混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
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私と日本を解放して欲しい、と確かに俺にはそう聞こえた。
だがその意味が分からない。
俺の目の前に居るのはラフな格好の普通の若い女性一人。
そして俺はただの軍の新人だ。
もし頼まれたのが俺ではなくて、ブライス代表やグレンだったら何とか出来るかもしれない。だけど秀でた頭脳も能力も無い俺に彼女は頼んでいるのだ。
たった一人の普通の魔法師と若い女性だけで火星独立軍と戦って、日本を解放しろというのだろうか。
ますます彼女の言っている意味が分からなくなっていく。
俺が悩んでいるのに気付いた彼女はハッと何かに気付き、苦笑いする。
「たはは……そうだよね。いきなり言われても困るよね……」
説明不足と気付いたのだろうか。あまりにも突拍子も無い話で判断出来ない。
アリサはごめん、と言ってから説明を始める。
「まず、私は日本独立戦線に所属しているの。日本独立戦線というのは火星独立軍から日本を独立させ、中立を宣言しようとしているのよ」
彼女が言うには火星独立軍に抵抗する日本軍の残党らしい。
戦争以前から地球連合軍の統治下にあったが、日本軍だけに留まらず、各地域には小さな軍が存在していた。
戦争する為の軍では無く、テロや凶悪犯罪を押さえ込む為の軍であった。
その規模はかなり小さく、地球連合軍に比べれば塵にも等しい。
そんな日本軍だったが、火星独立軍来襲の際、
火星独立軍が海に慣れてないのもあったが、日本軍の屈強な抵抗と戦術に火星独立軍は何度も撤退を余儀なくされた。
結局は地球連合軍の勝手な撤退と火星独立軍側の物量で負けた日本軍だったが、残党は日本各地に潜伏して好機を伺っているらしい。
だが中立を宣言するとはどういう事だ?
まだ首を捻る俺にアリサは更に説明する。
「なぜ中立かって? それは日本人は元々戦争を望んで無い。過去の大戦で多くの人を亡くしたの。だから戦いたくは無いのよ」
「……だが、それを叶える為に戦う。矛盾しているとは思わないのか?」
この矛盾は自分の中でも答えが出せてない。それを彼女にぶつけるのは酷だと思うが、どうしても彼女の意見を聞いて見たかった。
彼女は目を伏せる。自分でも矛盾していると思っているのだろうか。だが、すぐに顔を上げる。そこには強い意志が見えた。
「そう、矛盾しているわね。でも願っているだけじゃ日本を解放出来ない。自分達で取り戻さないといけないんだ!! 日本を!!」
人には待っている人が居る。自分では動かず、空から自分の欲しい物が降ってくるのを祈っている人が居る。
だがそんなのはこんな厳しい世界では通用しない。
厳しい世界だからこそ自分の手で掴み取らないといけないんだ。
その間に多くの犠牲を払うかもしれないけれど。
彼女はそう言っている気がした。
「……分かった。その覚悟、見事だよ。……俺に出来る事はあるだろうか?」
すると彼女は花が咲いたような笑顔になる。
「ホント!? 手伝ってくれるのね!?」
彼女は俺の手を取って踊っているが、そこまで俺に期待されてもな……
「なぁ、俺はただの魔法師だが構わないのか?」
「もちろん!! 一人でも仲間が欲しいし、魔法師は貴重よ!!」
魔法師が貴重? 確かに全体数はそこまで多くは無いが、たった一人魔法師が増えても日本を解放出切るとは思えない。
「日本に魔法師を育成出来る力は無いわ。だから散々敵魔法師に苦汁を飲まされて来たわ。でもそれも今日でお終いね!!」
あれ? いつの間にかにまた話が飛躍している。今彼女に何を言っても無駄かもしれない。
テンションの高い彼女に手を引かれながら、街に紛れていった。
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街は活気付いていた。だが、裏路地に入るとすぐにさびれている様子が見える。
表向きは平和だが、その裏では未だ戦争の爪跡が見てとれる。
そして人々の表情には格差があった。本当の笑顔の者、偽りの笑顔の者、精気を無くした者。
本当の笑顔の者の割合はほんの少しだ。火星独立軍から受益している者だろう。
ほとんどの人が前よりも暮らしが酷くなっているのだろう。
そんな光景にアリサも表情を歪ませる。
「偽りの平和なんだよね。与えられた平和では笑顔になれるのは一部だけ。私はもっと多くの人を笑顔にしたい」
アリサの複雑な表情はこれからの犠牲や厳しい戦いを憂う表情だった。
そんな彼女に声を掛ける人が居た。
「アリサちゃん、コロッケ出来たてだよ!!」
優しそうなおじさんが笑顔でこちらに手を振って来る。
「あ、おじさん、こんにちは!!」
アリサも笑顔でおじさんへ手を振る。
小走りで精肉店の前へ行く。
少し小太りのおじさんはコロッケを俺達に差し出す。
「さぁ、お食べ」
目の前に差し出されたコロッケは香ばしいパン粉の匂いと出来たての熱気でとても美味しそうに見える。
「いただきまーす!!」
アリサは早速かぶりついたが、俺は戸惑ってしまう。
「あ、あの、これはいくらですか?」
注文もしてないのに出て来る料理。確かこれが“お通し“だろうか。
だがおじさんは目を丸くして、そして苦笑いする。
「ああ、留学生の方か。これはサービスだよ。タダ」
「本当に良いのですか?」
先に食べさせといて後で法外な値段を請求すること等、こちらでは日常茶飯事だ。だからしっかり確認しないといけない。
するともう食べ終わったアリサが教えてくれる。
「これは好意よ。日本ではよくあることなの。大丈夫よ、このおじさんは良い人だから」
褒められて照れてるおじさんを見ながら思う。日本人は優しいな。
おじさんにお礼を言って、コロッケを食べる。
一口食べただけで、口に広がるジューシーな肉汁とジャガイモとタマネギの甘味。そしてサクサクな外側。これらを出来たてのアツアツが全てマッチさせる。
「……美味しい」
思わず口に出てしまう。それを聞いたおじさんが更に上機嫌になる。
「まさかコロッケ一つでそんなリアクション取ってくれたのは初めてだよ。気に入ったなら持っていくかい?」
奥から10個のコロッケを持ってきてくれる。それもタダだ。
隣のアリサも目を輝かして早速コロッケに食らいつく。
これが出来たてのコロッケか……と感動している間にアリサは次のコロッケに手が伸びていた。
分かってるか? 一人5個だぞ!!
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結局3個しか食えず、7個アリサに食われたので不機嫌でいるとアリサがごめん、と言ってくるがどうも心はこもってない。
味わって食いたかったのに……
まあ本気で怒ってないのはアリサにもバレバレで、アリサも適当だ。
そしてそのままアリサに連れられ、街の外れの大きな門の前までいく。
木製の門は歴史を感じさせる。現代では芸術の域で趣向で作らせるが新しく、ここまで歴史を感じさせる古い門を見るのは初めてだ。
中に入ると子供達の声が聞こえる。それも陽気な声ではなく、叫び声だ。悲鳴ではなく、掛け声だ。
ちょっと横に回るとそこでは子供達と大人達が剣道をやっていた。
ここは剣道場なのか。
「でも、何でこんな所に?」
この中の誰かが協力者なのか?
子供達や大人も楽しく剣道をやっている。兵士には見えない。
「それは
柳生さん? 道場を見渡すと中で一人異質な雰囲気を放つ男が居た。
道場の正面奥にその男だけ目を閉じて座禅を組んで動かない男が居た。寝ているのかと思うほどに微動だにしない。
だがその男の顔を見た瞬間、目が開いて目が合う。
一瞬の目線の交差だったが、この人だと確信出来た。
柳生さんはゆっくりと立ち上がってこちらに向かって来る。何故か体が警戒しろと訴える。
縁側まで来るとアリサに男は口を開く。
「アリサ、ご苦労だった。報告にあったのはこの男か?」
さっきまで普通の女の子だったアリサも別人のような雰囲気になっている。
「はい。ラインは信頼出来る魔法師だと思います」
今まで俺は試されていたのか……まさかあのコロッケをくれたおじさんすら?
どこまでが協力者で一般人なのか分からなくなる。それがここまで生き延びて来た日本独立戦線の実力だろう。
目の前に居る白い胴着と黒い袴を着た男は俺よりも大きい。そして凄みを感じさせる雰囲気。これが日本軍の軍人なのか。
「君がライン君か。確かにうちに現れた時に感じとれたよ」
出来るだけ魔力を抑えたつもりだったがそれを感知されたというのか?
その思考すら読まれていたのか、男は横に首を振る。
「俺が感知したのは魔力じゃない。気の流れだ」
気の流れ? 魔力すらも科学的には不明なのに気だと? 日本独自なのだろうか。
「君の魔力は隠せているかもしれないが、気は隠せてない。そう君のは一際大きい」
男は目を細めると低い声で言った。
「……大きな憎悪が大半を占めている気だよ」