GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

目的地であるエルベ藩王国内シュワルツの森、ロルドム渓谷へと到着した伊丹一行。だがそんな彼らに何も知らないダークエルフの集団が弓矢を向ける。

一方で、編成を終えた第一戦闘団及び第六戦闘団は伊丹達の救援の為、急ぎエルベ藩王国へと向かった。



第三十四話:深淵龍、襲来

 

ダークエルフ「ここに、何の用で来た!答えろ!」

 

 まさかの歓迎に伊丹達は動く事が出来なかった。肝心のヤオは今、長老達へ到着を知らせる為に下に降りている。下手な事をすれば彼らは問答無用で矢を放つだろう。

 ここで問題を起こしては、ここまで危険を犯してまで来た意味が無くなる。伊丹達は武器を下ろし、自分達が無抵抗であることを証明する。

 

 ダークエルフの戦士達数名が伊丹達のもとに近づく。だがその時、黒い影が辺りを覆った。戦士の一人が何事だと顔を上に向けると、彼の目に映ったのはなんと…

 

ダークエルフ「炎龍だ!!」

 

 彼が叫んだと同時に、伊丹達の前にいた戦士が一人、上半身を喰われた。口から食み出した手足の部分が牙によって千切れ、ボタボタと零れ落ちる。

 

 突如出現した炎龍に他のダークエルフ達は慌てふためくが伊丹はその事よりもいつか見た姿からかけ離れた容姿に驚きを隠せなかった。

 美しい紅色の鱗は黒い溶岩石のような物体で覆われており、身体は一回りから二回り程大きく感じる。左腕は無いものの、それを補うような形で残された右腕は太く、そして長くなっている。

 それはもはや炎龍というかつての名ではもはや足りない。例えるならば絶望を感じさせるような『深淵』を纏いし龍の姿をした『死』である。

 

ダークエルフ「くそっ!皆の者、臆するな!放て!!」

 

 深淵龍の足元でダークエルフの戦士達は、風の精霊魔法で加速させた矢をその巨体に放つ。だがそれらの攻撃は新しき身体を得た深淵龍には無力。鱗に弾かれ、無性にも折れて落ちていく。

 

 眼前に突然現れ、自分の故郷である村を、仲間達を、友を、そして自身の肉親である父親を殺した自身の(かたき)。だがテュカは恐怖で身体が少しも反応しない。ビクビクと小刻みに震えるだけで、立っているのが精一杯である。

 そんな時、深淵龍は右腕を高く上げたかと思えば、勢いよくそれを振り下ろした。強烈な爆風と衝撃波がその足元にいる全ての者を吹き飛ばした。

 

 テュカは地面に頭を強く打ち、そのまま気絶。伊丹は爆風で崖から落ちそうになるが、64式に付けていたスリングが岩に引っ掛かったお陰で落ちずに済んだ。

 深淵龍は一歩、また一歩とテュカに近づき、その巨大な口で飲み込もうと大きく開けた。

 

伊丹「テュカ!テュカ、起きろ!!」

 

 伊丹は叫ぶが、彼女には届かない。舌が彼女の身体に巻き付き、飲み込まれようとしたその時…

 

ロゥリィ「ハァァァ!ハッ!!」

 

 ロゥリィが深淵龍の頭部を勢いよく殴りつけた。突然の攻撃に、深淵龍は思わずテュカを飲み込む直前で落としてしまう。落下したテュカは地面に身体を打ち付け、その衝撃で目を覚ました。大きな怪我などは無いようだ。

 

 深淵龍はロゥリィに向けてブレスを放つが、彼女はそれをハルバードを振るって消し飛ばす。だがその直後、深淵龍は右腕で強く彼女を殴りつけ、地面に叩き下ろす。

 今の攻撃で肋骨が2、3本程折れたが、彼女はその程度で泣き言は言わない。むしろ今までより、いや今まで以上に強くなった深淵龍と激しい殺し合いが出来る事に喜びを感じ、笑みを浮かべながら頬についた血を舐めとる。

 

ロゥリィ「やってくれるじゃなぁい…」

 

 一方でレレイは、深淵龍がロゥリィに気を取られている隙に攻撃魔法の詠唱に入っていた。地球側の科学を独学で学び、それを応用した通称『爆轟』と評される攻撃魔法を深淵龍に照準を合わせて、放った。

 爆轟は見事深淵龍の頭に命中し、黒煙が頭部を覆い隠す。それも刹那、黒煙が晴れるとそこには魔法が当たる前と何ら変わらない深淵龍の姿があった。

 

レレイ「チッ…硬い…」

 

 レレイは小さく舌打ちをし、もう一度爆轟を放つも深淵龍はさらりと避け、爆轟は後方の崖に着弾する。

 

 レレイとロゥリィが必死に戦っている間に、伊丹は崖から這い上がり、テュカの元へと駆けつける。

 

伊丹「テュカ!大丈夫か!?」

 

テュカ「父さん!私は大丈夫!父さんの方は!?」

 

伊丹「…あぁ…大丈夫だ…」

 

テュカ「じゃあ早く逃げましょう!レレイとロゥリィが引き付けている内に――」

 

伊丹「テュカ、よく聞け。俺はお前の父親じゃない、赤の他人だ。」

 

テュカ「え…父さん、何を――」

 

伊丹「俺の名前は伊丹耀司。お前は俺の娘じゃない。」

 

 その言葉にテュカは大きく目を見開き、パニックに陥る。

 

テュカ「…いやっ…いやぁ!!じゃあ私の父さんは!?父さんはどこ!?」

 

 その時、炎龍の左目に刺さる矢を見つけた。それは間違いなく、テュカの父親が放った矢であった。

 

テュカ「あれは…父さんの矢…」

 

伊丹「そうだ!あいつはお前の村を焼き払い、父親を殺した(かたき)だ!父を奪われた怒りを込めて…奴を討て!」

 

 伊丹は近くに転がっていたパンツァーファウストを拾い上げると、それを見た深淵龍は自身の左腕を奪った憎き鉄の魔杖(LAM)を思い出し、大きく咆哮を空に向かって上げた。

 だがこの魔杖の攻撃にすら耐えうる強き肉体を得た今、もはや恐れる必要はないと言わんばかりに笑い、深淵龍は伊丹とテュカに向けてブレスを吐こうと大きく口を開けた。

 

伊丹「(マズイ!間に合わない!)」

 

 その時、後方の岩山が突如爆発を起こした。ふと後ろを振り向くと、そこには旧ザクの姿があり、無線機からは鷲谷の声が響いてきた。

 

鷲谷《伊丹隊長!大丈夫ですか!?》

 

伊丹「鷲谷!?なんでここに!?」

 

鷲谷《炎龍の咆哮と爆発音が聞こえてきたので、急いで駆けつけてきました!それよりも無事ですか!?》

 

伊丹「俺は大丈夫だ!鷲谷、今は分が悪い!追い払えるか!?」

 

鷲谷《了解!安全な場所まで離れて下さい!》

 

 鷲谷は伊丹達が退避したのを確認すると、周辺の岩山に向けてマシンガンを乱射。巨大な岩が深淵龍に向けて向かって降り注ぐ。

 深淵龍は堪らず翼を広げて飛び立ち、その場から飛び去った。

 

テュカ「もういやぁ!なんで…なんでこんなことさせるの父さん!もういい!家に帰ろっ!」

 

伊丹「テュカ…」

 

 その場にはテュカの泣き声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初老の男性も、作物を収穫中の女性も、若い亜人の女性も、優しそうな青年も、その場にいる全員が同じ方向を見ている。

 その視線の先には、長い列を作って行軍中の自衛隊の姿。戦車から装甲車、自走砲、トラック、渡河機材を積載したトレーラー、バイク、浮遊装甲車にMSまで。上空には多数のヘリ。

 

 現在、炎龍討伐隊は第一目標であるデアビスのロマ河渡河予定地点に向けて前進している。だがここまでの大部隊かつ長距離での行軍は初めての隊も多く、MSも加えての移動は予想以上の過酷さを彼らに与えていた。

 

自衛官A「おい!こっちのトレーラーがスタックした!手伝ってくれ!」

 

MSパイロット《分かった!すぐ行く!》

 

自衛官B「くそっ!パンクした!」

 

自衛官C「路肩に寄せて道を開けろ!すぐタイヤを交換するんだ!」

 

 他にも燃料補給や放牧された家畜の横断などもあり、予定よりも難航していた。

 それでも何とか第一目標であるデアビスのロマ河にまで到達した炎龍討伐隊は渡河の為の準備に取り掛かっていた。

 ボートやMSが河を行き来し、ヘリが飛び交い、多くの車両や機材が向こう岸に運び込まれていく。

 

柘植「浮遊バイクの偵察小隊は先行して南の街道に向かえ。」

 

加茂「柘植、架橋はやはりできそうにないか?」

 

柘植「意外と船の往来が多くて無理だ。」

 

加茂「デアビスの橋も使えたらよかったがなぁ…」

 

柘植「フォルマル伯とは別の貴族の領地だし、車両が街の中を通れない。それに、特地の建築技術を疑っているわけじゃないがMSが橋を渡って崩落したら元も子もない。領内通過が認められただけでもよしとせんと。最初はしぶっとったのにドラゴン退治と聞いたら一変して即許可が出た。よっぽどドラゴンが恐れられとんだな。ともかく渡河を急いで、伊丹達とドラゴンを捜索せんといかんし。」

 

加茂「それなら、もっと人手がいるなぁ。そろそろ応援が到着する頃やけど…」

 

 その時、加茂達の目の前に一機のFAが着陸し、中から三機のMSが姿を現した。

 そのMSの見た目はザクやグフ等よりもずっとずんぐりとしており、手足は短く太い。マニピュレーターも丸まっており、傍から見た印象はゆるキャラである。

 茶色に塗装されたそのMS、MSM-04『アッガイ』は目の前でしゃがみ、コックピットから一人のパイロットが降りてきた。

 ダイバースーツのような特徴的なデザインのパイロットスーツに身を包んだ男は、加茂達に向かって敬礼した。

 

赤鼻「どうも、私は海上自衛隊特殊工作任務部隊に所属しております赤鼻(せきび)三等海尉です。今回は渡河の援護の為に参りました。」

 

加茂「ご苦労様です、では早速お願いします。」

 

 そう言われ、赤鼻は河岸に浮かんでいる機材を積載したボートを一度に何隻もワイヤーで引っ張り始める。その光景はさながらガリバー旅行記を彷彿させる。

 ボートに乗っている自衛官達は河を何となく覗き込んだ。すると河の中を大きな影が進んでいるのが見えた。

 

自衛官A「お、でかい魚。」

 

自衛官B「いい大きさだなぁ、あぁ釣りしてぇなぁ…」

 

 呑気にそんな事を話していたその時、その影がボートに近づき河の中から手を伸ばしてボートにしがみついた。そしてそのまま乗り込み始める。

 

自衛官A「わぁ!?な、なんだぁ!?」

 

 自衛官達は慌てて64式やM299等を構えるが、他の自衛官が慌てて止めに入る。

 

自衛官B「待て!撃つな!!撃つんじゃない!!」

 

 他のボート等にも乗り込んでいく謎の影に、船上はパニックに陥っていた。

 

自衛官C《戦闘団長!!か、河の中から――!!》

 

加茂「敵襲か!?」

 

 自衛隊の目の前に現れた謎の影、その正体は…なんと河の民と呼ばれる半人半漁の亜人だった。

 彼らが言うには、ボートの大きな音や振動、MSが立てる波しぶき等によって魚達が殆ど逃げてしまい、今日の稼ぎが取れなくなってしまったらしい。

 予想外のクレームに困り果てた自衛隊は何とか穏便に事を済ませようとするも、手持ちの特地貨幣が足りない。どうしたものかと頭を悩ませていた時…

 

デュラン「河の民よ、どうか我慢してくれないか?数日で静かになる。これで足りるか?」

 

 そう言って彼が手渡した手のひらサイズの小さな箱の中にはダイヤモンドが詰められており、これだけで今日の稼ぎを大きく上回る額に匹敵する。

 思わぬ収穫に、不機嫌だった河の民達は大喜びした。

 

加茂「陛下、いいので?」

 

デュラン「なぁに、少し借りを返したまでじゃ。」

 

 ニヤリとデュランは笑ってみせた。

 

 

 

 




皆様どうも、M.ラビットでございます。

今回は深淵龍との再戦と、炎龍討伐隊の移動のお話となりました。
早速、解説コーナーに行きたいと思います。


解説コーナー

《深淵龍》

炎龍の進化個体。自衛隊の近代兵器に苦戦した経験をキッカケに、身体が異常なまでに発達。全身を黒い溶岩石のような硬い物質で覆っており、その硬さには並大抵の攻撃では傷はつかない。
名前の由来は漆黒の深淵を纏っているように見えることから名づけられたが、他にも色々な意味合いが取れる。

神炎龍・新炎龍・真炎龍 等々…

《MSM-04『アッガイ』》

ガンダム界の代表的マスコットキャラクターの座に君臨するジオン水泳部のメンバー、アッガイたん。
海上自衛隊の特殊工作任務用に開発された水陸両用MS。


《赤鼻》

アッガイのパイロット。海上自衛隊所属、階級は三等海尉。







次回は作戦会議と待ち伏せ準備の回を投稿したいと思います。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ

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