混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
レーザー照射はミサイル誘導では無く、場所を伝える為でした。近づいた飛行物体に自動でレーザー照射していて、この場所を知っている者だけ近くという事でした。
ここを基本民間機は通りません。また低空で無いとレーザー照射しないです。だからこの付近と見切りをつけた者で無いとレーザー照射されないということです。
これは後で改稿しますので気になった方だけご覧下さい。
周りには人気の無い雪積もる針葉樹林。用が無い限り誰もここを訪れる事は無いだろう。
そんな場所で二人の男が対峙していた。白髪の青年ーーノエと黒衣の装束の男ーープロトワンだった。
ノエは鋭い目つきに対して、プロトワンの瞳からは感情が見えなかった。まるでロボットのように見える。
そう、戦いながら思ったノエだった。
「手加減は不要みたいだな!!」
手から光を発して、手の先から光の魔力剣を作る。魔力剣は武器が無くても剣と同じように扱える。その形状、長さは使用者次第だ。
しかしデメリットがあり、常に魔力を消費する。魔力量に自信が有る者しか使わない。
そんなデメリットを軽視するほどのメリットが有る。武器も要らず、威力は武器に勝り、そして瞬時に形状を変化させる事が出来る。リーチが分からないのだ。
また一応、二刀流という芸当も出来る。
そんな優秀な魔力剣だが、常に多量の魔力を消費し続け、放出系なので難易度が高い為使える者は多く居ない。ほとんどが緊急時、必殺という使用頻度だが、ノエは普通のように使う。これを見ればノエが只者では無い事を理解するのは容易だろう。
魔力剣を使ったノエに対して、プロトワンは素手で立ち向かう。
素手で無力と思うかもしれないが彼には先ほどの高威力のエネルギー弾が有る。楽観視は出来ない。
プロトワンは次々とエネルギー弾で攻撃してくる。その威力は先ほど変わらず、ノエの後ろは上から見ても禿げてしまっているだろう。
プロトワンの攻撃の連射速度はそうでも無い。一つ一つ攻撃の軌道が読めるぐらい余裕が有る攻撃間隔だ。
威力は凄いが、当たらなければ無駄だと少し余裕を見せた瞬間ーー
突然更に高出力のエネルギー弾を放ってきた。咄嗟の事に反応出来なかったノエは仕方なく発動させる。
「ーープロテクト」
そう言ったノエの目の前に光の壁ができ、高出力のエネルギー弾は弾かれる。弾かれたエネルギー弾は逸れて、針葉樹林に当たり、轟音と粉塵と共に隕石が落ちたかのような大きなクレーターを作りだした。
その地形変化を傍目で見てノエは呆れる。
「……こんなんじゃ、自然保護団体に怒られるぞ?」
ノエなりの冗談を言ったがプロトワンは相変わらず無表情だ。
なるほどね、これは異常だ。
プロトワンの無表情に異変に気付くノエ。
無表情の暗殺者は当たり前だが、それは感情を押し殺していているだけだ。戦闘中にもかかわらず、冗談を言ってくる相手には誰もイラッとするだろう。それすらしない感情が感じられない表情にノエは違和感を感じたのだ。
「アンタ……何かやってるな? 薬か? 洗脳か? ……両方か?」
「……地球連合軍も末期だな。また一つ、潰す理由が出来た」
憎しみを込めた視線でプロトワンを睨む。そんなノエに構わずプロトワンは攻撃を再開する。
再び放たれる弾幕にノエは業を煮やして攻撃に転じる。
「同じ手は喰らわんぞ!! こちらから仕掛けるーー
ノエの体は光り出し、そして一瞬でプロトワンの右隣を通り過ぎる。
咄嗟に身体を引いたプロトワンの右腕は宙に浮いていた。
右腕を失った事に気づいたプロトワンは右腕を抑えると共に後ろに振り返る。
そこには光の剣を放出している右腕を下げて、背中を向けているノエがいた。
ゆっくり振り返るノエにプロトワンは身構えるが、また転生雷光と共に光の
痛みは感じないプロトワンだったが腕の再生が間に合わない。さすがにそこまでの再生能力は持ち合わせて無かった。
しかしプロトワンはまだ諦めてはいなかった。
「……魔力精製完了、構想完了、構築開始」
そう言うとプロトワンの肩から伸び始めた。正確には生身では無く、魔力の腕だが。
魔力で腕を作ったプロトワンは腕の実感を確かめるかのように手を開いたり、閉じたりしている。
「……全く、腕を魔力で作りあげるとは化け物かよ? いや化け物は俺もか」
苦笑いするノエにプロトワンは何も答えない。
魔力で腕を作る事は繊細な魔力コントロールが必要だ。これは薬や魔力量ではどうにもならず、その者の力量でしかない。
「なるほど。相当な力量者だった訳か。それに痛みを感じないとかやはり首を飛ばすしかないな」
ノエは右手を前に構える。
狙うのは首一つ、相手が一応人間である以上首を飛ばされて生きては居ないだろう。
踏み込んで一気にプロトワンに向かって駆ける。そう一条の光となって。
転生雷光ーーその速さは光の如く、もの凄い速さで駆け抜けるという技で相手からしたら一条の光にしか見えない。光が見えたと思った瞬間には死んでいるのがほとんどだ。目は辛うじて追えてるのかもしれないが、身体は追いつくはずも無かった。
プロトワンもその一人だった。
しかし彼の腕は違った。彼の反応速度は追いついていないのに腕は反応したのだ。
予想だにしない動きに慌ててプロテクトを使う。プロテクトに弾かれ、腕は元に戻る。
「……これは驚いたな。自分の意思を持つ腕か?」
ノエは面白うに問うがプロトワンは相変わらず無表情だ。
「やれやれ、独り言にもそろそろ飽きて来たな。終わらせて貰おう」
そう言うとノエは空に手を掲げる。
しばらく手を掲げたノエは手を降ろし、膝をついて肩で息をし始める。
これを好機と捉えたプロトワンは攻めに転じーー
ーーれなかった。身体が動かず、喉が異常に乾く。喉が乾くという感情を感じた事を驚いた途端、身体に激痛が走る。
「グアァァァァァァーー!!」
余りの激痛にただ叫ぶ事しか出来ない。皮膚が身体が燃えているような感覚だ。しばらく痛みを感じていると意識が遠くなっていく。
「まさか、俺にこの技を使わせるとはな……一人に使うのは初めてだ……一人には……な」
薄れゆく意識の中、悲しげに呟くノエの表情に同情する気持ちを感じたのが最後、プロトワンーーアルバートは戦死した。
事切れたプロトワンを見てノエはプロトワンに近づき、手を触れる。
「済まない。こんな辛い死に方はさせたく無かった。この技しか決め手が無かったぐらいお前は強かったよ」
そう言うノエのさわり方はどこか優しさを感じられる物だった。
触っていた手を離し、拳を強く握り締める立ち上がる。
「……こんな非人道的な事をする地球連合軍には虫唾が走る」
忌々しく呟いたノエの瞳には強い憎しみの炎が渦巻いていた。
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後日、ルーカスの元には一枚の報告書が来ていた。
その紙には『暗殺失敗』と書かれていた。
つまりプロトワンが死んだ事になる。
報告書を研究所の所長に転送すると背もたれに寄りかかる。
アルバート……死んだか。お前程の者でも倒せない光一族、ノエ。
データにあったSランクというのは本当のようだ。
お前の死は無駄にしない。
アルバート、君が打倒ノエへの最初の一歩だったと言えるように我々は全力を尽くそう!!
そう決意を固めると添付されている資料を見る。予想通り、ノエのデータが取れた。
十分な戦果にルーカスはゆっくりと目を閉じた。