GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

ゾルザルの横暴に対する報復爆撃を成功させた自衛隊。
帝国元老院議事堂は粉みじんにされ、議員達は自衛隊の驚異を改めて認識した。

そしてその原因となったゾルザルは……




第二十七話:それぞれの思惑

 

 ゾルザルがもはや跡地となった議事堂から一人で帰ってきた。

 自分の館の前に到着した頃には既に心身共に疲れ果てており、馬から転げ落ちるように降りると部下に支えられながら入っていった。

 重たい鎧を脱ぎ、ベッドに横たわると顔の包帯を新しいものに取り換え、氷嚢を痛みの激しい個所に押し当てる。

 「う~…う~…」と唸っている姿はまるでゾンビのようで、見るに堪えない。まぁ全て彼の自業自得なのだから言ってもしょうがないのであるが。

 そんな彼の姿を見て一人の男が口を開いた、ゾルザルの弟でピニャの異母兄に当たるディアボだ。

 

ディアボ「おぉ、兄様。おいたわしい……もう無理をなさいますな、お体に障ります。」

 

ゾルザル「ふん……ディアボか。この俺のこんな姿を嘲笑いに来たのか?」

 

ディアボ「まさか……先程の話の報告に参ろうかと思いまして。元老院は講和派が多勢を占めました。ですがこのままでは無条件降伏と同じです。これを避けるためにも何らかの軍事的成果を挙げる必要があります。」

 

ゾルザル「全く小賢しい男だ…」

 

ディアボ「兄様こそ…」

 

ゾルザル「ディアボよ、これは自業自得よ。馬鹿を演じるのも骨が折れるわ……本当に折れたがな。俺はお前のように賢く生きていけない…皇帝陛下(父 上)はカティ義兄を責め殺したんだぞ?」

 

ディアボ「父上はまだ若かったのです。」

 

ゾルザル「それ故に先代皇帝の遺児である義兄を恐れたのか…だがもういい歳をいっている。お前、俺が馬鹿を演じている間に次期皇帝を狙って何やら動いていたようだが、残念だったな。皇帝が指名するのはこの俺だ。」

 

 自信満々で話すゾルザルの顔は笑っていた。ディアボは「何を言っているんだこの人は…」といった表情でゾルザルを見た。

 だがそれにはちゃんとした理由があったのだ。

 

ゾルザル「この戦争を終わらせるために皇帝は退位せねばならぬだろう。だが父上は馬鹿に見えるこの俺を帝位につけて、裏では実権を握り続けるつもりだ。だからお前は一生皇帝にはなれん。」

 

ディアボ「しかしそれでは父上が亡くなったら兄上が帝国を引っ張っていくことになります!そんな無責任な事が――」

 

ゾルザル「お前…俺が帝国を傾けるほど無能な男に見えているようだな。おい、テューレ!」

 

 ゾルザルが大声で彼女の名を呼ぶと、ニッコリとした笑顔で現れた。

 その表情に恨みや憎しみの言葉は見受けられない。

 彼女はここぞという時までそれらの感情を押し殺し、腹の奥でぐつぐつと煮込んでいるのだ。ゾルザルはそれを知らない。

 

テューレ「はいっ、殿下。捕らえてきた二ホン人でノリコ以外に生きていた者は二人。その内の一人、マツイフユキは売却先の鉱山でまだ生きている事が判明しました。ですがノガミヒロキは同鉱山で死亡しております。」

 

ゾルザル「生き残りを今すぐ連れて来い…こんな目に合うんだったらノリコにもう少し優しくしておいたほうが良かったか?」

 

テューレ「いいえ、ただの下賤な女が次期皇帝のお情けを受けられたのですから。感謝されても良い方です。」

 

 そんな会話を聞いてディアボはゾルザルが何を企んでいるのかすぐに分かった。

 

ディアボ「(やられた!奴隷なんぞ当たり前のこと……それを謝罪を込めてニホン人を探してきたことにし、二ホンをなだめ講和への功績にするのか!そしてそれは帝位への近道!)」

 

ゾルザル「ディアボ、敵は神の如く強大な力を持っている。だが無人の議事堂を攻めるようなお人好しの腰抜け連中だ。我々帝国の敵ではない、恐るるに足らん。まともに戦って勝てぬなら、まともに戦わなければよい。お前もどちら側につくかよく考えろ。俺か、皇帝か。ピニャは……二ホンと親しすぎるか。とにかく、早いうちに決めておけ。」

 

テューレ「汗の方、お拭きいたします。」

 

ゾルザル「いらん!それより……少し休ませてくれ。本当なら今すぐにでもお前を抱いてこの痛みを忘れたい……だが胸の痛みがそれを邪魔する。今はほっといてくれ……」

 

 そう告げると、彼は眠ってしまった。ディアボはゾルザルの寝室を出ると、頭を押さえた。

 

ディアボ「(……やはり兄様は大馬鹿者だ。馬鹿を演じている内に本当の大馬鹿者になってしまった…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――アルヌス村――

 

 地震の影響から数時間が経ち、街の様子も落ち着きを取り戻しつつある。

 街の人達は地震によって落下した物の片づけや、損傷した家屋の修復などに取り掛かっている。

 自衛隊も街の復興作業に協力し、地震の混乱を利用した犯罪の防止など、街の治安維持に務めている。

 ロゥリィも朝早くから異常がないか調べていると、ある変化に気がついた。彼女はすぐ近くにいたワーウルフの傭兵であるウォルフをハルバードで軽く持ち上げ、その場で尋問した。

 二倍の身長を持つウォルフを軽々と持ち上げる彼女を見て、街の人達や自衛官は驚きを隠せない。

 

ロゥリィ「ウォ~ル~フ~?倉庫にあったはずの二ホンから来た荷馬車が一つ消えているそうよぉ?地揺れの後ぉ、あなたの隊に見張りを頼んでおいたはずよねぇ?」

 

ウォルフ「ス…スンマセン…あ、あの後ジエイタイに色々と手伝い頼まれたり、他の連中もバタバタしてて…それで…その…」

 

 そんなしどろもどろで弁解しているウォルフと尋問しているロゥリィの元に、テュカがやってきた。だがその表情はいつもの彼女では無かった。額から汗を流し、荒く息をしている。

 

テュカ「ロゥリィ!父さんを見なかった!?地揺れの後、戻ってきてないの!まったくもう!心配ばっかりかけて!」

 

ロゥリィ「あ、ちょっと!テュカぁ!ちょっとぉ…そろそろやばいわねぇ…」

 

ウォルフ「聖下……そろそろ…俺も……や…ばい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テュカはアルヌス村近くの森林で木を背もたれにして座り込んでいた。

 これだけ探しても見つからないということは……いや!そんなはずは――

 テュカが一人で自問自答を繰り返していたその時、木の後ろから声が聞こえてきた。

 

ヤオ「父上は見つかったか、テュカ殿?まぁ…見つかるはずもないか…もうすでに死んでるんだから。」

 

テュカ「――ッ!アンタ一体何なの!この前から何度も何度も!一体何のつもり!?」

 

ヤオ「いい加減現実を見てもらおうと思ってな…話で聞いたぞ、もはや生き残りはそなた一人だというではないか!他の者は皆、炎龍に食われ、焼き殺されたのだ!襲われた時のことを思い出せ!そなたの父上も!友人も!仲間も!」

 

テュカ「――そ…そんなの嘘よ!!」

 

ヤオ「嘘ではない!すべて真実だ!事実だ!もはやいくら探しても見つからん!!それを認めて敵を討つのだ!!そして…緑の人に…巨人に…助勢を頼むのだ。」

 

 ヤオはそう言い残すと、森の奥へと消えていった。入れ違いになるようにテュカを心配して探しに来たウォルフとロゥリィがやってきた。

 

ウォルフ「テュカさーん!どこ行ったん…あ、いた。聖下!いましたぜー。」

 

ロゥリィ「……テュカ?」

 

 その問いかけに彼女は答えず、俯いてただじっとしている。嫌な予感がする…しばらくしてそれは的中した。テュカはゆっくり顔を上げてようやく声を発した。

 その時の彼女の顔は…目は…何もかもが死んでいた…。

 

テュカ「ねぇ……聞いてよ…あのダークエルフ、お父さんが死んだって言うのよ……馬鹿みたい…笑っちゃうでしょ?」

 

ロゥリィ「……テュカ、いっしょに来てぇ、話したいことがあるのぉ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻――アルヌス駐屯地周辺空域――

 

 シャークマウスのノーズアートがプリントされたFA(ファットアンクル)が、滝の一部と化した遺跡の上空を飛行していた。

 機内には鷲谷のザクⅠ、梶のザクⅡ、試験用ザクスナの三機が格納されている。

 特に異彩を放っていたのは鷲谷のザクⅠで、手足の先にはゾルザルの側近兵だった(・・・)者達の血肉がベットリとこびりついている。

 よく見ると隙間には肉片の一部や耳、鼻や歯、髪の毛に目玉まで挟まっている。

 

 三機の下には第三偵察隊や試験を無事に終え一息つく和賀佐と槲手、試験パイロットの阪疋や梶、元ベッサーラ家の妾だったパルナと娘のエリーナ、そして拉致被害者の望月紀子がいた。

 彼女は『ガニー軍曹のFULL METAL CHOCO!厚さ7.62mm!超ビター!』という名前の板チョコを持っている。

 文字の横には戦争映画『フルメタル・ジャケット』で鬼教官ハートマン軍曹を演じ、その後はミリタリー番組の司会等をしているガニー軍曹ことR・リー・アーメイが写っている。

 

 実のところ紀子は始めて見た科学の結晶体であるザクの圧倒的戦闘シーンや日本の国土と国民を第一に守る自衛官達を見ても、未だに助けられたという実感が湧いていなかった。

 それもそうだろう、彼女はつい数時間ほど前までは中世のヨーロッパ時代位の街で奴隷として過ごしていたのだから。

 絶望だけが彼女の心を支配していた、そこに突如現れた一筋の希望の光。驚くのも無理はない。

 

紀子「帰れるんだ……(お母さん…心配しているだろうな…帰ったら連絡しなくちゃ…裕樹、無事でいて…)」

 

 そうやって思いふけっていたその時、不意に流れたラジオDJの陽気な声に意識を取られた。

 ザクⅠのコックピットが開いており、そこから音が流れている様子を見ると、どうやら鷲谷が流しているようだ。

 

DJMR「おはよう、特地!DJメガネラビットの異世界ラジオの時間だ!今日は今朝から大きな地震があったな。また余震があるかもしれないから気をつけて、今日の仕事に取り組んでくれ。もし非番だったらアルヌス村の片づけの手伝いに行ってやってくれ。もしかしたら、可愛いお姉ちゃんにいいことしてもらえるかもよ?それと同じく今朝に行われた報復爆撃だけど、結果は大成功だ!現場にいた自衛官の話によるとまるでベトナム戦争みたいだったって!俺も見てみたかったよ。そういえばベトナムで思い出したけど、ピッタリなリクエスト曲が送られてきたから紹介しよう。ラジオネーム『弾幕薄いよ、なにやってんの!』さんからのリクエストで『Creedence Clearwater Revival』の『Fortunate Son』です!それでは、どうぞ!」

 

 DJがそう言い終わると同時にドラムとギターの演奏が流れ始める。この歌は1955年11月から始まり1975年4月30日に終わったベトナム戦争に徴兵される人達から見た富裕層の議員やその子供達を皮肉った反戦歌である。

 

 Some folks are born, made to wave the flag(愛国者共が国旗を振っているぜ)

 

 Ooo, their red, white and blue(赤や白や青に彩られた旗をな!)

 

 And when the band plays "Hail to the Chief"(だけどバンドが『大統領万歳』と奏でると)

 

 Ooo, they point the cannon at you, Lord(国はお前達に大砲を向けるんだ、クソッ!)

 

 It ain't me, it ain't me,(俺じゃねぇ、俺じゃねぇよ)

 

 I ain't no senator's son, son(俺は上院議員の息子じゃねぇ!)

 

 It ain't me, it ain't me,(俺を指差すな、愛国心を求めるな)

 

 I ain't no fortunate one, no(俺って本当に運が無い、イェイ!)

 

 そんなベトナム気分に包まれたFAはアルヌス管制塔からの誘導指示で病院前LP(ランディングポイント)に着陸した。

 紀子は身体検査をするため医官に連れられ病院へと入っていき、和賀佐と槲手は報告書を書くため宿舎へと歩いていった。残った自衛官達は積み荷の降ろし作業を始める。

 荷物を降ろし終えると、FAはザクⅠの洗浄や他の二機を整備するためMS格納整備場へ向けて飛び立った。

 

伊丹「えーっと…特地の資料は全部二科行きだっけ?資料は…鉱物・土壌・動植物のサンプルや資源分布推測地図。あとは商工業に地理情報か。」

 

倉田「一偵も五偵も皆真面目に調査してますねぇ。」

 

伊丹「うちも民族(女のコ)文化面(食い物)についてなら負けてないぞ!」

 

 そこへいつものようにニタニタと笑いながら柳田がやってきた。

 

柳田「よぉ伊丹、ま~たやらかしたってぇ?ほんっとお前は状況を面白くしてくれるぜ。今回も拉致被害者の救出っていう手柄まで持ってきて。罰したものか賞したものか……」

 

伊丹「…で、状況は?」

 

柳田「四対六で減俸……なんだが、特地の情報を小出しに公開し始めた政府が支持率アップを狙って、この事を大々的に発表したがってる。更には明日始まるG8外相会談で政府は各国のMSの情報提供と特地に入れろって要求を突っぱねるらしい。」

 

伊丹「へぇ…珍しい。」

 

柳田「当たり前だろ。東京のど真ん中に他国軍が居座るんだぞ?それも一つや二つなんてもんじゃない。門の向こうに中国やロシアなんか入れてみろ、森林伐採や鉱物資源の大量採掘による環境破壊、地元住民の強制退去や工場の建設etc……多国間でのいざこざは確実に発生するだろうし、そんな連中にMSなんて渡したら最悪の場合、特地で第三次世界大戦が勃発するぞ?それ位お前でも想像できるだろ?というわけで狭間陸将もお前を罰したいんだが処罰できずに困りきっているところだ。しばらく呼び出しは無いな。」

 

伊丹「陸将!毎度迷惑かけてスンマセン!」

 

 伊丹は陸将室に向かってお辞儀をしながら手を合わせた。

 

柳田「もう一つ、拉致被害者の望月紀子の家族についてだが……銀座事件当時、娘を探すために銀座でビラ配りしていたそうだ。」

 

伊丹「お…おい、それって――」

 

柳田「待て待て、結論を急ぐな。家族は無事だ、全員な。多少の怪我は負ったが命に別状はない程度だ。」

 

伊丹「なんだよ、脅かすな。」

 

柳田「既に退院しているが、実家が家電の漏電で全焼していて携帯電話も何もかも燃え尽きたらしい。今は仮住まいのアパートで暮らしてる。これはそこの電話番号だ、彼女に渡してやれ。それと帝都で何があったか現場の声を直接聞きたい。晩にアルヌス村で飲もう…まぁそんな顔するな。」

 

 柳田の誘いにしかめっ面を向ける伊丹。仕方なく誘いには乗るが、転んでもただでは起きないのが彼だ。柳田に内緒で三偵のメンバー全員連れて行こう…そんな伊丹の思惑などつゆ知らず、柳田は来た道を帰っていった。

 伊丹は紀子についていった栗林と黒川の荷物を持って病院内へと入っていった。

 その様子を白髪の老人が見下ろしているということに気づかないまま……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、一か月以上お待たせして本当に申し訳ありません。
メガネラビットです、覚えててくれてるかな…?(-_-;)

仕事の方がこのところ立て込んでおりまして、中々こちらの方に手が回りませんでした。
スランプに陥っていたのも大きな理由ですね。え?何故かって?
METROの方を書いてた…がっこうぐらし!にハマった…ポストアポカリプスものSSにハマりまくってた…
S.T.A.L.K.E.R.とかMETROとかFalloutとか書いてる人、本当に尊敬します。
あぁいう絶望の中に微かな希望を見出すような文章って本当に難しい…

…なんて関係ない話は一旦置いといて…解説コーナーの方、行きましょう。

解説コーナー

《テューレを抱かせない》

あれだけ痛めつけたからには禄に女も抱けないでしょう。
ゾルザル、しばらくアンタS〇X禁止な。

ゾルザル「そんな!?(;゚Д゚)」

《ヤオ、テュカの心を壊しにかかる》

そろそろテュカの心が大きく壊れ始めます。
それを伊丹と鷲谷はどう対処するのか…

《R・リー・アーメイ》

俺あの人のミリタリー大百科大好きなんだよね。
本当に軍人として兵役していたから専門知識には詳しいんだろうな。

《DJMR》

俺もちょこちょここういう役で出てきますよ。
ニッフィーみたいな感じと思って。

《Creedence Clearwater Revival の Fortunate Son》

R・リー・アーメイと言ったらFMJ、FMJと言ったらこの曲でしょう!
翻訳は検索したけど、間違ってたらすまん。

《次回の試作MSについて》

皆お待ちかねの機体が出てくるぞ!
何だと思う?ヒントはロゥリィ!分かるかな?

《望月家生存》

MSの活躍により望月家は全員生存しています!
ただし、実家の全焼はそのまま。あれは家電による火災だから仕方ないと思う。
命があるだけめっけもんだ。

《白髪の老人》

今更ながら気づいたんだけど…あの人とソンネン少佐って同じ声優さんが担当してたんだね。ちょっとビックリw









次回も不定期更新になると思います。
でも今月は夏季休業があるからもしかしたらもう一話投稿できるかもしれない。
まぁ、期待しないでくれ。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ


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