GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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第壱話:銀座の三銃士

 その日はよく晴れ渡った真夏日であった。青い空に白い雲が浮かび、太陽の日差しが東京の街を明るくそして暑く照らしている。道行く人達は皆それぞれ夏の思い出を作ろうと街へと繰り出し、いつも通りの日常を楽しんでいく。そんな群集の中を心を躍らせながらスマートフォン片手に歩いている男がいた。

 彼は伊丹耀司、オタクであり自衛隊員である。

 

伊丹「今日は絶好の同人誌即売会日和だな。」

 

 そう言いながら目的の乗換駅へと降り、ホームへと続く上りエスカレーターに乗って上へと上がっていく。

 だが上へと上がりきったと思った次の瞬間、彼の頭に強烈な衝撃が走り、後ろへと勢いよく倒れてしまった。エスカレーターの前にある柱に気がつかず額を思いっきりぶつけてしまったのだ。

 

伊丹「痛ぇ~!!!」

 

 頭を押さえ悶絶する伊丹の脳内に、一瞬だけだが三人の少女が映し出された。

 一人目は美しい金髪の長い髪の毛にとがった耳、おそらくエルフの類だろう。二人目は水色のショートカットの幼い顔の女の子、手には水晶が装飾された杖を持っている。そして三人目はゴスロリ衣装を着ており、身長の何倍もありそうな大きなハルバードを振り回していた。

 どれもこれも恰好は異世界系アニメや漫画などでよく目にするような格好だ。なぜこんなイメージが自分の頭に流れ込んできたのか伊丹には分からなかった。

 意識が徐々に戻り、伊丹はゆっくりと立ち上がった。そして目的地であるコミケ会場へ向かい歩みを早める。まさか自分があんなことに巻き込まれるとも知らずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――銀座近く自衛隊駐屯地

 

 

 

 

 こんな良く晴れた日にはMSにでも乗ってひとっ走り行きたいものだ。そんなことを考えながら葉巻を吸う一人の男性、彼の名は大明和夫一等陸尉、MSパイロットだ。

 そんな優雅な時間を過ごす彼の名を呼ぶ声が聞こえてきた。鷹 橋谷三等陸佐だ。彼もまたMSパイロットであり、大明とは同じ訓練時代を過ごした旧友でもある。

 

鷹「こんな所にいたのか、大明。そろそろ訓練の時間だぞ。」

 

大明「おぉ、鷹。こんな所に何しに?」

 

鷹「とぼけるな、今日は新人のMS操縦訓練だろ?その教官はお前と私だってこの間の会議で決まったじゃないか。」

 

大明「そうだったかな?」

 

鷹「おいおい…はぁ…」

 

 大明の気の抜けた返答にため息を漏らす鷹。そんな中、大明が妙な事に気がついた。

 

大明「おい、なんか銀座の方、やたらと鳥が飛んでいるな。」

 

鷹「おい、とぼけてもむだ…いや確かに多いな…それに…鳥にしてはでかくないか?」

 

 巨大な鳥らしきモノが銀座上空を飛び回り、更には街の方からは煙が数本立ち昇っている。遠くの方でパトカーのサイレン音が響き、不安を掻き立たせる。

 

大明「おい、今日の訓練は中止だ。MSに乗れ、何か嫌な予感がする。」

 

鷹「勝手に乗って大丈夫なのか?」

 

大明「大丈夫だ、俺の感を信じろ。」

 

鷹「お前の勘はよく当たるから嫌いだ…よし、行くぞ!」

 

 そう言うと二人はザクに乗り込み銀座へ向け、出撃した。そして大明の予想は見事に的中した。これが冗談ならあまりにも酷すぎる。

 銀座の上空を鎧をつけたワイバーンが飛び、中世の鎧を着た兵士や童話の世界でしか見たことがない怪異達が民間人を虐殺しているのなんか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊丹は全速力で走っていた。理由はただ一つ、避難誘導だ。突如銀座の中心に現れた謎の武装勢力による民間人の虐殺。これ以上の被害を出さないためにも伊丹は皇居へ避難するよう誘導している。すると電柱の影で座り込んでいる女性の姿を発見した。

 

伊丹「おい!何やってるんだ!ここは危ない!早く逃げるんだ!!死にたいのか!?」

 

女性「え!?あ、あなた誰!?」

 

伊丹「お…俺は…」

 

 伊丹が名乗ろうとしたその時だった、すぐ目の前まで巨大なワイバーンが迫って来ていた。ワイバーンに乗っている兵士は伊丹と女性を串刺しにするべくランスを構えた。

 伊丹は女性を覆いかぶさり、何とか盾になろうとこの後来るであろう痛みに備えた。だが、いつまでたってもその痛みは来なかった。

 ゆっくりと目を開けると、襲い掛かろうとしていたワイバーンが巨大な手によって掴まれている。その巨大な手とは…

 

伊丹「…ザク…」

 

 目の前にいるザクは通常の緑色ではなく白で塗装されており、頭部には一本のブレードアンテナが立っている。その様子は日本の昔話に登場する鬼そのもの。その迫力に磨きをかけている。未だ手の中で暴れるワイバーンだが、それもつかの間『グシャリ』と鈍い音を立てて握りつぶされ、頭をぐたりと下に垂らした。

 そのザクはモノアイを点滅させ、モールス信号で伊丹にメッセージを伝えた。

 

伊丹「我に…この場を譲られたし。貴官は…民間人の皇居への…避難誘導を行いたまえ。大明和夫一等陸尉。」

 

 そしてその白いザクは120mmザクマシンガンを構え直すと、謎の敵軍に身体を向けた。

 

大明「やはり当たったか!!踏み殺してやる!!」

 

鷹「敵の数は不明!上空には武装したワイバーンが多数!民間人の皇居への非難と増援の到着まで時間を稼ぐぞ!」

 

大明「行くぞ!!」

 

 そう言うと道路上にいる敵騎兵隊に向かってマシンガンのトリガーを引く。120mmの弾丸は道路に大きな穴をあけ、敵を吹き飛ばし、撃ち砕いていく。突如として現れた謎の巨人――ザクに帝国兵は慌てふためいた。

 

兵士A「な、なんなんだ!あれは!?」

 

兵士B「あんな巨大なオークがいるなんて報告には無かったぞ!!」

 

団長「うろたえるな!陣形を整えろ!隊列を乱すな!!所詮は蛮族共でさえ手懐けられる程度だ!!我ら帝国の敵ではない!!あのオークを一体でも多く殺せたら、それ相応の扱いを約束するぞ!!!」

 

 騎士団長のその言葉を聞いた周りの兵士や怪異達は一斉に手持ちの剣や槍をザクの足に突き刺していく。だがそれらは全て最新鋭の強化装甲によって弾かれ、刃は粉々に砕け散り、柄は折れて使い物にならなくなる。

 

兵士A「そ…そんな…」

 

 絶望を目の当たりにした兵士達は顔を真っ青にしてザクを見上げた。彼が見たのはゆっくりと上がっていくザクの足だった。その場にいる兵士達は急いで逃げようとするが恐怖で腰が抜け、足にうまく力が入らず動けなかった。そして、その足は無慈悲にも下された。

 

兵士A「嫌だ…やめろおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 そんな兵士の断末魔の悲鳴はザクの鋼鉄のブーツによって踏み潰された。

 

団長「くそっ!!役立たずめ!!兵士がダメなら翼竜はどうだ!!ワイバーン隊!あのオークに攻撃せよ!!」

 

 ワイバーンに乗った敵兵が槍を投げ、ランスを持って突撃を敢行するが、ザクにはかすり傷にもならない。大明はそんなワイバーンを次々と叩き落としていく。白かった手は今ではすっかりワイバーンの血で赤黒く汚れていた。

 

大明「邪魔なんだよ!!害鳥が!!」

 

 叩き落とされ、叩きつけられ、握りつぶされていくワイバーン。団長の表情に今や余裕の二文字は無い。

 

団長「こうなったらジャイアントオーガーを出せ!巨人には巨人だ!」

 

 団長がそう命令すると門の向こうからザクとほぼ同じ身長の巨人が現れた。右手には棍棒、左手には盾、身体には鉄鎧を纏い、頭部にはバイキングのような角の付いたヘルメットを被っている。

 

大明「ようやく手ごたえを感じそうな相手が現れたか!」

 

 ジャイアントオーガーはザクに向かって雄叫びを上げると、棍棒を高く持ち上げ振り下ろした。大明は咄嗟にシールドを前に突き出すようにして攻撃を防いだ後、近接戦に移行するためマシンガンを捨て、腰にマウントしてあるヒートホークに手を伸ばした。

 刃の部分がオレンジ色に光るそれを振り上げると、ジャイアントオーガーはそれを防ごうと盾を前に突き出す。だが盾がそれを防ぐことは無かった。急速加熱された刃を前に木製の盾は何の効力も発揮せず、左腕を盾ごと切り落とされた。まさかの出来事にジャイアントオーガーは絶叫した。しかもただ切られたのではなく焼き切られたのだ。傷口から血が噴き出ることは無く、代わりに煙が上っている。

 大明は左腕を押さえ蹲るジャイアントオーガーの頭部に容赦なくヒートホークを振り下ろし、とどめを刺した。切り札を無くした帝国軍は次第に後ずさりを始めるが、一人の兵士の声によってそれは逃走へと変わった。

 

兵士B「無理だ…あんなのに勝てるわけがない!!!にげろおぉぉぉ!!」

 

団長「お、おい!お前ら!逃げるな!!戦え!!それでも帝国軍の端くれか!誇りを忘れたのか!!」

 

 勝てないと察し、門へと引き返していく帝国兵達。そんな彼らを大明達が逃がすはずがなかった。

 

大明「ゴースト、右側にまわり込め!奴らを挟み撃ちにするぞ!」

 

鷹「分かった!!」

 

 すぐさまマシンガンを拾い上げ、残弾を撤退しようとする帝国兵達に叩きこむ。

 

大明「逃がすと思うか!!!ゴキブリ共!!!」

 

 帝国兵達は味方が吹き飛ばされていく事に脇目もふらず、ただ一心不乱に門へ向かって走り続ける。だがすぐ横の道から鷹の乗ったザクが飛び出し進路を塞いだため、彼らの逃げ道は完全に断たれてしまった。

 

団長「何故だ…無敵であるはずの我ら帝国が、何故こんなにも無様に負けているのだ…何故だ…何故…」

 

大明「食らいやがれ!!」

 

団長「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後……

 

 

防衛省大臣「今回、このような事態に際して彼は避難誘導と救命活動に奔走し、数多くの国民を救いました。銀座の英雄、二重橋の英雄と呼ばれた彼の活躍は日本国民すべての誇りであります。三等陸尉、伊丹耀司殿。そして、この銀座事件で巧みな操縦技術でMSを操作し、国民をかばい戦いました。一等陸尉、大明和夫殿。三等陸佐、鷹 橋谷殿。それでは表彰の授与を行います。」

 

 こうして伊丹耀司、大明和夫、鷹 橋谷の三人は昇進。

 銀座の英雄、銀座の三銃士なんて呼ばれるようになった、なっちゃったんだ…

 

 それからというものの新聞や雑誌では一面大見出し記事、テレビでも特番で取り上げられ、一時期は有名人となった三人。

 その中でも伊丹は…困っていた。周りの仲間から面白半分冗談半分でからかわれているからだ。

 

 それからまた数日後、自衛隊本部から新しい戦闘服が支給され、それがどういう事を意味するのかすぐに分かる事になる。

 門の向こう、通称『特別地域』略して『特地』に自衛隊を3個師団とMS1個連隊、派遣することが決定したのだ。そして事件から3か月後、門の向こうに送り込む先行部隊が銀座に集結していた。銀座事件で亡くなった人の遺族が周りにいる中、新しく就任した総理大臣、本位慎三がこれから特地に向かう自衛官に演説を行った。

 

本位「北条前首相、そして各党の皆様の尽力によってこの法案が可決し、そしてついに諸君らを特地に派遣する運びとなりました。派遣部隊の諸君、諸君らの任務は誠に重大であります。」

 

狭間「指揮官の狭間である!1ヶ月前から斥候が何度も入ってはいるが、特地で何が起きるかなど誰も分からない。したがって門を越えた瞬間から戦闘が始まるかもしれないという心構えでいてくれ!それに門の向こうにはMSをも超える敵がいるかもしれない!MSパイロット諸君!細心の注意を払って任務に当たってくれたまえ!!以上だ!!まもなく突入だ!!」

 

 全員が敬礼を行い、素早い動きで装甲車や戦車、MSに乗り込んでいく。

 

MSパイロット「MS確認動作用意、始め!」

 

大明「レーダー稼働…グリーン。問題無し。」

 

鷹「モノアイ起動…カメラ動作確認良し。」

 

鷲谷「各関節動作確認良しっと…ブースター噴出機能正常っと…」

 

鷹「おい、新人。少し口調が軽いぞ。これから戦場に行くっていうのに…」

 

大明「はっはっは!いいじゃねぇか、どうせ奴らにはかすり傷さえつけられはしないさ。」

 

鷹「甘いんだよ、お前は。さっきの狭間司令官が言ったのをもう忘れたのか?門の向こうには我々のMSを上回る敵がいるかもしれないんだぞ!?」

 

大明「はっは、だったらなぜ銀座に攻め入った時にそれを使わなかった?それに、奴らの装備は見る限り、俺たちを倒す事なんて出来やしないよ。よし、そろそろ行くぞ。」

 

自衛官「突入!!」

 

 立膝をついた状態のザクが一斉に動き出し、戦車と一緒に門の中へと入っていった。門の中は薄暗くライトが無ければ一寸先も見えない状況だ。

 五分ほど進むとようやく外に出ることができた。パイロット達には広大な野原が見えている。そしてその先には野営をする帝国軍の篝火の光…

 

大明「敵影確認!!」

 

 その声に反応し、装甲車から続々と武装した自衛官が飛び出し隊列を素早く組んでいく。戦車やザクは互いをカバーするように配置に着くと、いつでも攻撃できるよう安全装置を解除する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはある世界とつながったもう一つの世界の物語…

 

 

 二つの世界をつないだものを人はこう呼んだ…

 

 

 

 ――GATE――と…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、メガネラビットです。
今回はちょっと内容がごちゃごちゃしちゃいました。

ざっくりと解説したいと思います。

解説コーナー

〔伊丹耀司〕
オタク自衛官、私が見た自衛官の中で一番好きですwww

〔大明和夫〕
葉巻、オヤジ、吹き替え・・・いいセンスだ・・・

〔鷹 橋谷〕
ヅダはもはやゴースト・ファイターでは無い!!

〔鷹の機体は?〕
この時点ではまだ普通のザクⅡです。

〔銀座の三銃士〕
何かカッコいいようなダサいような…

〔MS1個連隊分の勢力〕
帝国逃げて!超逃げて!!

次回はいつになるか分かりませんが待っていてください。
それではまた次回、お会いしましょう。


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