GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

一晩を野宿で明かしたヤオは、演習飛行中のF-4を見て希望に打ち震えていた。
その頃、着々と評価試験と議員達との会合準備が進んでいる自衛隊は、ファットアンクルでその場を後にした。
朝から自衛隊の凄さに驚かされてばかりのヤオは、昨日立ち寄ったアルヌス村へと走っていた。




第二十一話:ヤオ、絶望を知る

ヤオ「(緑の人…緑の巨人…確か特徴は緑の斑服を着ている……あっ、そういえば昨日のあの不埒者や言葉遣いの汚い男、店の中にいた者も緑の斑服を着ていたな……もしかしてあの服を着た者達のことなのか!?)」

 

近くには96式装輪装甲車と警務用MS-05J、見張りの自衛官数名がいた。

ヤオは一目散に駆け寄り、願いを話した。

 

ヤオ「そっ、そなた達!緑の人であろう?此の身の話を聞いてくれないか?我が名はヤオ・ハー・デュッシ、シュワルツの森よりまかりこした。数ヶ月前、炎龍が突然現れ、部族は滅びの道を……我が一族に救いの手を差し伸べて欲しい!切に頼む!!」

 

その緑の人――自衛隊員から返ってきた返事は、了承ではなく……

 

自衛官「こんにちわ、ごきげんいかが?(サヴァールハル・ウグルゥー?)

 

カタコトの挨拶だった。

その後もヤオは片っ端から当たってみたがどれもカタコトで終わってしまっている。

この事実に当人は項垂れるしかなかった。

 

ヤオ「(半日かけて声をかけてみたが……まさか言葉が通じないとは……良くても片言しか喋れない……早くまともに喋れる者を探さないと…こうしている間にも同胞は次々と炎龍の餌食に……)」

 

そんな彼女に一人の男性が声をかけてきた。

声をかけた彼は彼女の身体にしか興味が無いらしく、先程から緑の人を探している様子を見てある策を思い浮かべた。それは案内すると嘘をついて、その身体に肉欲の限りをぶつけようというものだ。今で言うナンパである。

 

ナンパ男「なぁ、アンタ。緑の人を探しているのか?なら俺が案内してやるよ。」

 

ヤオ「本当か!?居場所を知っているのか?」

 

ナンパ男「あぁ、こっちだ。ついてきな。」

 

だが長命のエルフは長く生きてるその分、戦闘経験も多く積んでいる。

彼が受けたのは肉欲の発散ではなく……金的だった。

ナンパ男は股間を押さえ、うさぎ跳びのように跳ねながら森から逃げていった。

 

ヤオ「まったく…商売女とでも勘違いしたのか?礼儀をわきまえてくれれば誘いに乗らんでもないのに……後、財布落としたぞ。」

 

その後、ヤオは村で自衛隊と喋れる人、もしくはこちらの言葉が分かる自衛隊員を探し始めた。

道中、ナンパ男と同じくヤオの身体で肉欲を発散させようと男が声をかけてきた。

先程のナンパ男と比べるとこちらは正直に言ってきてるので、マナーとしては最低限を弁えている。

そんな男の股間部を見てヤオは笑顔で……

 

ヤオ「そなたのモノで満足させてくれるなら乗ってやらんこともないが?」

 

と言ってしまった。

男は自分のモノが小さい事を気にしていたため、泣きながら走っていった。

 

しばらく歩くと今度は何やら揉めている二人の男性を見つけた。

脇には箱に入れられた美しい光沢が特徴的な生地がある。どうやらこれが原因らしい。

この生地にヤオは目が止まった。

 

ヤオ「ん?この光沢……美しい生地だな。」

 

仕立て人「そうだろう?『さてん』という異世界の布らしい。」

 

――サテン生地とは絹やナイロン、ポリウレタンにアセテート、ポリエステルや綿糸などといった糸を使って作られるしゅす織りの織物で、非常に美しい光沢を放ち、豪華な雰囲気を持つためドレスやハンドバッグ、パジャマや時にはコスプレ衣装の生地としても使われる――

Wikipediaより参照・抜粋

 

商人「だからここでは小売りはしていないんですよ、帝都やイタリカの支店で買っていただくしか――」

 

仕立て人「ログナンやデアビスの支店にも行ったが在庫なしだ!頼むよ、お得意先の貴族に言いつかってるんだよ。『他家の娘よりも素晴らしいドレスを我が娘のために作れ、できなければ……分かってるな?』ってね。いいか?今、帝都の社交界はアルヌス(ここ)のせいで大変な事になってんだよ!」

 

日本が持ち込んだドレスや装飾品、それらが特地貴族婦人達の競争心や虚栄心に火をつけたらしい。

生地も特地では到底作ることが出来ないような質の素晴らしいものばかり。

必死に探してようやくこの生地を見つけることが出来たらしく今こうして揉めに揉めている。

もしこれを逃せば、自分の首が解雇的にも物理的にも飛んでしまう。

困り果てた両者に、ヤオは助言を与えた。

 

ヤオ「ふむ、ではこうすればどうだ?仕立て人から保証金をもらい、帝都の支店まで品物を運んでもらう。保証金の預り証と引き換えに支店で品物を引き取るのだ。」

 

商人「なるほど、それなら品物が届かなくても損しませんな。」

 

仕立て人「そのまま私が荷を買い取ってもいいので?流石ダークエルフですな。」

 

商人「奸智(かんち)に長けてますな。」

 

ヤオ「(常識じゃないか?)」

 

 

 

また街をうろついていると、今度は警務用ザクⅠを見つけた。

ヤオは足元まで駆け寄り、ダメ元でザクに話しかけた。

 

ヤオ「聞こえるか?我が名はヤオ・ハー・デュッシ!シュワルツの森より来た。そなたは炎龍を手負いにした巨人達の仲間か!?」

 

当然のことながらザクは何もしゃべらず、赤く光るモノアイで彼女を見続けるだけだった。

ヤオは諦めず、もう一度話しかけた。

 

ヤオ「そなた達を率いている将軍はいるのか?いるならばどうか此の身の話を聞いてほしい!頼む!!」

 

返ってくるのは無言、ただただ視線が彼女に刺さるだけだった。

ヤオはようやく諦めて、街の方へと歩き始めた。

 

仁「なんだったんだ?あいつは……」

 

 

 

 

街に戻りまたしばらく歩いていると、PXにたどり着いた。店内は広く、棚には様々な商品が並んでいる。客の中には非番の自衛官や薔薇騎士団もおり、皆思い思いに好きな物を購入していく。

 

ヤオ「(昨日は夜でよく分からなかったが、こんなでかい店は始めて見た……品揃えも凄いな……ん?)」

 

ヤオが会計カウンターの方を見ると、そこには楽しそうに非番の自衛官と話しているメイアの姿があった。

最初は自衛官達の方が特地言語で喋っているように見えたが、よく見るとメイアが日本語で喋っているだけだった。

だが日本語が喋れるということは勉強したということであり、そのための教科書か何かを持っているはずだ。

ヤオはメイアにどうやって日本語を覚えたのか聞く事にした。

 

メイア「いらっしゃいませー…ってにゃんだ昨日の……緑の人は見つかった?」

 

ヤオ「その事なんだが……そなた今先ほどあの者らの言葉を……」

 

メイア「あぁ、『二ホン』語?この『赤本』で覚えたにゃ。」

 

メイアが懐から一冊の赤い本を取り出した。

表紙には『ニホン語日常会話集』『アルヌス共同生活組合編集カトー・エル・アルテスタン監修』『部内での教育目的以外の使用を禁ず 用済み後は要焼却処分すべし』と書かれている。

 

ヤオ「これは買えるのか?」

 

メイア「非売品にゃ。組合の従業員か語学研修性だけに支給されるにゃ。第一にこんな立派な本、私達の給料じゃ買えにゃいし。」

 

ヤオ「そこを伏して頼む!そなたも昨日此の身の話を聞いたであろう?緑の人に言葉が通じずに困り果てているのだ!」

 

ヤオは勢いよくカウンターに頭を打ち付けるほど深々と頭を下げた。

いきなりの出来事にメイアは驚くが、これはどんなに頼まれても渡せないものだ。

彼女は決してヤオのことが嫌いな訳で貸さないわけでは無い、むしろ貸してあげたいくらいだ。

だが今ここで下手をしてクビになれば、仕送りをしている家族が路頭に迷う。

何より亜人種である自分達を受け入れてくれたフォルマル家の顔に泥を塗りたくないという事情もある。

どうすればよいのか迷っていると、関西弁なまりの強い警務自衛官とMSパイロットが店にやってきた。

 

警務官「メイアちゃーん、巡回や。なんか困ったりしとらんか?」

 

メイア「あ、はい。大丈夫です。」

 

警務官「そうか、そらえかった。」

 

パイロット「ん?なぁ、こちらのエルフ、被害届のあった女じゃないか?」

 

警務官「え?…あ~、誘ってきたのに股間蹴られて財布盗まれた与太話のやつか?」

 

パイロット「見た目は二十代後半、褐色肌に銀髪とエルフ耳。汚れたマントに革鎧のベッピンさん。なんだか鞭でも持たせたいなぁ……で?どうする?」

 

警務官「駐屯地と街の事については警務隊の管轄や、しょうがないやろ?犯罪がホンマやったらフォルマルはんのとこに引き渡しゃええし、日本人の被害者がおったら東京地裁に送りゃえぇ。」

 

パイロット「それもそうか……あー、えーっと…あなた、話少し聞かせて、欲しい。」

 

ヤオはその言葉を聞いて歓喜に震えた。ようやくまともに会話が出来る緑の人と出会った、と…

だが実際の所は事件の容疑者として話を聞くだけであり、完全にヤオの勘違いである。

話の内容を伝えたかったパイロットのミスとも言えるが…

 

ヤオは二つ返事で了承し、二人についていった。

 

メイア「絶対に何か勘違いしてるにゃあ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の取調室に連れてこられたヤオは、まさか自分が事件の容疑者として疑われているとは思わなかったらしく、何も言葉が出てこなかった。

狭い鉄筋コンクリート製の無機質な取調室が張り詰めた冷たい雰囲気を作り出す。

警務官と彼女の間には無言の時が流れ、更にヤオを緊張させる。

 

そもそも言語が分からないため、覚えたての特地言語だけでは彼女の細かな言い分は理解出来ない。

どうしたものかと警務官が困り果てていると、取調室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

警務官は「どうぞ」と入室を許可すると、ドアの方へと振り返る。

そこにはレレイの姿があった。

 

警務官「やぁ、レレイさん。お待ちしておりました。恐喝事件の嫌疑で取り調べたんですが…逆に襲われたとか助けてくれとか…どうも被害者の訴えと話が食い違うんですよ。自分の翻訳ではどうしようもなく…お願いします。」

 

レレイ「わかった……ヤオ・ハー・デュッシ、話を聞かせて。」

 

そこからは順調だった。

ヤオの証言によりナンパ男は街の警務隊のミューティとロゥリィによって取り押さえられ、真実が明るみとなった。

 

レレイ「ヤオ・ハー・デュッシ、貴方の無実は証明された。私はこれで失礼します。」

 

ヤオ「待ってくれ!!我が一族が炎龍に襲われているのだ!どうか緑の人の将軍に会わせてはくれまいか!!」

 

レレイ「炎龍?」

 

ヤオ「そうだ…左腕と片目の無い……」

 

レレイ「二ホン人に助けて欲しいと伝えればいい?」

 

ヤオ「あぁ!御身は顔が利くようだし口添えも頼む!!」

 

レレイ「……分かった。」

 

ようやく自分の伝えたいことが伝えられてヤオの顔は安堵の表情に包まれる。

レレイについてきてと言われ、ヤオは手荷物を持って狭間陸将のもとへと向かった。

 

狭間陸将と第一から第六までの戦闘団の大隊長達が集められ、ヤオの相談を聞いた。

テーブルの上に置かれたダイヤの塊をしばらく見つめると、全員が特地地図でシュワルツの森を探す。

全員が難しい表情を浮かべる中、狭間は口を開いた。

 

狭間「ヤオ・ハー・デュッシさん、遠路はるばるおいでくださったのに力になれず申し訳ない……」

 

その言葉にヤオは自分の耳を疑った。

 

ヤオ「み、緑の人と巨人は十人と一人程と聞き及んでいます。将軍の軍勢からほんの少しご助勢を――」

 

狭間「滅相もない、部下に死地へ赴けなんて命令は出せません。それにあなたの故郷であるシュワルツの森は地図によるとエルベ藩王国領内であることが分かります。軍が相手国の断りもなく国境を越えて進行する…これがどういうことを表すのか、あなたにもお分かりになるでしょう?」

 

その時、ヤオの目から光が消えた。

外はまるで彼女の心情を表すかのように、大雨が降っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、uchuu,の"LET IT DIE"を聴きながら執筆しているメガネラビットです。
今月は色々とイベントがございまして、あまり小説の方に手が回らなかったんです…

来月には卒業して就職になりますから、投稿頻度は更に低下してしまうと思います…(-_-;)
あ~~!働きたくねぇ!!

……グダグダ言っててもしょうがないですよね?解説コーナーに行きましょう……

解説コーナー

〔ヤオの不運〕

行く先々で不運な目に合うヤオさん、なんだかもう自分で書いてて可哀想に思えてきてならない…(´;ω;`)

〔ザクに堂々と話しかけるヤオさん〕

彼女自身とても怖かったと思います。
だって18mの巨人に見下ろされているんだからねぇ(´・ω・`)

〔警務パイロット 仁〕

ガンダム最初の犠牲者ジーンさんでーす!
登場は今の所これだけ。

〔パイロットもPXに立ち寄る〕

ジーンだとするとPXに寄ったのはデニム曹長かな?

〔助力を断られるヤオさん〕

ゲートで一番可哀想な人物だと私は思っております。
だって彼氏は親友に寝取られるわ、別の男性は結婚前夜に死ぬわ、言い寄ってきた男性は事故死するわ…つくづく男運が無い…
更には助けを断られるわ、今まで信じて来たものにあっさり裏切られ、仲間は大勢死ぬ……
やっぱり不憫だ…(ノД`)・゜・。





次回は現在の伊丹達とヤオの悪だくみとなります。
この調子だと次は恐らく三月になると思います。
気長に待っていただけると幸いですm(__)m

それではまた次回お会いしましょう!
それでは( `ー´)ノシ

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