ダンジョンに竜の探索に行くのは間違っているだろうか   作:田舎の家

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第十二話 不穏なる影

 迷宮都市オラリオで開催される、年に一度の『怪物祭』。

 その会場となった闘技場周辺は、今大混乱の中にあった。

 この祭りで調教師が相手をする為に、『ダンジョン』の中から生きたまま運び出されて来たモンスター達。

 それらのモンスターは、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達の手によって檻に入れられ、厳重に管理されていた。

 しかし、何者かの姦計によって見張りの団員達が無力化され、檻の鍵は外されてしまった。

 絶対に安全な筈の檻の中から、モンスター達は祭りで賑わう街の中へと解き放たれたのである。

 

 

 

 ヒュンケル達四人は、歓声に包まれる闘技場から外に飛び出して来た。

 【ガネーシャ・ファミリア】の団員達の動きから不穏な空気を読み取った彼らは、祭りの異変を予感して、行動を開始したのだった。

 

 「やはり、予想通りかっ!」

 

 闘技場の正門からヒュンケルが見た光景は、半ばパニック状態の人々と、彼らを落ち着かせようとするギルド職員の姿であった。

 

 「大混乱だな」

 

 その様子に、クロコダインが唸る。

 

 「あちらこちらで、モンスターが暴れているようだ」

 

 ラーハルトの鋭い視線の先には、吹き飛ばされた祭りの屋台があった。

 

 「おっ、あそこにギルドの姉ちゃんがいるぜ」

 

 市民の誘導に当たっている黒スーツ姿の職員の中に、ヒムは自分達のアドバイザーを務める、見知った顔を見い出した。

 

 「エイナさんか。丁度良い、状況を訊きに行くぞ」

 

 即座にそう判断したヒュンケル達は、ギルドの受付窓口嬢エイナの下へ駆け足で近付いた。

 

 「エイナさん、状況を教えてくれっ」

 

 背後から聞こえた厳しい声に、エイナは柳眉を上げた緊迫した顔で振り返った。

 

 「ヒュンケルさんっ、それに皆さんもっ!」

 

 そこにいたのは、彼女が担当する冒険者達。

 それも『ダンジョン』は初心者なのに、Lvは6や5という規格外の戦士が四人。

 先程ベルやヘスティアと出会っていたので、彼らが闘技場にいた事は彼女も聞いていた。その彼らが、この事態でここに来てくれた事に、エイナは少し緊張を解いた。

 

 「モンスターが、逃げ出したんですっ!」

 

 エイナは、ヒュンケル達に手短の事態の推移を説明する。

 

 何者かがモンスターを管理していた【ガネーシャ・ファミリア】の団員を無力化し、檻を開けてモンスターを街に解き放った。

 放たれたモンスターの中には、『中層』に現れる強さのものもいて、目下【ガネーシャ・ファミリア】の団員や、他の冒険者の手を借りながら、事態の収拾に当たっている。

 

 「幸い【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタイン氏が通りかかって、神ロキにもご協力頂いているところです」

 

 そう語ったエイナの視線の先に、朱色の髪に細い目をした女神と、彼女の眷族らしきエルフとアマゾネスの少女達の姿が見えた。

 

 「ほう、あの【剣姫】が力を貸しているのか。それなら、オレ達の出番は必要ないか?」

 

 昨日二十階層で見かけたアイズの姿を思い出し、クロコダインは一先ず安心した。

 彼女ほどの実力者なら、モンスターにも後れを取る心配はない。

 

 「エイナさん、ベルとヘスティアを見掛けなかったか?」

 

 モンスターの脅威には既に対処が始まっていると聞き、ヒュンケルは二人の身を案じる。

 修行も中途半端なLv1のベルと、零能のヘスティアでは、もしも強力なモンスターに襲われれば一溜りもない。

 

 「ベル君と神ヘスティアなら、つい先程会いました。人を捜して、闘技場の周辺を歩いているみたいでしたが……」

 

 そう話す彼女の顔色は悪い。

 エイナも、あの二人が事態に巻き込まれていないかと、心配しているのだ。

 

 「それじゃ、急いで捜さねーとな。どうする、ヒュンケル? てっとり早く『上』から捜すか?」

 

 ベルとヘスティアがこの辺のどこかにいると聞き、ヒムがそう提案した。

 

 「そうだな、この混乱の中では、そうでもしなければ二人を見つけられないな」

 

 ヒュンケルは、悲鳴と怒号が飛び交う周辺に目を向ける。

 ただでさえ『怪物祭』で人が溢れていたのに、そこにモンスターが放たれて闘技場周辺は移動が困難な状況にあった。

 

 「ヒムは、クロコダインを連れてくれ。オレはラーハルトに運んで貰う。構わんな、ラーハルト?」

 「仕方がない。神と仲間では、捨てても置けん」

 

 ドライな態度は崩さないラーハルトでも、ベルとヘスティアの危機を見過ごしたりはしなかった。

 

 「……あの、皆さん何をするんでしょうか?」

 

 そんな彼らの遣り取りを、エイナは不思議そうに聞いていた。

 ベルとヘスティアを捜すのに、二手に分かれるという事は理解出来るが、ヒュンケルをラーハルトが運ぶとは、どういう意味だろうか?

 それに『上』から捜すという意味が、彼女にも良く判らない。

 現在、アイズ・ヴァレンシュタインが、モンスターを補足する為に闘技場の天頂部分の縁に立っているが、その場所に移動するという事だろうか?

 

 「では、行くぞ」

 

 ヒュンケルが左手を差し出し、それをラーハルトの手がしっかりと握り締める。

 

 「頼むぞ、ヒム」

 「おうっ、しっかり掴まってろよ、クロコダインのおっさんっ!」

 

 クロコダインが、その巨体をヒムに背負われた。

 そして準備が終わったラーハルトとヒムは、あの『呪文』を叫んで、魔法力を解き放つ。

 

 「「【トベルーラ】ッ!」」

 

 その瞬間、ヒュンケルの手を握ったラーハルトと、クロコダインを背負ったヒムの身体が、一気に『空』へと舞い上がった。

 

 「えっ? えええええええっ!!」

 

 その驚天動地の光景に、エイナが目を丸くして絶叫する。

 彼女が見上げるその先で、二組の戦士達は『バベル』以外の全ての建物よりも高い街の上空を、悠々と飛行していた。

 

 「あ、あの人達、空飛んでるよっ、エイナー!?」

 

 近くにいた彼女の同僚、ミイシャ・フロットも喚く。

 空を自由に飛行する魔法【トベルーラ】。

 あちらの世界では上位の魔法使いなら使いこなせる魔法だが、こちらの世界に於いては、驚異の『稀少魔法』であった。

 

 「あれが、ドチビのところの子達かー、やっぱり、ドチビには勿体無いわー」

 

 その光景を目にし、近くにいた神ロキが悔しそうにそう呟いたが、聞いた者は誰もいなかった。

 

 

 

 ヒュンケル達は、闘技場の上空にいた。

 そこから街を俯瞰し、逃げ惑う人々の中からベルとヘスティアを捜そうというのだ。

 

 「近くには見当たらんな。モンスターに追われて、遠くに逃げたか?」

 

 魔法は余り得意ではないラーハルトだが、魔力に優れた種族である『魔族』の血を引く者だけあって、移動魔法の基本である【ルーラ】と、その応用である【トベルーラ】の魔法だけは身に付けていた。

 ヒュンケルとの戦いで一度命を落とし、バランの『竜の血』によって蘇生を果たしたラーハルトが目覚めたのは、ダイ達と大魔王バーンの決戦の数日前。

 この魔法がなければ、高空を飛行する空中宮殿『バーンパレス』で行われた最終決戦にも、参加出来なかっただろう。

 

 そのラーハルトは、彼の戦闘スタイルである超高速戦闘に対応する為に、高い視力を持っている。そんな彼が闘技場周辺をざっと見回しても、ベルとヘスティアを見つける事は出来なかった。

 

 「だとしたら、厄介だな」

 

 ラーハルトの片手に掴まり、吊るされるヒュンケルが眉間の皺を深める。

 もしも、二人がモンスターに襲われて逃げているのなら、一刻も早く助けに行かなくてはならない。

 

 「むっ、あそこに誰かいるぞ」

 

 ヒムに背負われたクロコダインが、闘技場の上に立つ人影を見つけた。

 

 「あれが、【剣姫】みたいだぜ」

 

 片手を額に当て目を凝らしたヒムが、その人物を特定する。

  

 闘技場の縁に立つのは、普段着姿に『レイピア』を持ち、長い金髪を靡かせる美少女の姿だった。

 その立ち姿は、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに間違いない。

 

 そして、彼女はその身に風の気流を纏う。

 次の瞬間、建物を蹴って身体を宙に投げ出したかと思うと、位置を掴んだモンスター目掛けてアイズは風と共に突撃した。

 疾風となったアイズの身は、索敵したモンスターの下へと移動し、次々とこれを撃破して行く。

 

 ヒュンケル達は、アイズが自らを弾丸にして、その長距離射撃を行うところを空から目撃していた。

 

 「ほお……」

 

 誰かが、感心したような声を漏らす。

 どのモンスターも彼女が接敵した瞬間、斬断され、即撃されて行く。

 

 「【剣姫】という二つ名に、偽りは無い様だな。この場は、彼女に任せて置いても問題ない」

 

 かつて魔界を牛耳ったという伝説の剣豪の名を引き継ぐヒュンケルの目から見ても、彼女は紛れもなく超一流の剣士であった。

 

 「ならば、オレ達はベルと女神殿を捜そう。モンスターが他の場所で暴れているとしたら、騒ぎのある所に行ってみるかっ!」

 

 クロコダインの意見に皆も頷き、彼らは闘技場上空から移動して、他の区画に捜索の手を広めるのだった。

 

 

 

 移動を開始し上空からの捜索を始めて直ぐに、一行は異変の起こっている場所を突き止めた。

 場所は東のメインストリートを南下する方角。

 

 「今確かに、モンスターの咆哮が聞こえたぞっ!」

 

 ヒムに背負われたクロコダインが、モンスターの叫び声が聞こえた場所を指差した。

 

 「あそこかっ! なんだか、ごちゃごちゃした場所だぜ」

 

 そこは雑多な建物が立ち並ぶ、重層的な構造を持つ都市の一画。

 複雑怪奇な通路が走る、まるで迷宮のような街並み。

 

 「確か、あの場所は『ダイダロス通り』と言ったな……」

 

 ラーハルトが、鋭い視線をその場所に向ける。

 それはオラリオに存在するもう一つの『迷宮』とも呼ばれる、広域住宅街。

 古代の奇人の名を冠された都市の貧困層が暮らす領域であり、人工の迷宮に等しい場所として、彼らも教えられていた。

 

 「厄介な場所に入られたな……」

 

 ヒュンケルが、厳しい顔で『ダイダロス通り』を睨む。

 ベルとヘスティアが、今現在モンスターに追われているという確証は無いものの、万が一の可能性だけは捨て切れない。

 二人の無事が確認出来ないのなら、モンスターを優先して叩くべきかと、ヒュンケルは心の中で熟慮を重ねる。

 

 その時だった。

 

 「おいっ! あれはなんだよっ!?」

 

 ヒムの叫びに、皆がその場所を見た。

 『ダイダロス通り』にほど近い場所に、新たな異変が起きていた。

 

 先程、咆哮を上げていたモンスターのいた場所とは、明らかに違う場所。

 そこに爆発するような勢いで、地中から新手の大型モンスターが出現したのだった。

 

 しかもその数、五体。

 

 「おかしいぞ? ギルドの資料でも、あんなモンスターは見ておらん」

 

 現れたモンスターの姿を睨み、クロコダインは唸った。

 『ダンジョン』の中で確認されたモンスターは、全てギルドの資料に絵姿付きで載っているので、彼らも一通り目にしている。

 しかし、今彼らの眼下に現れた、蛇のような胴体をくねらせる、長大な身体を持つモンスターの姿は、その資料の中に見た事はなかった。

 

 「だが、あれは危険だぞ」

 

 正体不明のモンスターでも、実戦経験豊富なラーハルトはその危険性に即座に気付く。

 

 「ああ、オレ達なら兎も角、Lvが1や2の冒険者では、対処出来ないだろうっ!」

 

 ヒュンケルも、そのモンスターの脅威度を低くは見なかった。

 あの大型モンスターをこのまま放置すれば、街の住民達にも大きな被害を出しかねない。

 『ダイダロス通り』のモンスターの下に、ベルとヘスティアが居るという確証は依然として無いが、今あの新手のモンスターに対処出来る者は、彼らだけのようだった。

 

 「ヒム、クロコダイン、おまえ達はあのモンスターを倒してくれ。オレとラーハルトは、『ダイダロス通り』に向かうっ!」

 

 ヒュンケルは、ヒムとクロコダインに蛇型モンスターの討伐を頼み、自分とラーハルトが『ダイダロス通り』に向かうと宣言する。

 

 「うむっ、それしかないな。行くぞ、ヒムっ!」

 「おうっ、速攻でぶっ倒して来るぜっ!」

 

 モンスター討伐を頼まれた二人が、不敵な笑みを浮かべて別方向へ飛んで行く。

 それを見届け、ヒュンケルは自分達が向かう先を見据える。

 

 「こちらも急ぐぞ、ラーハルトっ」

 「ああ、振り落とされないよう、掴まっていろっ」

 

 手を繋いで飛行する二人の戦士は、『人工の迷宮』とも呼ぶべき街へ移動を開始した。

 

 

 

 先に戦いを開始したのは、新手のモンスターの下へとやって来た、クロコダインとヒムであった。

 二人は【トベルーラ】の飛行によって、蛇のような身体をうねらせるモンスターが現れた通りの上空にやって来た。

 適当な高さに来た所で、クロコダインはヒムの背中から地面に飛び降りる。

 ドシンッという派手な音と共に巨体が着地し、足元の石畳が割れた。

 

 「ふーむ、やはり奇妙なモンスターだな?」

 

 クロコダインは、目の前にいる長大な身体のモンスターを見上げる。

 淡い黄緑色をした細長い胴体を持つ、顔のない蛇。

 それはそんな、奇怪な姿のモンスターであった。

 

 「そんな事は、どうでも良いだろ? さっさと片付けようぜっ!」

 

 隣に着地したヒムが、ニィッと笑いつつ、両手の拳を握り締める。

 幸い、街の住民にはまだ被害が出ていない。異変を察知して、皆逃げたか家の中に隠れてしまったのだろう。

 周囲の家からは、息を殺す住民の気配だけが伝わって来る。

 砕けた石畳の散らばる通りには、五体の蛇型モンスターと二人の戦士しかいない。

 

 そして、一体のモンスターが僅かに身動きしたかと思った瞬間、全身をしならせて、その蛇のような怪物が彼らに襲い掛かって来た。

 

 「おっとっ!」

 

 ヒムはすぐさま宙に浮かんで、モンスターの一撃を避けた。そうしながら、ヒムは初見のモンスターの能力を本能的に解析する。

 しかし、クロコダインは避ける事をせず、真正面から怪物の打撃に立ち向かう。

 

 「ぬうううううっ!!」

 

 並の冒険者なら弾き飛ばされて終わる筈の巨体モンスターの一撃を、クロコダインは唸りを上げて全身の筋肉を膨れ上がらせると、僅か数Mその身を後退させただけで受け止めてしまった。

 

 「うおおおおおおおおっ!!」

 

 そして、そのモンスターの胴体を両手で掴むと、力ずくで地面に引き摺り倒した。

 

 「ヒムっ!」

 「判ってるぜ、おっさんっ!」

 

 クロコダインの呼び掛けに上空にいたヒムが叫び、永久不滅の『オリハルコン』の拳に光の『闘気』を集中させた。

 ヒムの身体から吹き上がり、陽炎のようにその身を覆う膨大な攻撃的生命エネルギー『闘気』。

 それが呪法生命体から、金属生命体へと生まれ変わった彼の拳を、煌々と光らせる。

 

 次の瞬間、ヒムは空から一気に急降下し、地面に倒された蛇型モンスターの胴体に、その光る拳を容赦なく叩き込んだ。

 

 「『闘気拳』ッ!!」

 

 インパクトの瞬間に、ヒムがその技名を叫ぶ。

 それは、『闘気』を帯びて強化された『オリハルコン』の一撃。単純明快な技でありながら、その一点集中の威力は計り知れない。

 

 その衝撃に、蛇型モンスターの体皮は耐えられずに弾け飛んだ。全身の肉が膨張し、裂けるように粉砕される。

 さらに、破壊はそれだけに留まらず、モンスターの身体を突き破ったヒムの『闘気』の塊が街路の地面を直撃し、派手に土砂を飛び散らかしながら隕石が落ちたような深いクレーターを抉ってしまった。

 

 「うおっ、やべえっ!」

 

 着地したヒムは、自分の作った惨状を見て額に汗を流す。

 

 「ヒム……」

 

 クロコダインは、ふぅと溜め息を吐いた。

 

 「いやさ、こいつ何となく打撃に強そうだったから、つい気合入れちまったけど……、やり過ぎだなこりゃ」

 

 地面に開いた大穴を見て、ヒムはばつが悪そうに頭を掻いた。

 戦闘兵器としての本能によって、敵モンスターの特徴を掴んだヒムだったが、このLvの敵に彼の『必殺技』ではオーバーキルとなってしまう。

 

 「まあ良かろう、今のでこいつの力量は判った。余り周りに被害を出さぬよう仕留めるぞっ!」

 

 クロコダインは背負っていた『グレイトアックス』を手にし、鋭い隻眼をモンスターに向けた。

 

 「しょうがねえな……」

 

 気を取り直して、二人は残った四体のモンスターと対峙する。

 その時、蛇型モンスターに異変が起きた。

 

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 咆哮と共に、モンスターの身体の先端が割れたかと思うと、そこから毒々しい花弁が覗き、四体の怪物が一斉に咲き誇ったのだ。

 

 「なんとっ、蛇ではなく、植物型のモンスターだったのかっ!」

 

 牙の並ぶ大きな口を持つ、極彩色の花。

 胴体は茎、頭部は巨大な花の植物、それは『食人花』とでも呼ぶべきモンスターであった。

 

 「へー、『マンイーター』や『人面樹』なんかと同じって訳だな」

 

 元の世界にもいた植物型モンスターを思い出し、ヒムが呟く。

 植物が襲い掛かって来たとしても、彼らも驚きはしないのだ。

 

 「だが、植物型であるなら、対処手段もある」

 

 クロコダインは大戦斧『グレイトアックス』を両手で握って構え、一体の食人花に突進した。

 

 「うおおおっ!」

 

 雄叫びと共に、『グレイトアックス』のフルスイングを食人花の胴体に叩き込む。

 人とはかけ離れた、『リザードマン』屈指の怪力で撃ち込まれた超重量の刃は、食人花の強靭な皮を切り裂き、その身を半ば両断した。

 

 それと同時に、クロコダインは叫ぶ。

 

 「『唸れっ、轟火』よっ!!」

 

 その合言葉が唱えられた瞬間、『グレイトアックス』から猛烈な火炎が吹き上がった。

 轟々と燃え上がる炎は、食人花の全身を包み込み、その身体を激しく炎上させる。

 

 「やはり植物だけに、炎には弱いようだな」

 

 高熱の火炎に包まれ、急速に焼け焦げ萎んで行く食人花を見つめ、クロコダインは大戦斧の柄をぎゅっと掴んだ。

 魔界の伝説の名工ロン・ベルク。

 彼の作である『グレイトアックス』は、合言葉によって三つの異なる魔法を発動する力を持っていた。

 『火炎』、『爆発』、『真空』それぞれの力を、その力の源たる『魔宝玉』が破壊されない限り、何度でも放つ事が可能な天外の武器。

 それがこの世界の『魔剣』とは異なる、クロコダインの『グレイトアックス』なのである。

 

 「オレも、行くぜっ!」

 

 そんなクロコダインに負けじと、ヒムも一体の食人花に突進する。

 その身をうねらせ、鞭のように襲い掛かる茎や鋭い牙で食い殺そうと首を伸ばすモンスターの攻撃を、ヒムは得意のスピードと巧みな体捌きでかわして行く。

 

 距離を詰めての接近戦こそが、彼の真骨頂。

 ゼロ距離まで近づいた時、ヒムは食人花に拳の連打をお見舞いした。

 

 「そらそらそらそらーっ!!」

 

 連続して叩き込まれる『オリハルコン』の打撃。

 例え『闘気』を纏っていなくても、そのヒムの打撃は並みのモンスターならば一発で即死する程の威力を持っている。

 

 食人花の身体は、打撃に強い。

 そう判断したヒムは正しかったが、『オリハルコン』の肉体を持つ彼の打撃の威力は、そんなモンスターの優位性を力ずくで粉砕するものであった。

 食人花はその一撃ごとに体皮を弾けさせられ、削られて行く。

 

 「止めだっ!」

 

 最後に、頭上から振り上げられたヒムの拳が、花弁を千切り飛ばし、口の奥にあった極彩色の魔石を撃ち砕き、食人花は灰の塊に変わって街路に散った。

 

 「さあ、残るは二体だな。さっさと片付けて、ベルと女神殿を捜さねばなっ!」

 「おうっ!」

 

 魔道具『変化の首飾り』によって人間に姿を変えている『リザードマン』と『金属生命体』の二人の戦士は、街の人々を守る為に謎のモンスターとの戦いを続けるのであった。

 

 

 

 そして、食人花退治をクロコダインとヒムに任せたヒュンケルとラーハルトは、一路『ダイダロス通り』の一画を目指して飛行していた。

 広域住宅街に近付くと、既にモンスターの咆哮ははっきりと二人の耳に届くようになっていた。

 

 「あそこだっ!」

 

 モンスターの叫び声を頼りに、二人はその位置を探り、空を飛んで移動する。

 複雑怪奇な人工の迷宮たる『ダイダロス通り』も、空の上から見れば、迷う謂れはない。

 

 そして、袋小路になっている一本道の長い通路に人影を発見した。

 強い日の光が差し込んでいた為に、その二人の姿ははっきりとヒュンケルとラーハルトの目に映った。

 白髪頭に黒いインナーを着た少年と、ツインテールの黒髪を揺らめかせる小さな女神。

 

 「いたぞっ、間違いない……、ベルとヘスティアだっ!」

 

 やはり二人はモンスターに追われていたのだ。追われた挙句、こんな場所まで逃げて来てしまったのだろう。

 二人は通路の奥でしゃがみ込んでいた。

 片膝を立てて座るベルの背中で、ヘスティアが何かをしている。

 

 その時、モンスターの咆哮が迷宮街に響く。

 見ると、ベルとヘスティアがいる通路の先に、闘技場から逃げ出したらしいモンスターの姿があった。

 

 「あれは、『シルバーバック』かっ!」

 

 それは十一階層に出現する、巨猿のモンスター。

 ヒュンケル達にとっては、通行の邪魔をする石ころでしかない相手だが、まだLv1のベルにとっては絶望的な相手だ。

 

 「やはり、世話を焼かせてくれる二人だな」

 

 ラーハルトが『鎧の魔槍』を片手で握り直し、空中で『シルバーバック』への投擲体勢を取った。

 彼の力と精密性を持ってすれば、この距離で外す事などありえない。

 魔槍は一撃で巨猿の身体を貫き、その息の根を止める筈だった。

 

 「待てっ!」

 

 そうして二人を救おうとしていたラーハルトを、ヒュンケルが止めた。

 

 「なぜ止める、ヒュンケル?」

 

 いつもの彼なら、真っ先に助けに行っている筈なので、ラーハルトが眉を顰めて訝しむ。

 

 「ベルは、戦う気だ」

 

 ヒュンケルは、ヘスティアに背中を押されて立ち上がる少年の姿に視線を凝らす。

 彼の眼が、ベルの手に握られた紫紺の輝きを放つ漆黒の『剣』を捉える。

 

 「あれは、ヘスティアがベルの為に用意した剣だ……」

 

 その剣を、女神は少年に渡した。

 その意味を彼に剣術を教えた者として、一人の戦士として、無視する訳には行かなかった。

 

 「ラーハルト、あそこに近付いてくれ。この戦い、ギリギリまでは見届けてみたい」

 

 これから何かが起きる。

 その予感と共に、二人の戦士は戦いの場に近付いた。

 

 

 

 ベルは、背中が熱く疼くのを感じ取った。

 『怪物祭』の行われていた『闘技場』周辺で、酒場のウエイトレスのシルを捜していたベルとヘスティアは、突然現れたモンスターに理由も判らぬまま追い掛けられ、『ダイダロス通り』にまで逃げ込んで来た。

 追い詰められたベルは、ヘスティアだけでも逃がそうとしたが、女神は少年を置いて逃げたりはしなかった。

 そして最後の手段として、ヘスティアはベルの背中の【ステイタス】を更新し、彼に新たな力と共に、丸一日以上の土下座と引き換えに手に入れて来た、自らの名を冠するベルの専用武器『ヘスティア・ソード』を渡したのだった。

 

 「さぁ、行くんだ!」

 

 最後の力を振り絞って【ステイタス】を更新したヘスティアが、ベルの背中を叩いた。

 その女神の言葉を受けて、ベルは通路の奥に陣取る『シルバーバック』目掛けて突進する。

 その手に握られているのは、普通に目にする物よりも小振りに作られた剣。ベルでも扱い易そうなその漆黒の剣は、彼の魂に呼応して刀身から紫紺の輝きを放っていた。 

 

 「――ぁああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 この二日間、ヒュンケルがベルに行ったハードコースの特訓は、無駄ではなかった。

 少なくとも、彼の【ステイタス】は劇的な向上を遂げている。

 全アビリティ熟練度、上昇値トータル900オーバー。

 特に『耐久』と『敏捷』の数値の上昇が著しい。

 

 その進化した身体能力で、ベルが狙ったのは『シルバーバック』の胸の中心にある、モンスターの命の源『魔石』であった。

 今だ『アバン流刀殺法』の最初の技、『大地斬』の習得にも至っていないベルに出来るのは、己自身を一本の槍に見立てた一撃必殺のみ。

 

 そして少年の覚悟と女神の想いを乗せたその刃は、見事に巨猿の急所を撃ち砕いたのであった。

 

 「ぐえっ!?」

 

 勢いの余り地面に転がったベルだったが、直ぐに通路に倒れた『シルバーバック』の方へ振り返った。

 胸に剣を突き立てられた巨猿は、一瞬の間を置いて灰に還る。

 後には、ヘスティアがくれた『神様の剣』だけが残った。

 同時に、周囲の家々から歓声が上がった。

 隠れていた『ダイダロス通り』の住民達が、ベルを称えているのだ。

 

 「僕、やりましたよ、神様っ!」

 

 ベルが笑顔でヘスティアのいる方を向くと、そこには路上に倒れ伏す女神の姿があった。

 

 「神様っ!?」

 

 それを見て、ベルは急いで『ヘスティア・ソード』を回収すると、彼女の下へ駆けつける。

 それでも、ヘスティアは目蓋を閉じて動かない。

 

 「神様……」

 

 ベルが蒼白な顔で、ヘスティアを抱き上げる。

 

 その時だった。

 周囲に満ちていた歓声が、瞬時にして凍り付く。

 

 「あれ?」

 

 不意に周りが静かになり、ヘスティアを両手に抱くベルが不審げに後ろを振り返った。

 つい今しがた、ベルが『シルバーバック』を倒したその場所。

 そこに、長大な影が立ち上がっていた。

 

 「嘘……だ……」

 

 ベルは呆然とした顔で、それを見上げていた。

 淡い黄緑色の身体に極彩色の花弁、鋭い牙の並ぶ口を持つ、醜悪な食人花がそこにいた。

 初めて見るモンスターではあるが、ベルでさえ、これがさっき倒した『シルバーバック』とは比較にならない怪物だと理解出来た。

 

 少なくとも、Lv1の自分では、傷一つ付けられない相手であると。

 先程までの高揚も、嘘のように消え失せる。

 今度こそ死を覚悟し、ベルは無意識に気絶したヘスティアをギュッと抱き締め、少しでも彼女を庇おうとして固く目を閉じた。

 

 「良くヘスティアを守ったな、ベル」

 

 しかし、彼らに訪れようとしていた絶望と死は、一人の男の出現によって阻まれた。

 

 「えっ!?」

 

 知った声を耳にし、ベルは目を開ける。

 そこで少年が見たものは、巨体を蠢かす食人花とそれに対峙する、不敵な笑みを浮かべたヒュンケルの姿であった。

 

 

 

 ベルが『シルバーバック』を倒すのを目撃したヒュンケルは、口元を僅かに上げた。

 先程ヘスティアがやっていたのは、この二日間の特訓の成果をベルから引き出し、【ステイタス】を更新する作業だったのだ。

 その結果、ベルの身体能力は劇的な成長を遂げ、新しい剣の力もあってか見事格上のモンスターを倒したのであった。

 

 「どうやら、『勇気』を絞り出せたようだな」

 

 ベルの戦いを見届け、ヒュンケルが呟く。

 

 「この結果を予想していたのか、ヒュンケル?」

 

 『シルバーバック』への投擲を中断させられたラーハルトが、彼に訊ねる。

 

 「確証があった訳ではない。だが、これくらいはやって貰わねば、オレも鍛えた甲斐がないからな」

 

 彼の師である勇者アバンの剣技『アバン流刀殺法』。

 それを学ぶ者は、守るべき者を置いて逃げ出すような卑怯者であってはならないのだ。

 

 「まだ始まったばかりだが、ベルの事は長い目で見てやるべきだな」

 

 上空からベルを見下ろし、ヒュンケルは言った。

 見ると、なぜか地面に倒れているヘスティアを、ベルが慌てた様子で抱き上げている。

 

 その時だった。

 

 迷宮街の中を、滑るような動きで這い寄って来た新たなモンスターの姿を、ヒュンケルとラーハルトの眼が捉える。

 

 「あれはさっき見た、蛇のようなモンスターか?」

 「いや、あれは蛇じゃないっ!」

 

 ヒュンケルはモンスターのその長い身体の先がパックリと開き、不気味な花弁を広げる所を見た。

 

 「植物型のモンスターか」

 「不味いな、あれはベルの手に負える相手ではない」

 

 新手の植物型のモンスター、『食人花』。

 その脅威度は、彼らも先程認識したばかりだった。

 

 「ラーハルトっ!」

 「フッ、あそこにおまえを下ろせば良いのだろ」

 

 見せ場は譲ってやると言わんばかりに、ラーハルトは鼻を鳴らす。

 そして、ヒュンケルはヘスティアを抱えて蹲るベルの前に、上空から飛び降りて身軽に着地した。

 

 「良くヘスティアを守ったな、ベル」

 

 女神を守り、最後まで彼女を庇おうとしていた少年に、ヒュンケルは珍しく優しい声を掛ける。

 

 「えっ!?」

 

 ベルが顔を上げて、ヒュンケルの顔を見る。

 死を覚悟して蒼白だったその顔に、みるみる血の気が戻って行く。

 

 「ヒュンケルさんっ!」

 

 絶体絶命の状況で現れた頼もしい援軍に、ベルは安堵の余り腰が抜けそうになった。

 

 「後はオレに任せて置け。おまえは良くやった。見ていたぞ、おまえの『勇気』を」

 

 少年と女神を背にし、ヒュンケルは食人花と対峙する。

 それは醜悪な花の化物。

 人の街の中に居てはならないものだった。

 

 「ベル、『勇気』を示したおまえに見せてやろう。アバンのものではない、オレの『必殺技』をな」

 

 そう言って獰猛な笑みを浮かべたヒュンケルは、腰の鞘から『覇者の剣』を抜き放つと、久し振りにその『闘志』に満ち満ちた魂の力を解放した。

 

 ベルは見た。

 ヒュンケルの身体から陽炎のように吹き上がる、猛烈な光を。

 彼も話には聞いていた。

 これこそが彼らの世界の戦士が操る力、『闘気』と呼ばれる攻撃的生命エネルギーなのだと。

 

 そして『アバン流刀殺法』を極めた者は、この『闘気』を武器に込め、『全てを斬る』技を繰り出す事が出来る。

 ヒュンケルの身から放たれる膨大な『闘気』に、意志など無い筈の食人花の動きが、気圧されたように止まる。

 

 「これが、オレの技っ!」

 

 ヒュンケルは右手に握った『覇者の剣』を後ろに引き、刀身に左手を添える。

 そして全身の『力』をバネのように集約し、剣を前に突き出すと共に刀身に『超高速』の回転運動を加えると、その『必殺技』の名を叫んだ。

 

 「『ブラッディースクライド』ッ!!」

 

 それは、膨大な光の『闘気』を纏った超高速回転をする剣圧の渦。

 『アバンストラッシュ』のA型と同様、『闘気』を飛ばして離れた敵を貫くタイプのそれが、食人花の身体を直撃する。

 初見の相手であろうとも、ヒュンケルの『心眼』は、食人花の核である『魔石』の位置を見抜いていた。

 その極彩色の『魔石』もろとも、食人花の身体の大半はミキサーの中に放り込まれたように粉砕され、微塵に砕け散った。

 

 「す、凄い……」

 

 その光景を、ベルは呆然と眺めていた。

 あの巨体の怪物でさえ、ヒュンケルの『必殺技』の前では小物でしかなかった。

 魔王を倒した勇者アバンが編み出し、その後継者である勇者ダイに受け継がれた勇者の剣術『アバン流刀殺法』。

 『力』『スピード』『闘気』。

 その三つの技を極め、集大成となる『必殺技』を完成させれば、それは運命をも覆す『英雄』の剣となるのだった。

 

 

 

 そして、それらの一連の戦いをずっと見ていた者がいた。

 気絶したヘスティアを抱き上げ、ヒュンケルと一緒に走り去るベルを、その者はずっと見ている。

 

 「また遊びましょう――ベル。それに――」

 

 その者が、被っていたフードから僅かに顔を覗かせる。

 

 「あなたにも――、少し興味が湧いたわ」

 

 フードの奥で、銀髪の女神が微笑んだ。

 

 

 

 『ダイダロス通り』での戦いを終えたベルとヒュンケルは、クロコダイン達への連絡をラーハルトに任せ、気絶したヘスティアを運んで集まっていた人垣を潜り抜けていた。

 その途中、ベルの捜し人だったシルという少女と偶然出会い、彼女の勧めでヘスティアを『豊穣の女主人』に運び込んだ。

 

 そこでヒュンケルは、今回の騒動の顛末を聞いた。

 逃げ出したモンスターは全て倒され、被害者はゼロ。

 他の場所でも食人花のモンスターが出現したようだが、【剣姫】を中心とした【ロキ・ファミリア】の団員達が倒し、結局この騒動では死者も怪我人も出なかったそうだ。

 謎は残りつつも、『怪物祭』はこれで終了となったのだった。

 

 「大丈夫か、ヘスティア?」

 

 寝かせられていた酒場の部屋のベッドからなぜか転げ落ち、奇天烈なポーズを決めているヘスティアに、ヒュンケルが声を掛ける。

 

 「か、神様っ、神様!? どうしたんですか、一体何があったんですか!?」

 

 その音に驚いたベルも部屋に入って来た。

 遠い目をした女神によると、『土下座』なるものを三十時間続けていた影響で、腰が定まらなかったらしい。

 それもこれも、全てはベルの剣を手に入れる為だった。

 

 「か、神様、これってっ……」

 

 ベルは、ヘスティアから貰った漆黒の剣の鞘の隅に刻印されていた、特殊なロゴタイプに気付いた。

 それは、世界的鍛冶のブランド、【ヘファイストス・ファミリア】の物に間違いない。

 ヘスティアが苦労して手に入れて来た、ベルの為の剣。

 それを、ベルが鞘から引き抜く。

 

 「これは……」

 

 ベルでも扱いやすい、『ダイの剣』のような小振りな造り。その漆黒の刀身に宿る紫紺の輝きを、ヒュンケルは見つめた。

 それは『ダイの剣』を初めとする名工ロン・ベルクの作品と同様、持ち主の魂と共鳴する、真の武器の証であった。

 

 「ロン・ベルクと同格か、或いはそれ以上の鍛冶師の手による剣か……。良く300万ヴァリスで譲って貰えたものだな」     

 

 ヒュンケルがそう言うと、聞いたベルが仰天した。

 

 「さ、300万ッッ!! か、神様っ、僕なんかに、そんなお金っ……!?」

 

 漆黒の剣の値段を聞き、ベルは蒼褪める。

 一日に数千ヴァリスの稼ぎがやっとのベルにとっては、今までに見た事も無い大金だ。

 それはヒュンケル達がこの半月の間に貯めた、【ファミリア】の資金の全額でもある。

 

 「大丈夫だよ、ヒュンケル君の許可は貰ったし、向こうともちゃんと話はつけて来たから」

 

 それは強くなりたい、と言ったベルに対する女神のお節介。

 ベルがヒュンケルの顔を見ると、彼も微笑を浮かべている。

 

 「誰よりも何よりも、ボクは君の力になりたいんだよ。……だってボクは、君の事が好きだから」

 

 そしてヘスティアは、ベルに心からの愛を告げた。

 

 「いつだって頼ってくれよ。大丈夫、なんていったって、ボクは君の神様なんだぜ?」

 

 女神に愛を告げられ、ベルはとうとう盛大に泣き出した。

 

 (ここは、二人だけにしてやるべきか……)

 

 そんな二人を残して、ヒュンケルは部屋を出る。

 最後に振り返ると、なぜか幸せそうなヘスティアが見えた。

 女神の愛は、色々と複雑そうであった。

 

 

 

 不穏な影を残しつつ、物語の始まりは終わる。 

 




変更点

 《ヘスティア・ナイフ》→《ヘスティア・ソード》

 借金200000000ヴァリス→?????????ヴァリス

 次回からは、『ソード・オラトリア』の事件にも少し関わって行きます。  

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