混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
今回最新話のきりが良く短めだったからかもしれません。
かと言って火曜日にはまだ完成してはいなかったので余った時間が微妙でした。
またツイッターに寸劇を投稿しましたので良かったらご覧下さい
轟音と共に壊れた壁から飛んで出て来たのはチームメンバーの一人。地面を勢い良く転がり、受け身は取れない。そして仰向けで止まったチームメンバーは自動防御機能発動により、棄権となった。
ティナ達はチームメンバーが出て来た穴を見る。そこにはこっちを愉悦に浸っている笑みで見つめるアーロンが居た。
こちらと目が合うと、更に大きな笑みを浮かべる。
「ーーっ!? てめぇ!!」
チームメンバーの一人がアーロンの態度に我慢出来なくなったのか壁に足を掛けて、飛び降りようとする。
だがこれは明らかな挑発だ。
「ダメっ!! 待って、あれは挑発よ!! 乗ったら駄目」
憤るチームメンバーを押し止め、眼下にいるアーロンに睨みつける。
するとアーロンは
「おおっ怖っ」
とでも言いそうな大袈裟な態度を取る。
そんな態度だったが、矛盾してアーロンは中庭に座り込んでリラックスしている。
まるで、お前らは相手にもならんとでも言ってるようだ。
さすがに露骨な挑発にティナの額にも青筋が立ったが、ここは冷静にならなくてはいけない。
ヒクつく頬を抑えながらメンバーへ活を入れる。
「アーロンは無視して屋上を抑えるわよ!! 良いっ!?」
一応隊長である指揮官に確認を取る。
指揮官は頷き、ティナの提案は通る。
「行くわよ!!」
ティナを先頭に屋上に向かっていった。
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アーロンが壁ごと敵を撃ち抜いて一人棄権させた時、ライン達は
その光景を屋上から見ていた。
「……やっぱりスゴいわね、アーロン」
感嘆の声を漏らすマヤにラインも頷く。
「やっぱりこれで正解だったな。タイマンの強さでアーロンに敵う奴は居ない」
自分の思惑通りに進む戦況に微笑むライン。
前回はチームメンバーをフルに活用出来なかった自分が成長した事が嬉しそうだ。
そしてドリーも更にテンションを上げていく。
「よおっし、僕もやるぞ!!」
張り切っているドリーだが元気で空回りするのは辞めて欲しい。
「さて、挑発に乗らなかったティナ達はこっちに来るだろう。4対3だが、地の利、天の利はこちらにある」
自分達が来た階段とは反対方向にある階段を見つめながらラインは太陽を背に作戦を思い描いていた。
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階段を後少しで登り切る所でティナ達は一旦止まる。扉を開けたら待ち伏せされてる事だろう。
「この扉を開けたら、相手は待ち伏せしてるはず。相手はどの方向に居るかも分からないけどこちらは扉から。不利ね」
不安そうに呟くティナにチームメンバーは横に首を振る。
「ティナ、心配することは無い。相手にはアーロンは居ない。なら前衛の数で押し切れる」
自信満々なチームメンバーに他の面々も頷く。
満場一致の意見にティナも不安を頭の片隅にやる。
……ラインはそんなに甘くない奴だからなぁ……まあ出来ることをやるしかないわ。
気持ちを引き締め、一斉に扉を開けて飛び出して行く。扉から出たらすぐ散開だ。
扉を勢い良く開けると日の光がティナ達の視界を遮る。いや、遮る程度では無かった。もはや真っ白で何も見えないぐらいだ。
咄嗟に目を手で覆って光が目に入らないのように下向いた時に、視界の片隅に見えたのは大量の鏡。それがティナ達を囲むように向いているではないか。
ーーっ!? これは罠か!?
そうティナ達が思った時には既に遅かった。
鏡の外から魔法が連射される。
下しか見えない中、ひたすら逃げ回って回避するが味方とぶつかったり、魔法を受けて自動防御機能発動するチームメンバーも出る。
「くっ、見事ね……皆!! 中に戻って!!」
悔しげに口を歪めながら、何とか扉からマンションの中に戻るティナ達。
もうティナと隊長しか残って無かった。
「はぁ……はぁ……」
と2人が肩で息をしていると下から気配がする。
慌てて振り向くと、マナンを片手で脇に担いで、友人を見かけたように手を上げるアーロンが居た。
「よぉ、まだ残ってて良かった……まだ物足りないからなぁ……」
次第に獲物を見つけたように
それに対照的な困った笑みを浮かべるマナン。確かにこんな恰好で運ばれるのも恥ずかしいだろう。マナンが降ろせと抵抗している間にティナと隊長は壁をぶち抜き、宙に舞う。
上と下が取られた今、逃げ道は横しか無かった。
5階から飛び降りれば鍛えてる人でも死ぬが、風の魔法を使って着地をゆっくりすれば無事に着地出来る。
そういえば飛行魔法も存在するが、常に魔法の細かな制御と魔力を放出させる為、難易度はものすごく高い。
現に未だ飛行魔法の使い手は居ない。
そしてティナは空中で遠い目で観客を見ながら、これからどうするか考える。
だがどう考えても勝てる道筋が見えない。
人数的にも不利。地の利はライン達に。
もはや勝ち目は無かった。
地上に降りたティナ達は近くの住宅に逃げ込む。
だが住宅はマナンの射程内だった。
屋上から住宅に入ったティナ達に向けて、グレネードランチャーを撃ち込む。それに対してティナ達はウォールシールドで防ぐしかない。
このまま行っても、ティナ達の魔力切れによる敗北は避けられなかった。
この状況になってから一分後、勝敗は決まったと判断し、試合終了のホイッスルが鳴り、ライン達の勝利となる。
ティナ達に起死回生の動きが見られなかった為、試合終了となった。
初めての勝利にライン達は湧き上がる。
「よしっ、勝ったぞ!!」
ガッツポーズするライン。
「ライン、見事な作戦だったわ」
満足そうに頷くマヤ。
「まさか試験で鏡を集めるとは思わなかったよ」
未だに奇抜な作戦に驚くドリー。
「なんか、あっけねぇな」
思いっきり戦えず、不満げなアーロン。だが初勝利に目は喜んでいる。
「あれ? ホントに勝ったの?」
イマイチ勝利に納得がいかないマナン。
まあ確かにマナンは最初の戦闘以外、グレネードランチャーを撃っただけだからな。それも建物に。
戦闘した気にはならないだろう。
そんな何とも間の抜けたチームに観客はざわめく。
「まだ余裕だと言うのか……これは楽しみだ」
「にしても今回は作戦勝ちですな。
見事に敵を釣り出して前衛が得意な人を配置し撃破、人の和。
そして相手の動きを止め、その間に屋上という占拠、地の利。
そして日の光を使い敵を撹乱、天の利。
何とも教科書を実演した戦いですな」
余りの見事な展開に笑いがこぼれる。
軍人の教科書である孫子の兵法を理解し、実行しているラインは軍人の鏡だろう。
すると隣に居た同僚が更に唸る。
「教科書通りに事を運ぶとは……相手は人だぞ。思い通りにいくものか……これをやり遂げるとはラインって子は優秀だな」
2人して目を細くして見つめる先は楽しく仲間と笑っているラインだった。
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暗い部屋の中で端末の光が唯一の光で男の顔を照らしていた。
ライン達の戦い振りを端末で見ていた。その見事な戦い振りにほぉ……と感嘆の声を漏らす。
軍人の理想像である孫子の兵法を誰もが頭の中に入れているが、いざ実行出来る軍人は多くない。
そんなラインを見た男は不敵な笑みを浮かべる。
「やるじゃないか、ライン。これなら決勝もあり得るな。決勝で待って居るぞ」
満足気に独り言を言った男は端末を閉じ、ベッドに放り投げる。
男は窓を開けてそこから身を投げだした。
そして誰も居なくなった部屋のカーテンは風で微かに揺れていた。