混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
10-1 役員達の負の遺産
ライン達が合宿で戦っている時、地球連合国でもある男が戦っていた。
その男の髪は少し長めの金髪で精悍な顔付きだったが目の下に
その隣に立つ長い綺麗な金髪をサイドテールにした女は内心疲れで溜息どころか突っ伏したいところだったが、今敵に向かっている男の気持ちを折らせないように気合で疲れを心の内にしまう。
そう男は攻城戦をしていた。通常なら攻城戦は正面からぶつかるのは愚策と言われているが、この紙の城にはこの男以外戦える者は居ない。いやこの様子はむしろ自業自得なのだが。
大きな溜息を付く男に次々と書類を突きつける女。
「次はこちらです。……誰がここを飛び出したんですか?」
その正論にぐぅの音も出ない男。
「いや……でも、あそこでアイリーンが止めてくれなかったし」
「いきなり飛び出したルーカス長官をどうやって止めるのでしょうか?」
肉体的に? と聞いて来るアイリーンにそっぽ向くルーカス。
そうルーカスとアイリーンはエルス国視察の代償としてこの紙の城と対峙していた。もちろん視察の間だけじゃこんなにならないがエルス国から帰って来た直後、ルーカスは一から資料を見直し始めたのである。それは役員達が決めた予算の使い道の隅々までである。
未だ予算は多くの使途不明金が有り、明らかにせよと通達したがどれも曖昧な答えだった。そうまともな答えでボロが出なかったのである。
予算には研究費等と書いてあるがその詳細は書かれていない。だから一から予算について資料を出すように各所に通告したのである。
その結果紙は城となり、手元の書類を次々と目を通して行くがわんこそばのように目の前に置かれる。もう限界だ……
と椅子にもたれ掛かろうとした時、目の端に映った書類がとても興味を引かれた。
椅子にもたれ掛かってその一枚を見る。一番上には魔法研究と有るが軍人学校とは違う部署で、また国立魔法研究所とは違う部署で聞いた事の無い部署だった。
そんな無名の部署だったが、その費用は無視するには多すぎる額だった。
魔法研究は国立魔法研究所と軍人学校に任せているがこの部署は何だ?
気になり詳細を求めるがデータは出てこない。むしろデータが存在しないのだ。出て来るのは場所と費用だけ。肝心の中身が出て来ないのだ。
紙もデータも無いのはそれほど流出を恐れたから? という憶測が浮かぶ。
大きな謎をほっとく事が出来るほどルーカスはプラス思考では無かった。
アイリーンと護衛を連れ、その場所に向かう。
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ニューヨークの本部から飛行機でカナダの首都オタワに向かい、そこからヘリで北に向かう。1時間ぐらい行ったドルヴァル=ロッジュに有るらしい。
その近くにヘリを行かせると突如レーザー照射を受けた警報が鳴り響く。レーザー照射は攻撃をする直前にロックオンする際に相手に撃つ物だ。後はトリガーを引くだけでミサイルは誘導して目標に当たってしまう。
そんな喉元にナイフを突きつけられた状態に機内はパニックに陥る。
「おい、どういう事だ!! ここは地球連合国領内だぞ!!」
「分からん!! ゲリラかもしれん。ECMを発動させろ!!」
機長と副機長が大声を上げて、回避運動をする中、二機の護衛の攻撃ヘリも同様にレーザー照射を受けていた。こちらにピタリと寸分違わず、レーザー誘導を照射し続けている。
レーザー誘導から何故逃げようとしているかと言うと、レーザー本体には威力は全くない。しかしレーザーの照射先にミサイルが飛んだ場合、目の付いたミサイルのように寸分違わず命中するのだ。要するにレーザー誘導はもうチェックメイトと同じだ。
護衛機も同様にECMを発動させ、回避運動に移る。
ECMとは敵がレーダーによってこちらを探知するのを阻害する兵器である。しかし今回の場合、レーザー誘導なので直接効果は無いにしろ、こちらの場所を掴ませない事には成功する。
レーザー誘導がこちらの位置を見失い、停止する。
停止したのを見るに手動では無く、レーダー連動なのだろう。
手動ならば確かにここまで正確に誘導は出来ないし、今も誘導しているはずだ。
レーダーに映らないように地面すれすれを飛ぶ。出ているレーザーからレーザーの出る場所を特定する。
暗視装置によるとレーザー誘導装置とレーダーしか見当たらない。ミサイル発射する場所はどこだ?
仕方なくその近くに着陸する。
空に上がれない以上、地面を歩くしかない。
軍服のルーカスと鎧姿のアイリーンを魔法師と兵士の護衛が円陣を組みながら進む。
レーザー誘導装置の付近に着くと、レーザー誘導装置は少し錆び付き、周りを草が生い茂っていた。しばらく手入れをしていないのだろうか。
レーザー誘導装置を調べると地球連合軍のマークがある。味方をレーザー誘導する地球連合軍兵器?
味方に銃を向けるようなもんだ。
その時、ガサッと言う、草をかき分ける音が鳴り、銃や剣をそちらに全員向ける。咄嗟にルーカスも腰に刺した銃を向ける。
護衛達もすぐに銃や魔法を撃てるようにしている。
その茂みから出て来たのは白衣を来た初老の男だった。白髪が多く混じったかなり疲れた様子だった。
ルーカスを瞳に映すとゆっくりと頭を下げる。
「ようやく会えましたな、ルーカス長官」
そう言ってから上げた顔には何とも言えない笑みを浮かべていた。
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初老の男に先導してもらいながら茂みを進むルーカス達。
持ち物を検査した結果、武器になるような物は持っておらず、地球連合国所属との身分証を発見した。だがデータベースには載っておらず、未だ完璧には信頼出来ない。なので初老の男を先頭に円陣を組んでいた。
しばらく進むと洞窟に隠れたようにある白い建物を目の前に現れる。特に装飾も見られないシンプルなコンクリート製の建物だ。
初老の男が扉を開けると下への階段になっていた。一人ずつしか入れない幅なので
初老、護衛×3、アイリーン、ルーカス、護衛×3という順番で入って行った。
長い階段を下りると少し開けた場所に出る。目の前にはエレベーターだ。全員入るスペースがあった。さっきの幅にしてはかなり大きなエレベーターだ。
一分ぐらい乗っていただろうか。それだけ下に降りたのだろう。
かなり深そうだ。
エレベーターを降りると目の前には頑丈そうな扉が現れる。まるで核シェルターのようだ。初老の男の指紋認証と虹彩認証を経て、やっとカードキーにたどり着く。
カードキーにカードを通すと赤いランプが緑のランプに変わり、扉がゆっくりと開き始める。
完全に開いた後、初老の男は歩き始める。その後を付いて行くルーカス達。
中も装飾の無い白いコンクリートでまさに研究所らしい場所だった。秘密基地のような迷路では無く、メインのこの通りから枝分かれしている構造だった。
初老の男は真っ直ぐメインの通りを進んで行き、行き止まりまで進む。またそこでカードキーを通し、中に入る。
そこに入ると目の前には沢山のパソコンが並んでいた。どれも稼働しており、数値が変動している。
そして正面を見るとガラス張りになっていて、その向こうには無数の試験管があった。目の前の大きな試験管の水の中に人が入っていた。
裸の男だ。
その光景にここに居た初老以外の者は目を見開く。
中の男に意識は無く、口に酸素マスクを付け、様々なチューブに繋がれていた。
男は何も身につけていないので一瞬アイリーンが目を逸らすが再度視線を男に戻す。真剣な表情だ。
男はもはや生きているのか分からなかった。そのチューブが無ければ生きていけないのだろうか?
その疑問を胸に初老の男に目を向けると男は話し始める。
「先ほどのレーザー照射は失礼しました。あれはここの位置を教える物でした」
なるほど。ミサイル誘導の為では無く、場所を知らせる物か。
「さて全てお話しましょう。ここは魔法研究とうたっていますが、少し補足します。ここは人体実験を行っている魔法研究施設です」
「ーー人体実験!?」
アイリーンが悲鳴のような声を上げるがルーカスも声を上げたい気持ちを抑え、視線を男に送って続きを促す。
「これまでの魔法研究も人体実験が必要だったとはご存じで?」
男の問いに首を横に振るルーカス達。
「ファイヤーボール等は的が有れば十分ですが、治癒魔法はモルモットの実験から始め、最後は人体実験によって完成に至ったのです」
確かにモルモットが治ったとしても人間に効くか分からないし、そして副作用も有るかもしれない。
我々が使っている魔法は先祖の犠牲の元で成り立っているのか。
男は一通り納得したルーカス達の顔を見て、話を続ける。
「そして、とうとう人類は人間を治すのでは無く、人間を強化する為に魔法を使い始めました」
肉体強化魔法も最近出来た魔法だ。ーーまさかこの研究からか?
目の前に佇む試験管の中の男がとてつもなく大きな存在に見えて来る。
「後察しの通り、肉体強化魔法です。普通肉体強化魔法は魔力によって、肉体を強化する物ですが体が壊れないようリミッターが掛けてあります。しかしこの研究ではそのリミッターを解除して使用する研究が進められていました」
「リミッターを解除したら体が持たないのでは?」
「もちろんそうです。破壊力が防御力を上回り自滅しますが、薬の作用によって痛みを感じません。また脅威の再生能力も兼ね備えています」
驚愕で目を見開いて試験管の中の男を見つめるルーカス達に男は丁寧に頭を下げる。
「どうか、この男のーープロトワンの死に場所をお与え下さい」