混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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11-2 連携実習

 

「一人足りないのだが……」

 

 と呟いたラインに誰も答えなかった。

 

 だがここで立ち止まる事は出来ない。すぐに連携実習のアリーナに向かわなければならないのだ。

 

「……仕方ない行こうか」

 

 ラインが先導してアリーナに向かうがその足取りは重かった。

 

 

 

 

 

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 アリーナには多くの生徒達が班ごとに分かれ、縦列で並んでいた。

 

 ライン達は遅い方だった。ほとんどの班はあらかじめ早く移動していたらしい。

 

 駆け足で所定の場所に並ぼうとしたが、そこには既に男が一人佇んでいた。

 その男は185cmぐらいの長身でがっちりした体格はかなり強そうだ。銀髪の髪を額を出して、つむじ付近で盛っている。如何にも不良だ。

 余り話しかけたく無いが、ここは俺らの班の場所だ。

 

「あの……ここはライン班の場所なのなんだが……」

 

 内心は恐る恐る聞いたラインに男は首だけ振り返る。

 

「ーーあぁ?」

「ひぃ!?」

 

 余りの鋭い眼力にマナンが小さな悲鳴を上げる。その目は実戦を経験したラインすら躊躇わせる物だった。

 恐怖を堪え、ここは押し切らないと。

 

「あの、貴方は何班なのですか?」

 

 恐怖のせいで敬語で再度聞くラインに男は何か気付く。

 

「ん? ああ、そうかてめぇがラインか」

 

 ん? 俺はこの人にすら知られているの?

 

「ならてめぇがこの班の頭だな? 最初に言っとく」

 

 男はそこで言葉を着ると、俺達を見渡しながら言う。

 

「てめぇらと協力するつもりは無ぇ」

「「「へ?」」」

 

 間抜けな声で返事をしたライン達にゴリが号令をかける。

 とりあえずこの話は中断するしか無い。

 

 

 

 

 

 

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 そして一通り話が終わった後、早速実習に入る。相手は卒業生達の班。実力は大差ないが連携力が違うらしい。

 

 その前の作戦会議。

 

「なあ、協力しないとはどういう事だ?」

 

 同じ班と分かったラインが男に話しかける。

 

 男は面倒臭そうに頭を掻きながら答える。

 

「へらへらと笑いながら連んでる奴とは協力しても無駄だ。俺は一人でやれる」

 

 それだけ言うと瞑想に入ってしまう男。

 もう何を言っても聞かないか……

 

 残った4人で作戦会議を行う。

 

「ちょっと!! 貴方が班長でしょう!! どうにかしなさいよ!!」

「……確かに俺に力が足りないからだな……」

 

 目を伏せるラインにマナンがフォローする。

 

「ラインは悪くないよ!! アイツが非協力的だけだよ!!」

 

 確かにあの男が協力的ならば楽なのだが、人はそれぞれだ。信頼出来ない他人に背中は任せられないだろう。

 

 フォローしてくれたマナンにありがとうと言いつつ、簡易な作戦を立てる為に行動する。

 

「そうだな。まずは一人一人の簡単な自己紹介と行こうか。得意距離も頼む。

 ーーじゃあ俺から。

 俺はライン。指揮官科卒業。一応班長だが、どんどん意見を言ってくれ。1年間よろしく。得意距離は近中だ」

「僕はマ、マナン。あの、えっと、一般科卒業。と、得意距離は遠距離です!!」

 

 緊張して嚙み嚙みなマナンに皆どことなく笑顔になる。緊張しているのは全員なのだ。

 

「私はドリーです。魔法師科卒業です。得意距離……特に無いです」

「……私はマヤよ。魔法師科卒業。得意距離は全部よ」

 

 全部!! 全部と来たか。相当自信があるのか。

 

 いつの間にか、俺は彼女に疑うような視線を送っていたのか、睨まれ返される。

 

「全部か。なら遊撃手をお願いしたい」

 

 遊撃手とは状況に応じて動く人で特定のポジションを持たない。その判断能力と適応能力の高さが問われる。

 

「任せなさい。勝つわよ」

 

 彼女の言葉に皆頷く。

 

「マナンは遠距離で狙撃。遠距離魔法師を頼む」

「うん、分かった」

 

 高威力魔法や範囲魔法を使うには高台から撃たなくてはいけない。乱戦地帯では集中等出来ない。

 

「よし、後はドリーと俺だが、アイツだがアイツは前衛だと思う。突撃するタイプだと予想するからドリーはそれを支援。俺はマナンを護衛する」

 

 一応決まった作戦の通りに配置する。今回は開けたアリーナでの戦いだがその内、旧市街地やら森林での戦いになるだろう。

 

 

 

 

 

 

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 開始のアラーム音と共に銀髪の男が相手に向かって駆け出す。

 そのスピードはとても速い。

 

 試合にはAMA(アンチマジックアーマー)が使われる。自動防御が発動した時点でその者は退場となる。

 

 銀髪の男は後衛を狙おうとしているが、その間にすぐに護衛が間に入る。

 銀髪の男のラッシュに護衛は防戦一方になるがサイドから援護射撃が入り、銀髪の男は一旦離れるしかない。

 

 見事な連携だ……と言うしかない。ここまでの連携が何も言わずに行われている。

 

 こちらの勢いが止まったのを見て向こうが攻勢を仕掛けて来る。

 

 前衛が左右に展開し、銀髪の男を無視してこちらに向かって来る。

 

「マヤ!! 右を頼む!!」

「言われずとも分かってるわよ!!」

 

 分かれ、対峙しようとするが銀髪の男が横から介入しようとする。

 

「俺を無視するんじゃねぇ!!」

 

 その叫びと共に殴りかかるがーーフリーズ!!

 

 という声と共に銀髪の足は凍りつく。

 

「ちくしょう!! 邪魔しやがって!!」

 

 忌ま忌ましく睨みつけるが凍りついた足はなかなか動かない。

 

 そしてーーファイヤーボール!!

 という声が聞こえ、大きな火球が銀髪の男に向かって行く。

 

 動けない銀髪の男に変わって、詠唱する。

 

「クソッ!! ウォールシールーーぐぁ!?」

 

 詠唱しようとしていた所に対峙していた前衛が邪魔に入る。

 

 くっ、しまった……

 

 ラインが詠唱を止められた事によって無防備の銀髪の男にファイヤーボールが直撃する。自動防御機能が発動し、銀髪の男は退場が決まる。

 

 そしてラインの体勢が崩れた事によって、前衛の後衛への侵入を許してしまう。

 

 ドリーが間に入るが前衛の勢いは凄まじい。前衛適性でも無いドリーは簡単に吹き飛ばれる。

 

 そしてマナンに近寄り、直撃をぶち込む。マナンも自動防御機能が発動し、退場となる。

 

 残り3人のライン達は戦闘能力が無いと判断され、敗北した。

 

 

 

 

 

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 控室でのライン達の間は重い沈黙がこの場を支配していた。誰もがはっきり分かるほどの惨敗。

 

 連携がどれだけ大事かはっきりさせるものだった。

 そして個人個人が己の役割をしっかり理解し、仲間との連携によって動くという、仲間を信頼してないと出来ない物だった。

 物事を一つ一つ冷静に対処され、綻び(ほころ)を突いていく戦い方だった。

 

 そして今のラインでもはっきり分かる事がある。そう後衛が恐ろしいという事だ。

 後衛を野放しにしておくと立て続けに来る魔法で一気に崩されるという事だ。

 

 そうならない為に連携しないといけないんだなと実感しているとマヤが突然怒り出す。

 

「ちょっと、何勝手な事をやってるのよ!! ねぇアナタはそれでも軍人なの!?」

 

 マヤは銀髪の男につかみかかる。その手を銀髪の男は強く握る。

 痛い!! という悲鳴と共に手を離すマヤ。

 

「なあ、てめぇらは4人で3人すら抑えられないのか? てめぇらが少しの間でも3人を抑えたなら俺が潰せたのによぉ!!」

 

 怒りに満ちた瞳でこちらを睨みつけて来る。それはそうだが……

 

「貴方が一人で突っ走るからでしょう!! そんな非協力的な人はこの班に要らないわ!! 出て来なさい!!」

「ーーっ!? ……ああ、出てくよ。俺一人の方がやりやすいしな!!」

 

 控室にあるベンチを蹴り、控室を出て行く銀髪の男。

 

 気付いたらこんな事態になってしまっていた。制度上、班替えは出来ないのだが。

 

「ねぇ……マズくないの? こんな事になって」

 

 不安そうに呟くマナンにマヤは鼻で笑う。

 

「フンッ、あんな奴居なくても良いのよ!! ……さぁ、班替えの要請書を出しましょう」

 

 こちらを見つめるマヤに対して横に首を振る。

 

「確かに俺達には連携のれの字も無かった。だが、この編成は教官達が組んだ物だ。ならこういう事も試練の1つでは無いだろうか?」

 

 ラインの仮定に黙って考えるマヤ。

 しばらくすると口を開く。

 

「……好きになさい。でも提出期限は1週間後までよ。だから6日間あげるわ」

 

 どこまで上目線なんだよ……とツッコミたくなったがまあいいや。

 全く最初から前途多難だなぁとため息を付くラインだった。

 


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