GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

デュランの助言を受けて炎龍討伐に行くことを決意した伊丹と鷲谷。
テュカ、ロゥリィ、レレイ、ヤオ、そしてセモベンテ小隊という心強い助っ人を引き連れ、一同は南のエルベ藩王国へ向けて出発した。
時を同じくしてデリラは人生最大の選択を迫られていた。


第三十一話:波乱

 伊丹達が出発した日の晩、デリラは覚悟を決めた。部屋の明かりを落とし、祭壇の上に置かれた蝋燭に火をつけ、特地における4大最高神を祀っていた。

 

デリラ「神よ、天と地を支える使徒よ。この身を供儀として祭祀の炎を焚べる。戦いの神、エムロイ。冥府の王、ハーディ。盟約の神、エルドート。復讐の神、パラパン。あらゆる恐れ、慈愛、迷いから我を守り給え。この身はこの時より敵たる者の命を奪う剣とならん。赤き血を受けてただ錆ゆく鋼となりしも、忠誠を誓いし我が魂は不滅不変なり。」

 

 戦化粧を施し、武具を身に纏い、幾つもの命を刈り取ってきたククリナイフを手に、彼女は暗殺と復讐の鬼と化した。

 いつか...いつの日か、同胞を裏切り帝国に自分達を売り渡したあいつに...

 彼女に...必ず復讐を果たす...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テューレに......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、柳田は檜垣三佐と二科の今津科長に伊丹達の資源探査偵察の書類に判子を押してもらい、いつものように報告の為陸将室に足を運んでいた。そう、いつものように...

 だが今回はいつもようにはいかなかった。資料を確認する狭間と柳田を第一戦闘団、第四戦闘団、第六戦闘団の各団長と副団長、そして空自のパイロット達が取り囲んでいたからだ。

 狭間を除く全員が彼を鋭い眼差しで睨みつけている。その視線には殺気にも似たものが感じ取れる。とてつもないプレッシャーに柳田は滝のような汗をかき、落ち着かないのか目をキョロキョロと泳がせている。蛇に睨まれた蛙とはまさしく彼のようなことを指すのだろう。

 確認し終えた狭間が指で資料を叩きながら柳田に声をかけた。

 

狭間「...ふむ、柳田二尉。あいつらは何を考えている?」

 

柳田「ほ、本省調令五の三◯四!『特地における戦略資源探査について』!これが伊丹二尉及び資料に記されている以下の隊員の行動の根拠になります!」

 

 緊張のあまり声が上擦っているが、そんな事に気など回らない柳田はずっと直立不動のまま報告を行う。

 

狭間「分かっている、だがそれは表向きの理由だろう?」

 

柳田「表も裏もありません!伊丹二尉らは資源探査に向かっただけであります!」

 

狭間「...そうか。諸君、どうするかね?」

 

健軍「陸将のお心のままに。」

 

加茂「右に同じく。」

 

鷹「命令を待ちます。」

 

神子田「いつでもどうぞ。」

 

狭間「よろしい。」

 

 狭間は椅子から立ち上がると、窓の方へと体を向けゲートを包むドームを眺めた。

 

狭間「...我が国は他国の戦争で他国の為に『請われて戦った』ことがほぼない。これからもそうだと思っていた。だがそんな馬鹿なことをする者達が我々の中にいたようだ。」

 

神子田「馬鹿とはいえ同じ日本国民であり、自衛官です。見殺しにはできません。」

 

狭間「その通りだ諸君!あの伊丹達(バカ共)を死なせるな!加茂一佐、鷹二佐!第一戦闘団と第六戦闘団に待機を命じる!適切な戦力を抽出し伊丹二尉らの探査支援の準備をせよ!あらゆる事態を想定して慎重に部隊編成を行え!」

 

加茂「はいっ!」

 

鷹「MS-09は如何しましょう?」

 

狭間「MS-09の使用も許可する!」

 

鷹「はっ!」

 

狭間「神子田二佐!航空支援を要請する!特地甲種害獣等、不測の事態に備え用意していただきたい!」

 

神子田「了解です!」

 

 柳田は目の前で起こっている事に驚きを隠せなかった。まさかここまで簡単に越境の為の部隊が編成されるとは思ってもみなかったからだ。団長達が次々と部屋を出ていき、後に残ったのは柳田と狭間だけとなった。

 

柳田「(なんだよ...こんなにあっさり越境できるんなら俺がヤオを焚きつけた意味が無いじゃないか...)」

 

狭間「...伊丹達が行動を起こさなかったら、あの方も名乗り出なかっただろう。」

 

柳田「あの方、と言いますと?」

 

狭間「柳田二尉、特地語は使えるな?その人物に会ってもらいたい。その方はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南のエルベ藩王国国王、デュラン陛下だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の外にある喫煙スペースにて、紀子はベンチに座りながら煙草を吹かしていた。物思いに耽る彼女の瞳は何処か悲しそうな印象を受ける。

 

紀子「そっか...家燃えちゃったんだ...実感が湧かないな...でも家族が無事ならいいか。それより、家にはいつ頃帰れるのかな...」

 

 紀子はふと、傍に置かれた新聞紙に目をやった。一面をデカデカと飾る見出し記事には『特地にて拉致被害者を救出!?』『明かされる特地の実態!』『講和交渉に亀裂か?』といった文字が余すところなく書かれている。

 その真相を掴もうと紀子の両親が住んでいるアパートに大勢のマスコミが押し寄せており、家に帰ろうにも帰れない状況なのだ。更には大学の友人や会社にまで手がおよび、今ここで帰れば更なる混乱を生む事になろう。

 そんな呆然とする紀子に、何が近づいた。音もなく忍び寄るそれは彼女のすぐ近くまで近寄ると、声をかけた。その正体は...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロ「ノリコ、元気出シテ!笑顔!笑顔!」

 

 黄緑色で塗装された球体状の体、湾曲した口の上には小さな赤い目が二つ。球体上部に付けられた二枚のカバーを羽のように羽ばたかせ、電子加工された子供の声で紀子を元気付けている。そう、この正体はガンダムを見た人なら必ず知っているガンダムシリーズのマスコットキャラ、ハロである。

 バンダイ社が開発した新商品であり、最近になって販売したばかりなのだが、現在爆発的な人気を出している。その人気ぶりは凄まじいもので、在庫切れの店舗やネット販売サイトが次々と出ており、現在生産が追いつかない状態である。

 最新の自己学習AIを搭載しており、相手や会話の内容に応じて適切な返答を出すことができる。そのスペックの高さを利用して保育施設や介護福祉施設、医療施設や学校などで試験的に運用が開始されている。このハロも防衛省が過酷な現場でのメンタルケア用にバンダイ社が特別改良を施したモデルである。

 

紀子「フフッ、ありがと。ハロのおかげで元気が出たよ。」

 

 彼女はハロを膝の上に乗せ、頭...というよりかは体を優しく撫でた。そんな時だった...

 

デリラ「あんたがノリコだね?」

 

 何処からともなく声をかけられ、紀子は思わず体をビクッとさせる。

 

紀子「だ、誰!?」

 

 観葉植物の陰からデリラが現れ、月明かりに照らされる。

 

デリラ「あたいの名前はデリラ。恨みはないんだけど訳あってあんたを殺さなくちゃいけない。」

 

紀子「私を?」

 

デリラ「そう。」

 

紀子「そう...ですか。」

 

デリラ「あれ?意外と驚かないんだね?」

 

紀子「だって驚いたところで何も変わらないじゃない。それに、なんか実感が湧かないんだよね...もう生きてるのか死んでるのかも...」

 

デリラ「そう...あたい的にはもっと『キャー!』とか『助けて〜!』って感じで驚いてくれた方が殺り易かったんだけどなぁ...死にたくない奴殺すのは気が引けるし...どうしよ。」

 

紀子「ねぇ、死ぬ時って痛いかな?」

 

デリラ「さぁ、あたいも殺したことは数多いけど死んだことはないからねぇ。でもちょっと痛いだけだと思うよ?あたいもあんまり痛くないようにするし。」

 

紀子「それってどっち?痛いのはやだなぁ...」

 

デリラ「え?う〜ん、困ったなぁ。痛くない刺し方なんて知らないし...首を飛ばすのもなぁ...参ったなぁ...」

 

 デリラは初めて痛くない殺し方を問われ、耳をポリポリと掻きながら答えを出そうと必死に考える。今から殺し殺されるというのに、辺りにはそんな殺伐した雰囲気など微塵も感じられない。そんなデリラの姿に紀子は思わずクスッと笑った。

 

紀子「今のなんだかテューレさんみたい。」

 

 その時、デリラの手が止まった。目を見開き、先ほど紀子の口から出た憎き裏切り者の名前に腹の奥底から尋常じゃない怒りと憎悪が湧き上がった。

 

デリラ「今、誰だってーー」

 

紀子「えっ?」

 

デリラ「今!なんと言った!」

 

 テューレが帝都にいる。その確かな情報を掴もうとデリラは紀子に向かって走り出した。だがその時ーー

 

ハロ「侵入者を確認!凶器所持を確認!対象者保護を優先!侵入者!侵入者!」

 

 ハロがいきなりけたたましいアラーム音を立て始めた。突然の事に驚く二人。だが伊達に戦闘民族であるヴォーリアバニーの生まれではない。デリラは咄嗟にそして冷静に判断し、先にハロを無力化させようとナイフを逆手に持ち直し、斬りかかろうと再び走り出す。だが突如ハロの口が開き、そこから謎の液体が噴射され彼女の顔に掛かった。

 

デリラ「うわっ!?な、なんだいこれーー」

 

 顔に掛かった液体を拭おうと顔を擦ったその時ーー

 

デリラ「うっ!?い、痛い!痛い痛い痛い痛い!!痒い痒い痒い痒い!!!」

 

 顔全体に熱した針を何百本も刺したような痛みと痒さが襲い、液体は目や鼻や口などにも入ったらしく涙や洟水や唾液が溢れ出ている。

 先程ハロが吹きかけた液体は暴徒や野生動物鎮圧用の催涙ガスである。このハロは通常モデルを対象者保護用警務ロボとして改良したモデルであり、万が一に備えて護衛に付かせていたのだ。

 そんな痛みに悶えるデリラと呆然とする紀子の元に、たった今デュランとの交渉を終えた柳田が9mm拳銃を構えながら駆けつけてきた。

 

柳田「望月さん、大丈夫ですか?」

 

紀子「え、えぇ...なんとか...」

 

柳田「ここは危険です。他にもいる可能性があるので、ここはひとまず安全な場所へーー」

 

 誘導しようと9mm拳銃をホルスターにしまった、その瞬間ーー

 

デリラ「アァァァァァァァァァ!!」

 

柳田「なっ!?」

 

 半ば錯乱状態になったデリラが落ちてたナイフを拾い突進してきた。9mm拳銃をもう一度構えるような暇はもうない。

 柳田は咄嗟に紀子の背中を押し、突き飛ばした。直後、腹部に鈍い痛みが走り、恐る恐る見れば柳田の左脇腹にデリラのククリナイフが突き刺さっていた。デリラはまだよく見えぬ目を開いて刺した相手の顔を確認し、ようやく相手が紀子ではなく柳田だと気づいた。

 

柳田「く...そったれがぁ!!」

 

 痛みを堪えながら右手に力を込め、デリラの頭部を殴りつけた。殴り飛ばされたデリラは柱に背中を打ちつけそのまま気絶し、柳田も壁にもたれながらズルズルと力なく座り込んだ。

 血はドクドクと止まる事なく流れ続け、意識も朦朧としていた。

 

紀子「柳田さん!柳田さん!!しっかりしてください!!」

 

 紀子が必死に呼びかける声が響くが、やがてそれも徐々に聞こえなくなり、ついに柳田は意識を失った。

 




どうも、上坂すみれ の『POP TEAM EPIC』を聴きながら執筆しているメガネラビットです。さてはオメー、ゾルザルだな?もしもし自衛隊?

皆さま、バレンタインにチョコは貰いましたか?友チョコとか社内チョコとかではなく、本命もしくは義理を。私?ハッハッハ!

...一個もねぇよ...ギブミーチョコレート!!

解説コーナー

《ハロ》

バンダイ社開発高性能AI搭載ロボット。
今回登場したのは自衛隊モデルだが、一般販売はされてない。
カラーバリエーションは通常の黄緑・三倍の赤・巨星の青・三連星の黒&紫・ボールペイント・ガンダムペイント・の全6パターン。
価格は1万4,000円(税抜価格)から。





次回はイタリカでの容疑者追求等を投稿したいと思います。投稿時期は未定です。
それとMSのモノアイの色をピンクから赤に変更しました。理由は08小隊のMSは全て赤いモノアイなので、そっちの方がカッコいいなと思い変更しました。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ

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