混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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題名変更しました。まだ試験的なのでまた変更するかもしれません。


10-2 最高の相手

 

「死に場所……だと?」

 

 何故死にたがるのか分からない。誰もが死にたく無い為に戦っている訳で、一部例外の狂人は違うが。

 

「はい、プロトワンは死にたくても死ねません。もちろん今、エネルギー供給を絶てば死にますが、プロトワンには名誉ある戦死を望んでいます」

 

 そう言ってプロトワンを見つめる男の瞳には(うれ)いた感情が見え隠れしていた。

 

 

 

 

 

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 時は5年ほど遡る(さかのぼ)

 

 その頃はまだ役員達が上層部に居た頃。ここは人体実験の本部だった。様々な薬品や禁術を開発する為、非合法の事は日常茶飯事だった。主に人体実験の被験者は死刑囚だったが、ある程度まで完成したら試すのは現役の魔法師。

 

 確実に成功するとは限らない禁薬を注入される魔法師。

 注射器の針を腕の血管に刺して、薬を注入する。

 

 薬を注入された魔法師は最初は何とも無いが次第に魔力が溢れて行く……

 

 そして最後には口から泡を吹いて、全身を痙攣させながら血を吐いて心肺停止状態となる。

 遺族には殉職と伝えられるが納得しない遺族も居る。そんな遺族には多額の慰労金を払わないとちらつかせればすぐに黙る。

 たまに断る遺族も居た。その殺意は今でも忘れられない。彼女はエルス国に飛んだとか。

 

 こんな事を何度も繰り返して、禁薬は完成する。

 

 完成した薬品を最初に使用したのはアルバート=バレンシア。

 彼は優秀な魔法師で国への忠義が厚かった。役員達が上層部にいる時はあまり忠義者が得をする時代では無く、むしろずる賢い奴が得をして正直者は馬鹿を見ていた。

 

 そんな中、正直者で忠義者のアルバートは更に国に尽くしたいと自分からこの実験に申し出た。

 

 その申し出は単純に忠義者とも言えるだろうが、今なら焦っていたのかもしれない。力だけでは生き残れない地位を守りたい故この申し出を受けたのかもしれない。

 

 彼は元からBランクあった。エリートだった。しかし35歳を過ぎた今も魔法小隊隊長止まり。それは正直者だったからだった。更なる力を手に入れる為、彼は実験を受けた。

 

 実験を開始する。

 彼の腕に注射器の針を刺し、薬品を注入する。

 

 するとまた魔力が溢れ出し、体が痙攣しはじめる。実験失敗と慌てて周りが動き始めるが、体を震わせながら彼は言った。

 

「や、止めないで……大丈夫、大丈夫だからぁ……あぁぁぁぁ!!」

 

 今度は白目を向いて泡を吹き始めるが、すぐに意識を戻す。これを何度も続けているうちに魔力が安定し痙攣も止まった。

 しかし意識は戻らず昏睡状態となった。

 

 一応成功となった実験に役員達は喜び、何としても意識を回復させろとの命令が下った。

 

 一ヶ月安静状態で様子を見たが、意識は戻らなかった。焦った研究者達は脳内に制御チップを埋め込み、意識を覚醒させた。

 しかし彼はただの人形になってしまったのだ。

 

 そうしてプロトワンは造られ、次々と実験するが彼以外は完成しなかった。そしてルーカスの革命が起き、研究者達は自分の罪を恐れて逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

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「……というのが今に至る話です」

 

 この話をして改めて自分がしてしまった事に罪悪感を感じている男にルーカスは長らく閉じていた口を開く。

 

「そうか。何とも愚かな事をしていたのだな」

「……はい」

 

 ルーカスの低い声に男は黙って自分への沙汰を待つ。そうでもしないと罪悪感から自分が解放されないのだ。

 

 目を細めてプロトワンを見詰めていたルーカスは男に向き合う。

 

「お前もこの計画に参加していた罪はある。だがこれは国の為と思っていたのだろう? なら後は後始末をする事が罪滅ぼしになるだろう」

 

 贖罪の機会を与えてくれたルーカスに男は頭を下げながら心の中で感謝する。ルーカスへの感謝の気持ちで胸が熱くなるのを感じる。

 

「私もこれは罪を背負う。このような非人道的な戦力を使った事は後々追求されるだろう。だがアルバートも人間だ。ならその望みを、軍人として最高の死に場所を用意しよう」

 

 ルーカスは手元にある端末で火星独立軍のリストを出す。そして一人の男のページで手が止まった。

 

「……この男を暗殺してくれ」

 

 差し出された端末を見ると白髪の若い男が映っていた。

 

「……光一族、ノエ。最高の相手です」

 

 顔を上げた男の表情は晴れやかだった。

 

 

 

 

 

 

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 光一族、ノエーー彼は突如現れた能力者だった。突如火星独立軍として現れ、地球連合軍を恐怖に陥れた。その能力はどんな魔法も兵器も効かず、大軍すら一瞬で殲滅する力の持ち主だった。彼に殺された魔法師は数知れない。

 常に無傷で勝利する彼は『化け物』と呼ばれ、両軍唯一のSランク魔法師ーー戦略級魔法師だった。

 この存在により、地球連合軍が魔法師の数で優勢だった地上戦は火星独立軍有利となっていった。

 

 一通りのデータを見た男は無言で端末をルーカスに返す。

 

「……まさかSランクと戦えるとは思わなかったです。強い相手だが、アルバートならやれる」

 

 その瞳に秘める強い自信にルーカスは満足そうに頷く。

 

 

 

 

 

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 白髪が目まで掛かっている青年ーーノエはフカフカの背もたれに寄りかかって寛いでいた。

 火星独立軍から当たられた特佐という階級はあらゆる階級を凌駕した特別な階級であった。

 ユーリ達にはかなわないものの、他の者から彼に命令権は無かった。要するに上からナンバー6という事だ。

 

 ユーリ達は基本的には火星やウランバートルーー地球侵攻本部に居るが、ユーリ達他にも多数の指揮官達が居る。ユーリ達が引き抜いた元地球連合軍指揮官や役員達の部下、権力者等。全員が優秀では無いにしろある程度の指揮能力は持っていた。

 未だ一枚岩では無いユーリ達には仕方ない措置だった。

 そんな指揮官達にもノエに対する命令権は持ち合わせていない。彼は指揮官では無い、高官だった。

 

 そういう事で立派な部屋と机と椅子があるが、山積みの書類等無い。これを見たらユーリやルーカスが羨むこと間違いなし。

 

 手持ち無沙汰なノエはただ暇をもてあましていた。暇なら戦えと言いたいところだが、強い力はそれだけチャージに時間がかかるのだった。だからこうして暇をこいていた。

 

 一応ここも前線ではあるが、優勢な火星独立軍の基地ーーエグベキノトには砲弾一つ飛んで来なかった。

 

 この頃アラスカ方面での戦闘は地球連合軍の水際迎撃作戦が失敗し、アラスカに火星独立軍が上陸していた。地球連合軍は何とか追い払おうと攻勢に出たが、火星独立軍との戦力差に手も足も出なかった。

 

 そうして火星独立軍のアラスカでの前線拠点を構築を指を加えて見ているしか無かった。

 そして現在、前線拠点とアラスカ方面本部ーーアンカレジとの間で攻防が続いていた。

 

 一方エグベキノトはロシア領内なので直接敵は来ることが無い補給拠点として使われていた。前線拠点は奇襲や攻撃にたまにさらされる為、こちらにパイロットの居ないHAW等がパイロットを待つかのように鎮座していた。前線で機体が壊れたら送られる。

 

 そんな様子を散歩しながら見ていたノエは一言、散歩してくると言って基地外に出る。護衛を連れていないがノエなら必要無い。むしろ足手まといになりそうだ。

 

 基地で車を借りて、郊外の森まで出る。

 外は一面の白景色で雪深い場所だ。

 こんな所は人気が有るはずもない。

 車を止め、外に出る。

 

 鳥のさえずりがここは人の入ってない事を教えてくれる。

 美しい景色を堪能したいところだが、先に片づける用が有る。

 

「ここの方がやりやすいだろ? 暗殺者君?」

 

 突如独り言を言ったノエに森は何も答えない。

 

 しかし茂みから黒い装束を全身に纏った男が出て来る。その眼光はノエへの殺意しか無い。

 

 その男から発する闘気にノエが驚く。

 

「ほう、これはいつもの雑魚では

 無いな」

 

 地球連合軍への脅威になっているノエには何度も暗殺者が放たれていた。しかし毎回失敗し、何事も無かったように戦場に現れる。

 

「少しは楽しめそうだな」

 

 いつも自分に全く歯が立たず、恐怖を顔に張り付かせて死んでいく敵に呆れていたノエは少し楽しそうだった。

 もちろん殺し合いが好きなノエでは無かったが圧倒的な力量差に最近、虐殺のように感じて来たノエだった。

 

 そんな中、この男に会えて少しはまともに戦えると分かったノエは手でこまねいて挑発する。

 

「先手は撃たせてやる。来い」

 

 男はこの挑発に表情を変えず、無言で攻撃を始める。

 

 腰にあるハンドガンを連射する。

 弾倉が空になるまでフルオートだ。

 ハンドガンから放たれた弾丸は音速を超えたスピードでノエに向かって行く。

 だがそれを見てノエは表情を変え無い所か、むしろ呆れていた。

 動かないノエに弾丸が直撃するかと思えたが、目の前で何かに当たり弾かれて行く。

 

「そんなものでやれると思ってたのか?」

 

 無駄な行動に大きくため息を付くノエ。

 

 この武器は有効では無いと分かったのかリロードしていたハンドガンを捨てる。

 

 素手になった男は手をノエに突き出す。

 

「何だ? 魔法でも使うのか?」

 

 ファイヤーボールでも飛ばすのか? と思ったノエはせせり笑う。

 だが男は掌から高速の小さなエネルギー弾を飛ばして来た。

 

 ノエは目を見開いて慌てて体を逸らして躱す。

 ノエの隣を一瞬で通り過ぎたエネルギー弾は轟音と共にノエの後ろの木々を次々となぎ倒し、まるでトンネルのような形に変えられていた。

 

 木片と雪がパラパラとノエ達に降りかかる。

 その凄まじい威力を知ったノエは振り返って口角を上げる。

 

「……これは楽しそうな相手を持ってきたな。なら俺も出し惜しみはしない」

 

 目つきが鋭くなったノエには余裕の表情が消えていた。


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