GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

調査の結果、今回の暗殺未遂の原因はフォルマル伯爵家の執事、バーソロミューと彼を利用した黒幕の仕業であった。
情報を引き出した自衛隊はなんとしても首謀者を見つけ出すために動き始める。

一方悪所の方では倉田の紹介により、古田はゾルザルの専属シェフとして雇われる事となった。



第三十三話:想定外

 

 エルベ藩王国国境付近上空、高度11,000フィートを三機のF-4EJ改が同じ針路へと機体を飛行させている。彼らはとある目的の為に三日も偵察飛行を行っていた。

 下には雲海が広がり、雲は後ろへと素早く流れていく。同じ光景に神子田は堪らず愚痴を呟く。

 

神子田《今日で三日目か…いい加減見つけたいぜ。》

 

久里浜《見つけてもいきなり撃つなよ?俺達の今回の任務は()の戦闘能力評価なんだからな?》

 

堀之内《久里浜。神子田の手綱、しっかり握ってろよ?》

 

西本《いい加減、自重したらどうだ?おっさん。》

 

神子田《うるへー!》

 

久里浜《この辺で数か所、焼けた村や街を偵察機が見つけている。そろそろ()のテリトリーに入っているはずなんだが…》

 

 そう言いながら計器類を確認したその時、レーダーに赤い点が映り込んだ。航空機の反応ではないことから、先ほどから久里浜が言っている()だろう。

 神子田は久里浜の支持で目標高度まで急速降下させる。二人の身体に凄まじいGの圧力がかかり、空気がビリビリと震え始める。

 

久里浜《くっ!…目標は針路1-8-8、高度そのまま!距離…近い。レーダー反応率はステルス機並みだ!ふぅっ…》

 

神子田《要は目視下(VR)での近接戦闘(ドッグファイト)だろ?ふんっ!六時方向からアプローチする!》

 

 神子田が機体を目標針路へと向けて飛ばすと、目前に小さく羽ばたくものを視認した。

 

神子田《タリホー!》

 

久里浜《特地甲種害獣『ドラゴン』と確認。》

 

神子田《フン、我が物顔で悠々と飛んでやがる。50km先でも分かるぜ。ん?なぁ、久里浜。確か三偵の連中が交戦したドラゴンの色って赤だったよな?》

 

久里浜《あぁ、そうだが?》

 

神子田《あいつ、身体の色が違うぞ?赤じゃなくて黒だ。それに大きさも一回りほど大きく感じる。腕だってあんなにデカかったか?》

 

久里浜《本当だ…でも資料にはLAMで左腕が吹き飛んであると記載されていた。あのドラゴンも左腕が無い。目標なのは間違いないと思うぞ?まぁ、俺達がやる事には変わりない。戦闘能力評価を開始するぞ!》

 

神子田《おう!》

 

 悠々と飛行する炎龍の頭上をF-4は素早く通過。その衝撃波や爆風で炎龍はよろめき、体勢を崩す。だがそれも数秒、炎龍は素早く体制を立て直してF-4を追いかけ始める。

 

神子田《おーおー、怒ってる怒ってる。》

 

堀之内《旋回半径がWW1(第一次大戦)の複葉機より小さいな。》

 

西本《戦闘機と違って筋肉と骨で出来てるから曲がりやすいんだろう?あれじゃドッグファイトは無理だな。》

 

神子田《どうだ、久里浜。》

 

久里浜《3,700…3,800…羽ばたきなのに意外と推進力があるな。次、急降下。》

 

 久里浜の次の指示でF-4は地面に向けて急降下を開始。それを見て炎龍も翼を畳んで後に続いた。互いの距離はみるみる縮まっていき、コックピットのバックミラーに炎龍の形相が映し出される。

 神子田は地面すれすれで機体を上昇させ、炎龍は翼を広げてギリギリで激突を回避する。神子田と久里浜は少し離れた場所からその様子を窺い、戦闘能力の評価を付ける。

 

神子田《機動力はハリアーか戦闘ヘリ並…》

 

久里浜《おまけにおつむも悪くない…か。》

 

神子田《久里浜、もういいか?》

 

久里浜《あぁ、大体分かった。》

 

神子田《んじゃ今度は俺の番だな。》

 

久里浜《そう言うと思ったよ…》

 

神子田《ドッグファイトってのは(スピリッツ)のぶつけ合いだ!てめぇがどれだけのタマ(根性)持ってるか試してやろうじゃねぇか!!お、こいつ片目だぜ…》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

整備班長「…んで、このザマか?」

 

 整備班長が睨む先にはタジタジの神子田と久里浜、そしてその後方には炎龍のブレスを正面から食らってほぼ大破状態となったF-4の凄惨な姿があった。

 武装や電装系の部品はほとんど使い物にならなくなっており、塗装は溶けて全体が黒く焦げていた。エンジン周りには消火の為に水がかけられ、白い湯気が空へと上る。ここまで酷い姿だと、よくここまで帰ってこれたものだと逆に褒めたくなる。

 

整備班長「あのなぁ…部品のストックも少ないし耐用年数もギリギリなんだぞ?それをこんな無茶な操縦してボロボロにしやがって…」

 

神子田「し、しかしですね整備班長!あんのドラゴン野郎!ガチンコなのに火を噴いたんスよっ!火を!!男らしくねぇじゃないっスか!!」

 

整備班長「馬鹿野郎!!そんな事が一々トカゲ野郎に分かるか!!第一、メスかも知れねぇだろ!!お前ら、罰として滑走路三往復してこい!!西本と瑞原もだ!!」

 

西本・瑞原「「えぇぇぇ!!」」

 

神子田「な、なんで堀之内達には罰が無いんスか!」

 

整備班長「あいつらなら今回の戦力評価を報告する為に先に陸将室に向かったよ!おら、つべこべ言わずにさっさと走ってこい!!」

 

 その日、滑走路をパイロットスーツ姿で走る神子田と久里浜、そしてとばっちりを受けた西本と瑞原の四人の姿が目撃された。

 その頃、陸将室では堀之内が戦力評価報告の為に来ていた。報告を受けた狭間は険しい表情を浮かべている。

 

狭間「…なるほど、了解した。第一と第六の団長達にはこちらから連絡しておく。ご苦労だ、下がっていいぞ。」

 

 堀之内は一礼をした後、部屋を退出。狭間は窓の向こうを眺めながら、誰にもいない部屋に向かって一言呟く。

 

狭間「…これは、想定外の事態になったな…」

 

 彼の手元には堀之内の機体が撮影した黒い炎龍の姿を収めた写真が一枚、握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地から出発して数日、伊丹達は目的地であるエルベ藩王国内シュワルツの森に到着していた。一面見渡すばかりの森林と巨大な岩山が連なるその光景は、ジャブローを連想させる。

 その森を迂回して更に翌日、辺りの光景は生い茂る森林から岩肌目立つ渓谷へと変わる。切り立った断崖と所々に生える僅かばかりの植物がその場所の過酷さを物語る。足場が崩れる可能性を考慮してMSと74式は後方に待機させてある。

 

ロゥリィ「ここねぇ、ロルドム渓谷っていうのはぁ。」

 

伊丹「上空に注意しろよ、ここは(炎龍)の縄張りだからな。」

 

ヤオ「ここで待っててくれ、皆に到着を知らせてくる。」

 

 ヤオはそう言って人一人分位しかない細い岩道を下りていった。伊丹はよくもまぁこんな所を下りられるものだ、と思いながらその後ろ姿を眺めていた。

 すると、高機動車で寝ていたテュカが起き出した。

 

伊丹「おはよう、よく眠れたか?」

 

テュカ「うん、とっても!油の臭いはちょっと嫌だったけどね。ところでここどこ?」

 

伊丹「ロルドム渓谷、ヤオの同族が住んでるところだ。」

 

テュカ「やっとついたんだ。これであのダークエルフともおさらばね。」

 

 テュカはそう言って谷の奥底を覗き込む。下の方では川が流れ、闇が包んでいる。

 

テュカ「緑がほとんどない…なんでわざわざこんな所で住んでるのかしら?」

 

伊丹「…んー、さぁな…」

 

 その時、ロゥリィは後ろから発せられる殺気にいち早く気づき、後ろを振り返った。だがもうすでに伊丹達はダークエルフの戦士達に囲まれ、矢を向けられていた。

 一番中央のリーダー格の戦士が鋭い眼光で睨みながら大声を張り上げた。

 

ダークエルフ「動くな!お前達、一体何者だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊丹達がダークエルフの戦士達に取り囲まれている頃、アルヌス駐屯地前には多数の車両とMSが隊を成して並んでいた。通信機からは各部隊の準備完了を知らせる連絡が、幾つも鳴り響いていく。

 

『第一特科大隊、準備よし!』

『戦車第一小隊、準備よろし!』

『普通科第一中隊、準備よーし!』

『施設科、準備できました!』

『MS第一中隊、準備完了しました!』

『MS第二中隊、こちらも準備よろし!』

『試験MS小隊、準備できたぜ!』

 

柘植「加茂一佐、第一戦闘団及び第六戦闘団進発準備完了!」

 

加茂「よろしい、柘植二佐。第一前進目標、デアビス近郊ロマ河渡河予定地点!第二前進目標、テュベトのエルベ藩王国国境砦!特地害獣等に遭遇する恐れもある!また第三偵察隊が遭遇した炎龍は、容姿が大きく変化している!周辺警戒を怠るな!」

 

 一通りの注意喚起が全部隊の全隊員に行き届いた所で、加茂は一呼吸置き、そして…

 

「第一戦闘団、第六戦闘団、前進よーい!前進!前へ!!」

 

 その号令を発火点に待機していた74式が、87式偵察警戒車が、96式装輪装甲車が、99式自走りゅう弾砲が、高機動車が、73式大型トラックが、91式架橋戦車が、そして新しく編入された18式浮遊装甲指揮車(ブラッドハウンド)浮遊偵察バイク(ワッパ)が、多くの機材やMS用兵装弾薬等を載せた17式MS運搬用大型トラック(サムソントレーラー)が、06J(ザクⅡ)05J(ザクⅠ)が、09(ドム)が、一斉に唸りを上げる。

 大地は小刻みに震え、その圧巻の光景を多くの隊員や特地の住人が見守る。デュランもまた、その内の一人であった。

 

デュラン「この地を這う鉄の甲獣、そして鋼鉄の巨人達全てをヒトが作り、動かしておるのか…確かに、こんな連中相手にして我等が勝てるはずもないか…」

 

加茂「陸将!第一戦闘団、及び第六戦闘団、出撃します!」

 

狭間「うん、伊丹達(バカ共)を無事連れ戻してくれ。頼んだぞ!」

 

大明「お任せください!全員生きて連れて帰ります!」

 

 デュラン達は第四戦闘団から借りたUH-1J(イロコイ)に搭乗し、他のヘリと共に進行方向へと向かって飛んでいった。

 

キッカ「みんな、イタミのおじちゃんやレレイお姉ちゃんを助けに行くの?」

 

カトー「そのようじゃのう。それまで無事でおればよいが……」

 

レツ「大丈夫だよ!イタミのおっちゃんならきっと無事だって!だって神官様だっているんだよ!?」

 

カツ「でも相手はあの炎龍だしなぁ…」

 

レツ「きっと、いや絶対大丈夫だよ!次の日には炎龍の首持って帰ってくるよ!それともイタミのおっちゃん達が死んでほしいっていうのか?」

 

カツ「そ、そんな事言ってないだろ!?」

 

カトー「これこれ、ケンカはするな。兎も角、今は(みな)の無事を祈るしかないな…」

 

 カトーとアルヌス村の住民は、遠ざかっていく自衛隊の部隊をただ静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、大変永らくお待たせいたしました。メガネラビットです。
前回の投稿から約3ヶ月もの間、私の方で色々ありまして、投稿が大分遅れてしまいました。
親知らずを抜いて痛みの余り、執筆に集中出来なかったり、イベントがあってそちらの方に身が行ってしまったり、ガンオペ2をやっていたり…

不定期投稿とは言え、皆様をお待たせした事に関しては変わりありません。今後ともどうか私のSSをよろしくお願い致します。<m(_ _)m>


解説コーナー

《炎龍、進化》

炎龍、進化させました。

《伊丹一行、シュワルツの森のロルドム渓谷に到着》

漫画に出てきたシュワルツの森のシーン、あれってジャブローに見えるのは私だけでしょうか?

《第一戦闘団及び第六戦闘団混合編成炎龍討伐隊、出撃》

通常の約二倍近くの戦力になってしまいましたw

ちなみに第16旅団3個MS連隊の編成内容は以下の通りとなっております。

MS 1728機
HT 192台
MSパイロット 1922名
その他 1728名

合計 3650名

MS小隊 一個小隊にMS:3機 HT:1台
MS中隊 一個中隊に4個小隊
MS大隊 一個大隊に6個中隊
MS連隊 一個連隊に8個大隊
MS旅団 一個旅団に3個連隊

《カツ・レツ・キッカ》

本来ならばもっと最初の方に登場させたかった三人。
今後も登場するかも…?


次回は炎龍再戦と移動中の炎龍討伐隊の道中を書きたいと思います。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ

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