GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

講和交渉に向けて拠点確保に乗り出した自衛隊。
ベッサーラ家の襲撃も撃退し、講和に向けて順調に動いていると思っていたその矢先、テュワルという少女から地震が起きるかもしれないという情報を聞いた悪所事務所は帝都各班とイタリカ、アルヌスに連絡を行った。

そして…帝都は揺れた――




第二十五話:鉄拳制裁!交渉決裂?

地面が大きく上下左右に揺れ、地鳴りの音が聞こえる。周りの者達は今まで体験したことのない地震に驚き、悲鳴を上げる。自衛隊の施設はともかく、ろくな耐震対策も施されていない特地側の建物は激しく軋み、今にも崩れ落ちそうになる。

程なくして揺れは収まったが、すでにピニャ達の精神面はボロボロになっている。自衛隊側からしてみれば、この程度の揺れは日常的に起こっているので特に気にする事ではないが。

 

伊丹「大丈夫ですか、ピニャ殿下。」

 

ピニャ「あ…あぁ……」

 

伊丹「悪所の方じゃ被害が出ているかもしれませんが、この辺りは大丈夫そうですね。」

 

ピニャ「イタミ殿はこの揺れが怖くないのか?」

 

伊丹「この程度、日本じゃしょっちゅうなんですよ。これ以上の地震が過去に数回ありましたし…これからも起きるって言われてます。でも気をつけて下さいよ?まだ何回かは揺れますから。」

 

ピニャ「ま、また揺れるのか!?」

 

伊丹「えぇ、余震…揺り戻しですが、大きい地揺れの後には何回か起きるんですよ。」

 

ピニャ「そうと知ったらこうしてはおれん!父上にお知らせしなければ…皇宮に参るぞ!着替えを持て!!」

 

伊丹「あ、戻ります?ではお気をつけて。我々は悪所の拠点に戻りますので。」

 

ピニャ「い、一緒に来てくれぬのか?」

 

伊丹「いや…ほら…ねぇ?殿下の父上って皇帝陛下でしょ?一応、我々はまだ敵でありますから……色々とマズいでしょ?」

 

これまで伊丹達と親しく接してはいたが、よくよく考えてみると日本とはまだ戦争状態であるということを思い出した。敵兵を皇宮に入れるなど前代未聞のことだが、また地揺れが起きた時の事を考えるとそんな事言っていられる状況では無かった。

 

ピニャ「イ、イタミ殿……お願いだ、妾のそばにいてほしい……」

 

涙目で訴えかけるピニャに何度もうなづくハミルトン、更には周りにいるピニャの側近兵ですら顔を青くして見ている。頼みを断れないのが日本人の良い所であり、ある意味では悪い所である。仕方なくピニャと一緒に皇宮へと向かうことにした。

 

伊丹「鷲谷、ドローン飛ばせるか?それで俺達を尾行して動画を撮影して欲しい。何かあった時の判断材料にしたい。一応、MSの起動準備もしておけ。」

 

鷲谷「了解、お気をつけて。」

 

準備を済ませ伊丹達は宮殿内部へと入っていった。遠目から見たらそれほど損壊している箇所は無いように見えるが、いざ内部へ入ると彫刻は倒れ、篝火は消え、壁や柱には小さなヒビが入っている。廊下の隅には地震の恐怖で心が折れた者や神に祈りを捧げている者までいる始末だ。ピニャはそんな彼らの様子を見て落胆していた。

 

ピニャ「なんだこれは…ここまで入って見張りの誰何(すいか)の一つもないとは…近衛(このえ)の質も落ちたものだ…当直の者を謁見の間に集めよ!」

 

階段を上がり、廊下を進んでいくと大きな扉が見えてきた。

 

ピニャ「ここにも近衛がおらん、普段ならありえないことだぞ?」

 

ハミルトン「あの殿下、ここは?」

 

ピニャ「父上の寝室だ。」

 

ハミルトン「え!?皇帝陛下の!?」

 

ピニャ「あぁ、そうだ。だからマズいのだ…スガワラ殿、妾が父上にそなたを紹介する。それまで口を開かないでくれまいか?」

 

菅原「分かりました。」

 

扉を開け中に入ると、大きなベッドに座り込むモルトの姿があった。いつも冷静沈着な彼が大粒の汗を掻いている。

 

モルト「ほう?最初に来るのはディアボかゾルザルかと思っておったが…まさかお前とはの…ピニャ。」

 

ピニャ「父上、身支度をお急ぎください。謁見の間にお連れ致します。」

 

身体を支えてもらいながら、モルトは謁見の間のいつも座っている椅子の上に座った。ピニャは側近兵やメイド達に的確な命令を出している。

 

ピニャ「うろたえるな!大臣と帝都軍営の将軍達に伝令を出し参集を命じよ!武官は近衛兵を掌握し急ぎ皇宮の守りを固めるのだ!そなた達は広間の片づけを頼む!」

 

モルト「ピニャよ、そなた一皮むけたな。」

 

ピニャ「皮がむけるようなケガはしておりませんが?」

 

モルト「そうではなくてな…まぁケガが無い事は良い事だ。時にピニャよ、見慣れぬ者達を側に置いておるが、皆が集まるまでの間に紹介してくれぬかの?」

 

ピニャ「かしこまりました、紹介いたします!二ホン国使節のスガワラ殿であります!」

 

菅原は姿勢を正し、深く礼をする。それに合わせて伊丹達は敬礼を行う。

 

モルト「ほう、二ホン国?そういえばそなたが仲介役をしておったな。だがなぜこのような時にお連れした?」

 

ピニャ「それにつきましては申し訳ありません。されどこの者達は地揺れに精通しております。彼らの話では揺り戻しがあると言っておられます。」

 

モルト「なんと!また揺れるのか!?……まぁ、よかろう。使節殿、歓迎申し上げる。」

 

菅原「陛下におかれましてはご機嫌麗しく。」

 

モルト「天変地異の後に麗しいはずはないが、娘の成長を見る事は出来た。礼を言うぞ。戦ごっこをしているとばかり思っていたのだがな。時を所を変えて盛大な宴でもてなしたいが、今宵は事が事であるため勘弁してもらいたい。」

 

菅原「はい、陛下。あらためて我が国と帝国との交渉の場をいただきたく存じます。」

 

モルト「そういえば…二ホン国にも王が…いや貴国の場合はテンノウという象徴がいるというのであったな。」

 

その言葉を聞いて菅原は、モルトは日本が門の向こうにあると既に分かっていると気づいた。日本の象徴が天皇陛下であると誰も言っていないのに、彼はそれを知っていた。なぜ彼が…?その理由が今、扉を開けて入ってきた。

 

ゾルザル「父上!ご無事か!?」

 

ゾルザルの後ろには三十人近くの側近がついてきており、慌てて駆けつけたのか一部は寝間着姿や上半身に何も着ていない者もいる。だがそれよりも目を引いたのは、首に鎖でつながれた5人の女性奴隷だった。彼女らは裸の状態で引きずられており、身体中は血とゾルザルの精液で汚れている。その光景に伊丹達は驚き、菅原に至っては舌打ちをするレベルの不快感を覚えている。

 

ピニャ「たった今主だった者に召集をかけたところです。待たねば宮廷が混乱に――」

 

ゾルザル「何を悠長な事を言っている!!また地揺れが起きるとノリコ(・・・)が言っておるのだ!」

 

伊丹「(ノリコ!?まるで日本人名みたいだが……まさか!?)」

 

ゾルザル「そこをどけ!ピニャ!父上をお連れする!」

 

ピニャ「落ち着きなされ!どこにお連れしようと言うのですか!それにしても兄上、地揺れのこと、よくご存じで……妾もついさっき聞き入ったと言うのに…」

 

ゾルザル「だからノリコに聞いたと言っておろう!」

 

ピニャ「ノリコ?聞き慣れぬ名ですね?」

 

ゾルザル「こいつだ!黒髪の女だ、『門』の向こう(二 ホ ン)から攫ってきた連中の生き残りだ。」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、彼の頭で何かが切れ、壊れ、そして怒りに支配された…

 

 

 

伊丹「このクソ野郎!ぶっ殺す!!」

 

彼は右手に力を籠め、全身全霊でゾルザルの左頬に拳を打ちこんだ。顔は大きく歪み、吹っ飛ばされた。その光景にその場にいる全員が驚愕した。無論、富田や栗林、菅原ですら驚いているのだ。

 

ゾルザル「貴様…殴ったな?皇子であるこの俺を殴ったな!!」

 

側近兵A「この無礼者!!皇子殿下に手を上げるとは!」

 

側近兵B「一族郎党皆殺しの大罪であるぞ!!」

 

側近兵C「生きてこの皇宮から出られると思うな!!」

 

ゾルザルの側近兵は剣や槍を構え、臨戦態勢に入る。栗林はその間にノリコと呼ばれた日本人女性の救出に入る。

 

栗林「大丈夫?私達は陸上自衛隊よ、日本人ね?」

 

ノリコ――紀子は久方ぶりに見る自分以外の日本人の姿に安堵し、大粒の涙をこぼした。しかもそれが自衛官であるということに心から神に感謝を捧げた。

 

紀子「た…助けに来てくれたの?」

 

栗林「えぇ、絶対に連れて帰ってあげる。それまで私達のそばでじっとしていて。」

 

首に巻かれた革製の拘束具をナイフで切って彼女を解放し、菅原はそっと彼女に自分のスーツの上着をかける。

 

菅原「もう大丈夫ですよ。……陛下!先程、皇子殿下が彼女を門の向こうから攫ってきたとおっしゃられたが、いったいこれはどういうことでしょうか!?そしてピニャ殿下、この事をご存知でしたか?」

 

ピニャはこの光景に頭が追い付いていなかった。なぜ伊丹がゾルザルを殴ったのか…なぜ菅原はこのような態度をとるのか…たった一人の日本人のためにこれまでの講和の全てを無駄にしようとするのか?……彼女には到底理解出来なかった。

 

ピニャ「イタミ殿!それに皆も剣を収めよ!これは何かの手違いじゃ!妾に免じて――」

 

ゾルザル「ピニャ、もう何もかも手遅れだ。こやつらの国の運命はもう決まった!いずこの蛮国か知らぬが…全てを壊し、全てを殺し、全てを奪い、全てを焼き払ってくれるわ……今更慈悲を乞うても無駄だ…全ては貴様のせいだ!!自らが行った罪の重さに苦しんで死ぬがよい!!」

 

ゾルザルの罵声に、伊丹は気にせず三人に命令を下す。

 

伊丹「富田、栗林、彼女を護衛してここから脱出する。鷲谷、聞こえているか?」

 

鷲谷《えぇ…聞こえていますとも…》

 

伊丹「さっきの録画したか?」

 

鷲谷《えぇ、バッチリ…さっきのストレートパンチも綺麗に撮れてますよ?》

 

伊丹「なら結構。あとどれぐらいで来れる?」

 

鷲谷《…3秒です。》

 

鷲谷が答えた後、地鳴りのような音が響き、周りが小刻みに揺れ始めた。周りの者はまた先ほどの地揺れかと思っているがそれにしては小さすぎると不思議に感じていた。その直後……モルトが座っている後ろの壁から手が生えてきた。

 

壁を打ち破り、窓を割り、柱を折るその手は緑色に染まり、壊された壁の隙間から赤い一つの目が彼らを睨みつけていた。瓦礫が次々と降り注ぐ中、ピニャはモルトの手を引き、椅子から引きずり下ろす。その一秒後、大きな壁の破片が椅子を粉々に破壊し、間一髪でモルトは助かった。壁を完全に破壊したその場に立っていたのは、天井に頭が届くほどの身長を持つ緑色の巨人(旧 ザ ク)だった。

 

ゾルザル「貴様ら…俺を殴るだけでは飽き足らず、この皇宮に穴を開け、父上を危険にさらし、更には汚らわしい巨人まで入れるとは!!貴様らタダでは済まさん!!その巨人を殺した後、男は拷問の末に生きたまま翼竜の餌にして、女は身も心もズタズタになるまで犯してやる!!」

 

伊丹「目の前でギャーギャー言ってる金髪馬鹿は殺すなよ、それ以外は殺っていい。」

 

鷲谷《了解!》

 

ゾルザル「お前達、この巨人を殺せ!!殺した暁にはどんな褒美もくれてやろう!!」

 

ゾルザルの命令で一斉に側近兵達はザクに向かって突撃を行う。ある者は剣を振るい、ある者は槍を突き刺し、ある者は盾を叩き付ける。だがザクの表面装甲はおろか、塗装を少し削るだけで何の効果もない。

 

ザクは右手を握りしめ、兵士に向かって上から叩き付ける。一人の兵士が身元の判別がつかないくらいに潰され、絨毯に赤黒いシミを付ける。そのまま叩き付けた右手を左に振るい近くにいた三人を吹き飛ばして、大理石の壁に三つの紅い華を咲かせる。

 

一人の兵士が手に飛び乗り手首の隙間に剣を刺すが、剣が折れるという情けない結果で終わった。気づく頃には既に左腕が彼を掴んでいた。徐々に握る力が強くなり兵士は助けを乞うが、それは次第に悲鳴へと変わる。一気に力を入れ兵士を握りつぶすと、圧力の勢いで外に出ていた頭が弧を描くように飛んだ。それは床に落ちるとゾルザルの足元にコロコロと転がっていく。その兵士の顔は恐怖と痛みでぐしゃぐしゃに歪んでいた。

 

ゾルザル「ヒッ!?」

 

彼が驚いている間もザクの蹂躙劇は続いている。ザクは右足を後ろに引き、勢いをつけて目の前にいる兵士達を蹴り飛ばした。数名の兵士が壁や柱、更には天井にまで飛ばされ、血の雨を降らせる。

 

兵士が二人、逃げようと入口まで走るが一人は右手に掴まれてしまう。さっきの兵士のように握りつぶされると誰もが思っていた。だが次の瞬間、ザクは逃げるもう一人の兵士に向かって右手の兵士を思い切り投げつけた。悲鳴を上げながら後ろから近づく何かに気づいた兵士が後ろを振り向くと、そこには先ほど掴まれたはずの兵士が目の前に迫って来ていた。避ける暇もなく、二人の兵士はその身を物理的に一つにした。

 

ゾルザル「くっ!お前ら、何をしている!!早くそいつを倒さんか!!」

 

この馬鹿はこれほどまでに強大な力を前にしても勝てるという、もはや洗脳に近い状態に陥っている。既に周りの兵士達は自分達はこの巨人には勝てないと気がついているのに。

 

兵士達は盾を捨て、重たい鎧を脱ぎ始めた。この巨人に盾や鎧など通用しないと学んだ兵士達は少しでも軽くしてザクの下を突破し、ゾルザルを救出する作戦を考えた。準備が整い、一斉に突撃する兵士達を前に、ザクは一歩下がり始め、左腕を突き出すように構える。

 

 

 

刹那、鉛の暴風雨が彼らの命を刈りとった。

 

 

 

左腕に装備されたGAU-19から放たれる毎分2000発もの12.7x99mm NATO弾が二つの銃口から発射され、排莢口から鈍い光を放つ薬莢がまるで雨のように降り注ぎ、カランコロンと甲高い音を奏でる。絨毯はズタズタに引き裂かれ、大理石の柱や床を削りとり、弾丸の進行方向にいた兵士達はミンチよりも酷い肉塊にされ、その命を強制終了させられた。

 

轟音が止み、その場にはもはや誰かも分からぬほど無残な姿になった兵士達の肉塊が複数横たわっていた。辛うじて攻撃を受けなかった者もいたが、ザクの一方的な攻撃の前に全員、戦意を喪失していた。鷲谷は外部スピーカーにマイクを接続させて武装放棄の警告を出す。

 

鷲谷《次、試してみたい奴はいるか?》

 

ゾルザル「しゃ…喋った…だと…?」

 

鷲谷《死にたくない奴、家族がいる奴、やる気のない玉無しはさっさと武器を捨てろ!!》

 

鷲谷の言葉にゾルザルの側近兵は皆武器をその場に捨て、後ずさりを始める。

 

ゾルザル「なっ!何をしておるか!!剣を取れ!槍を構えろ!」

 

ゾルザルは必死に命令を下すが、圧倒的な力の前に心の折れた彼らは誰一人として武器を取らなかった。再び左腕を構えると、側近達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。伊丹が向けている9mm拳銃にゾルザルは怯えていた。もしこれが火を噴いたら、自分も死ぬのかと…

 

伊丹「さて……皇子殿下の側近もいなくなりましたし…聞かせてもらいましょうか?あなたは先程あの女性を『門』の向こうから攫ってきた『生き残り』とおっしゃいましたね?それはつまり、他にも攫ってきた人がいるということですね?」

 

普通の人ならここで正直に話すところだが、この脳みそが蟻以下の男はまだ白を切り続ける。

 

ゾルザル「ふんっ!無礼で野蛮な蛮人に答える口など俺は持ち合わせてない!話が聞きたければ、頭を地に擦りつけながらさっきの非礼を詫びて礼儀正しく頼むことだな!」

 

ピニャ「あ、兄上。ここは一歩お引きになって――」

 

ゾルザル「黙れ!そもそもお前がこやつらを連れ込んだせいでこんなことになったんだ!妾の子がいらぬことをしおって!己の立場をわきまえたらどうだ!?」

 

ピニャ「わきまえるのは兄上の方です!このままでは二ホンと再び戦争状態に発展してしまうのですよ!?そうなってしまったら帝国は確実に負けます!」

 

ゾルザル「野蛮で能無しの連中に帝国が負けるだと!?冗談もほどほどにしろ!!こんな連中に我が帝国が負けるわけがないだろう!!」

 

伊丹「あー皇子。兄妹喧嘩も良いですが、我々の質問に答えてくれないと困りますよ。質問に答えていただかないと…栗林君、自分の口から喋りたくなるようにしてあげなさい。くれぐれも殺しちゃダメよ?」

 

栗林「はいっ!隊長♪」

 

栗林は両手をバキバキと鳴らし、新しいおもちゃを買って貰った子供のような笑みを浮かべながらゾルザルに近づいていく。

 

ゾルザル「はっ!貴様のような小娘に何が出来る!?俺の口を割りたければそこの巨人の方がまだ…お、おい何をするつもりだ…待て!やめよ!!」

 

栗林はゾルザルの左頬に右ストレートをお見舞いし、そのまま襟をつかんで右頬に裏拳を叩きこむ。それを五回程繰り返すと彼の鼻や口からは血がダラダラと流れ、真っ赤に染めあがっていた。襟を離すと両手を使って必死に彼女から逃げようとまるで芋虫のように地べたを這いずり回る。栗林はそんな彼の左側にまわり込むと勢いよく腹を蹴り上げる。胃が圧迫され中のものを辺りにぶちまけてしまう。

 

ゾルザル「だ…誰か…助けてぐべぇ!!」

 

助けを求める血と吐瀉物にまみれた彼の顔を踏みつけるように蹴りを入れる。半長靴のゴツゴツとした底が彼の顔にめり込み、その衝撃で鼻が潰れる。栗林はゾルザルの左手を掴んで小指を握り、徐々に力を加えていく。

 

ゾルザル「た!頼む!指だけは勘弁してくr『ペキン』ぎゃあああ!ゆ、指があぁぁぁぁぁ!!」

 

そこまでやったところで大臣や将軍達が謁見の間に集合した。彼らは目の前の光景に言葉が出なかった。大きく開いた穴に巨大な緑色の巨人、惨たらしい数々の死体に血まみれのゾルザルの姿。一言で表すならカオスである。

 

伊丹「さてと…殿下、しゃべりたくなりましたか?」

 

ゾルザルは何も言わず…いや何も言えずに目から涙をこぼし、口からは血を吐きながら伊丹を睨み付けた。梃子でも動かぬ様子のゾルザルに更なる怒りを覚えたのか、今度は鷲谷に命令を出した。

 

伊丹「鷲谷、やれ。」

 

鷲谷《了解。》

 

ザクはしゃがんで体制を低くすると、右手の人差し指でゾルザルの胸部を押し始めた。肋骨がミシミシと音を立て、時々枝を折るような音が聞こえてきた。

 

ゾルザル「や、やめろぉぉぉ!!『バキッ!』がっ!あぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁ!!」

 

テューレはこのままではゾルザルが殺されてしまうと感じた。彼女の復讐には彼は絶対に必要不可欠。このまま殺してしまっては自分をこんな目に合わせた帝国自体に復讐が出来ない。なんとかして彼を助けなくては…テューレは急いで彼の元へと走った。その時、ザクの目が右方向へと向き、彼女を睨み付けた。その瞬間、彼女はメデューサの呪いにでもかかったかのように身体が固まってしまった。それはまるで『何もするな』と伝えるような悲しい眼をしていた。

 

伊丹「殿下、もう一度だけ聞きます。あなたは彼女のことを『生き残り』と呼びましたね?それはつまり、他にも攫ってきた日本人がいるということですね?」

 

その質問にゾルザルは首を何度も縦に振った。

 

紀子「裕樹は!?裕樹はどうなったの!?」

 

伊丹「その人と一緒に連れ去られたんですか?」

 

紀子「えぇ、銀座を二人で歩いていたら突然後ろから捕まれて…気づいたら馬車に…他にも何人かいたわ。」

 

伊丹「殿下、是非とも聞かせていただきたい。」

 

ゾルザル「はぁ…はぁ…男は…奴隷市場に…流し…た…他の…連中は…知ら…ん…ゴフッ!」

 

息絶え絶えの中、彼はようやく口を開いた。限界が来たのかしばらくして気絶してしまった。

 

菅原「皇帝陛下、先程の歓迎の宴のお話は拉致された我が国民が返ってきてからにいたしましょう。陛下の信ずる神は存じ上げませんが、是非とも彼らが生きている事をお祈りください。そしてピニャ殿下、のちほど彼らの消息と返還について良い話が聞かせていただけるものと期待しております。」

 

菅原の重みのある言葉にピニャは何も言えなかった。菅原と伊丹は顔を見合わせ撤収準備を始める。

 

伊丹「栗林は先導、富田は後ろを守れ。鷲谷はMS格納拠点に向かえ。ここから撤収するぞ。」

 

将軍「待て貴様ら!近衛兵、彼らを何としても止めよ!!」

 

近衛兵達が伊丹達の退路を塞ぐように隊列を組み、槍を構える。だがそれはモルトの言葉によって止められた。

 

モルト「やめよ!!私はこれ以上この場が血で汚れるのはもう見とうない。皆の者、武器を下げよ。スガワラ殿、確かにそなたら二ホンの兵士達は強く逞しい、それは認めよう。だがそれだけでは戦には勝てぬ。それは貴国には大いなる弱点があるからだ。」

 

菅原「弱点とは?」

 

モルト「民を愛しすぎることよ、大いに煩わされることになろう。義に過ぎることよ、手に取るようにその動きが見えよう。信に過ぎることよ、大いに損をすることになろう。敵が強大で圧倒的ならば戦わなければよい。剣の切っ先は鋭く強くとも、柄は意外と脆いものだ。ならば鋭利な刃ではなくその柄を討てばよい。私の知る限り、高度な文明を誇りながらも国力を蕩尽し続けた結果、蛮族によって滅ぼされた国もある。貴国も心しておくがよい。」

 

菅原「我々は…我が国はその弱点を国是としております。そして我が国の自衛隊はその国是を守り全うするべく日々鍛錬を続けております。いっそのこと、またお試しになられますか?」

 

モルト「いや、そなたらに抗せるはずもなし。和平交渉を始めるがよかろう。」

 

菅原「陛下、我々は十分にわきまえております。平和とは次の戦争の準備期間であるということを。我が国と我が世界は帝国の歴史を遥かに超える血塗られた戦争の上に成り立っております。国、時代、兵器、武器、理由、人種は違えど多くの人が戦い、殺し、そして死んでいきました。和平交渉の最中に帝都を失うということを是非とも恐れていただきたい。」

 

モルト「(なるほど…交渉を引き延ばそうとしてもニホンの都合次第でいつでも帝都を陥とせるということか…)だがそれでもそこもとらは交渉を拒否できぬ、違うか?」

 

菅原「確かに、それが故に虚言に対する鉄槌は凄まじく恐ろしい物となることでしょう。それをご覚悟下さい、陛下。」

 

モルト「その言葉、我らを信じていると受け止めよう。だがそう上手くいくとは思うな――」

 

皆まで言おうとした時、再び余震が帝都を襲った。周りの者が怯えている間に伊丹達は皇宮を脱出した。外に出て周りの安全が確保されたところで伊丹と菅原の二人は今しがた行った事に後悔した。

 

伊丹「あぁーーー!!やっちまったぁ!!」

 

菅原「どうしよう…どうやって報告すればいいんだ…」

 

そして悪所近くのMS格納拠点では体育座りで落ち込んでいる旧ザクの姿が発見された。

 

 




どうも、KANA-BOON の Fighterを聴きながら執筆しているメガネラビットです。

いやはや、ようやく念願のゾルザル拷問編が書けましたよ。どうでしたか、皆さん?(露骨な感想稼ぎ)それと自分、ニコニコ超会議2017に行ってきました。やっぱり自衛隊はいいね!

解説コーナー

《ゾルザル側近兵蹂躙劇》

どうせならド派手にやろうと思って、イメージとしてはバイオ4の最初のエルヒガンテ戦のムービー。

《そもそも18mのザクは皇宮に入るの?》

いやほら…一応アニメだとジャイアントオーガー入ってたからザクも入るんじゃないかな~って思って…

《ゾルザル拷問ハードモード》

本来なら栗林が倒すはずだった側近兵をザクが皆倒しちゃったから必然的にゾルザルの拷問がノーマルからハードモードになりました。

《ゾルザルの肋骨がアボーン》

私の母親は昔肋骨を折った事がありまして、その時の話では息をするのが痛かったらしいです。これでゾルザルは息をするのも苦しくなったはずだ…(^ω^)クックック…

《新企画『ゾルザル拷問パーティ』について》

本来ならば今回の話の後書きに乗せたかったんですけど、書いた文章が消えてしまって…その…心が折れました…(ノД`)・゜・。
一時間かけて書き上げた文章が……explorerが停止して消えてしまった…たったの一秒だよ……というわけで皆様、申し訳ありませんが新企画の方については次回にまわさせてください。本当にすみませんでした<m(__)m>
下のURLにて募集しておりますので応募お待ちしております。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=146282&uid=118841







それではまた次回お会いしましょう!
それでは( `ー´)ノシ

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