GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

伊丹達の救援に向かうべく、狭間陸将はエルベ藩王国へ向かう為の部隊編成を決意する。
柳田はその越境許可をもらうべくデュラン陛下との交渉を行い、その帰りに紀子の暗殺に来ていたデリラと遭遇。催涙スプレーを吹き付けられ錯乱状態に陥ったデリラに柳田は脇腹を刺され気を失った。



第三十二話:尋問

 騒動の翌日、アルヌス村では朝から不穏な空気が漂い、住民達は不安そうな表情を浮かべる。ガストン料理長や一緒に働くメイド達に聞き取り調査が行われていく中、デリラの自室から例の暗殺指令が書かれた手紙が見つかった。そこにはフォルマル伯爵家の公印が押されており、自衛隊は調査の為イタリカへ部隊を送り込んだ。

 イタリカに到着して早々に街を封鎖し、カイネに事情聴取を行った。

 

カイネ「こ、これは...はい、確かに当家の信箋に間違いございません。この手紙はいったいどちらで?」

 

用賀「アルヌス組合員宿舎、デリラの部屋からです。失礼ですが彼女はフォルマル家のーー」

 

カイネ「...えぇ、当家の密偵でした。アルヌスとニホンの動向を探るようにと...しかし!この街をお救いくださったニホン人の暗殺など自分の首を絞めるようなことを当家が命じるはずがございません!第一に私共はそのノリコという人物について存じておりません。」

 

用賀「我々も重々承知しております。イタリカの現状を考えれば。ですがこの文書にはしっかりとフォルマル家の公印が押されております。何か心当たりは...」

 

 その時カイネは一つだけ心当たりがある人物を思い出した。公印を管理し、それをいつでも使える人物...それは執事のバーソロミューだ。早速カイネは行動に移した。

 地下室にバーソロミュー、メイド数名を連れ尋問を開始した。椅子に縛り付けられたバーソロミューは成す術も無く、ペルシアに痛めつけられている。地下室にはギシギシと椅子が軋む音とバーソロミューの荒い息遣いが小さく響いている。

 

バーソロミュー「...し、知らない。信箋を横流しなどーーあうっ!」

 

ペルシア「ミュア様の前で同じことがもう一度言えるか?」

 

カイネ「バーソロミュー、本当のことをおっしゃいなさい。もう調べはついているのですよ。」

 

バーソロミュー「なぜ私がやったと疑う!?誰よりも長くこのフォルマル家に仕えてきたこの私がやったと!?お館様の書斎には誰でも入れる!ピニャ閣下も滞在中にーー!」

 

カイネ「ですが伯爵家の公印だけは執事であるあなたが管理していましたね?」

 

 その一言にバーソロミューは顔を青ざめ、カイネが頷くとそれを合図にペルシアがもう一度鉄拳をお見舞いする。だがそれでも彼は喋ろうとしなかった。するとメデュサのアウレアが髪の毛を畝らせながら提案を出した。

 

アウレア「イッソのコト、こころヨム?」

 

カイネ「お待ちなさい、アウレア。あなたが『精』を吸って心を読んでも証拠にはなりません。彼の口から自白させないと意味が無いのです。」

 

 アウレアは若干不満気な表情をするが、反論することなく大人しく下がった。だが隣にいる彼女は既に我慢の限界を迎えていた。それはデリラと同じヴォーリアバニーのマミーナだった。

 

マミーナ「ペルシア、変われ!私がやる!」

 

 すると彼女は渾身の力を込めてバーソロミューを椅子ごと蹴り飛ばした。おかげで椅子がバラバラに壊れ、彼は腹を押さえて蹲っている。同じ種族の者、更にはこの街を盗賊団から救ってくれた自衛隊の者も傷つき、血が流れた。そう考えると彼のした事がどうしても許せなかった。

 

マミーナ「お前のせいでデリラがーー!」

 

カイネ「おやめなさい、マミーナ!我々は今、疑われているのですよ!殺してしまったら口封じとしか思われません!」

 

 マミーナは舌打ちをするが、メイド長である彼女には逆らえないのか、必死に堪えた。そんな一部始終を見ていた用賀が口を開いた。

 

用賀「メイド長さん、もう結構です。恐らく今後痛めつけてもこの男は喋らないでしょう。時間の無駄です。」

 

カイネ「そ、そんなっ...」

 

 カイネには用賀のその言葉がこの街に告げられた死刑宣告のように聞こえただろう。だが用賀もとい自衛隊はイタリカの街を滅ぼす気など微塵もない。言ってしまえばこんな尋問などせずとも、現代の科学技術をもってすれば確たる証拠など山のように出てくるからだ。

 

用賀「バーソロミューさん、本当にこの文書に見覚えありませんか?」

 

バーソロミュー「と、当然だ。勝手に信箋など使うわけがない。」

 

用賀「そうか、ではこれをよく見たまえ。手紙にシミのようなものが付いているのが分かるか?これは指紋と言って、触った者の指先の痕だ。赤い丸で囲われているのがデリラの指紋で、これ以外にあと二種類検出された。さて...この指紋は誰のかな?」

 

 まさか指先の痕で特定されるとは夢にも思わなかった彼は、調べられないように手を固く強く握りこむ。

 

用賀「なぜ嫌がる?無実が証明できるんだぞ?...仕方ない。君達、手を抑えてくれ。」

 

バーソロミュー「や、やめろ!!私じゃない!私じゃない!!私じゃないんだ!!」

 

 バーソロミューは必死に抵抗しようとするが、ペルシアとマミーナの二人に押さえつけられどうすることもできない。指を朱肉で赤く染め、それを紙に押し付け両手の指紋を取ると、モームに抱えられているハロの前に持っていった。するとハロの目が赤く光り、手紙とバーソロミューの指紋がついた紙をスキャンし始めた。カイネやメイド達が驚き、バーソロミューが固唾を飲む中、スキャンが終了した。分析結果は...

 

ハロ「分析終了。分析結果 ハ 99.98% 一致。」

 

用賀「ありがとう、ハロ。残念ですね...バーソロミューさん、なぜ嘘を?」

 

 バーソロミューは用賀の問いには答えず、俯きながら譫言のように「違う...私じゃない...」と呟いている。既に決定的な証拠が出ているのに話さないということは何か話せない理由があるのではないか、そう思った用賀は近くにいる眼鏡をかけた自衛官に向かってうなづいた。その自衛官は鞄の中から注射器とゴム紐、何かの薬品が入った小瓶、ゴムチューブを取り出した。小瓶には『アミタール』というラベルが貼られている。

 アミタール、又はアモバルビタールと呼ばれるバルビツール酸系鎮静剤は不眠症や精神病患者の鎮静を目的として使われる事があるが、この薬品を投与されると意識が朦朧となり自身の意思に関係なく質問者の問いに答えてしまうため、自白剤としても使用されている。

 ゴム紐で二の腕を固く結んで血管を浮き出させ、そこにゴムチューブのついた注射針を刺し込む。バーソロミューは自分が何をされるのか分からず、ガタガタと震えている。

 

自衛官「バーソロミューさん、今から貴方の血管に『アミタール』という薬品を入れます。この薬品を入れると意識が朦朧として貴方の意思に関係無く聞かれた質問に答えてしまいます。ですので貴方自身が約束を破るわけではないのでご安心ください。」

 

 こうしてバーソロミューの口から出た情報を元に暗殺命令の首謀者が宿泊している宿に乗り込んだ。フォルマル家の兵士達がその宿の客室を調べていくが既に出払った後だったらしく、一応他の客室や別の宿も調べたがそれらしき人物はどこにもいなかった。

 ちなみにバーソロミューが犯行に及んだ理由は借金が原因だった。以前までは伯爵家の財産を横領し返済していたが、盗賊団の襲撃後、その財産の殆どが街の復興予算として当てられてしまい返済が滞ってしまった。そこを付け込まれてしまい、犯行に及んだらしい。取り返しのつかないことをしてしまったという後悔と自白剤の副作用によって彼は牢屋の中で廃人と化していたが、もはや手遅れである。

 

 あまりの手際の良さに二科の自衛官達は苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべる。

 

今津「なんともまぁ手際のええ奴や、見事に先手を取られたわ。」

 

自衛官A「日本(我々)と帝国との講和を良しとしない組織が妨害しようとイタリカの執事とデリラを利用。防げたのはハロと近くにいた柳田二尉のおかげですな。」

 

今津「僕らもちーとばかしゆったりかまえすぎとった。今回の『黒幕』は誰やと思う?」

 

自衛官B「『望月紀子』の名前と容姿をよく知る立場の者。そう考えるとゾルザルですかね。」

 

自衛官A「もしかしたらそう思わせる別の誰かかもしれない。」

 

自衛官C「そういえばイタリカ統治はピニャ殿下が代理でやっていたな。後で望月さんにゾルザルの人間関係を聞いてみます。」

 

自衛官A「その中で講和を好く思わないのは…やはりゾルザルに行きつくな。」

 

自衛官B「執事を捨て駒として利用したということは、敵は奴の素行を知っていたということになるな。イタリカから帝都までの道のりは馬で12日から13日程…そうなると敵はまだこの結果を知りません。」

 

自衛官A「ここは欺瞞情報を流してあぶり出しますか?」

 

自衛官C「いや、ここはあえて正しい情報を流して泳がせておいて、糸を手繰りましょう。」

 

自衛官B「確認のため、ゾルザルの周辺にこちら側の人間を送り込みましょう。悪所のクラウレ・ハモンとその協力者には引き続き帝都皇宮内で諜報活動をしてもらいましょう。」

 

自衛官C「その彼女が送ってきてくれたこれも使える。悪所からあがってきた帝国上流階級のゴシップネタだ。こいつで何人か協力者になっていただける者を探しましょう。」

 

今津「……デリラは…彼女のはええコやった。食堂の華であり、皆に笑顔を与えてくれた。彼女を騙し、仲間を傷つけ、講和を台無しにしようとした奴にはキッチリ落とし前を付けてやらなあかん!敵には確かに地の利があるかもしれん!だがこっちには相手を上回るスピードがある!!10日や!その間に敵を先んずるんや!ええな!!」

 

自衛官達「応!!」

 

 この時より自衛隊の反撃が始まった。

 翌日、帝都に到着していた第三偵察隊はPXの店員に紛れて情報を探していた。

 

商人「このブランデーって酒、美味いねぇ。うちのお得意様の貴族に評判だよ。あるならあるだけ買いたいってさ。」

 

倉田「けど売り込むなら宮廷でしょ?皇太子殿下にでも売れればいいんだけどねぇ。あ、これお子さんにどうぞ。」

 

商人「いつもスマンネ。ゾルザル殿下、かぁ……御用商人が固めてるからなぁ…」

 

倉田「やっぱりダメかぁ…」

 

商人「まぁ待てって。実はここだけの話、俺んとこみたいな小さい商会(とこ)にも商いの話が来るのはゾルザル殿下のおかげなんだよ。」

 

倉田「へぇ…詳しく聞かせてもらうか?」

 

商人「最近殿下とその顔見知りを集めておしのびでやってんだよ。貴族の館借り切って無礼講の宴会を、ね。」

 

倉田「じゃあ今日の注文は特別扱いってことで?」

 

商人「あぁ、頼むよ。ニホンの品は皆受けが良い。なんでも儲けが出る。」

 

倉田「で、そのパーティはいつ、どこで、誰が来るの?そうだ、コネでうちの知り合いの料理人雇ってもらえないかな?」

 

商人「料理人?」

 

倉田「ホラ、よく言うだろ?美味い料理には素材の分かる料理人を、ってね。味を覚えさせりゃこっちの思うつぼよ。」

 

商人「なるほど、考えたもんだなぁ。分かった、引き受けよう!」

 

 その翌日の夜、古田は雇われシェフとしてゾルザルが宴会を開いている貴族の館の厨房で働いていた。日本から持参した調味料や道具、そして老舗料亭で板前をしていた頃の腕前を駆使して作られる見たことない料理の数々に、メイドや他のシェフ達は驚きを隠せなかった。

 

メイド「フルタさん。このマ・ヌガ肉の香辛料焼き、凄く評判がいいですよ。後で皆にも作り方教えてよ。」

 

古田「いいよ。その代わりと言ってはなんだけど、今日の客のこと教えてくれる?味を客に合わせたいから。」

 

メイド「ん~っとぉ…確か今日は軍人さんが多い気がしたけど…」

 

古田「誰だか分からない?」

 

メイ「ん~、じゃあちょっと聞いてみるね。」

 

 そう言ってメイドはマ・ヌガ肉料理を持って厨房を後にした。だがしばらくして

 

ゾルザル「あのマ・ヌガ肉を焼いたのは誰だ!!」

 

 という声が響き渡った。声の主はそう、ゾルザルである。シンと静まり返る厨房、次第に周りのシェフやメイド達の視線が古田に向けられ、その視線の先にいた古田に気がついたゾルザルは足早に近づいていく。

 

ゾルザル「おぉ!いたな、お前か!」

 

古田「(やばい…もしかして潜入してることに気付かれたか!?)」

 

 万が一に備えて腰に隠してある9mm拳銃に手を伸ばす。だがゾルザルは古田の肩をバシバシと力強く叩くと、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

ゾルザル「探したぞ!ん?お前、どこかで見たような…あっ!確かピニャの宴席の時でも肉を焼いていただろう?」

 

古田「えっ!?あ、はいっ!」

 

ゾルザル「俺はあの時食ったあれが忘れられん!あんな美味いマ・ヌガ肉は初めてだ!今まで食べた事の無い味、香ばしい匂い、そして何より絶妙な焼き具合!お前は料理の神か?そしてあのスシと呼ばれる料理もまた格別だ!生魚がこんなに美味いものだとは知らなかったぞ!」

 

古田「い、いえ。そんな大層な事は……」

 

ゾルザル「ふむ、腕前をひけらかさない所も気に入った。よし、明日から俺の宮殿専属の料理人として雇ってやる!仕事を申し付けるからな、いいな?」

 

古田「は、はい!よろこんで!!」

 

 ゾルザルはそう言い残すと出来立ての料理を持って厨房を後にした。いつの間にいた白い髪のヴォ―リアバニー ――テューレ―― は古田をチラッと見ると、上機嫌で鼻歌を歌いながら帰っていく彼の後ろをついていった。

 

古田「…なんだ、あれ?」

 

メイド「知らなぁい、殿下お気に入りの愛玩奴隷でしょ?ヴォ―リアバニーのくせにいつも生意気な目しちゃって。」

 

 思わぬ形で情報源に近づけた事に、古田はまだ頭が追い付いていないのか呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、エルベ藩王国に向けて移動していた伊丹達セモベンテ小隊はというと…穴掘りをしていた。穴掘りと言っても掘っているのはMSだが。

 

日笠「……なんで俺達こんな所で穴掘りしてんだろうなぁ…?」

 

多那城「しょうがないだろ?一応俺達の主目的は炎龍退治じゃなくて、『エルベ藩王国国境周辺の地下資源探査』なんだから。詳細な情報が無いとややこしい連中が騒ぎ立てるからな。特に野党の連中は。」

 

辺田「それにしてもですよ?俺達まだエルベ藩王国にも入ってないんですよ?なんか色々寄り道してるみたいだし…」

 

多那城「あのエルフ、俺達(自衛隊)の情報を探しながら来たらしいからな。仕方ないんじゃないのか?」

 

健也「それにしても可哀想っすよね…きっと大勢仲間が犠牲に……」

 

多那城「あぁ、だからこそこんな所でグズグズしてるわけにはいかない。さっさとこんな資源探査終わらせて移動するぞ!」

 

五人「応!!」

 

 こちらの方でも反撃ののろしが上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 




どうも、Macklemore & Ryan Lewis vs Major Lazer の Can't Hold Us Remix Ver を聴きながら執筆しているメガネラビットです。

お久しぶりです、二ヶ月間お待たせしました<m(__)m>

それはそうと THE ORIGIN の最新映画、観てきました!
ハッキリ言って最高でした!あれが最終章だなんて勿体ない!
ア・バオア・クー決戦までやって欲しかった!

解説コーナー

《ハロ、有能》

本作のハロには色んな機能が備わっております。

《ゾルザル、寿司にハマる》

大嫌いな奴ですが、日本食を褒める所だけは唯一許せる。

《テューレ×古田》

結ばれてほしいなぁ…

《穴掘りザク》

使用している道具はMS用採掘スコップ。折り畳み式でシールドの内側に収納できる設計になっている。スコップ以外にもツルハシ、クワ、ハンマー等に変化する。






最近暖かくなったり寒くなったり、気温の変化が激しくなっています。
体調の変化にはくれぐれも気を付けてください。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ

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