混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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お待たせしました。ツイートした通り、区切りが良いところまで書けました。

Twitterでは作者の本性が出ているので自由な事を呟きます。何かお題を下されば語りますので知りたい事があればお知らせ下さい(現状、作品の歴史。作品の成り立ちについてツイートしました)

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11-11 因縁の間柄

 

 死んだように深く眠るアーロンを横目にバッグポット達を撃破する方法を考える。

 残念ながらアーロンは自動防御機能の発動によって棄権だ。幸いな事に命に危険は無さそうだ。

 

 尽きない弾幕を張るバッグポットにこのままではジリ貧を強いられる。あの機動力をどうにか出来れば……

 

 粒汗が額に浮かぶラインにマヤが叫ぶ。

 

「機動力を落とすには足!! 足が無理なら地面よ!!」

 

「ーーっ!? そうか!! よしっ、フリーズを地面に!!」

 

 魔法が使えないマナン以外がフリーズーー地面を凍りつかせる。広範囲を一瞬で凍りつかせたライン達は動きの止まったバッグポットを置かれた的のように破壊していく。

 

「マヤ、見事な思いつきだ!!」

 

「これも兵法の基本よ。いったい指揮官科のあなたは何をしてるのかしら?」

 

 軽口を叩くマヤだったが本心は作戦が上手く決まって嬉しそうだ。

 おちょくったマヤに対して軽い返事で返しておく。こんな事は俺達にとってはお遊びだ。

 

 全部のバッグポットを破壊したライン達は呼吸を整えてから次の段階へ進む。

 

「さて、妨害もこんなもんだろ。次からはいつもの戦いになるはずだ。アーロンを失った今、俺達はフルに実力を発揮しなきゃ勝てない」

 

 実力者達のエドウィン達には万全な状態で挑みたかったがアーロンを失い、消耗したライン達は厳しい戦いを覚悟で挑むしかない。

 

 厳しい状況だったが不思議と負ける気がしなかった。同じ気持ちのようでマヤ達も顔を上げていた。

 

「不思議よね。こんな状況だけど負ける気がしないわ!! 今までで最高の実力が発揮出来そうだわ!!」

 

 仮定だが、この嫌らしい戦術とアーロンが敗れた事によって怒りが心の中に渦巻いているのかもしれない。しかしその感情は今は高揚感として現れているのだろう。

 

 マナンやドリーも鼻息荒く、いきこんでいる。これだけ皆がやる気になったのはいつ頃以来だろうか。それほどちまちまとした戦術に苛立ちを覚えていた。

 

「良しっ!! 俺達は絶対に勝つ!! 負ける訳には行かない!! やるぞ!!」

 

 おう!! との掛け声と共に倉庫から目的も無く駆け出していく。エドウィン達が居るのはこの倉庫群の何処かなのだから。

 

「どこだっ!! 出て来い、エドウィン!!」

 

 怒号を上げて、一個一個しらみつぶしに倉庫を見ていく。

 

 そして最後に1個となる。大きく開けられた扉の正面から入っていく。

 日向から日陰に入って、一瞬目が眩む。そして次第に鮮明になっていく視界に優雅に座るエドウィンが映る。

 

「やあ、ライン。ここまでご苦労。もっと減らせると思ったのだが思ったより残ったな。運が良かったようだな」

 

 せせり笑うエドウィンはライン達を目の前にしても優雅に紅茶を飲んでいる。

 

 余りの露骨な挑発に額に青筋が立つ。瞳孔は大きく開いていて今にも飛び掛かりたいぐらいだ。

 

 しかしこれはどう見ても挑発。以前の俺だったらすかさず飛び掛かっていただろう。しかしここで隊長である俺が落ち着かないと部隊は全滅する。

 

 激しく揺れ動く気持ちを抑えながら答える。

 

「エドウィン、やっと、会えたな(・・・・)

 

 とても嬉しそうに言うラインだったが、低い声で答えた事に長い付き合いのマナンは気付く。

 ラインが物凄く怒っている事に。

 

 そんなことには気づかないエドウィンは更に調子尽く。

 

「そうか!! 俺もお前と一騎打ちしてみたかったんだ。さて、これで俺の完全勝利だ」

 

 エドウィンが手を挙げると、俺達の左右に二人ずつ二階の通路に現れる。一人がアサルトライフル、一人が魔法という組み合わせだ。

 

 まさに包囲された状況だったがラインはあくまでもエドウィンを見ていた。

 

「俺はエドウィンとやる。マヤ、後は任せた」

 

 さっきまでと違って物静かになったラインに一瞬戸惑ったがすぐに頷く。

 

「ええ。後は任せなさい」

 

 これで安心して戦える。エドウィン、お前は俺が倒す!!

 

 もちろんラインは分かっていた。エドウィンの戦い方が正しい事を。兵法の通り、敵が疲労した所を叩くという戦い方。でもエドウィンとは正面から戦いたかった。

 卒業したら戦場に旅立つ彼らはこれが最後の戦いになるかもしれないからだ。

 

 だがエドウィンはそれを選択しなかった。確かにこれはラインの我が儘だ。でもこんな戦いをされたら誰でも苛つくのは仕方ないだろう。

 

 サッカーで言えば、ずっと守りを固めてロングシュートでゴールを狙われるようなものだ。それも凄まじいスピードで。

 

 そんな嫌らしい戦い方にライン達が怒るのも仕方ないだろう。

 

 そんなことも知るよしもないエドウィンは悠々とレイピアを取り出してラインに向ける。

 

「さあ、一騎打ちと行こうじゃないか。これで勝てば実力も作戦も勝ちだな」

 

「ああ。これで終わらせる」

 

 ラインも剣を抜いて構える。

 

 2人が剣を抜いた事でマナン達もそれぞれの得物を構える。

 

 張り詰めた緊張状態がこの場を支配する。引き金を引けばあっという間に解ける緊張状態はコップに入った水の表面張力のようにギリギリを保っていた。

 

 いつ飛び出すか。お互いに相手の挙動を見逃さまいと気を張っていた時、風が窓を叩く。

 

 その音で2人は動き出し、それに釣られ他の面々も戦い始める。

 

 お互いに得物を構え、接近戦に挑む。剣とレイピア。武器の異種の戦いがここで始まろうとしていた。

 

 レイピアーーその武器は突きに特化した武器である。他の武器に比べ重量が小さい分、威力には欠けるがそのスピード、手数は他に追従を許さない。

 そして威力は魔法で強化でき、スピード、貫通力を増している。

 

 なので手数の多いエドウィンが攻めに回るのは必然的だった。

 

 凄まじい速度で突きを繰り出すエドウィンにラインは防戦一方となっていた。

 

 くっ……なんて早い突きだ……

 これじゃあ反撃どころじゃない!!

 

 エドウィンの一撃でも入ったら致命傷なので自動防御機能は発動する。本人の意思に関係なく。

 

 真っ直ぐ自分に向かってくる剣先を自分の剣を当て、軌道を逸らす。

 最少の動作で躱さなくては、手数で劣るラインは戦いようが無い。

 

 攻撃を続けていると次第にエドウィンの息が上がる。

 短いような長いような怒号の攻めが止むと一旦距離を取る。

 

 怒号の攻めを切り傷程度で済んだのはラインの実力と言えるだろう。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 肩で息をするエドウィンと同じくラインも息が上がっていた。

 

 そしてお互いにこのままでは決着が付かない事を理解していた。

 

「ふんっ……なかなかやるではないか。まあこのぐらいないと詰まらんからな。さて本気を出してやるか」

 

 虚勢で笑うエドウィン。本人はバレてないと思っているのか。

 

「さあ、我がへールズ家の実力を見せてやろう!!」

 

 ーーへールズの名の下に、ここに集結せよ!! 我が忠実なる僕。勇敢なる兵士よ。具現化せよ!!

 

 そうエドウィンが唱えると、目の前の地面が光を発して、そこから全身をゴツい鎧で纏った兵士が出てくる。出て来たのは2体。鎧の隙間から見えるのは土で出来た体。

 魔力で生成した兵士か。

 

「ふはっはっはっ。来たか我が優秀なる兵士達よ。さあわが軍を勝利に導いてくれ!!」

 

 エドウィンが命令すると土の兵士は動き出す。その動きは図体の割には早いが普通の人程度だ。

 

 手に持った槍を突き出してくる。

 攻撃は早くは無いが、2人揃うと単純に2倍の速度で繰り出してくる。

 

「くそっ、うっとしいな……」

 

 疲れを知らない土兵士は変わりなく攻撃を続ける。一方ラインは人間であるので動いているだけでも疲れは溜まる。

 

 そんなラインの様子にエドウィンは笑いが止まらない。

 

「くくく……我が軍略に敵うはずもないのだ」

 

 何が軍略だ!! 他人に戦わせるだけだろうが!!

 

 そう言いたくなったのを堪えて、目の前の敵を打ち払う事に集中する。

 

 このままではジリ貧だ。一撃で粉砕する!!

 

 一旦距離を取って魔力を溜める。

 

 もちろん土兵士は構わず追撃する。

 

 そして射程内に入った土兵士に対してラインは発動する。

 

「天罰を与えよ!! ライトニング!!」

 

 ラインの手から放たれた青白い高出力の電撃は狂い無く土兵士の鎧に直撃し、黒焦げにする。

 

 黒焦げになった土兵士は膝をついてバラバラになり消滅する。

 

「ライトニングだと!? そんな魔法が使えるのか!?」

 

 狼狽えるエドウィンに容赦なく攻め込むライン。慌てて構えるが動揺したエドウィンは攻勢に出れない。

 

 そしてそのままの勢いで攻め込み、レイピアを遠くへ飛ばし、エドウィンの首に剣先を突きつける。

 

「何故だ……何故、俺はおまえに負けたんだ……」

 

 信じられないとでも言いたげな表情のエドウィン。そんなエドウィンに剣先を突きつけたまま答える。

 

「そうだな……この軍略は正しい兵法だった。しかし敗因はお前が俺達を怒らせた事だ。怒りに満ちた軍勢は勢いが凄い。それと正面から戦うのでは無く、上手くかわすべきだったな」

 

 士気の高い軍勢とは戦ってはいけないと兵法書にも書いてある。そういう軍勢とは罠にハメるなど正面からぶつかってはいけないのだ。

 

 敗因を理解したエドウィンは崩れ落ちるように膝を付く。

 そしてこのチームで確固たるリーダーのエドウィンが降伏した為、ファルク達も降伏する。

 

 この試合を見ていた観衆はそれぞれを褒め讃える。

 

「いやはや最初の作戦は見事でしたね。ドローンによる砲撃観測。そしてバックポットによる消耗。最後は負けましたがこの戦場を制したのは彼でしょう」

 

「そうだな。エドウィンの作戦は見事だった。しかし最後は驕り(おごり)によって負けた。そこは指揮官として致命的だ。治せれば有能な指揮官になるだろう。

 それに対してライン達は最後の最後まで諦めず、良く戦い抜いた。また怒りに身を任せなかったのは良いな」

 

 優秀な人材が育ちつつあることに男の口元に自然と笑みが浮かぶ。

 

「にしても最後のライトニング。まさかあの技を使えるとは思わなかったです」

 

 同僚の呟きに頷く。

 

「ああ、基本属性魔法だが雷は性質上どうしても金属に引き寄せられる為、自爆し易い。それを魔力で抑えるのだがそれをこなす学生はなかなか居ない。雷が得意な学生か……」

 

 感心しつつ、これからのラインの戦いが楽しみな男だった。

 

 

 


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