混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
結局、海に投げられ疲れ果てたラインはホテルベッドの上に身を投げ出していた。
「あーもうダメ。散々投げられて疲れた」
一回投げられて吹っ切れたラインは野郎達の集いに参加して、投げたり、投げられたりを繰り返していた。
そして現在、疲れ果て、ベッドに寄生しているのであった。
「あーフカフカのベッドが気持ちなあー」
もう離れたくないオーラを醸し出すラインにマナンはため息を付く。
「後半は自業自得でしょ? ……そろそろ食事だから移動しよ?」
そんなマナンの言葉にラインは全く動く気配が無い。ピクリとも動かない。
「もう!!」
マナンはティナを呼んで、ラインを引きづって貰うのであった。
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流石に床が平らでも引きづられるのは痛いし、恥ずかしいのでラインは立ち上がっていた。
そして目の前の現状に開いた口が塞がらなかった。
そう目の前にはまるでキャバクラのような光景が広がっていたのである。高く積み上げられたシャンパンタワー、光り輝くシャンデリア、やや煩いアップテンポな音楽、L字のソファーに黒塗りの大きなテーブル。それらが沢山あった。
ライン達が何回も瞬きをしていると背後から酒臭い誰かがもたれ掛かって来る。
振り返るともう既に酔っ払いのグレンだった。
「よお……ラインじゃねぇか……」
ラインに寄り掛かるグレンの目は虚ろで、意識が朦朧としていた。
「ちょっ、お前酒臭え!! 大丈夫か? 飲み過ぎじゃないのか?」
もう18歳で成人したとはいえ、節度を持った飲み方をして欲しいものだ。
「だいじょうぶぅ、だいじょうぶぅ」
と言うが既に
終いには寄りかかって寝てしまった。揺すっても起きる様子は全くない。
困り果てたライン達に声が掛かる。
振り返るとタキシードを着た男がにこやかな笑顔で居た。
「あの、宜しければ私どもでグレン様をお部屋までお運びしましょうか?」
その願ってもない提案にライン達は頷く。
「はい、よろしくお願いします」
「分かりました。グレン様はお部屋までこちらでお運び致します」
すると男は同僚を呼び、運んでいく。
それを見送ったライン達は現状を再確認する。
酒臭い店内、潰れているクラスメイト達。次々と男達によって運ばれていく。
ちょうど全員潰れて片づけられた席に案内される。
広いソファーに3人で座るのは何だか落ち着かない。
するとメニューが運ばれて来る。
それを広げてみると、どれも聞いた事の無い酒ばかりだ。そして値段も学生のライン達にはとても払えないものばかりだ。
ライン達がうんうん唸っていると男の店員はにこやかな笑顔でおすすめしてくる。
「ドメーヌ・ルイ・ジャドはいかがでしょうか? こちらは初心者の方でも美味しく頂けるものとなっております。もちろんお代は頂きませんのでご安心下さい」
その言葉に少し安心する。お金どころか財布すら持ってきてないのだから。
そして初めてのワインによく分からないのでお勧めの奴を頼むことにする。
「かしこまりました。今お持ちします」
綺麗に一礼して丁寧な足運びで離れて行く様子をぼんやり眺めるライン達。
「……尚更、場違いだな。」
ポツリとこぼした呟きにマナンとティナは頷く。
酒が来るまで暇なのでキョロキョロと周りを見渡してみるとあちらこちらでバカ騒ぎしているクラスメイト達の席と教員陣の席がある。
教員陣と言っても、ゴリとエマ先生とジェームズ先生の3人だけだが。適度に酒が入ってて楽しそうだ。やはり大人は違う。
そんな事思っている時に放送が流れる。
「お楽しみのお客様に更なるサービスをご提供致します」
との放送が流れた直後、入口からぞろぞろと胸元が大きく開いた美女達が沢山入って来る。その人種は様々でより取り見取りだった。
ここに居る全員が呆けている間に美女達はそれぞれのテーブルに一対一で付いて行く。
ラインの隣に来た子はアジア人だった。綺麗な黒髪のロングストレートが印象的な子だった。身長はアジア人らしくやや低い。
「こんにちは。私はリエです」
「リエ? ……まさか君は、日本人じゃないか?」
ラインの指摘にリエは目を見開く。
「え? そうです、日本人です。でもどうして日本人だと……」
ラインはニヤリと笑う。
「俺は日本通でね、その黒髪とリエと言う名前、そして特徴的な英語なまり。もう日本人しかないね」
そう得意気に語るラインにふと疑問が生じる。
現在の日本は火星独立国の統治下にある。何故彼女がここに居るのだろうか?
「もしや君は難民組か?」
とのラインの推察にリエは頷く。
「はい……私は戦争が怖くて……家族とここまでやって来ました」
俯く彼女にラインは話を変える。
「ええっと、そういえば自己紹介してなかったね。俺はライン」
「ライン様ですか。何故そんなに日本について詳しいのですか?」
様付けか。まあ客である自分達に付けるのは当たり前だけど、仲良く成りたいから、様は辞めて貰おう。
「あの様付けは辞めて貰えないだろうか? 気軽に話したい」
「分かりました」
素直に頷くリエ。
「ええっと、何故俺が日本について詳しいかと言うと、俺は日本オタクなんだ」
「日本オタク? 日本について詳しいという事ですか?」
ラインは横に首を振る。
「正確にはゲーム、アニメオタクかな。俺は日本のゲームとか好きでその中に登場する場所や習慣を知ってるだけだよ。ああ、日本語はまだダメだ」
「えっ!?」
いきなり驚いた顔をするリエ。
あれ? ……まさかアニメとかに偏見のある子なのか?
冷や汗を掻くラインだったが予想とは真逆だった。
「私もオタクなんですよ!! まさか外国来て、アニメの話が出来るとは思いませんでした!!」
ラインの手を取り、喜ぶリエ。
だからって手を握らないでくれ!!
ラインが恥ずかしそうにしているとリエが現状に気づく。
「ああっ、ごめんなさい!!」
と言って、手を離す。
ふむ、オタクにしてはしっかりした手だったな。
とどうでも良いことを考えてしまうラインにリエは覗き込む。
「あの、気を悪くされませんでしたか?」
不安そうな彼女にラインは我に返る。
「ん? ……いや、そんな事無いよ!! そういえば、日本の習慣や地名について知りたいな」
「はい!!」
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いつの間にかに来たワインをチョビチョビ飲みながら、リエと話しているとリエは呼ばれて席を離れていった。
ふと周りをみると、このテーブルではマナンとティナは部屋に戻ったらしい。俺だけが話し込んでいたのか。
他のテーブルを見るともう残っている生徒は居ない。教員陣も潰れていて、男達に運ばれている。
あれ? エマ先生が居ないぞ?
既に部屋に戻ったのだろうか。
他のテーブルを見ていると、リエが戻って来る。
「お待たせしました。さて、再開しましょうか」
戻って来たリエはラインの直ぐ隣に座る。いやこんなに広いのに近いから。
ラインが少し離れるとリエは直ぐにくっついてくる。
これを何回か繰り返すと耐えきれなくなる。
「ちょっと、何でくっついてくるんだよ!!」
「私、ラインさんが好きになってしまいました。懐かしい日本の話も出来ましたし、ラインさん優しいし……今だけでも彼女になってはいけませんか?」
と言いながら、上目遣いで体をくっつけて来る。
彼女の顔を凝視出来ないので、視線を下げると控えめな谷間が見えてしまう。日本人なので控えめだが、大きく胸元が開いたドレスによって否応なしに視線が行ってしまう。
ちょっ!? ここも危険!!
慌てて正面に顔を向けて、視線をずらすが彼女は正面に移動する。
そしてラインに抱きついて来る。
ぐおぉぉぉぉぉ、彼女の胸が、胸が!!
世界的に見て小ぶりな訳で決して小さくない彼女の胸と彼女から匂う香水の甘い匂いがラインの理性を攻撃していた。
だが、ラインは女性未経験。思わず逃走していた。それを寂しげに送る彼女の表情にラインは気づかなかった。
さてそろそろ前兆が見えた来た頃です。
ちなみにライン達は成長して魔法が使えるようになってます