混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
アリサと二人、取り残されたわけだが真面目なアリサは監督者が居ないにも関わらず、俺とハグを続けようとしていた。
その覚悟の強さは彼女の、師匠に対する感情からなのか。それとも強くなりたいという思いからだろうか。俺に分かるはずもない。
だが彼女が本気だということだけは分かる。だから俺は彼女の期待に応えなければならない。
再度お互いに腕を交差させて、目をつぶって抱きしめ合う。
その時にクチナシの甘い香りがフワッと鼻につく。シャンプーかボディーソープか分からない良い匂いと、密着したから分かる彼女の女性らしい
これは修行、これは修行、と心の中で念仏のように唱えて何とか乗り切ろうとする。
そして次第に慣れたのか余りアリサを意識しなくなっていく。
感じるのは彼女の体温だけ。
そうなった時、彼女の中に何かを感じる。何だろう、暖かい何かがある。それが俺に流れ込んでいる……
それが俺に流れ込んでいて、次第に力が湧いてくるのが実感出来る。
魔法で強化した時のような違和感では無く、体全体からやる気が出るような感覚だ。
魔法だと何かに包まれているような感覚だが、これは体の中から湧き上がってくる。
これが“気”なのだろうか……
「そうだ、それが“気”だ。補助があったにしても早いな」
突如後ろから声が聞こえて、思わず体が震える。そしてそれまで感じとれていた気の流れも感じなくなってしまう。
「気配を消すの辞めて下さいよ!!」
俺の後ろで微笑む師匠に抗議するが、全く反省の色は見えない。
「これが戦場なら死んでた訳だが……気なら感知出来た」
……師匠の言うとおりだ。俺が未熟なだけか……
と思うかよ!! まだ気を感じたばかりなのに、気配を感じろなんてなんて無茶だよ!!
俺の心の中の抗議も虚しく、師匠はアリサを
「アリサ、ラインとの修行ご苦労だった。お前のおかげでラインがここまで成長するのに一日も掛からないとはな……」
アリサは複雑な表情を一瞬浮かべたが、すぐに笑顔で誤魔化すように頷く。
「いえ、私ではなく、彼の才能あってこそです。彼は冷静になると、驚くほどの集中力を見せ、気を感じ取りました」
師匠はほう、と面白そうな笑みを浮かべると俺に向き返る。
「ライン、今回やったのはお前に“ゾーン”まで行かせたかったのだ」
「ゾーン?」
「ゾーンとは極限の集中状態の事で、スポーツ選手でもなることがあるのだが、時がゆっくりに感じる。これを自分で自由に出来るようになれば、気を習得したのも同然だ。
今回はアリサと抱き合う事によって一気に興奮状態にしてそこから一気に落とすことによってなりやすいという事だったのだが、まさか一発で成功するとはな……興奮を一切抑えて、冷静になるのはなかなか難しい事なんだがな」
なるほど、それでアリサと抱き合えとか言い出したのか。でもアリサの気持ちも考えて欲しいなぁ。
アリサに視線を向けるとアリサは首を横に振る。この件には何も言うなと。
彼女の思いも踏みにじまないためにも俺は必ず習得しないといけないな。
そして師匠は次の修行を言い出す。
「さて、次は気を使って肉体強化、気配探知だ。ゾーンにも自由に入れる練習も同時に並行して修行していく」
後、6日。俺は何処まで強くなれるのだろうか……
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そして作戦の日はとうとうやって来た。
1週間師匠と修行した訳だが、正直な所、まだ自分の物にした感じではない。
そして当日聞いたのだが、俺の所属はHAW部隊らしい。この1週間は何のためだったのだろうか。
前演説していた将軍と呼ばれている男は言っていた。
「君は確かHAWの操縦が出来ると言ってたな。わが軍はHAWが初めての者が多い。だから経験者の君に先導して貰いたい」
この軍のトップである将軍にお願いされては断れる訳も無い。確かに居ないよりはマシなのかもしれない。俺も実戦は初めてだが。
初めて乗る雷鳴。HAWを動かすスイッチとかは英語だが、操縦するために必要なOSは日本語だ。乗る人が日本人だから配慮した結果こうなったのだろう。まあ大体読めるから問題ない。
ほとんどは既存のHAWと同じだ。
武装はマシンガンとレーザーソードと盾。とても基本装備過ぎる。
もう少し何か欲しい所だが、抵抗勢力である日本独立戦線には欲張り過ぎか。
そんなことを思いながらコクピットの中で待機していると、青年が下からこちらに大きく手を振っている。
コクピットを開けて、降りると駆け寄ってくる。
「良かった、間に合いました……」
黒髪坊主刈りの青年が息を整えて、紙を渡してくれる。
それを見ると電磁投射砲ーーレールガンの取り扱い説明書だった。
「ーーっ!? これはレールガン!? これがもう既に実用レベルに?」
レールガン自体は前からあるものの、そのサイズは大きく、戦艦サイズで無いと使えなかった。それがHAWが使えるほど小型されたというのか。
「はい。ただし、連射は不可能で、冷却時間が必要です」
なるほど。やはりデメリットも有るわけで、冷却システムを犠牲にした訳か。それでもその火力はHAWの盾ごと撃ち抜く威力だ。
「ありがとう。これなら更に戦えそうだ」
青年に感謝を伝えると青年は顔を輝かせる。俺はそんな有名人じゃないのだがな。
再度コクピットに乗り込んで、出撃準備を整える。取り扱い説明書を読んどかないとな。
先に歩兵として先発した師匠やアリサの事が気になったが、頭から振り払って目の前の事に集中した。
そして作戦開始の時はやって来た。
通信から入る情報が今が好機と言っている。
「敵ハワイ攻略艦隊は情報通り、昨日の内に出撃。日本にある戦力をあらかた持って行ったそうです。今残っているのは、非番組と最低限の守備隊です。その数は我々よりも少なく、更に奇襲を行える我らが優勢です」
女性オペレーターが書いてある文章を読み上げているのだろうが、その節々に喜びが見て取れる。これだけの好条件が揃ってるんだ。
「先発した歩兵隊、東京郊外に到着。また各潜伏部隊も準備完了です」
話し手が将軍に代わる。
「さぁ、今こそ我々日本人が日本を解放するとき!! 日本人の、日本人による、日本人の為、の国を今ここに復活させよう!!」
アメリカ大統領リンカーンの言葉のアレンジか。ちょっとベターだが、俺達の思いは正にその通りだ。
「目標は火星独立軍、東京支部。全軍、攻撃開始!!」
将軍の声と共に各軍が攻撃を始める。
さて、HAW隊も行くか。
「全HAWに告げる。これより編隊を組んで東京に向かう!! ゲート開けっ!!」
ゲート開け、の指示で今まで隠されていた基地の入り口が開く。山の中腹が開き、中から外が見える。
「ライン機、先行する!!」
隊長である俺が最初に出る。久しぶりに感じる加速度が何だかとても懐かしかった。