混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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9-4 動き出した事態

 ライン達は息を殺しながら部屋を出る。人気の無い廊下を忍び足でライン、ティナ、マナンの順番で歩く。たまに聞こえる自分の足音が異常に大きく聞こえる。

 

 そして長いような短いような時間を掛け、階段に到着する。

 

 この下の1階にさっきの宴会場が在る。

 

 そこにリエも居るのだろうか。

 

 楽しく大好きな日本の話を出来たリエはラインの中で大きな存在になっていた。これを恋心なのか分からないがラインがリエを助け出す理由には十分だった。

 

(リエ、君は関係無いよな?)

 

 不安で胸が押し潰されそうになるが押し殺して、階段の淵の隙間から中を覗く。

 

 扉は開かれており、中ではグレンやゴリやクラスメイト達が床に寝かされていた。そこには完全武装の男達が金属の拘束具をグレン達の腕と足に填めていた。あれでは目が覚めても抵抗が出来ない。

 拘束具の中央で赤いランプが点滅している。あれは何だろうか。

 

 ラインが疑問に思っていると同じ気持ちの敵の兵士が同僚に質問する。

 

「なあ、これで本当に大丈夫なのか?」

「ああ、これは魔力を感知すると爆発するシステムだ。だからこいつらはただの筋肉のみに成り下がる。銃を持った俺達には敵わない」

 

 ニヤリと笑う同僚に安心したのか作業を再開する。

 

 ーーなるほど。あれは魔法師専用の拘束具か。という事は今突入してグレン達を助けないと戦力差が開いてしまう。だが、ウォールシールドの使えない俺達3人が突入しても蜂の巣になる未来しか見えない。

 悔しいがここは堪えるしか無い。

 

 作業が終わるとリーダーらしき者が集合をかける。宴会場にバラバラに兵士達が集まる。ざっと20人ぐらいか。中には魔法師らしい者も居るな。

 

「良し、作業は終わったな? これから搬送を行う。北の潜水艦に運び、撤退する」

 

 頷く男達にふと思いついたリーダーは質問する。

 

「そういえば、残ったガキ共はどうした?」

「すみません、見失いました」

「まあ良い。半人前の魔法師に何が出来る。23時半には撤退するぞ」

 

 男達はクラスメイト達を背負い運び始める。

 

 とりあえず足音に気をつけて俺達の部屋に戻る。

 

 

 

 

 

 

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 部屋に戻って状況を整理する。

 

 ・敵は北の方の潜水艦で23時半に撤退する。

 ・敵は20人ぐらい。魔法師も何人か居る。

 ・援軍は来ない。端末を確認したがジャミングされ使用不可だ。0時に行う定時連絡が無い事に気付いた軍が動いた頃には既に敵はおさらばだ。

 

 絶望的な状況に3人の表情は真っ青だ。

 だが俺達しか救出出来ないのだから、ここで退くわけには行かない。

 

 まだ行ってない3階へ隠れている仲間を求め、捜索を開始する。

 

 ここも物音一つしない静かな廊下だ。人気の無い廊下に緊張がライン達の間に走る。

 

 その時グーという間抜けな音が耳に入る。思わず噴き出しそうになったが、堪えて後ろを振り向く。

 だが二人も同様に笑いを堪えてるようだ。俺じゃないぞ。

 

 3人とも違うので他の誰かだ。

 一つ一つ部屋を見て行く。

 部屋を見て行く中で気付いた事がある。部屋には2種類の部屋がある。綺麗な部屋と散らかっている部屋だ。綺麗な部屋はどちらかが整理整頓が好きなのだろう。そして散らかっている部屋はどちらも散らかす人達だ。

 散らかす×散らかす=散らかる

 散らかる×整理整頓=整理整頓

 整理整頓×整理整頓=整理整頓

 という法則が見えて来た。

 そんな事考えている中、ある散らかっている部屋で女性用の下着を見つけてしまった。その瞬間後ろからティナに蹴られる。何故だ。

 

 そして最後の部屋にたどり着く。

 部屋の中は相変わらず暗い。廊下の明かりと月の明かりでぼんやりとは見えるが、輪郭しか見えない。明かりは点けられない。外からバレてしまう。

 

 手探りで進む中、突然目の前に人影が現れる。その人影は蹴りをラインに放って来る。

 

 ーー避けたいが、ここは室内。それに後ろはティナ達がーー

 

 腕をクロスさせ前で構える。

 蹴りは腕に直撃し、歯を噛み締めて堪える。

 

 異変に気付いたティナが反撃して蹴りをお見舞いし、地面に押さえ込む。廊下からの光が顔を照らす。

 

 ーーファルク!?

 

 あの3人組のヤンキーのファルクだ。何故襲い掛かってーー

 

 ラインが驚いてると同時にクローゼットから飛び出して来る。いや崩れ落ちてくると言った方が正しいか。

 

 崩れ落ちて来たのはエドウィンとトムだ。青ざめて土下座して命乞いをしてくる。ファルクが敗れて敵わないと思ったのだろうか。早過ぎる判断だ。

 

「不様だな、エドウィン」

 

 震えて顔を伏せていたエドウィンは聞いた事がある声に屈辱で顔を徐々に真っ赤にさせ、ラインに飛びかかろうとする。

 それを抑えて、状況を説明する。

 

 

 

 

 

 -----

 

「なるほど。それで僕達の協力が必要なのか。でも協力しろなんて頭を下げるべきではないか? それに僕らは関係無い」

 

 いつも通りのウザイ調子になってきたエドウィンに少し苛つく。こんな時にもその調子か。

 

「じゃあ敵にここの場所を教えてくる」

 

 立ち上がったラインに慌てて引き止めるエドウィン。

 

「ちょ、ちょっと待て!! 分かったから協力するから、止めてくれ!!」

 

 良し分かったか。協力してくれるなら有難い。

 立ち上がったが、また座る。

 

 座ったラインにホッするエドウィン。だが状況は悪いままだ。

 

 エドウィン達も戦力的にはそこそこだが如何せん、銃装備には分が悪い。お得意のレイピアも無いしな。

 さてもう一手欲しい所だが……

 

 するとふとティナが思い出したように発言する。

 

「ねえ、そういえば誰かエマ先生見た?」

 

 その問いに誰もが横に首を振る。あの捕まっている中には見当たらなかったのだ。

 

「……そういえば、エマ先生途中でどこか行ったよね?」

 

 ぼんやりと思い出したマナンがティナが聞く。

 

「ええ。美人達来た頃に出て行ったわ」

 

 じゃあまさかあの中に居ないかもしれない!! 

 

「でもどこにいるのかしら?」

 

 首を傾げて悩むティナを見てラインは思いつく。

 行ってない所で隠れているとは思わない所……

 

「ーー女子トイレだ!!」

 

 

 


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