混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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8-2 ルーカスのお願い

 

 ルーカスからお願いを聞いたブライスはゲオルクと別れ、次の場所へ案内する。

 

 ブライスが部下と相談している間にアイリーンはルーカスに質問する。

 

「ルーカス長官、さっきは何を要望されてたのですか?」

 

 首を傾げるアイリーンにルーカスはニヤリと笑う。

 

「さあ、何処だろうな。まあ今度は楽しいだろうさ」

 

 とはぐらかすルーカスにアイリーンはリスのように頬を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

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 格納庫から出ると黒い車が2台ある。片方の車に乗ったルーカス達は基地内を移動する。

 移動している間に見えたのは整備兵達に整備されてるエルピスとランニングしている兵士達だ。

 そういえば誰もサボっている様子は無い。

 これがエルス国の実力の由縁なのだろうか。

 

 何が地球連合国と違うのだろうかと言われれば根本から違うとしか言えない。

 国の制度、国の広さ等色々な理由が有るが一番はトップたるブライス代表が大きいのではないだろうか?

 

 部下とも気さくに話すコミュニケーション能力、前線に出る戦闘能力、そしていざという時に守ってくれる頼りになる……

 

 どれもルーカスには無い力だ。

 

 だがルーカスが非力な訳では無い。大国をまとめる力はブライスには無い。大国な以上、大将は本陣に篭もってなければならない。大将が討たれれば各地の戦闘が混乱するからだ。

 だから求められる能力が違うという方が正しい。

 

 ブライスが現場監督に対し、ルーカスは会社の社長なのだ。

 これだけ規模が違えば、必要な能力も違うのだ。

 

 この事はとうの本人は知るよしも無い。これで落ち込むルーカスでは無いので大丈夫そうだ。

 

 ルーカスが物思いにふけていると車がゆっくりと止まる。

 

 顔を上げたルーカスの目の前には大きな校舎と生徒達が訓練する様子を見つめるアイリーンがあった。

 

 

 

 

 

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 喧噪な教室に、ここにも興奮を抑えきれない生徒ーーラインが居た。

 

「グレン!! ブライス代表とルーカス長官が来てるというのは本当か!?」

 

 まるでオモチャが貰えると分かった子供のように興奮止まないライン。

 一方興味無さそうなグレン。

 

「ん? ああ、来てるぞ。……今はアカデミーの入り口付近だな」

 

 と欠伸をしながら指を差し示すグレン。

 

 何で場所が分かるんだ? ここからは見えないのに……と疑問に思ったラインだったが、エマ先生が来たので席に戻る。

 

 

 

 

 

 

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 目の前に大きくそびえ立つ校舎と訓練する生徒達を見てアイリーンは興奮を隠す事が出来なかった。

 

「これは……軍学校じゃないですか!! 懐かしいなあ……学生時代を思い出しますね」

 

 ーーはっ!? 私は何てことを……

 

 と恥じるアイリーンにアイリーン以外の全員は暖かい目で見守るーーがアイリーンは恥ずかしがり、ルーカスの背中に隠れてしまう。

 

 だがルーカスはそれを許さない。

 

「ほら、お前の為にお願いしたんだから精一杯楽しめ!!」

 

 と後ろにアイリーンを前に押し出す。

 

 若干涙目のアイリーンをよそに奥に入っていく。

 

 涙目のアイリーンも入ると直ぐに目つきが変わる。

 戦闘状態の目だ。

 

 それに気づいたルーカスは尋ねる。

 

「アイリーン、どうした?」

 

 アイリーンは目を細めながら返事をする。

 

「……これは何人かの人に見られてますね」

 

 見られてる? 

 

 ルーカスは周りを見渡すが、誰も居ない。更に遠くかと思って目を細めて見渡しているとブライスに笑って教えられる。

 

「はは……そういえばルーカス長官は普通の方でしたね。今、アイリーンさんには何人かの魔法師の視線が集中しています」

「魔法師……の?」

 

 再び見渡すが、誰も居ない。

 ブライスは頭をかきながら説明する。

 

「えーと、魔法師には魔力感知という能力が有ります」

 

 魔力感知は優れた魔法師には簡単に出来るものだ。

 個人差は有るが魔法師には認知出来るテリトリーが存在する。実力を行使出来るテリトリーとも言える。その中に入って来た魔法師の位置はバレバレだ。

 もちろん意図的に潜める事は出来る。

 また魔力感知は優れた魔法師同士でしか出来ず、普通の魔法師では不可能だ。

 

 そんな好奇の視線に晒されたアイリーンはいい気はしないものだ。

 

「……ええ、何人かに見られてますね。私の実力が知りたいのでしょう」

 

 アイリーンが少し不機嫌になるのを見て、ブライスが苦笑いする。

 

「すみませんね。これは軍人の性ですから」

「……確かに実力者がテリトリーに入って来ると見たくなりますよね」

 

 うんうんと納得するアイリーンにルーカスは心配する。

 

「アイリーン、大丈夫なのか?」

「はい、パーティーに上から入ってくるようなもんです」

「……これはキツい」

 

 アイリーンなりの冗談にルーカスはニヤリと笑う。

 

 アイリーンはふと気になる視線を見つける。

 

「ブライス代表、1階の教室は何年生ですか?」

 

 アイリーンが指差した方をブライスも見る。

 

「……1年生ですね。1年生に何か?」

「ええ、1年生の中に不思議な魔力を感じます」

「不思議な魔力?」

 

 ブライス代表が再度探知する。

 ルーカスも頑張って目をこらすが見れるはずもない。

 

 細めていた目を戻すとブライスは頷く。

 

「……ああ、グレン君かな。あの子は特殊みたいだからね」

「グレン君ですか……聞いた事有りませんね」

 

 アカデミー卒業前でも強い魔法師は有名になったりする。

 だがグレンという名は聞いた事無かった。しかしアイリーンの勘はグレンが強いと警告を鳴らしているのだ。

 

「突然出て来た能力者ですか……」

 

 ふと火星独立軍の幹部達を思い出す。あの人達も噂ではいきなり覚醒したと言われてる……一体この世界に何が起きてるでしょうか……

 

 アイリーンが物思いにふけているとブライスが提案する。

 

「良ければ見学していきますか?」

「えっ? 良いんですか?」

 

 驚きが隠せないアイリーン。

 

 同盟国とはいえ、他国に魔法技術を晒すのだ。もし敵に回った場合、不利になることは間違いない。

 だがブライスはそれすら許容して見せようとしているのだ。

 

「ええ、私はお二人を信頼してますから」

 

 表裏無い笑みに二人は気を引き締める。

 

「そこまで信頼されてるとは……期待に応えなくてはな」

「はい」

 

 強く頷くアイリーン。

 その様子を見たブライスは満足げに微笑み、1年生の教室に案内する。

 

 

 

 

 

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 授業が始まって教室は静かになるが生徒達の関心は地球連合国の来客達だった。授業の事は右から左に流しているようなものだ。

 

 ラインも同じだった。いや、ラインは人一倍興味を持っていた。

 地球連合国に対しクーデターを起こし、成功した男なのだ。

 

 地球連合国にクーデターを起こしたのは何度もある。しかし、どれも強大な力を持つ地球連合国には歯がたたかなかった。今回成功出来たのは方面軍の協力と本部内部からのクーデターの要因が大きい。

 どちらも事前に準備出来た手腕をラインは高く評価してたのだ。

 

(会いたい!! どんな人なのか見てみたい!!)

 

 と気持ちは逸るが今は授業中。

 悶々としながらノートを取っていると教室の自動ドアが開く。

 

 その瞬間、時が止まったような感覚に陥る。いやラインだけじゃない。この教室が一瞬止まったように静かになる。

 

 その直後もの凄い喧噪となる。

 

 入って来た人物ーーブライス代表と若い男女が入って来たのだ。

 ブライス代表といることを考えるとルーカス長官に間違えないだろう。

 

 教室がざわめいてるのをブライス代表は瞬時に鎮める。

 

「皆、突然済まない。紹介しよう。地球連合国最高司令長官ルーカス長官と護衛のアイリーン嬢だ」

 

 手で示された先には30代の男と20代の女が見える。

 男の方は金髪の長身と女性で有ればお近づきになりたいと思うほど王子だ。

 女の方は金髪のサイドテールとモデルのような体型と美人に教室の男子の視線は否応無しに集まる。

 ラインもその中の一人だ。

 

 アイリーンに見とれていたラインを何故かマナンがタイミング良く足を踏んでしまう。痛みで我に返るラインにマナンは小さな声で謝る。

 

 そんなライン達をよそにブライスは話を続ける。

 

「お二人は授業を見学したいとの事で我々の事は気にしないで欲しい」

 

(気にしないで欲しいって無理だ……)

 

 後ろに居られてもあの存在感ではチラチラ見てしまうだろう。

 

 ラインが溜息を付いているとブライスに代わりルーカスが前に立つ。

 

「紹介に与ったルーカスだ。突然訪問したこと申し訳なく思う。長居する気は無い。……グレン君、アイリーンと手合わせ願えないだろうか」

 

 教室の視線がグレンに集まる。

 ふんぞり返って外を眺めていたグレンははぁ? と間抜けな声を漏らす。

 

「いきなりで済まないが君の実力を知りたいのだ」

 

 頼まれたグレンはブライスとエマを一瞥して、席を立つ。

 

「これ、断ると外交的問題になりそうですからお受けしますよ」

 

 やれやれという雰囲気満載のグレンだが、どこか楽しそうだ。

 

 グレンとアイリーンーー交差する視線は既に実力の探り合いを始めていた。

 


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