混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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引き続き人気投票開催中です。
方法は簡単。感想、メッセージなどで好きなカップルを送るだけ。

それで投票して頂いたカップルで閑話を作ります。完成後、個人宛に送らせて頂きます。

これは読者サービスで日頃の感謝をお伝えするためです。

去年の送った閑話を少し紹介します↓

「え、ええ。次の質問に行きます。えーと、アイリーンさんはルーカスさんのどこに惹かれたのですか?」

するとアイリーンの顔はゆでだこのように真っ赤になり、いやいやと顔を振る。

「わ、私はルーカス長官とはまだそういう仲では有りませんし……」
「まだ?」
「ーーあっ」

と一部をご紹介しました。本来は最初から落ちまであるので2000文字ぐらいになります。

この閑話は公開するのは初めてですので、送った方のみ見ています。
世界に一つだけの閑話欲しくありませんか?

参加は感想、メッセージ、活動報告、Twitterから出来ます

https://twitter.com/ginmajo?s=09




13-4 柳生

 険しい表情で俺も見る男、柳生。

 その体付きは歴戦の猛者のように胴着の隙間から立派な筋肉が見える。

 この鋭くて重い雰囲気を醸し出す人を、俺は見たことがない。

 前の戦場で出会った敵魔法師達とは違う。この人は鋭い刃物のようだ。何処までも貫かれるような気がする。

 

 そして柳生という名前からも分かるように日本を代表する剣術を代々受け継ぐ一族だ。戦場での兵器が剣から銃に変わった時以降、表舞台から姿を消した。

 

 そんな剣術一族がこんな所で剣道を教えて居たとは……

 

 剣を学ぶ上では必ず挙がる名だ。普通有名人に会ったら心が躍るが、この男に完全に飲み込まれていた。

 

「お前は何故剣を取る? 別に戦う事が生きる道じゃない。お前は人を殺す事から逃げられる」

 

 何故? 何のために戦うのか? それは分からない。家族やマヤを奪った奴に復讐したいのだろうか。だがそれは無駄だと理性が訴える。

 

 最初、軍人になると決めたのは憎悪だった。そして今も憎悪で動いている。憎悪は人間の原動力の一つではないだろうか。

 

 2つの考えが頭の中で衝突し、ごちゃごちゃになる。そう答えは無言で返すしかない。

 

 すると柳生は小さく頷いて手に持っていた木刀を俺の前に投げる。

 木刀が地面に当たり、乾いた音が響く。

 

「……そうか。ならお前が積み重ねて来た全てを俺に見せてみろ」

 

 柳生はもう一つの木刀を片手で正眼に構える。

 

「……良いだろう。俺の全力を見せてやる!!」

 

 もはやヤケクソだった。さっきの言葉が挑発に取れて頭の中が真っ白になる。軽い挑発なのに乗ってしまうのは馬鹿だと自分でも分かっていた。だが戦ったら何が見えると、そう期待しての行動だった。

 

 落ちている木刀を拾って打ち込む。魔力は使ってないが、鍛えた肉体で繰り出す攻撃は遅くはない。

 だが柳生は木刀を使わずにすれすれで(かわ)していく。

 当たりそうで当たらない。何度も色んな方向、フェイントをかけて攻撃するが体を少し動かすだけで躱していく。

 

 俺の息が上がった所で柳生は目を細めて俺を見詰める。

 

「全力で来いと言ったはずだが……魔力を使わないで勝てると思ったのか?」

 

 本人は嫌味など言ってないのかもしれない。だが俺の腸が煮えくりかえるには十分だった。

 

「もう手加減はしないっ!! 魔法も全て使わせて貰う!! アリサ、もし危なくなったら止めてくれっ!!」

 

 アリサは一瞬驚いた表情をするが、すぐに強く頷く。

 これでもう何にも心配することは無い!!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 足を魔力で強化し、一気に距離を詰める。そして魔法で強化した腕で木刀を振る。そのスピードはグレンにも匹敵するだ。

 

 柳生は下ろしていた木刀を使って防ぎ始める。何合も何十合も、もの凄い速さで打ち合う。

 

 だが防戦一方の柳生は涼しい顔を変えない。顔色一つ変えないのだ。

 更に俺の心の火に燃料が投下される。

 

「その涼しい顔もこれで最後だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 再度踏み込んで距離を詰める。木刀を右手に、左手で魔法を唱える。

 

「その動きを止めるにはっ!! フリーズ!!」

 

 俺の足元から氷の波が全方位に襲いかかる。

 そして予想通り柳生は上に跳躍する。

 

 空中はどんな猛者も動きが取れない!!

 

 得意な魔法のライトニングを詠唱する。威力は人を死に至らしめるには十分だ。

 

「全力で来いと言った!!

 だから俺は全力で行く!!」

 

 全力のライトニングを放つ。

 俺の手から放たれた電撃は青い稲妻となって、意志を持ったかのように柳生に向かっていく。

 

 すると柳生は木刀を地面に突き刺し、踏み台にして横に跳躍する。

 

 なっ!?

 

 驚いたのもつかの間、その間に柳生は電撃を避け、地面を足をつける。

 そして跳躍して木刀を回収する。

 

「一瞬でそんな戦い方を思いついたというのか……」

 

 思わず言葉が漏れてしまう。そして木刀を捨てたカバーも見事だ。

 

「これが柳生なのか……」

 

 実戦慣れしている……柳生家の長き戦いの経験と場数による経験が俺との圧倒的差をつけていた。

 

 だが諦める訳にはいかない。俺はどんな時でも諦めない。生きている限り希望は必ずある。

 

 木刀を更に強く握り締める。

 

 そして柳生に再度打ちかかるが、瞬時に木刀を俺の手から飛ばし、喉元に剣先を突き付けられる。

 

 何が起こったか理解出来なかった。先程まで俺が一方的に打ち込んでいたのに一撃で俺が負ける?

 

 だが目の前にあるのは柳生の手の先から伸びる木刀。その木刀は俺の喉元をぴったりと狙っている。

 

「ま、参った」

 

 素直に負けを認めるしかなかった。これがサムライなのか。

 

 すると柳生は木刀を下ろして、口を開く。

 

「これがお前の強さだ。その程度では思いも叶わず、ただ殺されるだけだ」

 

 俺は力が付いたと勝手に思っていた。だが世界は広かった。そうアカデミー内、3度だけの戦闘で世界の全てを知った気になっていたのだ。

 

「……俺はまだ未熟……これじゃ戦いに呑み込まれるだけだっ!!」

 

「その通りだ。強くなければただ目の前の戦いに必死になるだけ。その先なんぞ見えやしない。ましてや世界を変えるのはもってのほかだ」

 

 仲間を守りたい……仲間のいる平和な世界を守りたい……俺はこの世界が心底好きなんだ。復讐なんかより仲間を守りたいっ!! だから力が欲しい、力が欲しいっ!!

 

 目を上げると柳生は縁側に座って、満足そうに微笑んでいた。

 

「見つけたようだな。お前が剣を持つ理由を」

 

 無言で頷くと柳生は立ち上がって竹の水筒を投げてくる。慌ててキャッチすると柳生は裏手を指で示す。

 

「まずは水を汲んでこい、1

 00人分」

 

「は?」

 

 賑やかな子供達の声に俺の間抜けな声は消えていった。

 

 

 

 

 

 -----

 

 腕の筋肉を軋ませる水の入った重い桶。昔ながらの井戸で桶を落として水を汲んで引き上げる。これを魔法使わずにやれと言うので何回も繰り返す。

 

 魔法が使えるようになってから余り重いと感じたことがない。

 小銃も鎧も剣も魔法を使えば手足のように使える。

 だがこの水の桶は何と重いのだろうか。滑車におかげで上げるのは楽だが、水を竹の水筒に移すのが辛い。重い物を長時間傾けなくてはいけない。

 これを子供や女性がやってたというのだから驚きだ。

 

 だから100本の水筒に水を入れるのは一苦労だ。

 半分終わって一息つくと、アリサが様子を見に来る。

 

「大丈夫? 手伝おうか?」

 

 彼女が心配してくれるのは嬉しいがこれは俺の為の修行だ。

 

「いや、大丈夫だ。後半分、直ぐに終わらせる」

 

 作業を再開するが、手が震え始めていた。先程の戦いが堪えているのか。

 

 そんな様子を見かねたアリサが手伝い始める。

 

「そのお水は道場生、皆のお水だから早くしないと……」

 

 アリサは手慣れた手つきで次々と水筒に水を入れていく。

 この作業は元々彼女の担当だったのだろうか。

 

 情けない。軍人で男の俺が力仕事で負けてるなんて!! 

 

 痛む腕を奮い立たせ、作業を手伝う。

 

「私は水を汲みあげて水筒に移すから、水筒取ってくれる?」

 

 彼女自ら重い方をやってくれる。この際、急がないといけないから手際の良い彼女に任せよう。

 

 彼女は次々と水を水筒に入れていく。そしてあっという間に終わってしまった。

 

「ふう、二人で入ると早いね」

 

 額に汗を滲ませた彼女が微笑む。

 ほんと助かったよ。

 

「お礼に何かさせてくれないか?」

 

 餞別として貰ったお金は十分にある。交流を深める意味でも何かしたい。

 

 すると彼女を首を傾げる。

 

「お礼? この程度にお礼なんて要らないよ。私達は日本を解放する仲間同士。……そんなにお礼したいなら……」

 

 うーん、喉を鳴らして、悩む彼女が捻り出したお礼の内容は

 

「じゃあ今晩のカツを頂くよ」

 

 ……カツ? カツって料理のカツか? そんなもので良いのか?

 

 だが彼女は俺が思っている以上に喜んでいた。

 

「今日はカツ食べ放題ね。やったわ♪」

 

 鼻歌混じりで中に戻っていくアリサ。

 そんなに嬉しいのか……

 

 水筒を抱えて彼女の後を追うのであった。

 


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