GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

柳田に焚きつけられたヤオの行動によってテュカの心が壊れ、彼女は伊丹を本当の父親だと思い込むようになってしまう。
なんとかしてテュカの心を回復させようと模索するが、解決策は見つからず時は無情に過ぎていくだけだった。


第三十話:決断

 あの日から十日間、伊丹はテュカの父親として、朝も昼も夜もテュカと一緒に生活した。伊丹としては精一杯父親役を演じてはいたが、それにも限界があった。何より問題なのはテュカの父親であるホドリューのことに関して全く知らないのだ。それによりテュカの記憶と行き違う箇所が現れ、時折頭痛に苦しんでいる。それは日を追うごとに頻度を増していく。解決策が一向に見つからない中、十日目の夜を迎えた。今日は任務前最後の一日ということで三偵のメンバーで食事をすることにした。

 テュカを一旦黒川に預け、伊丹はロゥリィの前で深い溜息をついた。

 

ロゥリィ「自分よりぃ年上のぉ子を持った気分はどぅお?」

 

伊丹「すんげぇ複雑な気分...」

 

鷲谷「でしょうね。」

 

伊丹「まぁ最近は黒川によく懐いているから良かったよ。黒川自身は自分に気があるかもって少し困ってたらしいが...あの様子なら安心して任せられる。」

 

鷲谷「でも隊長、いつまでもあのままとは限りません。いつまたあんな風になるか...」

 

伊丹「あぁ、分かってる。テュカを救えるのは今しかない。」

 

鷲谷「ならば行きましょう、テュカの仇を討つんです。そうすればーー」

 

伊丹「だがリスクが大きすぎる、賭けるには部が悪い。今この賭けに出せるチップは俺の命だけだ。それをテュカの命と一緒にーー」

 

 伊丹はそう言って手の上に金貨、そしてその上に五百円硬貨を置いた。するとその上にもう一枚硬貨が置かれた。それは鷲谷が乗せたものだった。

 

鷲谷「僕の命も使ってください。」

 

伊丹「駄目だ、言っただろう?俺は仲間を犠牲にしたくないって。」

 

鷲谷「でも隊長とテュカだけじゃ、それこそ自殺行為です。それに、こうなった原因は僕にもあります。」

 

伊丹「どういう意味だ?」

 

鷲谷「僕があの時残弾に気をつけていたら...今頃テュカもヤオの一族もこんな事にはならなかったはずです。」

 

伊丹「あの時は緊急事態だった。お前一人のせいじゃない。」

 

鷲谷「でも、僕は炎龍を仕留める最大のチャンスを不意にしました。でも次は、次こそは必ず仕留めます。だから僕も連れて行ってください。」

 

伊丹「連れていったとして、三人で勝ち目があると思ってるのか?」

 

鷲谷「勝てる可能性は限りなく低いでしょうね。でも二人で行くよりずっとマシです。」

 

伊丹「......」

 

鷲谷「行く時は声かけてください。おーい!ビールおかわり!」

 

パルナ「はーい!」

 

 パルナが呼び声に反応し、いち早く鷲谷の元へと駆け寄った。そして慣れた手つきで注文を伝票に書いていく。

 

鷲谷「よぉ、調子はどう?」

 

パルナ「おかげさまで!ここは悪所にいた頃に比べたら、まさしく天国です!」

 

鷲谷「そうか、そりゃ良かった!ところでデリラはどうした?さっきから姿が見えないけど...」

 

パルナ「デリラならさっき郷里から急な知らせが来たそうで、今は宿舎に帰ってます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、伊丹は一人ベンチに座りながら黄昏ていた。行くべきか...それとも行かざるべきか...未だに決め悩んでいる。そんな伊丹の耳に聞きなれない音が聞こえてきた。音のする方へ顔を向けると、そこには松葉杖をつきながらこちらに歩いてくる老翁の姿があった。よく見ると左腕は義手、左足は義足、左目には眼帯をつけている。すでに満身創痍と言っても過言ではない姿をしているが、残った右目にはまだしっかりと命の炎が燃え盛っていた。そんな老翁が伊丹の隣に立った。

 

老翁「若者よ、そこを退くがよい。」

 

伊丹「...どうぞ。」

 

老翁「うむ、中々殊勝なじゃの。ここは儂が毎晩使っておる。以後気をつけよ。」

 

伊丹「(誰だ?...そういえば四偵が修道院で重傷を負った老人を見つけて保護してきたって話を聞いたな...その爺さんか?)」

 

老翁「さて、若いの。何を迷ってこんなところで一人黄昏ておる?」

 

伊丹「...爺さんには関係ないよ。」

 

老翁「フム、話したくないのならそれもよかろう。それにしてもこの義手と義足は本当に良く動くのぉ。革と思えぬ部品もある。おぬしらの世界では手足をなくすと皆こんな高価なものをつけるのか?」

 

伊丹「えぇ、大抵は。」

 

老翁「医者の話では走れるようにもなると言っておったが?」

 

伊丹「そういう競技用のものをつければ、生身より速くなりますよ。最近じゃ、より研究が進んで、神経と接続してより円滑に動けるようになりつつあるとか...」

 

老翁「生身の時と同じように動けるのか?凄いのぉ...なんじゃおぬし話せるではないか。その調子で大の男がこんな夜中に黄昏ておったのか、洗いざらい喋ってしまえ。ほれ!」

 

 面倒くさい人に絡まれた、と頭を掻きながら今までのことを全て話した。この老翁に話してもなんの解決にならないことは分かっている。でもどうせなら洗いざらい喋って少しスッキリしたかったのかもしれない、と伊丹は喋りながら心の中で思った。

 

老翁「なるほどな...復讐を果たし区切りをつける、か。儂もそう思うぞ。敵が大手を振って歩いているなぞ聞いたら、儂なら腹わたが煮えくり返るわ。なぜ早急に敵を叩かんのだ?」

 

伊丹「敵が強すぎるんですよ。」

 

老翁「なんじゃ、戦う前から怖じ気づきおって。」

 

伊丹「だって、炎龍なんですよ?」

 

老翁「なんだと!?炎龍!?」

 

伊丹「えぇ、しかも出没しているのが南のエルベ藩王国領内で炎龍討伐用の大部隊を送れない状態なんです。自分の部隊だけで行っても犠牲は避けられません。」

 

老翁「そうだな、強大な敵に対して戦力を逐次投入するなぞ愚策中の愚策だ。敵がなんたるかも知らせずに突撃を命じるような馬鹿はあやつらだけで充分だ!」

 

伊丹「(この爺さん、やけに軍事関連に詳しいけど本当に農民か?体の傷といい風格といい...元騎士って言われた方が納得いくぞ?)」

 

老翁「それで?そのエルフの娘と二人で行くつもりか?」

 

伊丹「いえ、仲間が一人行きたいと言ってるんですけど...」

 

老翁「それでも三人だけでは心中も同然だぞ?」

 

伊丹「だから行くかどうか迷ってるんです。」

 

 それを聞いた老翁は立てかけた松葉杖を手に取り立ち上がると、伊丹の肩に手を置いた。そしてじっと目を見て口を開いた。

 

老翁「なぁ、若いの。危険だと分かっていても退くことが許されぬ時もある。負けると承知していても前に進まなければならない時もある。男というものは時に馬鹿にならねばやってゆけぬのだ。そうは思わないか?」

 

 老翁はそう言い残して行ってしまい、結局伊丹は決断できぬまま次の日を迎えた。

 FAに三偵とザクⅠ、捕虜返還の第一陣を連れた首相補佐官達が乗り込んで行く。その様子をテュカは遠くから悲しげな表情で見ていた。

 ハッチが閉められ、ローターが徐々に回転速度を上げていく。

 

ーーすぐに戻ってくるーー

 

ーーすぐとはいつだ?ーー

 

ーーその間、テュカは一人だーー

 

ーー本当にこれでいいのか?ーー

 

鷲谷「隊長、本当にこれで良かったんですかね?」

 

ーー本当に良かったか?ーー

 

ーーそんなの...ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー良くないに決まってるだろ!ーー

 

伊丹「くそっ!おやっさん、すんません!俺、降ります!」

 

桑原「えっ?なんですって!?」

 

伊丹「鷲谷!頼む!」

 

鷲谷「了解!」

 

 伊丹は前方のハッチ開閉ボタンを押し、同時にMS固定具の解除ボタンも押した。凄まじい風が機内に吹き荒れる中、鷲谷は伊丹を手の上に乗せ、そして

 

伊丹「おやっさん!あと頼んます!」

 

 そう言い残し、MSごと飛んだ。

 

桑原「隊長!」

 

 パラシュートもなしに降下するなんてまさに自殺行為。三偵の隊員達は顔を青くさせた。

 鷲谷は伊丹を手から落とさないように、それでいて握りつぶさないように程よい力加減で握りながら降下を続ける。足と背中のブースターを少しずつ吹かしながら降下速度を弱め、最後は地面ギリギリで一気に吹かし着地した。

 伊丹は手の上から降りるとヘルメットを脱ぎ、テュカの元へと向かった。

 

テュカ「どうしたの?」

 

伊丹「帝都に行くのは、やめたよ。」

 

テュカ「いいの?」

 

伊丹「お前の笑顔の方が大事だ。ずっと一緒にいるよ。」

 

テュカ「な、なにそれ?実の娘を口説いてるの?...ばかっ...」

 

伊丹「テュカ、一緒に行こう。」

 

テュカ「どこに?」

 

伊丹「南の方だ。嫌か?」

 

テュカ「ううん!行く行く!」

 

伊丹「鷲谷も一緒だが?」

 

テュカ「それでもいい!むしろ大歓迎!今から帰ってすぐ支度するね!」

 

 テュカは満面の笑みを浮かべながら一度村へと戻っていった。そんな様子を見つめる伊丹と鷲谷、そして怒り心頭の柳田がいた。

 

柳田「この大馬鹿野郎共!馬鹿か?馬鹿なのか!?いや、馬鹿じゃなかったら今頃MSで空挺団ごっこなんかしないもんな!お前ら2人とあの娘の3人だけでドラゴン退治?他の隊員が見てる目の前で任務放棄?MSでパラシュートなしの空挺降下?これだけの悪条件揃えてどうやってお前らを派遣する条件を考えろって言うんだよ!」

 

伊丹「それを考えるのがあなたの役目でしょ?」

 

鷲谷「確か言ってたよな?行く時は声かけろって?形式は整えてやるって?」

 

柳田「確かに言ったが...あ〜あ...お前らもうダメだわ。皇子暴行の事だってまだ保留だし

...停職処分かな。降格の上配転、最悪の場合除隊処分...今からでも遅くない、任務に戻る方が身の為だぞ?一曹!管制に至急FAをもう一機用意するようにーー」

 

伊丹「柳田さん、もう決めたんだ。俺はするべきことを先送りにし続けた結果の後悔はうんざりするくらいしてきたんだ。だから今は動く。」

 

柳田「......チッ、分かったよ。一曹!さっきのは取り消し!んで?何が必要なんだ?まさか丸腰とは行くまい。」

 

伊丹「まずは足だな。車両と予備燃料と鷲谷のMSかな。」

 

柳田「員数外のM-ATVなら誰も文句は言わんが...」

 

伊丹「いや、高機動車で頼む。MSの方は...」

 

鷲谷「さっき降下で使った分の推進剤の補充と、それから武装ですね。」

 

柳田「武装なら最近入ったばかりの140mmベルト給弾式ハイパーライフルがある。それに奴さんはある程度俺たちの手の内を知ってるだろう。激戦を想定して06用のスパイクアーマーとシールドを換装しておくよう手配する。」

 

鷲谷「助かる。」

 

伊丹「それから爆薬と64式に、それの予備弾薬。パンツァーファウストは最低でも10発は欲しい。あと一応無線機と3人分の糧食を取り敢えず一週間分。」

 

柳田「ヤオの分は?」

 

鷲谷「あんなのはどうでもいい。どうしても元凶1(ヤオ)を連れてけって言うならそれを焚きつけた元凶2(柳田)にも同伴してもらうぜ?」

 

柳田「うえっ、やぶ蛇だったな。で、本当に3人分でいいのか?」

 

伊丹「あぁ、他に誰がいる?」

 

柳田「そうだなぁ、例えば...あんたらの後ろにいる方とか?」

 

2人「えっ?」

 

 その時、2人は何かに足を取られた。視界が強制的に空へと向けられ、端にそれを嘲笑うかのような柳田の嫌な笑みが映り込んだ。身体全体を浮遊感が包み込むがそれも束の間、同時に背中から地面に倒れ、それと同時に頭と頭の間に何かが勢いよく突き立てられた。恐る恐る見ると、突き立てられたそれはロゥリィのハルバードだった。上に目を向けると御立腹状態ロゥリィが仁王立ちをしており、その横にはレレイの姿もある。

 

ロゥリィ「ちょっとぉ、水臭いんじゃなぁい?いい加減巻き込んでもいい間柄でしょぉ?女を火遊びに誘いたいんならぁ、素直に一言言ってみせてよぉ。」

 

伊丹「でも相手はあの炎龍だぜ?」

 

ロゥリィ「すっごく楽しみ、ゾクゾクしちゃう♡身体がまだある内にもっと感じたいのぉ♡それともぉ、最初から死ぬつもりぃ?」

 

伊丹「いや...」

 

鷲谷「隊長、こうなったらもうしょうがありません。ロゥリィも連れていきましょう。少なくとも戦力にはなります。」

 

伊丹「はぁ...分かったよ。ロゥリィ、一緒に来てくれるか?」

 

ロゥリィ「フフッ、高くつくわよぉ。」

 

伊丹「借りとくよ、いつ返せるか分からないけど。」

 

ロゥリィ「それなら大丈夫よぉ。死後に魂を頂いて返してもらうからぁ、眷属になってもらうわぁ。」

 

伊丹「お前は悪魔か!『ガブッ!』イデデデデデデ!」

 

 ロゥリィは伊丹の右腕を掴むと、なんの躊躇もなく噛み付いた。歯形状に切れ、血が流れる。彼女はそれを舌で舐めとり、一言...

 

ロゥリィ「契約完了ぉ...次はワシヤねぇ♪」

 

鷲谷「マジで僕もやるの?」

 

ロゥリィ「当たり前でしょぉ?ほら早くぅ!」

 

鷲谷「わ、分かったよ...ほら...『ガブッ!』いっだぁ!?」

 

ロゥリィ「これで2人とも私の眷属ねぇ♪ヤナギダ、1人分追加ねぇ。」

 

レレイ「いや、もう1人追加。」

 

伊丹「レレイも!?」

 

レレイ「生還率を上げるには魔法が最も必要...」

 

鷲谷「もしかして...レレイさん...」

 

伊丹「怒って...らっしゃる?」

 

 2人の言葉にレレイは何も返すことなく、ただジッと見下ろした。その目は絶対零度という表現が生温く感じるほど冷たかった。

 

レレイ「............」

 

伊丹「...柳田、5人分お願い。」

 

 伊丹が小声で頼んだ。そこにそんな声をかき消すような大声が響いた。

 

多那城「もう12人追加だ!」

 

鷲谷「多那城二佐!?」

 

 多那城だけではない。彼が率いるセモベンテ小隊全員に、随伴戦車長の五十部や桝田までいる。

 

多那城「お前がFAから降下するのが見えてな、何かあったんじゃないかと思って来てみれば...お前ら炎龍退治に向かうんだって?」

 

鷲谷「は、はい...」

 

多那城「なら俺達も連れて行け。戦力は多くて困らねぇだろ?」

 

鷲谷「で、ですがーー」

 

多那城「正直言ってMS一機だけは危険過ぎる。相手は生きた災害と呼ばれる奴だ、同じパイロットと見過ごせない。」

 

鷲谷「...分かりました、ありがとうございます。」

 

伊丹「でも良いんですか?MSを6機に74式を1両も...」

 

多那城「機体なんてただの消耗品だ。生きて帰れればそれでいい。それより、ダークエルフの嬢さんが待ってるぞ?」

 

 後ろを振り返れば、ヤオが頭を下げ片膝をつく形で座っていた。

 

ヤオ「なんなりと仰せつけください。只今より此の身は命が続く限り、永久に御身らのもの。今ここで命を絶てと申すならばすぐにでも...」

 

伊丹「こんなところで死なれたら困る。アンタには目的地までの道案内を頼むよ。」

 

ヤオ「畏まりました。」

 

 突然の増援に周りが騒然となる中、柳田がおもむろに口を開いた。

 

柳田「伊丹...お前、何様なんだよ...俺はなぁ、防衛大出て第一選抜の陸自エリートコースに乗ってる。お前みたいに幸運と偶然でちゃっかり昇進したんじゃない。組織という枠組みの中で生き残りをかけて心身を削りながら今まで努力してきたんだ......」

 

伊丹「や、柳田?」

 

柳田「だから俺は!お前みたいな奴が大嫌いなんだ!正直言って心の底から見下してもいる!」

 

 突然のカミングアウトに伊丹はもちろん、周りにいる全員が目を見開いて驚いている。いつもは何かを企んでいそうな嫌味のある笑みを浮かべるはずの柳田が、今に限っては般若面のような怒りを浮かべている。

 

柳田「何が片手間仕事の趣味優先だ!息抜きの合間の人生だっ!嗤わせるじゃねぇ!それが今じゃ俺と同じ階級だぁ!?『銀座の英雄』だぁ!?ふざけるなぁ!!じゃあ今まで俺がやってきた苦労はなんだったんだ!!えぇ!?俺たち裏方の努力でお前らは戦えてたんだぞ!それなのにお前は...だからもっと苦労しろ!酷い目に遭えよ!部下の家族にお悔やみの手紙書く立場になってみろ!それでようやく俺の努力と釣り合うんじゃないのか!?違うか!?」

 

伊丹「......」

 

柳田「なのに私事だから部下を巻き込みたくない?俺たちはその部下を得るために努力してるんじゃねぇのか!?俺達自衛官が連れていけるのは上がつけてくれたその部下だけだ!隊を離れちゃ個人では何もできない...できちゃおかしいんだよ!なのに...どうしてお前には...自分からついていくって奴がいるんだよ!」

 

 怒りと悲しみに満ちたその言葉に、誰も答えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鷲谷、ただ一人を除いて。

 

鷲谷「教えてやろうか?アンタと隊長との違い。」

 

柳田「...何?」

 

鷲谷「柳田、アンタは確かに努力してここまで登りつめてきた。それは凄い、僕や隊長には到底出来ないよ。でもそれって結局は自分の為だろ?」

 

柳田「なっ...!」

 

鷲谷「アンタは他人の為に自分を犠牲にしてきたことがあるか?隊長がどう思ってるかは知らないけど、隊長は今まで誰かの為に自らの命を顧みなかった。銀座事件の時も、コダ村難民の時も、イタリカ攻防戦の時も、拉致被害者救出の時も、隊長は誰かの為に自らを盾にして守ってきた。そして今回もまた隊長は自分自身を傷つけて茨の道を歩いている。そうやって出来た道を俺達は歩いていくんだ。その背中を追いかけてな。アンタはただ自分の為だけに道を作ってきた。そんな道を誰が歩きたいと思う?」

 

柳田「鷲谷...テメェ!」

 

 まさか伊丹と同じく見下していた存在の鷲谷にここまで論破され、柳田は鷲谷に向かって走り出した。そして右手に力を込め殴ろうとするが、他のパイロットに取り押さえられ止められる。何とかして落ち着かせようと羽交い締めにするも、頭に血が上って完全にキレた柳田はそれを振り解こうと踠き続ける。

 

柳田「テメェに!テメェなんかに何が分かる!俺の苦労の!苦しみの!傷の!何が分かるって言うんだ!!」

 

 心の内をぶちまけながら鬼の如き形相を浮かべる柳田に対し、鷲谷は表情一つ変えず

 

鷲谷「知らねぇよ。」

 

と両断した。

 

鷲谷「俺達がアンタの苦しみなんて知るわけないだろ?でもそれはアンタにも言えることだぞ?アンタは隊長の苦しみが分かるのか?仲間を犠牲にせず、被害を最小限に抑えようと昨日の夜遅くまで作戦を練っていた隊長の苦しみが!アンタには分かるのか!アァン!?」

 

 遂に鷲谷まで切れ、まるで台風のような怒鳴り合いが始まった。

 

鷲谷「大体テメェはいつも勝手なんだよ!こうなったのは全部テメェが余計なことを言ったのが始まりだろうが!それなのにいざ行こうとしたら今度は八つ当たりかぁ!?ふざけるのもいい加減にしやがれ!!」

 

柳田「ならば他にどうすれば良かったんだ!このままあのダークエルフの一族が滅びれば良かったのか!?」

 

鷲谷「んな事誰も言ってねぇだろうが!やり方が汚ねぇって言ってんだよ!」

 

柳田「こうでもしなけりゃお前ら二人は動きそうになかったからなぁ!」

 

鷲谷「それが汚ねぇって言ってんだ!他人を動かしたいんならまずは自分から動け!それが先導者ってもんだろうが!」

 

柳田「死ぬかもしれない相手と状況じゃ誰だって動きたくないさ!」

 

鷲谷「それでも隊長は動いた!これが弱虫のテメェとの違いだ!」

 

柳田「テメェ!!」

 

 最早収集がつかなくなり始めていた。だがその時、二人の間にロゥリィのハルバードが振り下ろされ地面に突き刺さり、それがキッカケとなって二人の喧嘩は強制終了させられた。

 

ロゥリィ「私を前にして喧嘩なんてぇ、随分といい度胸じゃなぁい。私もその喧嘩に混ぜてもらえないかしらぁ?」

 

 赤から紫に変わった唇を見て、彼女がその気になればここにいる全員をすぐにでも殺せる事に気がつき、鷲谷は小さく

 

鷲谷「すまん...熱くなりすぎた。」

 

 と謝罪した。それを聞き取ったロゥリィはハルバードを引き抜き、

 

ロゥリィ「それでいいのよぉ。」

 

 と唇を赤色に戻し和かに笑った。一方柳田の方は未だ興奮冷めやらぬ様子で息を荒くしている。側から見たらまるでリードに引っ張られた狂犬だ。

 

鷲谷「人を動かすにはまず自分が手本を見せなきゃ始まらない。自分を大切にするのはいい事だ。でも誰かに後ろからついて来て欲しいんだったら、まずは自分を犠牲にしてみろ。そうすれば人は自ずとついてくるようになる。」

 

 鷲谷はそう言い残して行ってしまった。

 

柳田「...ハァ...皆、もう大丈夫だ。離してくれ。」

 

伊丹「柳田...まぁ、その...なんかごめん。」

 

柳田「気にするな、ただの八つ当たりだ...」

 

 その後、伊丹達はテュカを迎えにいくため一度アルヌス村へと向かった。そこでは炎龍退治を聞きつけ村中の人達が伊丹達を見送ろうと集まっていた。

 テュカにヤオも一緒に行くことを伝えると、「なんでこの女が!?」と終始嫌そうに顔をしかめた。補給を終えた鷲谷や多那城達とも合流し、炎龍討伐部隊『セモベンテ小隊』は南、エルベ藩王国へと向かった。

 

 そしてその後ろ姿を、昨日伊丹と話した老翁...エルベ藩王国の国王陛下、デュランは壁上から見送った。

 

デュラン「若者達が行ったか...」

 

看護師「デュランさん!また勝手に出歩いて!困りますよ!それにここ、関係者以外立ち入り禁止です!」

 

デュラン「ハハハッ!スマンスマン。リハビリじゃよ。」

 

看護師「さぁ、病室に戻りますよ。」

 

デュラン「あぁ、だがその前に一つ頼みごとがある。すまぬが、ここで一番地位のある者を呼んでくれぬか?儂の事で話がある。」

 

 同じ頃、アルヌス村で働くメイド達が使っている寮。その一室ではデリラが一枚の手紙を手に狼狽えていた。

 

デリラ「な、なんで...こんな命令が...」

 

 その手紙には『望月紀子暗殺命令』という物騒極まりない一文が記されていた。

 デリラ自身、紀子の名前は聞いたことがあった。伊丹達の部隊が帝都から連れて帰ってきた拉致被害者。だが知っているのはそれだけで、話したことはおろか、顔さえ知らないのだ。

 

デリラ「こんなことしたら...あたいだけでなくこの街の亜人全員がいられなくなる...こんなの絶対にミュイ様の命令じゃない...ニホン人はイタリカの街を救ってくれたんだよ?どうして......」

 

 密偵として任務を全うするか...それとも指令を無視するか...

 彼女は心の中でせめぎあっていると、窓の向こうから高機動車とMSの起動音が聞こえ、外を見るとそこには伊丹達の姿があった。

 

デリラ「あっ!イタミの旦那!」

 

 彼女は思わず叫ぶが、その声はエンジン音にかき消され届くことはなかった。

 

 今、アルヌスで大きな動乱が少しずつ巻き起ころうとしていた。

 




どうも、辻村有記 feat.村松崇継の「Light」を聴きながら執筆しているメガネラビットです。

ゲートのマスコミってやっぱクズですね。web漫画を見てイライラしましたよ。
無知とニワカ知識による偏見、自分達の為なら真実を捻じ曲げることも厭わず、無礼千万なんか日常茶飯事。
それが現実でも起こってるんだからなぁ...この国のマスコミ、もうダメだわ... ( º﹃º )(諦め)
さてさて、あのクズ記者(古村崎)はどうやって始末してやろうか...

解説コーナー

《炎龍討伐部隊『セモベンテ小隊』》

編成内容

MS-06JザクⅡ 6機(内1機は中隊長機)

装備
M-120A1ザクマシンガン:4機
H&L-SB25K/280mmA-Pザクバズーカ:2機
脚部3連装ミサイル・ポッド装備:全機

その他兵装
ヒート・ホーク、シュツルムファウスト、クラッカー、

MS-05J-A-SザクⅠ 1機

装備
M-140A1ハイパーライフル

その他兵装
クラッカー、

74式戦車特地仕様:1両

高機動車:1両

小隊メンバー

伊丹耀司 二等陸尉
鷲谷秀人 二等陸尉

テュカ・ルナ・マルソー
レレイ・ラ・レレーナ
ロゥリィ・マーキュリー
ヤオ・ハー・デュッシ

桝田天雄 三等陸佐
五十部陸人 二等陸尉
西幸小勝 一等陸曹
伊野黒宇城恵 二等陸尉

多那城梶 二等陸佐
日笠江和夫 一等陸曹
十谷部緋佐間 二等陸曹
健也和菜 二等陸曹
間雉幸原 三等陸曹
辺田伏尾 三等陸曹


《誰かの為に犠牲になる伊丹》

伊丹はRPGゲームに出てくる無茶をする勇者キャラは嫌いだと言ってますが、彼も彼でかなり無茶をしていると感じるんです。
彼自身茨の道を歩いてると個人的には思います。

《鷲谷の切れキャラ》

おかしいなぁ...俺の知ってる鷲谷はこんな喧嘩っ早い性格じゃないんだけどなぁ...







次回はエルベ藩王国に向けて移動するセモベンテ小隊とデリラと柳田の騒動を投稿したいと思ってます。投稿時期は未定です。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ

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