GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

議員達の園遊会を執り行ったピニャと菅原、そして自衛隊の三偵。
主戦派へのデモンストレーションは無事成功したのだが…





伊丹達が帝都で園遊会を開いている時、アルヌス村ではテュカが食堂で仕事の休憩をしていた。周りでは薔薇騎士団の団員が恋話に花を咲かせている。
しばらくその様子を眺めていると、村の子供が伝言を伝えにやってきた。大工の棟梁が森で呼んでいるらしい。テュカは言われた通り、森に向かって行った。





しばらく森の中を進んでいくが、棟梁の姿はどこにも無い。すると木の陰から顔を隠したダークエルフ――ヤオが現れた。

ヤオ「テュカ殿、少し話がある。」

テュカ「ヤオ・ハー・デュッシ、何か用?私は大工の棟梁に呼ばれてるんだけど?」

ヤオ「棟梁などいない、私が呼んだんだからな。……そなた父親を捜しているようだが……本当に見つかると思っているのか?」

テュカ「……え?」

その時、森の中に風が吹いた―――




第二十四話:悪所

自衛隊特地派遣部隊は講和交渉開始の命令を受けて、帝都の拠点確保に動き出した。アルヌス共同生活組合のPXや買収した居酒屋の二階など……

その中でも活動の中心となった場所が悪所事務所なのである。

 

 

帝都南東門界隈、そこを人はこう呼ぶ――『悪所』

 

帝都の中で一番低い場所に位置するこの地区は貧民街(スラム)と化しており、ここは種族や民族、獣人や亜人が入り乱れる坩堝。暴力と犯罪が日常化しており、街を歩けば右に奴隷販売、左に売春、後ろでは暴力と殺人、前には盗難や万引き……そんな光景が毎日見られる。食肉売り場では豚や鳥や牛に混じって人肉が売られていたりする。あまりにも危険すぎるため、帝都の一般市民はおろか帝国兵すら近づかない。まさしくこの場所は自衛隊の活動拠点にピッタリなのだ。

 

だがそんな悪所でも取りまとめるための顔役達はいる。ゴンゾーリ家、メデュサ家、パラマウンテ家、そしてベッサーラ家の四家だ。悪所では物珍しい自衛隊の噂はすぐに彼らの耳に届いた。

 

ゴンゾーリ「あの新参者は完全に儂達を無視しておる、腹立たしい!」

 

メデュサ「金をあちこちにバラまくくせに俺達にはビタ一も上納金を払わん!」

 

パラマウンテ「まったくもって目障りな連中だ。」

 

ベッサーラ「連中のアジトにゃ金がたんまりうなっているそうだ。このベッサーラ様が少しばかり頂いて、悪所のしきたりというものを教えてやろうじゃねぇか。」

 

その夜、自衛隊の活動拠点の周りをベッサーラの私兵が取り囲んだ。私兵はヒトばかりでなく、蟻を祖先に持つ六肢族やワーウルフなどもいる。向かいの屋根には弓やボウガンを持った弓兵が窓に狙いを定めている。

 

ベッサーラ「フン、金がある割には随分と貧相な家だな。まぁいい、やれ!!」

 

ベッサーラの合図で弓兵達が一斉に矢を放ち、それらが木窓に次々と刺さる。そして私兵が前進を始める。兵士たちが家の前で止まり、六肢族の一人が棍棒を振り上げてドアを破ろうとする。その時、『ギィ』という軋む音が響き、目の前のドアが徐々に開いていく。そしてその隙間からKSGを構える自衛官の姿を見たところで、男の意識は永遠に閉ざされた。

 

一瞬の閃光と爆発音がしたと思いきや、先ほどまで棍棒を構えていた六肢族の男の頭が粉々に吹き飛ばされた。突然の事態に周りの私兵達は困惑し、動きを止めてしまう。それが彼らの運の尽きだった。窓から次々と銃火器を構えた自衛官達が現れ、その銃口を私兵達に向ける。銃火器は64式やM299のみならず、工作員部隊襲撃時に鹵獲した武器などもある。そして……

 

新田原「てぇ!!」

 

悪所事務所所長、新田原三佐の射撃命令が下った。7.62mm NATO弾や5.56mm NATO弾、MP7の4.6x30mm弾やKSGの12ゲージショットシェルの十字砲火が彼らを無慈悲に切り裂いていく。懸命に立ち向かおうとするが上と前からの連続射撃に私兵達は骸と化す。道の上に次々と死体の山が出来上がっていく。ベッサーラはこの光景を見て恐怖におののき、一目散に自宅へと逃げていく。

 

ベッサーラ「奴ら一体全体何者だ!!全員魔導師か……そうでなけりゃ使徒か化物だ!!」

 

射撃が終わり、残されていたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

新田原「地元のマフィア勢力、ベッサーラ一味の連中か。あの情報屋のタレコミ通りだったな。近所の住民を避難させる方が大変だった……」

 

剣崎「新田原三佐、少し車をお借りしますよ。」

 

新田原「何をするつもりだ、剣崎三尉。」

 

剣崎「ちょっとこの街のボス達に自衛隊流の挨拶をしておきたいと思いまして、乱場一等陸尉、協力していただけますか?」

 

剣崎が話しかけた乱場という男が彼の方へ振り返った。黒髪にまるで男爵のような立派な髭をつけているその男は、鋭い眼を持っていた。その眼はまさしく兵士であり、戦士であり、英雄のような印象さえ見える。そして、彼は訪ねた。

 

乱場「俺は何をすればいい?剣崎三尉。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に逃げ帰ってきたベッサーラは寝室に駆け込み、寝ている妻を慌てて起こした。

 

ベッサーラ「おい!起きろ!!早く!!」

 

妻「なに~?どこ行ってたのぉ?」

 

ベッサーラ「んなことより悪所(ここ)から逃げるんだ!化物共が仕返しに来る!!」

 

その時、突然赤い光が窓の向こうから差し込み、部屋全体を包み込んだ。ベッサーラは剣を引き抜き、恐る恐る近づいてカーテンを捲る。そこにあったのは、こちらを覗きこむ赤い巨大な目玉だった。

 

ベッサーラ「ひっ!ひえぇぇぇぇっ!!」

 

ベッサーラは女のような悲鳴を上げながら尻餅をつき、後ろに後ずさる。巨大な青い巨人――乱場の乗るグフは屋根を掴み、ベキベキと激しい音を立てながらゆっくりと剥がしていく。

 

妻「あ、あんたぁ!」

 

ベッサーラ「に、逃げるぞぉ!」

 

妻「で、でも娘は……エリーナはどうするの!?」

 

ベッサーラ「んなもんまた作りゃいいだろ!今は逃げることが先決だ!」

 

二人は荷物を鞄に詰め込み、逃げる準備を始めた。外では家に残っていた私兵達がグフに弓矢やボウガンを放ち攻撃を行っている。うっとおしく思った乱場は剥がした屋根を私兵達に向かって勢いよく投げつけた。屋根は粉々に破壊され、木材や瓦、ガラスなどの破片が散弾のように飛び散り、兵士達の命を奪っていく。

 

そんな光景を後ろに、ベッサーラとその妻は歩いていた。なるべくあの巨人から離れるように。

 

妻「あんたぁ……家が…エリーナが…」

 

ベッサーラ「ほっとけ!今ハーディのところに行くよりましだ!」

 

妻「大体あんたがあんな得体の知れない連中に喧嘩を売ったのが間違いだったんだよ!」

 

ベッサーラ「なんだと!?俺は悪所の顔役としてだな――」

 

そんな口喧嘩をしている二人の周りに武装した集団が現れた。彼の私兵などではなく自衛隊でもない。前からベッサーラに不満や恨みを抱いている悪所の住人が、この機を逃すまいと待ち伏せをしていたのだ。

 

ベッサーラ「な、なんだてめぇら!この俺様をベッサーラと知っていて殺ろうって言うのか!?」

 

住民A「あぁ、知っているさ。だから俺達はここに来たんだ、アンタを殺すためにな。」

 

ベッサーラ「ふ…ふざけるな!どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがっ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日……悪所のゴミ捨て場にベッサーラとその妻が死体で横たわっているのが発見された。両者とも裸にされ、妻は陵辱、ベッサーラは激しい拷問の末に殺されていた。

屋敷の方では悪所事務所の自衛隊員が降伏した元私兵達や召使い、メイドや使用人を一か所にまとめていた。負傷者は治療を優先させ、五体満足の者は命令があるまで待機となっている。

その中に、ベッサーラの(めかけ)になったヴォ―リアバニーのパルナと娘のエリーナがいた。

 

剣崎「どうします?」

 

乱場「どうって何がだ?」

 

剣崎「彼らの今後ですよ。私兵や使用人達は他の顔役家に行くって言ってますけど……あのヴォ―リアバニーとあの娘は……」

 

乱場「確かに問題だな……」

 

剣崎「保護する事も考えたんですけど…どうやらグフに対して相当のトラウマを生んでしまったらしくって…乱場さん、ちょっとやり過ぎたんじゃないですか?」

 

乱場「しょうがないだろ!?まさかあんな小さい子がいるなんて思ってなかったんだから!」

 

剣崎「で、本格的にどうします?」

 

乱場「二人はイタリカに送る。そんでもってヴォ―リアバニーの方はメイドとして登録して、アルヌスでは協同組合の方にも登録してもらう。娘の方はアルヌスで保護だな。同じくらいの年の子が沢山いるから仲良く出来るだろう。」

 

剣崎「分かりました、ではイタリカとアルヌスの方に連絡しておきますね。」

 

 

 

 

 

そしてベッサーラが殺された事は他の顔役達にも伝わった。

 

メデュサ「ふっ、ざまぁみろだ。ベッサーラは顔役の中でも最悪だったし、自業自得だな。」

 

ゴンゾーリ「ところであの斑服の連中、アジトの周りの家を少し借りるって結構な金を出したって話だ。」

 

パラマウンテ「本当かよ?そんなの聞いたことないぜ?」

 

ゴンゾーリ「ベッサーラの奴は気の毒だったが、あいつらに手を出さなくて正解だったな。」

 

メデュサ「奴の縄張りも私兵も召使いたちもタダで手に入ったし…ジエイタイ様々だな。」

 

パラマウンテ「競合相手じゃなくて商売相手と見ればいい話だ。『情報』にあれだけの大金をつぎ込むとはなぁ…俺達は優秀な手駒を貴族や侯爵の屋敷に忍び込ませるだけで良い稼ぎになる。」

 

メデュサ「言葉があまり通じねぇ分、礼儀正しいし筋もキッチリ通してくれる。他所(よそ)者としての立場をわきまえている。」

 

ゴンゾーリ「悪所じゃ強い奴になびく者は利口者で、逆らう者には死が待っている。ジエイタイと俺達の繁栄に乾杯!!」

 

こうして悪所事務所は順調に活動を行っていった。そんな自衛隊に娼婦達は若干の不満を持っていた。昼時、娼婦達はとある酒場で休憩時間を使って愚痴を言い合っていた。どうやらどれだけ色目を使っても自分達を買ってくれないことに不満があるようだ。中にはそこが紳士的で良いという者もいるが。すると一人の翼人種の娼婦、ミザリィが奥の部屋から出てきた。

 

娼婦A「ミザリィ姐さん、もう行くの?」

 

ミザリィ「えぇ、仕事の前にあれ(・・)を買いにね。」

 

ミザリィが酒場を出ていこうとすると、奥から彼女を引き止める声が聞こえてきた。それはこの酒場『エデン』の歌姫であり、娼婦達からはミザリィと同じく姐さんと呼ばれている。彼女の名はクラウレ・ハモン。彼女目当てに普段立ち寄らない上流階級の貴族や市民が訪れるほど、彼女は人気なのだ。

 

ハモン「ジエイタイの事務所に行くの?だったら一緒に行ってもいい?」

 

ミザリィ「いいけど、店抜けて大丈夫なの?」

 

ハモン「大丈夫よ、優秀なウエイターがいるもの。ね、クランプ。」

 

クランプ「店番、任せて下さい。」

 

ミザリィ「だったら行きましょ。」

 

二人は悪所事務所へと足を運んだ。

 

ミザリィ「邪魔するよ。カンゴシ、いるかい?」

 

自衛官A「こんにちは、ミザリィさん、ハモンさん。診察室へどうぞ。」

 

ミザリィ「アンタは入らないの?」

 

ハモン「えぇ、別の人に用があるから。」

 

ミザリィ「そ、じゃあ行ってくるわ。」

 

ミザリィは黒川がいる診察室のカーテンをくぐっていった。ハモンは診察室より奥にある部屋へと入っていく。そこには書類整理を行う乱場の姿があった。

 

ハモン「ねぇ、今大丈夫?」

 

乱場「ハモンか、大丈夫だ。今終わったところだし……それで?なにか新しい情報はあるか?」

 

ハモンはゴンゾーリ家のスパイで、帝国軍の作戦・活動・状況などを逐一報告する役目をしている。酒場の歌姫もしているので帝国兵や役人に近づき、愚痴と一緒に情報を得ることもある。ベッサーラの襲撃の時も彼女から情報が送られてきていた。

 

ハモン「今の所は何も、普段と変わらないわ。平和そのもの。特にこれといった動きは無いわね……」

 

乱場「そうか…まぁ、何も無いならそれはそれで――」

 

ハモン「悪所(ここ)を除いてね…」

 

乱場「ん?どういうことだ。」

 

ハモン「……今は詳細な説明をする時間が無いわ。今日の夜、また来るわね。」

 

そう言って彼女はミザリィと一緒に事務所を後にした。

その日の夜、事務所の扉を叩く音が聞こえてきた。その場にいた全員が、銃に弾倉を装填し弾を給弾する。安全装置を解除し、扉の方へと銃口を構えた。だが乱場だけは違った、扉の方へと歩み寄り、向こう側にいる人物に声をかけた。

 

乱場「ハモンか?」

 

ハモン「えぇ、私よ。」

 

乱場「皆、銃を下げろ。敵ではない。」

 

乱場の指示で銃口を下に下げて待機する。乱場は少しだけ扉を開けて外の様子を確認した。そこには怯えた表情を浮かべる娼婦達の姿があった。乱場は若干戸惑うが、すぐに冷静さを取り戻し、中へと入れた。娼婦達の数は優に30人は超えている。倉田は目の前に大勢のケモノ娘やモンスター娘がやってきたことに興奮して股を押さえている。

 

乱場「それで、昼間の話を聞かせてくれないか?大勢でやってきたのには、何か理由があるんだろ?」

 

ハモン「えぇ……あたし達はあなた達がこの悪所で何をしようとしているのかうすうす感づいているの。でも何も見ざる聞かざる言わざるの精神で通してきた。ここではそれが長生きする秘訣だからね。でも、そうも言っていられなくなったんだ。この()はテュワルっていうの、話を聞いてあげて。」

 

乱場「分かった。倉田、桑原曹長と新田原三佐を、出来れば全員ここに呼んでくれないか?」

 

倉田「了解。」

 

全員が集まったところで、何があったのかテュワルから説明された。

 

テュワル「あたいの故郷には火山があって、噴火する前には地揺れが起きるんです。朝からその時と同じ感覚…というか予感がして…」

 

新田原「地揺れ?もしかして地震か。この世界にあるのか?」

 

娼婦B「地面が動くわけないでしょ?ありえない。」

 

娼婦C「そんナことになれバ世界ノオワリ。」

 

ミザリィ「それがテュワルの話を聞いてあたし達も同じ気分になってたから……もしかしてって…街の男達は信じてくれないし……だからここに来たのさ。」

 

ハモン「助けてあげてくれないかな?助けてくれたら彼女達、自ら名乗りを上げて協力してくれるってさ。」

 

話を聞いて新田原と乱場は同じことを考えていた。ハーピィの祖先は鳥なので、動物的直観が働いているのかもしれない。あの時も駐屯地の周りから鳥がいなくなり、犬や猫などは一斉に鳴き始めた。阪神…中越…東北...そして熊本...そう思った時、二人は行動に移っていた。

 

新田原「帝都各班、イタリカとアルヌスに緊急連絡!まもなく地震が発生する可能性あり!注意されたし!!」

 

乱場「総員五分で装具をまとめて集合!我々は帝都外に一時退避する!MSパイロットは有事の際に備えてパイロットスーツ着用!急げ!!」

 

この連絡はすぐに帝都とイタリカ、アルヌスに伝わる。そして、テュワルの言っていた予感は確信へと変わった。

 

 

 

 

その夜、帝都は揺れた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、Five Finger Death punch の Ashesを聴きながら執筆しているメガネラビットです。ロングレッグだ!!

仕事…ていうより通勤と帰宅が辛い…座れないんだよ…

解説コーナー

〔乱場一等陸尉〕

名前で分かるように、ランバ・ラルさんです。

名前:乱場 羅瑠
階級:一等陸尉
機体ネーム〈ブルー・スター〉
搭乗機体:MS-07B グフ

〔ベッサーラと妻死亡、娘とパルナ生存〕

俺は女の子と小さい子(ロリ&ショタ)が好きなんだ。そんな俺が女の子殺せると思う?無理ですよ。

〔クラウレ・ハモン〕

ゴンゾーリ家のスパイ、酒場『エデン』の歌姫。帝国側の情報を自衛隊に報告する仕事をしている。乱場と仲がいい。







次回はいよいよゾルザル拷問編ですよ…グヘヘ……楽しみだ。待ってろよ、ゾルザル…
現在、活動報告にて後書きで行うゾルザルの拷問方法を募集中です。
こんな拷問がしてほしい・この人に拷問してもらいたいなど、リクエストがありましたらそちらに報告お願いします。

それではまた次回お会いしましょう!
それでは( `ー´)ノシ

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