混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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さて今日が最終投票日です。
今のところまだ定員に達していない為、送って下さった人には閑話をお送り出来ます。

ユーリ×アンジェリカ、ライン×マヤなど余り触れられてこなかったキャラの絡みなど読みたくありませんか?

人数が一定以上にならない場合、本編を進めていきます。

来週は閑話を書くためお休みします


13-5 魂の叫び

 

 微かに鈴虫の声が聞こえてくる静かな夜。山から流れてくる涼しい風が心地良い。

 夜が涼しいのが秋を感じさせてくれる。

 

 縁側に座って、ふと空を見上げる。

 都市部のウェリントンやオークランドでは見れなかった星が無数に輝いている。これだけの多くの星を見たのは小さい時に家族で行った以来だ。

 ふと家族の事を思い出してしまい、寂しい気持ちになる。俺にはもう肉親は居ない。それも病気でゆっくりでは無く、戦争によって急にだ。

 あの時は……いや今もまだ両親の死に向き合えていない。

 

 時間が痛みを薄れさせてはくれた。だけど1番薄れさせてくれたのは仲間だった。マナン、ティナ、グレン、アーロン、ドリー。そしてマヤ。

 皆が居てくれたから俺は後ろを振り返らなくて済んだんだ。この世界で前に進む価値があると、復讐せんが為にがむしゃらに進んでいた俺を進む方向を示してくれた。

 

 俺は守りたい、この世界を。確かに理不尽な世界だ。だけどその事にはもう皆気が付いてる。だから皆でゆっくり変えよう。

 そして火星独立軍が推し進める急激な変化には犠牲がともなう。それを見ていないのか火星独立軍は。

 

 考えがまとまった所で声が掛かる。夕食の時間らしい。

 

 母屋(おもや)の大きなテーブルで沢山の子供と一緒と食べる。

 昼間に道場で稽古していた子達だ。

 

 話を聞いた所、この子らに親は居ない。先の戦いで親を失った子達だ。ここは孤児院としての役割も果たしていた。それは国から与えられた物では無く、自主的だ。

 

 柳生のご飯というと厳格なイメージが有ったが、それとは真逆の大騒ぎの夕食となっている。ご飯は楽しく食べるのがモットーらしい。

 そして俺の目の前にはご飯と味噌汁とキャベツしかない。他の子供らにはカツがある。

 別に苛められてる訳では無い。そう、先程の約束を果たしているだけなのだ。

 

 そして隣のアリサのカツは積み重ねてある。そう俺のカツだ。

 

 視線が合うとニヤッといたずらっ子の笑みをする。

 

「悪いわね。カツ貰って」

 

「……いや、約束したことだ」

 

 頬を引きつらせながら笑う。まさか主菜がキャベツのみになるとは……

 居候させてもらっている身だ。文句は言えない。

 

 後でコンビニでも行こうかと思ったが最寄りのコンビニは歩いて30分。魔法で強化して行きたい所だが、ここでは不味い。

 

 ご飯と味噌汁をメインにキャベツをたまに食べるというローテーションで食っていたら、訪問を知らせるチャイムが鳴る。

 

 アリサが口をモゴモゴさせながら出て行く。

 暫くすると青ざめた顔で戻ってきた。

 何があったのか……

 

「……警察が来たのよ……それも逮捕状を持って……」

 

 逮捕状!? まさか俺がバレたか!? 

 味噌汁でご飯を胃に押し込んで、逃げる準備を始めようとするが柳生に止められる。

 

「いや、君じゃないだろう。多分私だ」 

 

 柳生ーー師匠は日本刀を左手に持って、玄関に向かう。その後を俺とアリサが付いていく。

 

 玄関を開けると目の前にはいやらしい笑みを浮かべた偉そうな警官が屈強な部下を連れて立っていた。

 

「これはこれは柳生さん。こんばんは」

 

 頭を少し下げるが、全く敬意を感じられない。

 

「用件は?」

 

 そんな事気にせず、ゴミを見るかのような目で睨む師匠。

 

 すると偉そうな警官は懐から紙を1枚出す。そこには師匠を逮捕すると書いてあった。

 

「何!?」

 

 俺は目を疑って何度も見るが、どう見ても変わらない。

 

 師匠は予想していたのか全く動じてない。

 

「柳生さん、貴方を逮捕して頂きます。罪状は誘拐、監禁。子供達がここに居ますよね? それも許可を取らずに勝手に連れ込んで」

 

 確かにそれ自体は不味い事だ。

 だがそんな事に構っていたら子供達は死んでしまう。これは言いがかりだろう。

 

「……お前の言うとおりだ。俺はここに身寄りの無い子供達を集めている。こういうのは本来ならお前らの仕事だろ? だがお前らは子供達に何もしない。そこら中に身寄りの無い子供達が居るのに、何故見ないフリをする!? 何故自分達の権益だけ貪り、手を差し伸べようとしない!? そんなお前らには反吐が出る」

 

 視線だけで射殺せそうな師匠。それを感じたじろぐ警官だが、自分達の優勢を思い出し、声を張り上げる。

 

「更に公務執行妨害を追加する!! おい、コイツを捕らえろ!!」

 

 屈強な部下が師匠を両脇から抑える。だが師匠は抵抗しない。そのまま連れて行かれそうだ。

 

「何で、抵抗しないのですか!? 師匠!!」

 

 師匠の力ならば瞬殺出来るはずだ。相手が魔法師だろうと、俺を簡単に倒した師匠だ。行ける!!

 

「俺なら大丈夫だ。無駄に被害を増やす必要は無い。今は耐えるときだ」

 

 首を横に振って否定する師匠。何故だ!?

 

 心の中で葛藤している時、部下の一人が呻いて倒れる。

 

 そこには怒りの表情に満ちたアリサが居た。

 

「こんな事あってはいけません!! 正しい事してるはずなのに罪なんて可笑しいです!! そんなクソな国なんて変えてやる!!」

 

 アリサの言葉で葛藤が一瞬でなくなる。そうだ、可笑しい事には可笑しいと言えないなんて間違ってる!!

 

 魔法で強化して師匠の両脇の部下の頭を蹴り飛ばす。

 

「お、お前らも公務執行妨害になるぞ!? 良いのかぁ!?」

 

 震える声で指を差すが脅しになってない。

 俺達はそんな脅しにはもう屈しない。

 

「ええい、もう良い!! 皆殺しにしろ!!」

 

 警官の叫び声で何処からともなく現れる敵。この雰囲気は魔法師だ。それも10人は居る。初めからそういう魂胆か。

 

「……ふふっ、全く穏便に済ますつもりだったが、君らのせいで台無しだ。まあ良い、気に入らないのは私も同じだ」

 

 日本刀を抜く師匠。その表情は何とも爽やかな表情だった。

 

 師匠が構えたのを気に敵は動き出す。どいつもこいつも魔法で肉体を強化している。だが俺を軽くあしらった師匠には通用しない。

 

 師匠は敵が突っ込んで来た所を大して動かずに半身で躱して、一撃の元鎮めていく。

 

 2人ほど斬られた頃に敵も学習したのか間合いを取る。

 だが師匠にはその距離は一足一刀の距離だった。

 

 一歩踏み出すと、師匠は敵の後ろに居る。そして敵の血飛沫に掛からないように次の敵に向かう。そう一刀で仕留め、敵の返り血を浴びない速度で動いて行く。

 

 これが剣を極めた者の動き……同じく剣を扱っている者として分かる。師匠の剣は俺の遥か向こうの領域に行っている。長い歴史が積み重ねられた剣術の型とそれを手に入れる為、長い間の厳しい鍛錬が師匠を異次元の強さにしているのだろう。

 

 あっという間に半分まで数を減らされた敵はやっと攻撃魔法を使い始める。

 

 変哲も無い初級魔法に師匠は避けもせずに真っ直ぐ向かっていく。

 いくら師匠と言えども生身で魔法を受けたら、死んでしまう。

 

 だが師匠は日本刀を盾に突き進んでいく。そして日本刀に魔法が次々と当たるーーが、魔法は吸収されるように消えていく。

 

 何だ、あれは!? 刀が特殊なのか、それとも師匠の技なのか!?

 

 どちらも答えを出すには情報が少なすぎた。

 その間に師匠は魔法の嵐を突破して戦意喪失した敵を斬り伏せていく。

 

「ヒィィィィッッッ!! た、頼む殺さないでくれ!! 上から命令されたんだ!! 俺はやりたくなかったんだ!!」

 

 警官が情けない悲鳴を上げて、地面にへたり込む。苦しい言い訳に誰もが顔をしかめる。

 

「……そうか」

 

 師匠はそれだけ言って、刀に付いた血を敵の死体の服で拭ってから刀を納める。

 

「はぁぁぁ……」

 

 助かったと思い、気が抜けて安堵する警官を師匠は睨みつける。

 

「お前を助けたんじゃない。お前は刀の錆びにする価値すら無い」

 

 ゴミを見るかのような視線と殺気で警官は失神した。

 

 とりあえず敵は倒したがこの事が上に知られたらもはや軍団を率いて来るだろう。いくら師匠が強くても機甲兵器軍団、無数の魔法師には勝てない。

 

 だからもう此処には居られなくなる。師匠はもちろん、俺やアリサ、道場も閉鎖しないといけない。ここに居る子供達の居場所は無くなってしまう。

 

 どうするのかと師匠を見ると何事も心配してなかった。

 

「さて、子供達は隣の民家に預けよう。隣の夫婦には子供がおらず、沢山子供が欲しいと言っていた。ちょうど良かろう」

 

 子供達自体には手は伸びてこないだろう。あくまでも柳生、柳生の道場が狙われるだけである。

 

「アリサ、子供達を風呂に入れてくれ。明日隣の夫婦に話を付けてくる」

 

 アリサは頷いて中に戻っていく。

 

「さてライン君。私達は今から東京に向かおうか」

 

「え? アリサは置いていくのですか? それに子供達は……」

 

 いきなりの言葉に混乱する。さっき言ってた事とは違うからだ。

 

「ふむ。さっきのは嘘だ。夫婦には何かあったら引き取って欲しいと頼んでるし、アリサは女の子だ。それに此処での生活が相応しいだろう」

 

 確かに優しいアリサには戦いではなく、子供達と居ることが似合っている。子供達と楽しそうにしてたし、平和な生活でも生きていけるだろう。

 

「私達は男だ。戦いは男がやる物だ。彼女の夢も遠くから叶えよう」

 

 戦う以外にも選択肢がある彼女とはここでお別れだ。戦う事だけが生きる道じゃない。耐える事も隠れる事も生きる道だ。

 

 30分後に再集合する事を決めた俺と師匠は荷物の整理を始める。

 もちろんアリサにバレないようにだ。

 

 風呂場から子供達の楽しそうな声が聞こえる。こんな子供達を戦いには巻き込みたくない。

 ここに留まったらいつか子供達も狙われる。流れ弾もそうだし、人質にも使われる可能性も有る。

 

 そして30分後玄関外で待っていると後ろに気配を感じて振り返る。そこにはバスタオル1枚で涙を流して震えているアリサが居た。身体から上がる蒸気と濡れた髪が今風呂を出たばかりだと分かる。

 

「……アリサ」

 

「バカァ!! 何で私を置いていくの!! 私も一緒に行く!!」

 

 俺の服にしがみつく力は強い。そんな彼女の後ろに師匠が現れる。優しい口調でアリサを説得する。

 

「アリサ、分かってくれ。これは君の為にも良いんだ。何も戦うだけが君の生きる道では無い。……今までありがとう」

 

 師匠がアリサの手を握るとあんだけ力が入っていたのに、手が離れていく。

 手が離れた彼女だったが、その瞳は更に燃え上がっていた。

 

「確かに戦い以外の道もあります。でも私が選んだのはずっと柳生さんに付いていく……それは私を拾ってくれた時から全く変わりません!!」

 

 涙をボロボロと零しながらの魂の叫びは簡単には揺るがない。

 彼女の師匠に対して思いは恋なのか、尊敬なのか、依存なのか。

 そんな事はどうでも良かった。

 


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