GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

参考人招致を終えた一行を待っていたのは、某国の工作員による妨害工作だった。
だがそれを奇跡的に回避し、一時避難先として伊丹の元嫁、梨紗の家へと逃げ込んだ。

そして彼らの知る事のない作戦が米露中によって秘密裏に行われようとしていた…



第十五話:日本観光

参考人招致の翌日、早朝5時…

 

総理大臣官邸では、本位総理がベットの上で眠っていた。

だがそれは一通の電話によって起こされる。

目をこすり、眠気を押し殺しながらスマホを手に取る。

 

本位「…なんだね?」

 

官僚「お休みのところ申し訳ありません、総理。特地からの来賓が行方不明になった模様です。」

 

本位「なに?」

 

官僚「昨夜11時頃に投宿先の市ヶ谷会館で火災が発生しまして、放火と思われます。現在警察が犯人と来賓を捜索中で報告を待っています。」

 

本位「……分かった、で?なぜその第一報が()なのかね?」

 

官僚「そ、それは…状況をある程度把握してからご報告をしようと…」

 

本位「君はその間の六時間を無駄にしたんだ。」

 

官僚「しかし…」

 

本位「もういい。」

そう言いながら電話を切り、スマホをベッドへと叩き付ける。

 

本位「何がキャリア官僚だ、聞いてあきれる!即時即決がなぜできんのだ!『門』の出現とMSの自衛隊配備によって我が国が置かれた状況を全く理解していない!」

先ほどまで寝ていた本位は遅い報告による苛立ちで完全に目が覚めていた。

 

本位「…資源輸出国が主張する国連による『門』の共同管理とMSの国際輸出による各国軍配備…我が国が特地にある無尽蔵の資源を手に入れ、それを元にMS等を強化するのではと恐れてのことだが…一国の首都のど真ん中に多国籍軍を?あの機動兵器を各国に輸出?無茶を承知の非常識な連中の主張など受け流しておけばいい。それよりも問題は米露中とEU各国連中だ。」

 

――アメリカは特地の資源を目当てに同盟国という理由で自衛隊を後方支援しているが、いつまで後方支援だけでとどまっているかどうか不安要素が残っている。(ディレル)も門の出現時の動画でまたMSへの興味をさらに強めている――

 

――『門』が邪魔な存在で仕方がないロシア。ロシアの強引な資源外交の影響でEUが特地に強い関心を示しているのが嫌なのだろう。SLBMを撃つかもしれないが、そんな事をしたら各国からの非難集中で戦争勃発なのは間違いない――

 

――EUはロシアの影響で特地という名の資源発掘地に強い関心を示している。イギリスのEU離脱という大きな損失で金融を中心としての機能が大きく低下しているのが原因だろう――

 

本位「(影響力の急激な低下さえなければロシアはおとなしくしているだろうし、常識が一応通用するアメリカとEU各国は少し取り分があればそれで満足するだろう…だが一番厄介なのは…中国だ)」

 

――特地の資源を一番欲しがっている中国は、13億の国民全員を豊かにすると約束したが現在は資源輸入国第一位となっていて、今は周辺諸国との軋轢を生んでいる。国内は格差による腐敗と矛盾だらけでその不満をそらすために外へのはけ口を求めている。環境汚染問題や諸島問題も浮上している。だが特地さえあれば資源もあるし、国民を大勢移動させることが出来る。中国はそれを狙ってくるだろう――

 

本位「(そんな国が我が国に頭を下げるとは到底思えない…いずれ友好的な態度をとってくるだろうが、その時が要注意だ。それなのに…)頭でっかちの無能官僚どもめ…」

そう言いながらウイスキーグラスにウイスキーを注ぎ入れる。

そしてそれを飲み、政界の愚痴をこぼし始める。

 

本位「北条さん…あんたはよく我慢出来たよ…結局、官僚だって学歴なんかより人間の質で決まる…野党やマスコミ、NGO団体(非政府組織)NPO団体(非営利団体)、更には左翼に右翼、旅行会社に芸能界まで特地に入れろ入れろってうるさいし…はぁ、胃が痛い…特地からのお客人を無事帰さんと講和の交渉が全て水の泡になっちまう…」

そう言うと先ほどベッドに叩きつけたスマホを手に取り嘉納に電話をかけた。

 

本位「…嘉納さん、本位です。こんな朝早くからすみません、実は特地の来賓が『雑音』にうんざりして逃げ出しまして…えぇ、たった今報告を受けたところです。それで嘉納さんには今の担当を替わって『特地問題対策担当大臣』を兼任してもらえないかと…丸投げになってしまって申し訳ありませんが…はぁ…いえそんな…では明日…」

会話が終わると、今度は先ほどよりも強くスマホを叩き付け、ベッドへと潜りこんだ。

 

本位「くそっ!辞めてやる!絶対辞めてやるぞ、こん畜生め!!」

 

 

 

 

 

それから一時間ほど経った朝6時…

 

朝早く起きたのは伊丹とロゥリィの二人だった。

ロゥリィは膝をつき、両手を組んで朝日が差し込む窓に向かって祈りを捧げている。

 

伊丹は朝食作りのため、台所に立っていた。

材料はあまりなかったため、卵と牛乳と食パンでフレンチトーストを作っている。

甘い香りが部屋全体を包み込んでいた。

するとその甘い匂いに誘われたのか、鷲谷がのそのそと起きてきた。

 

鷲谷「おはようございます…ふわぁ~…」

 

伊丹「おぉ、おはよー。」

 

鷲谷「おっ、フレンチトーストか…美味そう。俺になんかできることあります?」

 

伊丹「じゃあ、皆を起こしておいて。」

 

鷲谷「りょーかい、先に顔洗いますね。」

寒い12月の朝は身に応える…そんな事を考えながら顔を洗った後、皆を起こそうと居間へ戻ると、そこには梨紗が描いたBL同人誌をまじまじと見るボーゼスとピニャの姿があった。

 

ボーゼス「で、殿下…これは…」

 

ピニャ「うむ、これほどの芸術がこの世にあったとは…」

 

ボーゼス「殿下、ここは異世界です…」

 

ピニャ「そうだった…それにしても良い。文字が読めないのが恨めしいな…」

 

ボーゼス「それでしたら語学研修の件はこの私を…」

 

ピニャ「貴様、ずるいぞ…」

そんな光景を見て鷲谷は…

 

鷲谷「(うわぁ~腐ってる、この姫様たち…)」

内心ちょっとがっかりしていた。

 

伊丹「どうした、鷲谷?」

 

鷲谷「い、いえ…なんでもありません…皆を起こしますね…」

 

伊丹「そうか、あのーお二人とも…朝飯食べる?」

 

 

 

 

 

 

 

朝食をとった後、伊丹は全員に今日の予定を伝えた。

 

伊丹「よーし、今日は遊ぶぞ!」

 

富田「あのー、それどころじゃないと思うんですが…」

 

伊丹「それとこれとは別だ。いいか、俺のモットーは喰う、寝る、遊ぶ、その合間にちょっとの人生だ!第一『敵』が俺達の居場所知ってんならどこだって危険だ。人目が多い方がよっぽど安全だぜ、そうだろ?」

その言葉に栗林は口をポカンと開け、富田は目を点にし、ロゥリィに至ってはお腹を押さえて大笑いしている。

すると一番先に梨紗が手を挙げた。

 

梨紗「はぁい!はいはい!お買い物!原宿!渋谷!」

 

伊丹「何でお前まで…」

 

梨紗「えぇーー!!私だけ仲間はずれ?泊めてあげたのにぃ?かくまってあげたのにぃ?これっていぢめ?皆だって買い物したいでしょ?」

 

栗林「まぁ、せっかく東京(こっち)に帰ってきたし…」

 

ロゥリィ「私は別にぃ――」

 

梨紗「黒ゴスのいい店知ってるよ。」

 

ロゥリィ「まぁ、こっちの世界の服にもちょっと興味があるしぃ、行くわぁ。」

女子チームは目的地を決定したようだ。

 

伊丹「俺は中野か秋葉なんだけど富田は?」

 

富田「ボーゼスさんとピニャさんが『この世界の芸術』の資料を見たいそうなので近場の図書館にでも――」

 

鷲谷「富田、ここは俺に任せてくれない?その『芸術』は図書館には無いからねぇ。」

 

富田「え?じゃあどこに?」

 

鷲谷「そうだねぇ、秋葉とか?」

 

富田「秋葉に『芸術』が…ですか?」

 

鷲谷「そう!絶対にある!というわけで隊長、俺も富田と一緒に秋葉まで行きますよ。」

 

伊丹「分かった。その後は俺はちょっと用事があるから途中で単独行動で。14時に新宿アルタ前広場に集合して、その後は箱根で温泉だ!よし、じゃあ全員荷物をまとめて!金を渡すから。」

伊丹は狭間陸将から渡された封筒の中の現金を鷲谷と梨紗に渡し、各自別れて行動を開始した。

 

 

 

 

 

10時、秋葉原駅に到着した伊丹達のグループ。ピニャ達は同人誌ショップ、伊丹は単独行動とそれぞれに分かれた。

 

鷲谷たちは都道437号線中央通り、通称『電気街』に向かった。

ここにはラノベや漫画を取り扱っている専門店がいくつも立ち並び、アニメや映画が観られる場所が所狭しとある。PCパーツや家電製品の店に至っては数えるのも嫌になるほどである。

建物には様々なアニメのポスターや新製品の広告などが貼ってあり、新作アニメやゲームの映像がひっきりなしに流れている。

 

ピニャ達はその中央通りに面している有名な同人誌ショップ『とらのすあな』や『夕張ブックス』、アニメのグッズを多数取り扱っている『アニメ―ト―』へと足を運んだ。

 

 

そこでピニャ達を待っていたもの、そこは…『楽園(パラダイス)』だった。

 

ピニャ「こ…これは…」

 

ボーゼス「殿下、ここは異世界です。」

 

ピニャ「分かっている…だがこれは凄い…」

 

ボーゼス「えぇ、『芸術』がこんなに…」

 

富田「えーっと…これは…」

 

鷲谷「これが彼女たちの『芸術』です。というわけで富田、後任せたよ。」

鷲谷はそう言うと伊丹から渡された現金の約三分の一を富田に手渡した。

 

富田「えっ?鷲谷はどうするんですか?」

 

鷲谷「俺はノーマさんと一緒にまともな(・・・・)書店に向かうから、彼女たちの護衛よろしく。」

 

富田「えぇ!?ちょっ、ちょっと!?」

 

鷲谷「12時に秋葉原駅のビッグガメラ前に集合ね、昼は寿司だから。」

そう言い残して鷲谷はノーマを連れて書店へと行ってしまった。

 

 

 

 

鷲谷はノーマを先ほどの同人誌ショップではなく、一般向けの本を取り扱っている『過去屋書店』へと案内した。

 

ノーマ「(先ほどの店もすごかったが、ここもすごいな…)」

 

ノーマが驚くのも無理はない。

一冊を書くのが大変なのはもちろんだが、本を一冊作るのにもそれなりの時間と労力がかかる。

本が汚れたり破れたりするのを防ぐために表紙を布や質の良い革を糸で縫い、更には見た目をよくするために様々な装飾を施すため、その分の金も必要となる。

印刷技術など持っているはずもないので、世界に一冊しかない本もある。

そんな高価なものが貴族ではない庶民達が買えるわけがない。

 

……だがこちらの世界の本は文字だけでなく鮮やかな色で塗られた(写真)がある。

まるでそのまま魔法で本の中に閉じ込められたようだ。

それだけではない、その本が大量に生産されているのだ。

それを庶民でも買える金額で……

 

製版だけでどれだけの莫大な金と人と時間がかかるだろうか…

ノーマはそれを考えただけで恐ろしくなってきた。

 

 

鷲谷「それで、どんな本をご所望で?」

 

鷲谷の声でふと我に返ると、どんな本を持って帰ったらいいか考えた。

まずは言語だ、言葉が分からなければ講和も順調には進まない。

そう結論付けたノーマはまず日本語を学ぶことにした。

 

鷲谷「じゃあここら辺ですね。」

鷲谷が連れて行ったのは、教科書やドリルなどが置かれているブースだ。

 

ノーマ「まずはどんな文字から始めればよいだろうか?」

 

鷲谷「そうですねぇ…まずは簡単なひらがなやカタカナから始めて、次に漢字といった手順で行くのが無難ですね。」

そう言ってひらがなとカタカナの書き方本と小学生辺りが習う漢字の本を手に取る。

その後は書店内を散策しながらめぼしいものを手に取っていく。

するととある一角のブースに彼の目を引く本があった。

それは銃についての本だった。

 

ノーマ「(こっ、これは…彼らが使っている武器…銃!)」

 

ノーマがページをめくっていくと、そこには銃の内部の解説や弾の構造、使用する火薬の材料や更には銃の歴史についても書かれていた。

それこそ最新のライフルやショットガンのほかに、マスケット銃や火縄銃のことについても書かれていた。

 

ノーマ「(これさえあれば…我々にも銃を作る事が…)」

 

最初こそはそう考えたが、鷲谷の方をふり返り冷静に考えて無理だと諦めた。

 

ノーマ「(駄目だ…今ここで我々が再び攻勢に転じれば、捕まった捕虜たちの命が危うくなる。それに、我々にはこの様な精巧な武器は作れそうにない…作れたとしても我々が一つ作る間に彼らは何十何百と作っている事だろう…それでは意味が無い。これは講和のため、元老院議員たちにこのニホンの技術力を証明するための資料として持って行こう。)」

 

ノーマはもう二、三冊銃の本を手に取ると、鷲谷と一緒に会計のレジに並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12時、秋葉原駅で富田達と合流した鷲谷は近くの回転寿司屋へと向かって歩いていた。

 

道中富田の顔色を見てみると、とても青ざめていた。

どうやら周りは女性ばかりなのに対し、体格のいい大柄な男が女性向け男性同性愛本のフロアにいるのが違和感だったらしく、周りから変な目で見られていたらしい。

大方、あちらの気があると思われたらしい。

そのおかげで神経をすり減らし、今に至ると言うわけだ。

 

一行が到着したのは『スシタロー』という有名な回転寿司チェーン店だ。

時間的にも客は少なかったので、テーブル席に座ることが出来た。

 

ピニャ「ここは…?」

 

ボーゼス「小さな皿に乗った米と…肉?でしょうか…」

 

鷲谷「寿司っていう日本の代表的な料理ですよ。」

 

ピニャ「どうやって食べるのだ?」

 

鷲谷「こっちの小皿にしょうゆを入れてそれにつけて食べます。」

 

ピニャ達三人は流れてきたマグロの赤身を手に取るとしょうゆをつけて、それを口の中に放り込んだ。

その時、三人の口の中に衝撃が走った。

 

ピニャ「こ、この独特の香りは!?」

 

ノーマ「も、もしかして…魚!?」

 

ボーゼス「二ホンでは魚を生で食べるのですか!?」

 

三人は生魚のうまさに驚きを隠せないでいた。

それもそのはず、帝都で出される魚料理のほとんどは焼くか蒸すかして、ある程度火を通してある。

だがただ切っただけの魚の切り身に、酢を混ぜた米を組み合わせただけの簡単な料理がこんなにも美味しいだなんて…

 

三人の常識は完全にいい方向に崩壊していた。

気づけば三人は流れてくる寿司を無意識のうちに手に取って食べていた。

 

富田「そんなに気に入ったのでしたら、今度作り方を教えましょうか?古田っていう同じ偵察隊の隊員が元料理人なので、作り方も知っているはずです。」

 

ピニャ「そ、そうか!?なら頼む!これを父や他の者にも食べさせてやりたい。」

 

富田「分かりました、帰ったら相談してみますね。」

 

こうしてピニャ達の日本観光は大満足で終了した。

 

 

 

 

 

 

新宿アルタ前

 

それぞれ思い思いの買い物が出来て満足した一同は、お互い買った物を見せ合った後、疲れを癒すために箱根の温泉旅館へと向かった。

 

その様子を陰から監視する怪しい男がいた。

アメリカのCIA工作員だ。

 

ボール「ボールよりルナ2、ザビはサイド3へと向かった。どうぞ(over)

 

ルナ2「了解(copy)、監視を続行しつつ箱根にて中国とロシアの部隊と合流せよ。どうぞ(over)

 

ボール「了解(roger)通信終了(out)

 

 

 

彼らはこの後起こる戦闘も、その結果さえ…まだ知らない。

 

 

 




どうも一週間の実習が終了したメガネラビットです。
疲れた~_( _´-ω-`)_

東京の大都会は疲れる。

てなわけで早速解説コーナーに行きましょう。

解説コーナー

〔本位総理の忙しさ二倍〕

そりゃ誰だって異世界や二足歩行兵器は欲しがるよ。
男の浪漫だもん。

〔鷲谷同行〕

ピニャ達が日本の『芸術』文化に興味を示しておられたので、それをたっぷりとご堪能していただきたく秋葉原へと連れて行きました。

〔富田護衛〕

そりゃ初めての異世界にお姫様だけ残すわけにもいきません。
というわけで富田さんが護衛を務めさせていただきました。

〔ノーマ、銃の資料を手に入れる〕

ここ、ここ重要よ。これからの戦いに大きく影響してくるポイントだから。

〔寿司〕

寿司をどうしても食べさせてあげたかった。
だから連れて行きました。ちなみに私の父方の祖父は亡くなる前は魚屋を経営しておりまして、よくテレビを見ながらイクラをスプーンで食べてたっけな…懐かしい。

〔店の名前について〕

『とらのすあな』=『とらのあな』
『夕張ブックス』=『メロンブックス』
『アニメ―ト―』=『アニメイト』
『ビッグガメラ』=『ビックカメラ』
『過去屋書店』=『未来屋書店』
『スシタロー』=『スシロー』
となっております。


次回は温泉旅館編です。でも少し原作と違うので展開も少々違ったものになります。

では皆様、また次回お会いしましょう
それでは( `ー´)ノシ


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