混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
活動報告にも書いた通り、しばらく週1、金曜日更新となります。
改稿に関しては改稿というよりもゼロから書き直している状態です。なので既存の1話とは全く違う物です。まだ投稿はしていませんがある程度、終われば投稿したいと思います。
にしても改稿よりも最新話書く方が筆が進むとは……
なので週1は投稿します。
最初のアーロンの突出の問題が解決した所でマナンのお腹がグーと鳴る。
時間を見るとちょうど昼休みの時間。見事な腹時計だ。
「それじゃあ、飯でも行くか。……アーロンも来るか?」
アーロンに視線を向けるとアーロンは顔をしかめて首を横に振る。
「……言っただろ? 馴れ合いは好きじゃないと」
やはり断られたが断り方は以前と違い、柔らかい表情だった。
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飯を食いに行くと言っても食堂である。毎日、食堂では飽きるかと思ったら日替わりメニューがある。その内容は一ヶ月間ほとんど被らないという豊富なバリエーションだ。
栄養バランスと味が保証された日替わり定食を食べながら、親睦を深める。
日本好きなラインは和食でご飯を片手に話す。
「そういえば、マヤは料理出来るのか?」
優雅な手つきでナイフとフォークを使ってパンケーキを切るマヤはビクリと体を震わせ、その手を止める。
「……ええ、もちろん出来るわよ」
そう言って再度動かした手はどこかぎこちなかった。
「もちろん? 確かに昔、女性は料理が出来なきゃダメだという風潮があったけど……」
「そうね。もうその考え方は古いわ。でもね、花嫁修業には必要なの」
「花嫁修業!?」
男女共に多くの者が仕事に着く昨今、結婚の為に幼少から花嫁修業をする者はほとんど居ない。
もちろん家事が出来る女性が好きな男性は一定数いる為、大人になってから花嫁修業をする者も少なくない。
そんな中でなぜ幼少から花嫁修業をしたのだろうか。
「昨日も話したけど、私は一応貴族なのよ? 貴族で女だったら花嫁修業は当たり前よ」
貴族と言えば、家事等しないというのがイメージなのだが、彼女の家は違うのか。
「私の家はそんなに位が高くないのよ。父の代で築いたし、私は政略結婚というよりも恋愛結婚で良いと言われてたから」
なるほど。彼女は貴族という貴族では無いみたいだな。
「……はぁ……まさか私が継ぐとは思わなかったわ。少しは興味あったけど、その内、適当な人と結婚してのんびり過ごせると思ったのに……」
何だか本音が聞こえて来た気がする。まあ彼女が本音を話してくれるのは打ち解けてきたからではないだろうか。
するとチラチラ視線をこちらに向けて来るマヤ。
「……何だよ」
「いやぁ、どこかに私と結婚してくれるいい人は居ないかなーと」
マヤの明らかさまな視線に呆れる。
「俺は嫌だ。そんな面倒ごとは勘弁だね」
取り付く島もないように手を振る。
するとマヤはわざとらしく上目遣いしてくる。
「こんな美人で、料理も出来る逆玉よ?」
キラキラと目に補正がかかりそうな勢いだ。
「ならマナンの方がマシだ」
と言ってマナンを見るとマナンは目を見開いて、サンドイッチを咥えて停止していた。
「えっ?」
口からポロリとサンドイッチを落とすマナン。
マナンが呆けて否定しないせいでこの場が変な雰囲気になってしまう。
するとドリーとマヤがそさくさと食べ物を口に詰め込み、俺とマナンを置いていく。
ちょっと!! マナン、否定しろよ!!
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昼食後、チームの部屋に戻ると全員が揃っていた。
心配だったアーロンも椅子に足を組んで座っていた。
「じゃあ次回の試験に向けて連携強化しようか」
ラインの言葉に頷く面々。
「まずはフォーメーションを決めようか。
アーロン=前衛
マヤ=遊撃手
ドリー=護衛
マナン=後衛
俺=前衛
で行こうと思うけど」
するとマヤが手を挙げる。
「ねぇ、この場合ラインが指揮官だからあなたが護衛か遊撃手になるべきでは?」
マヤの正論に悩むライン。
だがラインにも考えはあった。
「もちろんそうなんだけど、マヤのオールレンジは捨てがたい。だから遊撃手。そしてドリーが護衛なのは前衛では力が発揮出来ないと思ったから」
前衛は1対1になるとは限らないポジションだ。1対多数が基本の前衛をドリーには荷が重い気がする。
「ふーん。意外と考えているのね」
面白く無さそうに手元の本に視線を戻すマヤ。
だから俺は一応指揮官科卒業だって!!
心の内の叫びは聞こえるはずもなく、話は続く。
「これで良いみたいだな」
誰も反論が無い為、これで決まる。
一ヶ月後の試験に備えて練習に向かうとするか。
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一ヶ月間後、連携を強化したライン達は自信満々に試験に向かっていた。
対戦相手は同級生。
ライン達と同じように5人で一ヶ月間練習したチームだ。
ライン達はあれからシミュレーションを何回もこなし、タイミングや動きを慣れさせて来た。
そして今日この日の為に仕上げて来たのだ。
「……いよいよね」
自信ありげな笑みを浮かべるマヤにラインも同調する。
「ああ、やってやろうじゃないか」
いつも自信無いマナンも今日は少し頼もしく見える。
演習場所は市街地。
演習場所としては1番大きい。
中央にあるU字型のマンションを囲むように住宅地が建っている。
U字型のマンションは5階建てとそんなに高くない。
この演習場所は破棄された市街地を想定していて、電気は使えない。
破棄された市街地というだけあってところどころ草は生い茂り、鉄骨は剥きだし、家には穴が空いている。
家に穴が空いてるのは今までの演習の結果だろう。
使用可能武器は刃潰しされた武器やゴム弾となっている。
そして魔法だ。
もちろん
魔法の攻撃は加減が出来ない為、AMAが発動したら負けという決まりとなっている。
もちろん足止めの魔法には発動しない。アーロンが以前食らったのはそれだ。
またAMAには自動射撃防御が有るため、ゴム弾といえども発動する。
試合開始位置はマンションを挟んだ住宅内。有利不利が無いように対照の場所が開始位置となっている。
そしてマンションに入るにはUの先の二つの入り口から入るしか無い。しかしこの際直線となるため危険ではある。
だがマンションは唯一の高台。屋上に布陣すれば相手の位置が丸見えになるのだ。また高所から狙撃、広範囲魔法等やりたい放題である。
そんな重要拠点を奪い合いになるのは必然と言えた。
開始のブザーと共に真っ直ぐ住宅地を抜け、マンション両翼の入り口に向かう。
入り口は道路の方に向いていて、その道路に出ると、向こうも入り口に入ろうとしていた。
直線距離にして100m。近接戦闘には遠いが、銃や魔法ならば有効射程だ。
お互いに目線を合わせた瞬間、同じ行動を取っていた。
「マナン、撃て!!」
ラインの言葉と同時にマナンは長身の銃ーーアサルトライフルを撃っていた。
もちろん向こうも同じ行動をしていた。
一瞬でお互いの間には無数の弾丸が行き交うようになる。
そして両チームともさっさとそれぞれの入り口に避難する。
最初の遭遇戦でお互いに被害は無い。そしてお互いの兵科が一人判明したのである。
「一人は銃か……」
ラインの呟きにマヤが答える。
「そうね。それも向こうも遠距離向きね」
マヤも不安そうに呟く。
遠距離向きの銃同士が対峙した場合、ライン達には出来ることがないのだ。マナンと敵のタイマンである。
もちろんマナンの実力を疑う訳では無いが、何も手助け出来ないという無力感がライン達に溜息を付かせていた。
だが当事者のマナンは笑顔だった。
「大丈夫。これは僕の唯一の取り柄だから。負けたらジェームズ先生に顔向け出来ないよ」
そう言ったマナンの表情は自信に満ちあふれていた。
「……分かった、任せる」
むしろこれ以上心配しても信頼してないという事になってしまう。
だから後は俺達のやることをやるだけだ。
「よし、俺達も屋上の制圧を進めるぞ」
目の前にある階段を使って最上階に行く。
だが問題なのは相手も同じ事を考えているだろうという事。
お互いに階段を登り始めたら、どこでその最中に攻撃されるか分からない。隠れる所も無い階段は危険である。
だが最短ルートで屋上に行くには仕方ない事だった。
アーロンを先頭に、ドリー、ライン、マナン、マヤと続く。
駆け足で駆け上がる事、3階。3階に上がった時点で敵の襲撃を受ける。
3人が渡り廊下を走ってこちらに向かってくる。
「来たぞ!! アーロン、マヤ行くぞ!! ドリーは護衛を!!」
「やっと来たかぁ!!」
「ええ!!」
「了解!!」
アーロンは歓喜の声を、マヤは力強く応え、ドリーの了解が聞こえ、これなら安心して戦える!!
敵は一人一人個別に戦うらしく、分散して来る。
俺は目の前の素手の女子生徒と剣で鍔迫り合いをする。
素手に一瞬驚いたが、硬化魔法か。
鍔迫り合いしている肩までの茶髪の女子生徒が顔を上げる。その顔は見慣れた顔であった。
「こうして戦うのは初めてかしら?」
ニヤッと笑う表情に自然とこちらも笑顔になる。
「そうだな。格闘が得意とは知ってたけど、まさか、ティナが硬化魔法を使えるとはね……」
大袈裟に驚いたラインにティナは鼻で笑う。
「ふふっ、色々と成長したのよ、この1年間で」
更なる力で押してくるティナに皮肉を言ってやる。
「ほぅ……ん? 変わりはないけど……」
ティナはあくまでも認めないラインの視線をたどると、自分の胸にたどり着く。
「ーーっ!? ぶっ殺す!!」
顔を真っ赤にして馬鹿力を発揮するティナ。
流石に力比べはティナの方に軍配が上がる為、力を逸らして鍔迫り合いを抜ける。
「ライン!! アンタは触れてはいけない事に触れたぁぁ!!」
殺人を犯しそうな勢いで突っ込んでくるティナにさすがに恐怖を感じる。
やり過ぎたかも……
そんなラインの目の前に大きな背中が現れる。銀髪の男ーーアーロンだ。
「へぇ、こっち面白そうだな。コイツは貰う」
楽しそうに笑うアーロンにティナは不快感を露わにしてラインを指差す。
「どきなさいよ!! 私はアイツを殴らなきゃ気が済まないのよ!!」
フゥーフゥーと息荒くしているティナと戦うのは自業自得だが、ごめんだ。
「アーロン、任せた」
俺はアーロンと元々対峙していた相手と対峙する。
もちろんティナが隙あらばこちらに襲いかかろうとしていたが、アーロンの実力に気付いたのか、落ち着くティナ。
そして両チームとも本格的な戦闘に突入する。
アーロン、マヤ、ラインの3人は敵前衛と対峙。
マナン、ドリーは屋上に向かわせる。
俺の対峙している男はどこか知的に見える男だった。さっきの事に顔色一つ変えなかった。
そしてこちらは剣を抜いているのに彼は未だ剣、いや刀を刺したままだった。
微動しない男だったが、視線はこちらの挙動一つ見落とさないように見つめていた。