、初めて乗った『魔石昇降機』に少し興奮気味だった。

 

 そして一行はバベルの四階、【ヘファイストス・ファミリア】の武器と防具を取り扱う店が並ぶフロアへと足を踏み入れた。

 

 「確か来て欲しいと言われたのは、この階の店だった筈だが……」

 

 そう言いつつ、ヒュンケルは陳列窓に飾られた高級武器の数々を眺める。

 流石に鍛冶の大派閥だけあって、彼らのような超一流の戦士達の眼から見ても見事と言える品々が並べられていた。

 

 「いらっしゃいませー! 今日は何の御用でしょうか、お客様!」

 

 その時、明るい声で女性店員が彼らに声を掛けて来た。

 皆が、どこかで聞いた事があるような声だった。

 

 「……何をしているんだ、ヘスティア?」

 

 そこにいたのは、紅色のエプロンタイプの制服を着た彼らの派閥の主神であった。皆の間に、微妙に気不味い空気が流れる。

 そして声を掛けたのがヒュンケル達だと気付き、ヘスティアの笑顔もぎこちなく固まった。

 

 「……や、やあ皆、ここに来てくれたって事は、ボクの頼みを聞いてくれたんだね」

 

 眼を泳がせつつ、ヘスティアが四人を店内に案内しようとする。

 

 「それより、なぜそんな恰好をしているのだ、女神殿?」

 

 しかし、皆を代表してクロコダインがその疑問を彼女に問うた。

 

 「こ、これはだね、えっと、神には海よりも深~い事情ってものがあるんだよっ!」

 

 答えになっていない答えを聞き、ヒュンケルはヘスティアの言いたくない事情を何となく察する。

 

 「ひょっとしてあの『剣』の代金は、300万ヴァリスでは足らなかったのか?」

 「ギクッ!」

 

 ヘスティアが鍛冶師の大派閥、【ヘファイストス・ファミリア】の店舗で働く理由。

 思いつくのは、ベルの剣の一件だった。

 ヘスティアがベルの為に手に入れて来た、この派閥のロゴ入りの剣。

 あの金で話を付けて来たと彼女は言っていたが、ここで働かされているという事は、足りない分は労働と相殺するという約束を、相手の神のヘファイストスと交わしたという事だろう。

 

 「へー、じゃあベルの為に、神様ここで働くって事か~」

 「うーむ、女神殿にそこまで想われるとは、ベルも果報者だなっ!」

 

 彼女がベルに剣を贈った一件は他の三人も聞いており、そこまでしてベルの為に頑張る女神の姿に、クロコダインとヒムは感心していた。

 

 「でもその事は、ベル君には内緒にしておくれよ。君達には申し訳ないんだけど、あの子に余計な心配はさせたくないんだ」

 

 ベルはあくまで、ヒュンケル達が稼ぎ出した300万ヴァリスを使って、ヘスティアはあの剣を譲って貰ったと思っている。

 それなのに、さらに剣の代金としてヘスティアの労働が追加されていると知れば、いたたまれなくなってしまうだろう。

 

 「判った。ベルに訊かれたら、ヘスティアがバイトを増やしたとだけ言って置こう」

 

 子供想いの女神に免じて、皆は少年に真相を黙っている事にした。

 それにと、ヒュンケルは思う。

 剣の本当の代金がいくらなのかは知らないが、神ヘファイストスが働いて返せと言うなら、ヘスティアがここで働けば返せる程度の額なのだろう。

 ならば、それ程無茶な金額でもあるまいと、彼は少し楽観的に考えたのである。

 

 「ありがとう、皆っ!」

 

 ベルに贈られた『ヘスティア・ソード』の真の代金。その真相を胸に秘め、女神の売り子生活が今日より始まるのであった。

 

 

 

 彼ら四人は、ヘスティアによって【ヘファイストス・ファミリア】の店の奥に通される。

 

 「来たわね」

 「おお! この者達がそうなのかっ!?」

 

 店の奥の部屋に入ると、そこには二人の女性が彼らを待っていた。

 一人は顔の右半分に眼帯を付けた、紅髪に紅眼を持つ男装姿の麗人。

 ヘスティア同様、誰もが一目見れば判るその『神威』。

 彼女こそ、鍛冶系派閥【ヘファイストス・ファミリア】の主神にして、鍛冶の女神ヘファイストスに間違いなかった。

 

 もう一人は、結わえた黒の長髪に褐色の肌、豊かな胸に晒しを巻き、和装と呼ばれる上着を羽織る女。

 さらに彼女は神ヘファイストス同様、左眼を隠す眼帯も装着し、腰に漆黒の鞘に納まった太刀を佩いている。

 

 「約束通り連れて来たよ、ヘファイストス。皆、彼女がボクの神友ヘファイストスだ」

 

 ヘスティアが、皆にヘファイストスの事紹介した。

 

 「初めてお目に掛かる、神ヘファイストス。オレはヒュンケル。ヘスティアの眷族の一人、という事になっている者だ」

 「同じく、クロコダインという。有名な女神殿に会えて、光栄だ」

 「オレはヒム。神様って、やっぱり皆美人なんだな~」

 「ラーハルトだ」

 

 他の三人も、最低限の礼儀を守って神に挨拶する。

 

 「ええ、こちらこそ宜しく。態々ヘスティアの眷族になったっていうから、どんなおかしな子達かと思ったけど、皆結構まともそうね」

 

 四人の姿を眺め、ヘファイストスは女神の貫録を漂わせつつそう言った。

 

 「それどーいう意味だい、ヘファイストス?」

 「日頃のあんたの行いを、省みなさいって意味よ」

 

 二柱の女神がそんな事を軽くのたまう。

 その態度の気安さに、皆は彼女達の不思議な仲の良さを感じた。

 

 「では、手前も名乗らせて貰おう」

 

 そんな彼らの前に、ずいっと眼帯を嵌めたもう一人の女性が出て来た。

 

 「手前の名は、椿・コルブランド。主神様の派閥で、団長を務めさせて貰っている鍛冶師だ」

 

 【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランド。

 ドワーフとヒューマンの混血児『ハーフドワーフ』の彼女は、名実共にオラリオ最高の鍛冶師としてその名が知られていた。

 

 「鍛冶師か……」

 

 ヒュンケルが知る鍛冶師といえば、あの魔界の名工ロン・ベルクの事になる。

 彼は鍛冶師としての実力もさる事ながら、剣士としても魔界随一の使い手であった。

 その実力は若い時に大魔王バーンから直々に、未来の『魔軍司令』にスカウトされる程であったと聞いている。

 

 そして彼女もただの鍛冶師ではなく、Lv5の実力を兼ね備えた第一級冒険者と同格の使い手としてもギルドの資料に記されていた。

 

 その二つ名は、【単眼の巨師】。

 

 「それよりも、今日オレ達をここに呼び出した理由はなんなのだ?」

 

 自己紹介が終わり、ラーハルトがそう話を切り出した。

 

 「あー、その事なんだけどね。実はヘファイストスがどーしても、ヒュンケル君が持っているダイ君の剣を見てみたいって言うんだ。だから、こうして来て貰ったんだよ」

 

 今日彼らがここに呼ばれた理由を、ヘスティアが申し訳なさそうにそう口にした。

 ベルの剣を彼女に作って貰った手前、その申し入れを断れなかったのだ。

 

 「『ダイの剣』をか?」

 

 その話を聞き、ヒュンケルが自分の背にある『ダイの剣』をチラリと見た。

 

 「……『天界産』の『オリハルコン』で出来た剣なんて話を聞いたら、確かめない訳には行かないでしょう」

 

 そう言って鍛冶神の隻眼も、彼の背負う剣に集中する。

 

 『オリハルコン』

 

 それは『不壊武器』の材料にもなる、『アダマンタイト』を超える最硬精製金属。

 様々な素材とあらゆる技術を用いて生み出される『世界最硬の超稀少金属』として、冒険者の間では知られている。

 しかし、それはあくまで『人』の手によって作られた物。

 

 「神が作った『オリハルコン』が、何で下界にあるのか? 気にはなるけど、それよりもそれを鍛えた剣の方に私は興味があるのよ」

 

 人ではなく、神が作った『超金属』。 

 それを用いて鍛え上げられた剣と聞き、鍛冶の女神は自分の眼でそれを確かめる為に、ヘスティアの眷族達にここにこうして来て貰ったのであった。

 

 「うむ、手前もその話を聞き齧り、主神様に無理を言って護衛として付いて来たのだ」

 

 多くの上級鍛冶師が所属する大派閥の団長として、そして至高の武器を目指す一人の鍛冶師として、椿もヒュンケルが持つ剣に赤い隻眼を向ける。

 

 「見せるのは構わんが、この剣は一人の『勇者』の為だけに鍛えられた、生きている剣だ。その『勇者』が必要とした時のみ、剣は鞘から抜ける」

 

 ヒュンケルは、『ダイの剣』の事をヘファイストスと椿に話しながら、それを背中から外す。

 

 「だから、この場で刀身を見る事が出来るかどうかは判らない」

 

 そう説明してから、彼は鞘に納まった『ダイの剣』をヘファイストスに渡した。

 

 「『勇者』の為に鍛えられた剣ね……」

 「ほほう、それならばフィンでも連れて来れば、鞘から抜けるかも知れんな」

 

 渡された剣を手にし、ヘファイストスの紅い瞳が煌き、椿が知人の『勇者』の名を呟く。

 そして皆が注目する中、女神の細腕が『ダイの剣』の柄を握り、鞘から引き抜こうと力を込める。

 

 カシャッ!  

 

 僅かな音と共に、鞘のロックが外れた。

 

 「おお、『ダイの剣』がっ!」

 「流石神様だな」

 

 ダイがこの場にいないにも関わらず、剣が鞘から抜ける事に同意したのを見て、クロコダインとヒムが声を上げる。

 『ダイの剣』もまた、彼女が己を見せるに相応しい相手であると認めたのだろう。

 それは剣の意志、或いは作り手の執念。

 鍛冶の神を前にして、神の作りし武器に挑んだ男の作品は自分を見てみろと言わんばかりに、その刀身を露わにした。

 

 「これは……」

 「むむむっ……!」

 

 一柱と一人の鍛冶師が共に隻眼を見開いた。

 剣としては小振りで、握りと刀身が一体化した造り。鍔は広がった鳥の羽のような形をし、そこに赤い宝玉が嵌め込まれている。

 その刀身には一点の曇りもなく、完璧に研ぎ澄まされていた。

 超一流の鍛冶師である彼女達だからこそ判る、その素材の価値、作り手の技術、ただ一振りの剣に込められた全て。

 

 「この剣は、本当に下界の子供が作った物なのね?」

 

 ヘファイストスが『ダイの剣』の刀身から目を離し、ヒュンケルに訊ねる。

 

 「そうだ、『定命の者』が神の武器に挑まんとして鍛え上げた剣に間違いない」

 

 この剣を鍛え上げたのは、魔の神によって創造された種『魔族』の一人、ロン・ベルク。

 人間とはかけ離れた寿命を持つ魔族だが、それでも限りある命しか持たない者なのは変わらない。

 神に人の嘘は通じない。従って、ヘファイストスはヒュンケルが嘘を吐いていない事を確認し、息を吐く。

 

 「子供達が作った数々の作品の中でも、ここまで私達の領域に踏み込んで来た品は、初めて見たわね。その子の『鍛冶』の発展アビリティ、A、或いはSかしら……」

 

 鍛冶の神が見極めた『ダイの剣』への評価は、神から子へのものとしては過去最高だった。

 

 「途轍もない話だが、手前も納得だ。悔しいが、手前の腕ではまだここまでにも至らぬ」

 

 そう口にした椿だが、その言葉とは裏腹に彼女の眼には、今にも火を吹きそうな程の勢いの鮮烈さが滲んでいた。

 彼女もまた神の領域に至る、究極の武器を目指す者。

 最高位の鍛冶師となった椿は、隣にいる己の主神こそを目指していたが、今彼女の前に彼女以上に神の武器に近付いた者の作品があった。

 その事実に鍛冶師としての闘争心を煽られ、椿は口元に獰猛な笑みを浮かべる。

 

 「お主ヒュンケルと言ったな、この剣はやはり『不壊属性』を持っておるのか?」

 

 その執念のせいか、椿は遠慮なくヒュンケルに質問を飛ばした。

 

 「『不壊属性』? それは、どういう意味だ?」

 「なに? 知らんのか」

 

 不思議に思った椿だが、彼らにそれについて説明してくれる。

 『恩恵』を授かり、『鍛冶』の発展アビリティを得た鍛冶師が作り出す、属性を持つ特殊武装。その中でも、『決して壊れない』という特性を持たせた物が『不壊武器』なのである。

 

 「そんな武器もあるのか。だが生憎、この『ダイの剣』やオレ達の武器や鎧は、場合によっては砕けたり折れたりする事もある」

 

 しかし、例え砕け散ったとしても、短時間で元通りの姿に再生する能力を持つという話をすると、椿とヘファイストスがどよめいた声を出した。

 

 「なんとっ、『不壊属性』ならぬ『不滅属性』とでも言うものかっ!?」

 「なるほどね、『不壊武器』は壊れないけど攻撃力は高くない。でも、この剣は壊れる代わりに、極限の攻撃力を追及しているのね」

 

 その特性を知り、彼女達の興味は益々大きくなるようだった。

 

 「それに剣だけじゃない。この『鞘』にも、何か特殊な力があるようね」

 

 女神の神眼が、剣だけでなく鞘に秘められた力にも向けられる。

 

 「その『鞘』は、魔法の威力を増幅する能力を付与されている」

 

 特に秘密にするような事柄でも無かった為に、ヒュンケルはその鞘の力を説明した。

 魔法の力を取り込んだ『ダイの剣』を再び鞘に戻すと、鞘はその魔法の威力を増幅し、極大化させるのだ。

 

 「むうっ、手前がベート・ローガに作った『フロストヴィルト』にも、そこまでの効果は無いぞ!」

 

 『ダイの剣』を納める『鞘』の能力を聞き、椿が唸る。

 とある狼男が使う彼女の作品『フロストヴィルト』。

 その白銀のメタルブーツは、魔法効果を吸収し、打撃と共に叩き込むという特殊武装だった。

 しかしその『フロストヴィルト』にも、吸収した魔法の威力を極大化するような力は無い。

 

 「それで、この剣と鞘を作った子は何て名前なのかしら?」

 

 神の領域にまで踏む込んで来た鍛冶師の名前を、ヘファイストスが訊ねる。

 

 「彼の名は、ロン・ベルクだ」

 

 ヒュンケルが『ダイの剣』を鍛え上げた、名工の名を神に告げる。

 

 「ロン・ベルクか、いつかまみえてみたいぞ。今その男は、どこに居るのだ?」

 

 挑むべき新たなライバルの名を知り、椿がそう訊いて来た。

 

 「遠い所だな。だがロン・ベルクは数か月前の戦いで、両腕を砕いてしまった。それが治るまでは、鍛冶仕事は出来ないだろう。今は、弟子を育てている筈だ」

 

 あの最終決戦の時、ロン・ベルクはダイ達の援軍として自ら参戦した。

 そしてミストバーンとの互角の攻防を経て、妖魔司教ザボエラが作り出した屍兵『超魔ゾンビ』との戦いで限界を超える『必殺技』を放ち、両腕を壊してしまったのだ。

 その後、弟子入りを志願した北の勇者ノヴァを受け入れたので、今頃は武器の代わりに彼を鍛えているのだろう。

 

 「それは残念だ」

 

 椿はロン・ベルクに会えないと知り、本気で残念がった。

 

 「そうね、私も会ってみたかったわ」

 

 ヘファイストスの口からも、彼との邂逅を希望する言葉が零れる。  

 

 「きっと本人もそう思うだろうが、それでも尚、神を超えられないのかと悔しがるだろうな」

 

 至高の武器『真魔剛竜剣』に挑み、『ダイの剣』を完成させた男ロン・ベルク。

 その彼ですら、天へと至る道を昇り切った訳ではないのだ。

 

 「ヘスティア、やっぱりこの子達何者なの?」

 

 Lv6という実力に加え、持っている武器も天外の品々。

 それなのに、過去の情報が全くない謎の戦士達。

 

 「も、勿論、ボクの眷族達さっ!」

 

 これ以上は訊かないで欲しいと、全身で訴える小さな女神を見て、ヘファイストスもそれ以上の追及はしなかった。

 至高の武器を目指す、異なる世界の鍛冶師達。

 彼ら彼女らの、一瞬の繋がりが見えた一幕だった。

 

 

 

 「ところで、お主らよ。武具は必要ではないか?」

 

 話が一段落し、椿の興味は武器からそれを振るう者達に向けられる。

 この街の鍛冶師なら、誰でも腕利きの冒険者を顧客に持ちたいと思うもの。

 鍛冶師が武器や防具を作り、それを冒険者が使って『ダンジョン』を探索する。

 ダンジョンの中には、貴重な金属素材やモンスターの『ドロップアイテム』といった、武具の材料がいくらでも手に入る。

 鍛冶師と冒険者は契約を結んで、持ちつ持たれつの関係を構築するものなのである。

 

 椿はこの不思議な第一級冒険者達に、自分の顧客にならないかと話を持ち掛けて来たのだった。

 当然のように、オラリオの街に来て一か月も経っていないヒュンケル達には、契約した鍛冶師などいない。

 その上彼らの武器は、再生能力を持っているので整備の必要すらない。

 結果として彼ら一同は、今日まで鍛冶師の世話にならずに、冒険を続けて来たのであった。

 

 「ふーむ、武具か。オレには、『精霊』に貰った完全装備があるからな……」

 

 クロコダインは白銀に輝く『メタルキング』の名を冠した全身鎧を身に付け、『メタルキングの盾』と『グレイトアックス』、『破壊の鉄球』で完全武装している。

 これ以上の武装は意味が無かった。

 

 「オレには、ダイ様の剣と同じロン・ベルク作の『鎧の魔槍』がある。これ以外の武具など不要だ」

 

 攻防一体の装備『鎧の魔槍』を持つラーハルトも、余計な装備は必要としていない。

 

 「まあ、オレもいらねーんだよな。この拳で、どんな敵も殴り倒せるからよ」

 

 一番鍛冶師泣かせなのが、ヒムだった。

 彼の肉体を超える武器など、それこそ神の領域に手が届くような代物だけだろう。

 

 「ぬうっ……、ヒュンケルとやらよ、お主はどうだ?」

 

 他の三人のつれない返事に、椿が唸った。

 そして、最後の望みとヒュンケルに訊ねる。

 

 「オレも剣と鎧は間に合っているな。まあ強いて言うなら、部分鎧が欲しいところか」

 

 ヒュンケルは、『ダイの剣』と同じ『オリハルコン』製の『覇者の剣』を持っている。

 それに胴体部には、精霊に貰った『神秘の鎧』を身に着けているので、防御力に於いては特に問題はない。

 それでも、手足や頭は剥き出しなので、今後ダンジョンの『下層』や『深層』に赴くならば、兜や籠手、脛当ての付いた鉄靴くらいは必要になるかも知れなかった。

 

 「ならば、その防具。手前が作ろうっ!」

 

 漸く必要な武具が提示され、椿は身を乗り出してヒュンケルにそう言った。

 

 「いや、それはありがたいが、今のオレ達には金が無い。貯めていた金も使ってしまったからな。折角作って貰っても、当分代金は払えないだろう」

 

 ベルの剣を買う為に、貯蓄していた【ファミリア】の資金は使ってしまったので、今の彼らには手持ちの金しかない。

 その程度の金では、最高位の鍛冶師である【ヘファイストス・ファミリア】団長の作った作品は買えない筈だ。

 

 「なあに、支払いは出世払いでも手前は構わん。そのくらいのツケは、お主らの主神様の豪気さに比べれば、微々たる物よっ!」

 「だぁぁっ! そこまでっ!」

 

 なぜか慌てて椿の口を閉じさせようと、両手を伸ばすヘスティア。

 椿の言動の何かが、女神を焦らせたらしい。

 

 「むぐぐっ、それにお主らは冒険者なのだ。いずれは『深層』にも行くのだろう?」

 

 ヘスティアに口を塞がれそうになっても、椿は気にせずに話を続ける。

 

 「ああ、目的に辿り着く為に必要ならば、オレ達は『ダンジョン』の最下層でも目指すだろう」

 

 そこにダイがいるのなら、『深層』だろうが、そのさらに奥だろうが行くしかない。

 

 「ならば、支払いは『深層』の資源やモンスターの『ドロップアイテム』でも構わん。特に『アダマンタイト』や『ドラゴン』の『ドロップアイテム』のようなレアな素材を期待しているぞっ!」

 

 こうしてヒュンケルは、半ば押し売りの形で椿に足りない防具を作って貰う事になった。

 戦士と鍛冶師。

 どの世界であろうとも、この両者の関係は変わらないのである。

 

 

 

 『バベル』での、鍛冶の女神とその派閥の団長との邂逅を終えたヒュンケル達は四人は、そのまま『ダンジョン』に潜った。

 既に半月以上に渡って『中層』一帯を歩き回り、各所を調べたが、結局ダイの行方の手掛かりすら掴む事は出来なかった。

 唯一の収穫は、ダイが落としたらしい『アバンの印』だけ。

 しかし、それでも彼らは諦めない。

 ダイ探索の向かう先は、これより『下層』に移るのだった。

 

 

 

 「それにしても、広いよな~このダンジョン」

 

 初進入となった二十五階層の探索に挑んだ一行は、ギルドで貰った地図に従い、階層の中を調べて回った。

 新手のモンスターとの戦闘も、皆は問題なくこなして行く。

 『下層』の探索でも、彼らの調査は順調には進んでいた。

 

 「ここまで来ると、一層毎の横の広がりだけでもオラリオの半分以上あるそうだからな。一層をくまなく回るだけでも、数日掛かりそうだな」

 

 広い階層を網羅しつつも、まだまだ未探査部分の残る地図を睨み、クロコダインが唸った。

 

 「そうだな、その全てを回るのではやはり効率が悪い。他の冒険者が行きそうな場所は除外して、捜索範囲を絞り込む必要がありそうだ」

 

 ヒュンケル達には、今のところ他の冒険者達にダイ捜索を依頼する予定は無い。

 余り自分達の事情を、公にしたくないからだ。

 それでも、ダイを捜す為にはダンジョンを探索する他の冒険者からの情報は得て置きたい。

 その情報を得る為、ヒュンケル達は二十五階層の探索を終えると、一旦十八階層にある『リヴィラの街』に向かうのであった。

 

 

 

 一行は十八階層に帰還する。

 向かう先は、湖に面した岩の上に築かれた『リヴィラの街』。

 ならず者達の街とも称される、冒険者達によって築かれたダンジョン攻略の最前線基地である。

 ここには数百人の冒険者達が、買取り所や武器屋、道具屋、それに宿屋や酒場などさまざまな店を出して、同業者相手に阿漕な商売をしている。

 

 しかし、ヒュンケル達がこの街を訪れる理由は、そうした他の冒険者達とは少し異なっていた。

 ここでは、冒険者が持ち切れなくなったモンスターの『魔石』や『ドロップアイテム』を地上よりも安値で買取ったり、地下での補給が難しい物資を高値で売り付けたりする事で稼いでいる。

 

 だがヒュンケル達には、『精霊』から貰ったたくさんの物資が入れられる魔法の『袋』があるので、態々『リヴィラの街』で戦利品を売る必要がない。

 当然、物資補給も地上で潤沢に用意して置けば、ここで購入する事もない。

 野営の道具や食料も、重量を気にする必要がないので十分に携帯し、休むのは野宿でも構わず宿屋は使わない。

 結果として、ヒュンケル達が『リヴィラの街』に立ち寄る用事とは、ダンジョン内の情報収集に限られてしまうのであった。

 

 「それで、どうするんだ? 今日も酒場にでも行ってみるか?」

 

 街に入るとヒムがそう訊ねて来る。

 

 「そうだな、一番情報が集まりそうな所だからな」

 

 クロコダインも頷き、一行は『リヴィラの街』に何軒もある酒場の一つに足を運んだ。

 彼らもこの街には何度か来ているので、それらの場所は把握している。 

 四人は洞窟を利用した、一軒の酒場にやって来た。

 

 しかし、なぜか客が誰もいない。

 

 「何で、客がいねーんだ?」

 

 店内を見回し、ヒムが疑問を口にした。

 

 「そう言えば、街の中も少し騒がしかったな」

 

 ヒュンケルはカウンターに座り、無愛想なドワーフの主人に四人分の食事を注文した。代金として、何枚かの1万ヴァリス金貨を置く。

 この街で金貨を使う客は珍しいが、主人は何も言わずにそれを自分の懐に入れた。

 食べ物なら携帯食料を持っているが、情報収集をする以上は街にも金を落とす必要がある。彼らの酒場での高い食事は、その為の必要経費であった。

 

 主人は無愛想な顔のまま調理を始め、四人に料理を提供してくれた。

 出て来たのは野菜や肉を煮込んだシチューに、蒸かした芋、焼いた肉に硬いパンだった。

 豪快な男料理の類いだが、温かい食事というだけでもダンジョンの中ではご馳走に感じる。

 

 「主人、今日はなぜこんなに空いているんだ?」

 

 出て来た料理を腹に収めつつ、ヒュンケルは店の主人に客がいない理由を訊ねる。

 いくら『リヴィラの街』でも、酒場の数がそんなに多い訳ではない。そんな酒場には、大抵昼夜を問わずに冒険者達が屯している筈なのだ。

 今までもそんな者達に情報を訊ねていたので、今日の不自然さが目立つ。

 

 「知らんのか? ついさっきの事だが、街の宿屋で死体が見つかったんだ。それも、どうやら殺しらしい。それで、やつらは皆野次馬に行っちまったんだ」

 「殺人事件? ここでは、そんな事がよく起こるのか?」

 「まさか、喧嘩でくたばったヤツならいたが、殺しなんてここ何年もなかった」

 

 無愛想な主人は、そう言って太い眉を顰めた。

 

 「ふーむ、殺人事件とは物騒だな」

 

 芋を口に放り込みつつ、クロコダインが言う。

 

 「オレ達には関係のない話だ。事件を解決するのは、この街の者達の役目だろう。用を済ませたら、街を出ればいい」

 

 これ以上余計な事件に関わりたくないラーハルトは、素っ気なくそう言った。

 

 「それはそうなのだが……」

 

 ラーハルトに同意しつつも、何か嫌な予感をヒュンケルは覚えた。

 立ち寄った街で発生した、殺人事件。

 本来彼らには関わり合いのない事件なのだが、偶々この場に居合わせた事により、彼らにとっても無関係な事件ではなくなるのであった。

 

 

 

 事件が起こった場所は、『リヴィラの街』にある一軒の宿屋。

 獣人の青年が経営する『ヴィリーの宿』である。

 昨夜男女の二人連れが宿を訪れ、ここを貸切りにした。そして翌朝、オーナーのヴィリーが帰って来ると、女の姿が消えて男が死体となって発見されたのだ。

 そして死んだ男の背中に『開錠薬』を使用し、その【ステイタス】を調べて判明した事実。

 

 「冗談じゃねえぞ――【剛拳闘士】っつったら、Lv4じゃねえか!?」

 

 『リヴィラの街』の大頭、ボールス・エルダーが叫んだ。

 殺されたのは、都市最大派閥【ガネーシャ・ファミリア】に所属するLv4の冒険者、【剛拳闘士】ハシャーナ・ドルリアであるという事実が明らかになったのである。

 

 

 

 その場には事件の現場検証の為に、ボールスと宿の店主ヴィリー、『開錠薬』を持って来た獣人の小男、そして偶々街を訪れていた都市最強派閥【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者達の姿があった。

 

 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 【怒蛇】ティオネ・ヒリュテ。

 【大切断】ティオナ・ヒリュテ。

 【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 プライベートでの迷宮探索にやって来た彼女達は、この事件に遭遇し、解決に協力する為にこの場所に来ていたのだった。

 Lv4に達した実力者を、情事で油断させたとはいえ、素手で殺したらしい謎の犯人の女。

 そんな事が出来そうな相手として、第一級冒険者である彼女達にも一旦は疑いの眼が向けられた。

 しかし、生憎彼女達は男を誘惑する適性に欠けていた為、疑いはすぐに晴れたのであった。

 

 「でも、他に容疑者になりそうな人っていないんですか?」

 

 ハシャーナの荷物の検分を終えた時、そうボールスに訊ねたのは、山吹色の髪を持つエルフの少女だった。

 この場の【ロキ・ファミリア】の団員の中では、唯一Lv3の第二級冒険者である【千の妖精】レフィーヤ・ウィリディスである。

 

 彼の荷物は荒らされており、犯人はハシャーナが持っていた『何か』を狙っていた可能性が高い。

 血塗れの依頼書を見ても、ハシャーナは『ダンジョン』の中で犯人が狙う『何か』を取りに行っていた事が推測出来る。

 

 「Lv4を殺せる力を持つ第一級冒険者は、そう多くはない筈だが……」

 

 そこまで『神の恩恵』を昇華させるに至った実力者は、皆街の有名人だ。

 ハシャーナが油断して誘惑に乗せられるとも考え辛いと、ハイエルフの魔導士リヴェリアは思う。

 

 「いや、あんた達【ロキ・ファミリア】以外にも、第一級冒険者のパーティがもう一組、街中にいたぞ」

 

 その時、『開錠薬』を持って来た獣人の小男が、ふとそんな事を口にした。

 

 「ああ、あの連中か。確かに、あいつらも第一級冒険者なんだよな」

 

 小男の話を聞き、ボールスも思い出した。

 三週間程前から、『中層』を探索している四人組のパーティがいる事を。

 

 「それって、もしかして【ヘスティア・ファミリア】の事?」

 

 ボールスの言葉を聞き、褐色の肌をしたアマゾネスの娘ティオナが訊き返す。

 その情報は、既に彼女達も知っていた。

 彼ら【ロキ・ファミリア】が前回の遠征で深層域に行っている間に、突如オラリオに現れたという四人の第一級冒険者。

 しかも、それだけの実力を持ちながら、なぜか発足したばかりの無名の神の小規模派閥に入団したので、街の中でも話題の【ファミリア】となっていた。

 

 「そうだぜ、そいつらの事だ。でもよ、あいつらLv5だ6だなんて言ってるけど、『中層』にしか潜らねえから、本当はLv3か4辺りで、実力を誤魔化してハッタリかましてるんじゃねえのか、なんて言われてるぜ」

 

 ヒュンケル達が街の売り上げに貢献しない為、ボールスの評価は辛辣だった。

 実際、ヒュンケル達は『中層』までしか探索していないので、その本当の実力は冒険者達の間では、まだまだ未知数なのである。 

 

 「それによ、あいつらは全員男だぜ」

 

 この殺人事件の容疑者は女。

 それは間違いないので、かれらの実力が嘘だろうが本当だろうが、犯人の線は薄い。

 

 「でも、あいつらダンジョンの中で、『何か』を探しているって噂がある」

 

 小男が、ぼそっとそんな事を言った。

 ヒュンケル達は、情報収集の為に何度かこの街に来ている。

 ダイを捜している事は、直接言う訳には行かないので、それとなくダンジョン内で変わった物や人を見なかったかと、冒険者達に聞いているのだった。

 

 「会ってみようか、その彼らに」

 

 それら様々な情報を聞いて精査し、そう言ったのは小柄な金髪の少年だった。

 皆の注目が、その一人の少年に向く。

 見た目は小さくても幼げに見えても、この場に居る誰もが、そしてオラリオにいる全ての冒険者が無視する事など出来ない男が、静かな口調で言った。

 

 「僕も興味があるんだ。その冒険者達にね」

 

 

 

 酒場にいたヒュンケル達は、呼び出しを受けた。

 街の大頭だという人物の手下が酒場に来て、彼らをある場所に呼んだのだ。

 

 「オレ達に何の用があるのだろうな?」

 

 身に覚えのない呼び出しを受け、クロコダインは首を捻る。

 

 「それより街を封鎖とは、話が大事になっているぞ」

 

 先程、呼び出しと同時に殺人事件の犯人を逃がさない為に、『リヴィラの街』を封鎖すると告げられ、ラーハルトが忌々しげに言葉を吐く。

 

 「だよな、呼ばれたって殺人事件の捜査なんて、オレ達に出来る事ないだろ?」

 

 ヒムも自分達がなぜ呼ばれたのかと、不思議に思う。

 

 「それでも何かオレ達に用があるのだろう。兎に角、行ってみるぞ」

 

 街の大頭をしている者、確かボールスという眼帯を嵌めた大男だった筈だとヒュンケルは思い出し、呼び出された場所に皆で向かう事にした。

 そこは街の中心地にある、見通しの良い広場だった。

 中央に大きな白と青の水晶が立っているので、水晶広場と呼ばれている。

 門を封鎖された『リヴィラの街』の冒険者達は、今続々とこの場所に集まりつつあった。

 

 「ここか」

 

 既に広場には、百人近い武装した冒険者達がいる。

 皆どこか落ち着かない様子だった。

 街中で起こった殺人事件、それに犯人がまだ街いる可能性に動揺しているのだろう。

 

 しかしそんな中でも、微塵の怯えも見せない数人の冒険者達が広場の奥にいた。

 ヒュンケル達同様、他の冒険者とは一線を隔す力と自信を漂わせる六人の男女。

 呼び出された四人の戦士達の意識も、自然と引き締まる。

 

 「あいつらの顔、ギルドの資料で見た事があるぞ」

 「そうだな、【剣姫】もいるのだから間違いは無いだろう」

 

 ヒムとクロコダインは、その六人の中にアイズ・ヴァレンシュタインの姿を見つけ、彼女の周りにいる者達が何者なのかも理解した。

 そこに居たのは、迷宮都市オラリオで最強として知られる二大【ファミリア】の一つ、その幹部達であった。

 彼らの実力は、ヒュンケル達でも無視は出来ない。

 

 「なるほど、本当にオレ達を呼んだのは【ロキ・ファミリア】だったのか」

 

 何の為にかはまだ判らないが、ヒュンケルは彼ら一人一人を観察した。

 

 彼らも顔だけは見た事がある、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 女だけの種族でありながら戦いの術に優れるアマゾネスの双子の娘達、ティオネとティオナのヒリュテ姉妹。

 この三人の娘達は、Lv5の実力者。

 

 山吹色の髪のエルフの少女は、レフィーヤ・ウィリディス。

 Lvは3だが、彼女は世界的に有名な魔導士として知られている。

 

 その横に、エルフの麗人がもう一人。

 女神に比肩する美貌を持つ彼女は、リヴェリア・リヨス・アールヴ。オラリオ最強の魔導士であり、ヒュンケルらと同じLv6に至った強者。

 

 そして、最後の者に向けられたヒュンケルの瞳が、スッと細まる。

 柔らかい黄金色の髪に湖面のような碧眼を持つ、子供のように小柄な少年。その小柄な身体と童顔は小人族の特徴であり、実年齢は不明。

 しかし、その瞳には深い知性の輝きを宿し、身の丈よりも長い槍を持つ立ち姿は全く隙のない自然体だった。

 その少年の正体に気付き、ヒュンケル達はギルドの資料に記されていた内容に、誤りが無かった事を確認し納得した。

 この世界に来て、ヒュンケル、ラーハルト、ヒムは初めて自分と同格の戦士と邂逅する。

 

 彼こそが【ロキ・ファミリア】の団長。

 オラリオはおろか、世界中にその二つ名を轟かせるLv6の冒険者。

 【勇者】フィン・ディムナであった。

 

 

 

 かつて勇者と戦った魔軍の戦士達が、この世界の『勇者』と出会う。

 

 

  

 

 


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