混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
そういえば皆さんは何を見にこの作品を見てるのでしょうか。教えて下さると重点的に書けるので助かります。
犠牲を覚悟して戦うと決めた教員陣。早速三年生を収集する。
直ぐに集まった三年生に対して告知する。
「君たちも聞いているように敵は既にウェリントン基地後方に集結していると知っているだろう。その規模は50人ほど。それも全てがエリート魔法師だ。
だから最初に言っておきたい。正確には君達はまだ学生で軍人では無い。更に言えばまだこれは上層部から受けた命令でも無いのでこの戦いは強制では無い!! 参加したい者だけが参加してくれ」
だが誰もこの場から立ち去らなかった。それはこの戦いが自分の命を懸けるのに
エルス国の本拠地、ウェリントン基地を守る事はエルス国を守る事に繋がると誰もが信じていた。
そしてエルス国を守る事は家族、友達を守る事になると感じていたからであった。
誰もが力強い視線をゴリに返す様子に自分の心が熱くなるのを感じる。
皆も守りたいんだ。家族を、友達を。
大切な人に襲いかかる魔の手を振り払いたいとどれだけ思っただろうか。病気と同じだ。どれだけ目の前で弱っていく大切な人を無力感に苛まされながら見ていただろうか。その無力感をまた味わいたく無くって医者になった者もいるだろう。
俺はそれと同じで軍人になった。
もう誰も失いたくは無い。
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結局誰もこの場から立ち去らなかったのを見て、ゴリは複雑な表情で笑う。
「馬鹿共が……死に急ぎたいのか……」
嬉しい反面、生徒達を守れないかもしれない自分の実力不足に怒りを覚えていた。
彼は死なせたくない故に生徒達に厳しく接して来た。
だがこの現状で全員生きて帰すのは無理だった。それがどんなに無念なのかラインには知りようもない。
「そうか、分かった。死に急ぎ野郎共には死に場所を与えてやる!!
我々はこれより、奇襲をする奴らに
「「「おう!!」」」
腹の底から声を出して恐怖と戦う自分を鼓舞する。そしてお互いの大きな声がお互いに鼓舞し合うのだ。
死に対する恐怖を高揚感と使命感で塗りつぶす。その紙一重な状態に生徒達はなっていた。
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これが俺にとって3回目の実戦だが、今回は前の二つとは比べ物にならないほどの恐怖に襲われていた。
銀行や合宿の時は確かに死と隣り合わせだったが、不思議と生き残る自身があった。
しかし今回、敵は猛者達。こちらが奇襲出来るとはいえ、全員を一瞬で殺せるわけでは無い。必ず態勢を整えて反撃してくる。そうなるともう魔法師の総力戦だ。技量と実戦経験がものを言う。
となるともはやお互いに潰し合いの生臭い戦いになる。そんな戦いは初めてだ。
底知れない恐怖に何度も襲われる。さっきまで談笑していた仲間が友達が、次の瞬間には肉塊になっているかもしれない。それに自分も死ぬかもしれない。考えれば考えるほど深い暗闇に落ちていくような感覚に吐き気が催してくる。
そんな様子に気づいたエマ先生が治療魔法を掛けてくれる。
「ライン君は考えすぎだよ。確かにライン君の思っている通りになるかもしれない。でもそれは戦いに行く以上避けられない事だよ。……今からでも辞めても良いんだよ?」
エマ先生の提案を首を横に振って否定する。
「魔法ありがとうございます。戦争は嫌いです。でも私は逃げたくありません。逃げて逃げて誰も居ない所に隠れても、仲間や友達を見捨てた罪悪感、いや自分への怒りに耐えきれなくなるでしょう。
だから私は自分の力で皆を守りたい。もし死んだとしても長い間苦しめられるよりは……マシかな。……やっぱり死ぬのも嫌です」
率直な言葉にエマ先生はふふっと笑うが次第に顔を曇らせる。
「立派だね、ライン君は。……私の友達も最前線で戦っていたんだ。でもね、皆いつも再会する時は冷たくなってるの……でもライン君は死んじゃダメだよ?」
エマ先生の頑張って繕った笑顔に胸が締め付けられる。
「はい、死にたい訳では有りませんから這いつくばってでも生きます!!」
その言葉にエマ先生は満足に笑う。
「あ、腕や脚が飛ばされたらちゃんと持ってきてね? 原形さえ残ってれば繋げられるから」
冗談のような事を真顔で言うエマ先生。だが本当にそうなのかもしれない。でも治せるとしても腕を吹き飛ばされるのはまっぴらごめんだ。
その後教員陣に呼ばれ、グレンと二人で向かう。
真摯な面持ちでしている議論に参加する。
「お話の所失礼します。ラインとグレンです」
「おお、来たか。で、お前らに話があるんだが……」
「何でしょうか?」
ゴリが俺達にまだ話が有るとは……伝える事は伝えたはずだが。
ゴリは複雑な表情を浮かべながら目線が泳いでいる。話すか迷っているようだ。しばらく待っているとようやく話を切り出す。
「実はな、今回の作戦の指揮官をお前らに任せようと思っているんだ」
「ーーえっ!?」
思わず口から声が出てしまう。頭が話についていけない。どういう事なのか。
「……どういう事でしょうか?」
動揺している俺に対してグレンは目を細めて困惑していたが、あくまでも冷静に聞き返している。
「……今回はな、激しい戦いとなる。それに戦力差が大きい今、我々教員陣はもはや最前線で戦わないといかん。一人でも多くの敵と対峙する必要がある。だから指揮官には向かん。
そこでだ。優勝チーム候補のリーダー二人のどちらかにやって貰いたい。大丈夫だ、お前らは十分に実力がある。我々全員が命を預けられるほどな」
てっきりゴリが指揮を取るのかと思っていたが、確かに主力の教員陣は最前線に出るだろう。全体を見渡すには厳しい立ち位置だ。
だから俺達にお鉢が回ってきたのか。
グレンは顎に手を置いてうんうんと頷く。
「そういう事でしたか。……なら俺はラインを推薦します」
意味ありげな視線を送ってくるグレン。
えっ!?お前の方が適任だろう!!
「ちょっ、ちょっと待って下さい!! 私よりはグレンの方が適任だと思います!! この作戦の立案者はグレンですし……戦闘能力だってグレンの方がーー」
そこまで言うとグレンが俺の口を手で遮る。黙れというのか。
「確かに俺はラインよりも実力は上です。ですが指揮官の能力ならば彼の方が上です。あのチームをまとめ上げたのですから」
自信たっぷりにこちらを見つめてくるグレン。くっ……反論出来ない。
黙りこく俺に更にグレンは追撃を入れる。
「また俺は援軍と協調するため、指揮官にはなれません。なのでラインが適任です」
決まった……俺が指揮官か……
教員陣もうんうんと頷き、満場一致のようだ。
「ではライン君。指揮官の件引き受けてくれるかな?」
「……お引き受けします。至らぬ事もありますでしょうがよろしくお願いします」
暖かい拍手が送られるが俺の心は不安で押し潰されそうだった……
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後少し行くだけでウェリントン基地にたどり着く。
主力は出払っており、我々が後方から強襲すれば瞬く間にエルス軍は崩壊するだろう。
今のところは我々の存在はバレては居ない。
建物の窓から外を眺める。
人気の無い道路には車が放置されていて、鳴り響く盗難防止のブザー音が不気味に感じる。突然人がこの世から消えたかのようだ。
一瞬弱気になった自分に一喝して、気を引き締める。
そんな時後ろから肩を叩かれる。
「よぉ、大丈夫か?」
目つきは悪いが面倒見の良い先輩が自分を心配してくれている。
「ええ、大丈夫です」
特に調子悪い訳では無い。初めての実戦でも無いし、怖いわけでも無い。ただ、これから大きな作戦が始まると思うと落ち着かないのだ。色々と無駄な事を考えてしまう。
大丈夫だと踊ってアピールすると苦笑して離れていく。そろそろ俺も戦闘準備をしなくては……
奥の部屋でAMAを着る衣擦れの音を聞きながら外を眺めていると目の前をエルス軍のジープが通る。
そして目の前で止まる。
運転席と助手席から2人の兵士が降りてこちらに向かって来る。その足取りは特に急いではいなかった。
まさかバレたのか!? いやでもこの2人以外には居ないし、ライフルも無い。腰に挿している拳銃のみだ。それに拳銃すらも抜いていない。
異変に気づいた先輩が目線で指示する。誤魔化せと。
正面のガラス張りの扉を開け、中に入ってくる。その動作は普通に扉を開けるものだ。
扉を開けて2人が中に入るとこちらに気付いたのか近付いてくる。
「観光客の方ですか?」
優しい笑顔で聞いてくる兵士。兵士とは感じさせない物腰の柔らかさだ。
「ええ、いきなり戦闘が始まってしまい、こちらに避難してきたのです」
出来る限りの笑顔で答える。だが内心はヒヤヒヤしている。
すると兵士はバツの悪そうな表情になる。
「せっかくの観光なのに戦闘に巻き込んでしまって申し訳ありません。まあこれも独立軍が攻めてきたのが悪いんですけどね」
兵士達は可笑しそうに笑い始める。怪しまれないように苦笑いしておく。
しばらくして笑いが収まると兵士達は用件を切り出す。
「実はさっきここを通りがかった時あなたが見えたので、立ち寄りました。ここは戦闘地域と近い。だから我々が安全な場所までお連れしますよ」
自信満々に胸を張る兵士。これは罠では無く、純粋に観光客を安全な所まで運ぼうとしているのだろう。だがそれは困る。
「それはそれは。ですが寝たきりの母が居ましてここを動く訳には行かないのですよ」
残念だけど動けないという演技をしておく。だが1人の兵士がドヤ顔で提案してくる。
「私は医療に精通しているので看ましょうか?」
これも好意から言われたものだろう。だが寝たきりの母など居ない。奥に行かれては困る。
「いえいえ、そんなお手数をお掛けするわけには……」
やんわり断ろうとするが向こうも好意の押し付けをしようと奥に入ろうとする。
もう、ダメだ!! 申し訳ありません!!
兵士が奥への扉を開けるとそこで兵士は立ち止まる。
同僚がどうした? と近づくと地面に崩れ落ちるように倒れた。
その胸には真っ赤な血の染みが出来ていた。
唖然とする兵士だったが訓練の賜物か、腰の拳銃を抜く。
だがそれを構える前に首が宙に飛ぶ。
血が噴水のように飛び出しながら残った体は倒れ込む。
奥の扉の方を見ると先輩が返り血を浴びた状態で佇んでいた。
「申し訳ありません!! 私の技量不足で……」
「いや、もうそろそろ仕掛けようと思っていた頃だ。お前も着がえろ」
そう言った先輩の表情は既に戦闘モードに入っていて、少し恐怖を覚えながら奥に入っていった。