GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

特地参考人招致と外交を終え、買い物や旅館でのひと時を満喫した一行は米露中合同工作員チームの襲撃を振り切り、再び銀座の街へと向かった。
そして集まった群集のおかげで工作員の妨害を受けずに、特地へと帰る事が出来た。

推奨BGM:603のボレロ約20分戦闘用BGM
URL:http://www.nicozon.net/watch/sm21312987



炎龍編
第十八話:大蛇と鋸鮫


 帝国――覇権国家であり列国中の王として君臨するこの国に名前は無い。その帝国が日本と開戦しておよそ五か月になろうとしている。

 

 日本への進撃、そしてアルヌス攻防戦で壊滅的な損害を出した帝国軍は、緊急の募兵を行ったりして再編をしていた。だが征服戦争が日常茶飯事の帝都では珍しい事では無く、何も知らない貴族たちは優雅にお茶や食事を楽しんでいた。

 

 ピニャ達は早朝にアルヌスを出発し、イタリカを経由して帝都への帰路についた。一緒に外務省の菅原と護衛の自衛官が数名同行することとなり、水面下での交渉を開始した。

 

 一方アルヌスでは新たに配備される試験用MSが2機、『門』の向こうの日本から送られてきた。ODカラーに塗られた17式MS運搬用大型トラック、通称サムソントレーラーが2台、土煙をあげながら基地の中を通過していく。

 

 非番の自衛官達は荷台のMSが何なのか気になり、スマホやデジカメを片手に外に出ていた。はMS格納整備場の前に止まると、エンジンを停止させた。

 そして数名の自衛官がMSを固定しているワイヤーとカバーを外すと、1機のMSがそこに寝転がっていた。

 

 砂色をベースとし、胴体とスカートはオリーブ色で塗装されている。頭部のモノアイ可動範囲は凸ような特徴的な形状をしている。傍らには同じ色で塗装された長距離ライフルが固定されている。

 左肩のショルダーアーマーには大口を開け、今にも獲物に食らいつきそうな蛇のマークがペイントされている。

 

 MS-05L ザクⅠスナイパータイプ

 

 MSが携行出来る大きさにまで改良されたビームライフルを装備した初の機体である。背中のバーニア・ランドセルを、サブジェネレーター搭載大型ランドセルに換装することで長射程のビーム・スナイパー・ライフルが使用可能になっている。

 移動しながらの射撃は困難を極めるため、機体は常に停止したまま狙撃を行う必要がある。

 

 2台目には水中用MSズゴックを改良したMSが同じくワイヤーで固定されていた。

 

 MSM-07Di ゼーゴック

 

 右腕はセンサーに改造され、固定武装は左腕のクロー内に搭載されたバルカン砲一門のみとなっている。投下して攻撃する所は原作と変わっていないが、違っている点が一か所ある。それはただ落下するのではなく飛行が可能という所だ。

 機体にはノコギリザメのペイントが施されている。

 

 

 その二機を他の隊員と共に狭間と柳田がまじまじと見ていた。

 狭間は初代ガンダムを見ていた世代であり、彼にとってもなじみ深いものでもあった。ガンダムが使用していたライフルに特に興味を持っていたため、初となるビーム兵器の完成にとても喜んでいた。

 

狭間「おぉ……これがか…うむ、やはりMSはビーム兵器に限るな。それで試験パイロットは誰だ?」

 

???「俺だ!」

 

 二人が声のする方へと振り向く。そこには無精髭を生やした陸自隊員と小麦肌に焼けた空自隊員がいた。

 

阪疋「阪疋飽津一等陸尉だ。本日付けでMS-05Lの技術試験担当パイロットに配属された事を報告します。」

 

堀之内「堀之内勇見三等空尉、本日付けでMSM-07Di技術試験担当パイロット配属を報告します、よろしく。」

 

狭間「二人とも、よろしく頼むな。」

 

阪疋「んで、こいつが最新ビームライフルか……」

 

柳田「えぇ、試作ビーム・ライフル及び搭載MS、通称ヨルムンガンド。敵主力兵器を射程外から狙い撃つ大蛇……ビッグガンを改修しMSが携行できるサイズまでに小型化、その威力はイージス艦クラスの艦船やほぼ全ての地上・航空兵器を撃破可能という桁違いの数値です。ミノフスキー散布時の最大有効射程は30km。分かりやすく言うと東京中心部から立川までの距離ですね。」

 

阪疋「なるほど!これなら本国も絶大な期待を持つはずだ…」

 

堀之内「こっちは?」

 

柳田「モビルダイバーシステム……機動管制ユニットであるゼーゴックは深海の水圧にも耐えられるズゴックを代用することで、高高度の気圧にも耐えられる構造となっています。本機は大量兵器輸送用コンテナ(LWC)を搭載し各種兵装に換装可能です。ガウ大型輸送機から投下し地上陣地を攻撃、作戦終了時は再びガウにて回収します。」

 

堀之内「海のMSを空に使うか…まるで俺みたいだ……」

 

柳田「前は海自に?」

 

堀之内「いや、俺の家系が漁師だったんだ。爺さんは今でも現役だ。銛一本で鮫と戦っている。」

 

彼は首飾りの錆びだらけの銛の先を見ながらそう言った。

 

狭間「試験日はいつだ?」

 

柳田「ザクスナの方は比較的早く試験が開始できますので後二日か三日ほど。ゼーゴックの方はLWCの方がまだ届いていないので四日後ぐらいになります。」

 

狭間「試験会場はここで?」

 

柳田「いえ、ここでは狭すぎます。ザクスナは議員たちへのデモンストレーションもかねて帝都郊外の皇室庭園付近で行います。三偵の隊員と一緒にファットアンクルで輸送します。ゼーゴックはLWCが届き次第、試験を開始します。」

 

 

 

 

 その帝都皇宮サデラの丘にある館では、ピニャが沐浴中に今日の予定を確認していた。

 

ハミルトン「本日の予定はキケロ卿との午餐、デュシー侯爵家で晩餐パーティー、その間にシャンディーとの面談を入れています。白薔薇隊隊長の後見人事について意見があるそうです。」

 

ピニャ「シャンディー・ガフはパナシュと姉妹の契りを交わした仲だろ?後任隊長は彼女で決まったんじゃなかったか?」

 

ハミルトン「パナシュと一緒にアルヌスに行きたいと……」

 

ピニャ「それは後にしよう、先にスガワラ殿を午餐に連れて行かなければならん。」

 

ハミルトン「捕虜の返還希望名簿の草案にお目は通されましたか?」

 

ピニャ「これか…ん?第一陣は十四名?十五名だったはず…」

 

ハミルトン「残りの一名はキケロ卿用です。卿の甥御が捕虜名簿に記載されていました。スガワラ殿との引き合わせがうまくいけば名簿に載せます……本当に大丈夫ですか?」

 

ピニャ「大丈夫じゃないって言ったら代わってくれるか?」

 

ハミルトン「無理ですね。」

 

 二人は笑いながら顔を見合わせた。そして十時辺り、食堂では菅原が座って待っていた。

 

菅原「……遅いな…十時になるぞ…」

 

ピニャ「おはようスガワラ殿、相変わらず早いな。」

 

菅原「おはようございます、ピニャ殿下。今日もお美しい。(あんたが遅いんだよ)」

 

菅原は内心不満を思いながら朝食を始めた。

 

ピニャ「キケロ卿邸で午餐、その次はデュシー家で晩餐……胃袋が全く足りない…」

 

菅原「我が国でも『腹は身の内』と言います。いい胃薬があるので取り寄せましょうか?」

 

ピニャ「本当か?ならぜひ頼む。」

 

 会話を弾ませながら朝食を終えた二人はまずキケロ卿邸の午餐に出席した。大きなベランダにこれまた大きなテーブルが置かれており、その両サイドには帝国の貴族や侯爵たちが楽しそうに食事をしたり会話をしている。

 テーブルの上には子豚の丸焼きやムニエルなどが並べられており、朝食を終えたばかりの菅原にとっては少々重たいメニューであった。

 

菅原「なるほど…胃が足りない理由が分かった……」

 

ピニャ「だから言ったであろう?あっ、スガワラ殿、彼がキケロ卿だ。キケロ・ラー・マルトゥス。帝国開闢以降の名門の流れをくむマルトゥス家の一族だ。元老院に広く顔が利く重鎮でもある。妾が彼を選んだ理由としては、彼が主戦派の中でも話せる御仁だからだ。」

 

 ピニャがいう主戦派とは軍備を再建した後にアルヌスへと再び進行する計画を立てている、所謂徹底交戦派。それに対して自衛隊と講和を計画する講和派がいる。

 その講和派を増やすために主戦派の中でも広く顔が利く彼を彼女は選んだのだ。

 

ピニャ「キケロ卿、こちら二ホン国の外交特使のスガワラ殿だ。」

 

キケロ「二ホン……はて、失礼ながら初めて聞く名だ。どのような国なのかね?」

 

菅原「そうですね…四季があり、森や水のきれいな国です。」

 

 その言葉にキケロ卿とそのご夫人は、あからさまに馬鹿にするような目線を送る。次に菅原は日本から持ってきた特産品の数々をテーブルに並べた。

 漆が塗られた漆器や美しい柄の千代紙、真珠のネックレスに万年筆等……

 最初は『所詮自然だけが取り柄だけ』だと思っていたキケロ卿はその中にある日本刀の美しさと切れ味に度肝を抜かれ、周りの貴族たちは扇子を手に取ってみたり、布をまじまじと見てみたりしている。

 

ピニャ「(帝国にはない謙遜から入ると言う彼の手法は鮮やかなものだ……異世界のこれらの品々も貴族だからこそその美しさや素晴らしさが分かるというもの……)」

 

キケロ「いやはや…失礼したスガワラ殿、この剣といいこれほどの逸品を作ることができる二ホンとはいったいどこにあるのかな?」

 

菅原「我が国は『門』の向こうにございます、残念ながら現在は帝国と戦争状態にありますが……」

 

 この言葉にキケロ卿の顔は一気に青くなった。すぐ別の部屋にピニャと一緒に連れて行かれ、詳しい話を聞くことになった。

 

キケロ「ピニャ殿下!これはいったいどういうことですか!?これはまさしく売国に等しい行為ですぞ!!敵国と秘密裏に交渉し、剰え使者まで招き入れるとは!!スガワラ殿もこのままで済むと思わんことだ!数か月もすれば再編成された新生帝国軍十万が再び『門』を越えて貴国を滅ぼしてくれようぞ!!」

 

菅原「それも良いですが、まずはこれを一度ご覧ください。」

 

 そう言って一枚の紙を手渡した。

 

キケロ「なんだこれは……なっ!?こ、これは出征した甥の名ではないか!!なぜこれが……まさか生きているのか!?」

 

菅原「はい、現在は我が国で捕虜となっております。ピニャ殿下に仲介の労を担っていただく代わりに殿下からご要望のあった数名の返還を無条件で行います。」

 

キケロ「身代金もなしに無条件で!?」

 

菅原「はい。強いて言えば、殿下のお骨折りがその代わりとなりましょう。」

 

キケロ「(殿下の交渉次第で捕虜の返還条件が左右されるというわけか……その邪魔をすれば甥の命も……)」

 

ピニャ「妾は今宵、デュシー家令嬢の誕生パーティーによき知らせ(・・・・・)を持って出席する。卿もいかがかな?」

 

キケロ「デュシー侯のご令嬢とは面識はございませんが……(まさかデュシー家にも捕虜となっている者がいるのか!?ここで断ってしまえば甥の帰還は更に絶望的なものに……)ぜひともそのよき知らせが届く場に、私もご相席させていただきます、殿下――」

 

 こうして帝国の主戦派議員への工作は着々と進んでいた。

 

 そして――――

 

???「……アルヌス…あそこに『緑の人』と『緑の巨人』が……」

 

 新たなる戦いの種も近づきつつあった……

 

 

 

 

 

 

 




どうも、クリスマスは家族と過ごしたメガネラビットでぇす!!
え?彼女?んなもん居なくても死にはしないからいいんだよ!!(泣)

もうすぐ2016年が終わりますね……
今年投稿した話数が十五話ですから、炎龍編に入るまでまだかかりそうです…
もしかしたら再来年になっても終わらなかったりして……そんなこと…ない…よね?(-_-;)

解説コーナー

〔ザクスナとゼーゴック登場〕

初のビーム兵器搭載MSと大気圏再突入キチガイシステムのゼーゴックを追加しました。
何となく察しが良い人は気がついていると思う…

〔阪疋飽津と堀之内勇見〕

パイロットのアナグラムはやっぱり難しいwww
さぁてと…蛇さんと鮫さんに帝国をどう料理してもらおうかな?(ニヤニヤ)

〔腹は身の内〕

ちなみに作者は食い放題で食い過ぎて腹を壊した事が何回かあります。
でもやめられない!
いい胃薬ってなんだろ…?正露丸かな?

〔再編帝国軍十万?〕

足りんな、ザクの訓練にもならん。千万から最低でも百万は無いと張り合いがない。(舐めプ)

〔ヤオさん初登場〕

まぁまだ名前出てないんですけどねw
でも最初は嫌いなキャラだったなぁ…だってわざわざ掘り起こさなくていいことを掘り起こすわ、炎龍退治手伝ってくれると分かれば手のひらすぐ返すわ…でも綺麗だから許す!





まぁ、何はともあれ来年もこの小説と私を何卒宜しくお願いいたします<m(__)m>

それではまた来年お会いしましょう!
それでは( `ー´)ノシ

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