GATE 自衛隊彼の地にて、ザク戦えり   作:兎の助

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前回のあらすじ

特地の生きた天災とも呼ばれる巨大危険生物、『炎龍』との不適遭遇戦に陥り、何とか追い払うことに成功した伊丹達第三偵察隊はコダ村の難民を連れてアルヌス駐屯地へと帰投。

そして一部の元コダ村住民は別の街や村へと移住。その中の一人の女性による酒場での噂話を耳にしたピニャたちは、緑の巨人と傭兵団による情報を集めていた。



第六話:アルヌス駐屯地

 

 炎龍との戦闘後、特にこれと言った問題も無く無事に帰還した伊丹を最初に待ち受けていたのは、檜垣三佐の怒号であった。

 

檜垣「誰が連れて来ていいと言った!!」

 

伊丹「あれ?連れてきちゃまずかったですか?」

 

檜垣「まずくないわけないだろう…はぁ…陸将に報告してくる。」

 

 全偵察隊の報告をまとめた資料を小脇に抱え、柳田は狭間陸将のいる部屋へ入っていった。各部隊とも、言語の問題はありつつも平穏な一時接触は達成できたことに狭間は安堵の表情を浮かべる。

 

柳田「…住民をこちらに何人か招ければもっと情報が分かるのですが…」

 

狭間「う~ん…意思の疎通が上手く出来ていない状況でそれはまずいだろう。後々、お隣さんや煩方(うるさがた)達に拉致とか強制連行とか言われて面倒になるのは避けたい。」

 

柳田「伊丹の隊がコダ村からの避難民を護送してきました。その避難民を保護という形でこちらで受け入れるのはどうでしょうか?」

 

狭間「なるほどな、いいんじゃないか!」

 

柳田「それと同じく伊丹の隊なんですが、鷲谷二尉が炎龍と言われる危険生物の左腕を持ち帰ってきました。それを研究機関に提出してくれとの報告もあります。」

 

狭間「確かにこちらの生物の遺伝子情報についてはまだ詳しくわかってないからな。明後日までには左腕を持ち帰ってもらうとしよう。」

 

 無事に報告を済ませた柳田二尉は部屋を静かに退出した。一方鷲谷はバンカーにて大明や他の偵察隊MSパイロットたちに炎龍との戦闘時について話し合っていた。

 

鷲谷「…それでね、僕はトカゲ野郎の腕を抑えこんで動きを止めたんだ。確かに暴れていて大変だったけど、見た目に反して大したことなかったね。」

 

大明「はっはっは!なんだ?こっちの怪獣は俺たちのMSより弱いのか?なんだか拍子抜けだな。俺たちを満足させるような戦いは無いのかねぇ?」

 

 楽しく会話に花を咲かせているところに報告を終えた柳田が鷲谷を屋上に呼び出した。そこには先に来ていた伊丹の姿もある。柳田は(おもむろ)にタバコの火を点け、二人に話し始める。

 

柳田「…お前たち、わざとだろ?」

 

二人「何がです?」

 

柳田「とぼけるなって。定時連絡を欠かさなかったお前らがドラゴンの戦いの後、突然の音信不良…避難民を放り出せとでも言われると思ったんだろう?」

 

伊丹「いや、こっち異世界だし…電断層やら磁気嵐のせいじゃ?あっ!もしかしてMSのミノフスキー粒子が原因かな?アハハ…」

 

柳田「ふん、誤魔化しやがって。裏の方の身にもなってみろ。」

 

鷲谷「いずれは精神的にお返しする予定ですよ。」

 

柳田「全くもって足りないね。いいか伊丹、それに鷲谷。この世界―――特地は財宝の山だ。公害や環境汚染のない手つかずの大自然に、世界経済をひっくり返しかねない膨大な量の鉱石・地下資源。しかも文明レベルは圧倒的にこちら側が有利。そんな喉から手が出るような世界との接点が突如日本に開いた。それに門が開く前も我々日本の注目は集まっていたんだ。」

 

伊丹「MSか…」

 

柳田「そうだ。日本…いや世界で初めて核融合炉の小型化に成功。そして人が乗り、従来の兵器を圧倒的に上回る兵器『MS』の動力源でもある。この開発成功には一体どれだけの時間がかかったか私にもわからない。おかげで今、日本の原子力発電所は皆イヨネスコ型核融合炉を使っている。考えてもみろ、小型の核融合炉が手に入ったら、世界の大半の連中が考える事を。」

 

鷲谷「兵器利用っすか?」

 

柳田「あぁ、小型の核融合炉搭載の巡航ミサイルが遠くから飛んできて、頭の上で爆発したらその被害は計り切れない。それに我々の利点は動力源だけでは無い。それによって生まれるあれだよ…」

 

伊丹「ミノフスキー粒子…」

 

柳田「実際は電波妨害発生物質だが、呼び慣れたそっちの方が説明がしやすい。レーダーや通信機器などといった電子装置を壊さずに完全に無効化する未知の物質。敵にとってはまさに最悪の組み合わせだな。」

 

伊丹「何が言いたいんだ?」

 

鷲谷「まさかそんな日本の自慢話するために呼んだわけでは無いですよね?」

 

柳田「なぁ、二人共…永田町の連中は知りたがってんだよ。アメリカはともかく中国やロシアなんて大国を敵に回すほどの価値がこの特地にはあるのか…いやあってもらわないといけないんだ。」

 

鷲谷「その価値があったら?」

 

柳田「世界では持つ者が絶対勝者なんだ。極端な話、日本が世界のあらゆるところから縁を切られ見捨てられても、ここ(特地)とMSさえあれば不便無く暮らしていけるってことだ。」

 

伊丹「柳田さん、あんたが真の愛国自衛官ってことは十分分かった。だけど全然ピンとこないんだよ、連れてきた避難民と世界情勢との関わりが。」

 

柳田「お前たちはこの土地の人間との信頼関係を築いてきたんだ。お前たちは重要情報に一番近い場所にいるんだ。」

 

鷲谷「だからって年も行かないような子供なんかに『金銀財宝がどこにありますか?』って聞くんすか?」

 

柳田「知っている人間を探して情報を得られるだろう?二人共、あんたらには近日中に大幅な自由行動が許可される。だが最終目的はお互い一つっていうのを忘れるなよ。」

 

伊丹「全くたまらないねぇ、柳田さんあんたってせこいよ。」

 

鷲谷「俺らが一番大変なんじゃないですか?」

 

柳田「まぁそういう仕事だ、今まで税金でのんびり暮らししてきた分、ビシバシ働いてもらうぞ。」

 

 柳田は手をヒラヒラさせながらその場を後にしていった。残された二人は顔を見合わせ、大きなため息をついた。

 

鷲谷「お互い大変っすね。」

 

伊丹「まぁ、しゃあない。とりあえず、飯と寝床かな。」

 

鷲谷「手伝いますよ、隊長。」

 

伊丹「当たり前だ。」

 

 屋上に残された二人も後に続くように階段を降りていった。翌日、第三偵察隊は保護する事となった元コダ村の人達の仮設住宅を立てるべく、テントを立てたり、食料配給などを行った。

 伊丹はその中で一番面倒くさい報告書の作成も加わり大変な一日を過ごすこととなった。そこから更に数日後、アルヌス駐屯地のすぐそばに本格的な村を作る事が決定した。生い茂った木を作業用MTの左腕に付けられた二本のアームとハサミ型チェーンソーによって伐採していく。残った根っこは右腕のショベルで掘り起こし、車体の前方に付けられたドーザーブレードで土をかき集め、後ろ側に付けられた三本のリッパーで均等にならしていく。数時間で整地が終わり、デコボコで木が生い茂っていた野原は見事に整地されていた。伐採された木も綺麗に積まれており、仮設のプレハブ住宅も完成している。

 レレイは自衛隊が持ち込んだ未知の技術に興味を持ち、彼らをもっとよく知るために日本語の勉強を独学で始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 住居建築の次は保護した住民の登録作業へと移行した。

 

カトー「儂はカトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の…」

 

レレイ「レレイ・ラ・レレーナ。」

 

ロゥリィ「私はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒。」

 

テュカ「私はコアンの森、ホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソー。」

 

黒川「老人三人、中年のケガ人が三人、後は子供十九人です。」

 

伊丹「で、子供の内三人は大人って?」

 

黒川「はい、この子は15歳で大人だそうですよ。」

 

 黒川の隣ではレレイが片手を使って年齢を伝えている。余談ではあるが片手だけで69まで数えられるらしい。そんなレレイが片言の日本語で話し始めた。まだ彼らと出会って数日しか経ってないのに、ここまで話せるレベルまで覚えられたのは凄い方と言える。

 

レレイ「テュカは165歳。」

 

鷲谷「本当にエルフだって思い知らさせられますね…」

 

伊丹「じゃあもう一人は?」

 

黒川「あの神官少女だそうです。」

 

 その発言に伊丹は驚きを隠せない。村の子供たちと遊ぶ姿はどう見てもレレイより年上に見えない。

 

伊丹「え!?まだ15にも見えないけど…本当に?」

 

レレイ「子供違う。年上、年上の年上、もっと年上。」

 

伊丹「じゃあ何歳か聞いてくれる?」

 

レレイ「恐くて聞けない…」

 

伊丹「(何歳なの?)」

 

 結局謎の神官少女――ロゥリィ――の年齢は分からなかった。その夜、元コダ村の人達は今後の生活について話し合っていた。

 

カトー「彼らには何から何まで世話になってしまった。こんな立派な家まで建ててもらって…じゃが生活費はどうにか自分達で何とかしたい。でも年寄りとケガ人と子供ばかりじゃなぁ…」

 

テュカ「…丘の兵隊に身売りするしかないかも…」

 

 テュカや他の女性たちが顔を赤らめている中、レレイがとある提案を出した。

 

レレイ「彼らに仕事があるか聞いてみればいい。」

 

カトー「そうじゃな、見たところ丘の周りには翼竜の死骸が転がっとる。竜の鱗は大変貴重じゃ。あれをどうにかすれば生活費は何とかできる。」

 

 次の日、レレイとカトーは伊丹に翼竜の鱗の事を話した。すると意外な返事が伊丹から返された。

 

カトー「なんと!?ここにある竜の鱗、好きに取っていいとな!?レレイ本当か!?」

 

レレイ「そう言っている。」

 

 実のところ、自衛隊は翼竜の死骸処理に困っていた所なのだ。本国にサンプル用として二、三枚取った後は射撃練習の的ぐらいにしか使っていない。そういったものが生活の役に立つのなら幾らでも持っていって構わない、それが自衛隊の返答だった。

 この返事にカトーは呆然と立ち尽くしていたが、それもほどほどに行動を開始した。自衛隊から貸し出された玄能や鑿を使って次々と鱗を剥がし、泥や血などを洗い落としていく。銃弾や砲弾などで欠けた物を取り除き、売れる物だけを残していくと、鱗200枚と牙3本というとてつもない数になった。 

 

 一番下の翼竜の鱗でも、その価値は一枚で銀貨30枚から最高で70枚。銀貨一枚につき、一般家庭が五日間不便無く生活できる。それらが200枚に牙が3本。これだけあれば働かなくても余生が過ごせると言っていい。

 これらは彼らの今後の生活において重要なものとなる。いい加減な店に売るわけにはいかない。そこでカトーはイタリカにある古い知人の店に売ることを提案した。

 自衛隊と一緒なら安全に移動できるし、何より早く到着できる。自衛隊上層部もイタリカなどの交易都市の調査を行うため、第三偵察隊に道中の護衛と輸送任務を与えた。

 

 

 当日、武器庫から64式と9mm拳銃を持ち出し、慣れた手つきで弾倉に弾を詰めていく。陣形や装備の確認を終え、全員が車両に乗り込もうとした時、鷲谷が何かを見つけた。

 

鷲谷「…伊丹隊長…あれ見てください…」

 

伊丹「なんだ鷲谷。あれって…えぇ!?」

 

 伊丹の声に驚き、周りの隊員も同じ方向に顔を向ける。そこには一体の青いMSがあった。それはMS IGLOOを見ている者なら誰しもが知っている機体。一定の速度を超えると空中分解を引き起こし、ザクとの採用選考で負け、更にはプロパガンダに利用された不運なMS。

 

EMS-10(ヅ ダ)

 

 伊丹をはじめとした第三偵察隊の隊員が驚いていると、鷹がパイロットスーツ姿で現れた。

 

鷹「鷲谷、久しぶりだな。」

 

鷲谷「お久しぶりです、鷹二等陸佐殿。あのMSは一体…」

 

鷹「あれか?あれは対炎龍戦を想定して作られた新型試験機で、私がその試験パイロットに選ばれたんだ。試験は明日からなんだが、お前も見に来るか?」

 

鷲谷「これからイタリカに向かいますので、行けたら行きますよ。それではこれで失礼します。」

 

鷹「あぁ、気をつけてな。」

 

 鷹に見送られた第三偵察隊は、避難民キャンプへと向かった。鱗と牙が入った袋を積み込み、交渉の為レレイ、テュカ、ロゥリィも一緒に行く事になった。全員が乗り込んだことを確認し、一同はイタリカへと向かった。

 

 

 




どうも、まず一つ言わせてくれ…

GATE第二期放送おめでとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!!

ハイ、スッキリしました。
スッキリした所で解説コーナー

〔イヨネスコ型核融合炉〕

日本が開発に成功した、人類初の小型核融合炉。
MSの動力源にもなり、今では日本中の原子力発電所が使っている。
どのように開発したのかは不明。
呼び名も呼び慣れたものを使っているだけで実際にミノフスキー博士が作ったわけではありません。
日本での正式名称は多目的使用可能小型核融合炉

〔ミノフスキー粒子〕

イヨネスコ型核融合炉開発に伴い発生した電波などを妨害する謎の物質。
これにより敵の電子機器装備は完全に無力化。
自衛隊のほとんどの電子機器装備は全てミノフスキー粒子対策を施している。

〔MT-05V土木工事用作業車〕

MT-05Vから一切の武装を排除して、土木工事に特化した車両に改修した。
胴体部分は対空用と同じ、旧ザクの物を代用している。
アルヌス駐屯地建設時にも大いに貢献した車両の一つ。

右腕:ショベル
左腕:アーム付き伐採用チェーンソー
車体前方:ドーザーブレード
車体後方:リッパー

〔EMS-10 ヅダ〕

祝!初登場!
ちなみに本機はまだ実験機という設定となっておりまして、まだ大量生産はされておりません。
現段階ではまだ角突きの一機だけとなっております。
初戦闘は次回です。お楽しみに( *´艸`)




戦闘を期待していた皆さま申し訳ありません。
次々回はイタリカ防衛線なのでもうしばらくお待ちください。

それでは皆様、また次回お会いしましょう!!

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