混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

46 / 147
〈7章 ライン マナン編〉
7-1 マナンの異変


 

 楽しかった休日の次の日、ライン達新入生は教室に集まっていた。

 

 1限は無しでHR(ホームルーム)らしい。

 

 何をやるのかと教室がざわついている中、エマ先生が入って来る。

 その手には大きな段ボールが抱えられていた。

 

 オイショッと言う声と共に教卓に置かれる。

 教卓に置かれた段ボールはドシンッという音を立てる。

 

 教卓に段ボールを置いたエマ先生は挨拶する。

 

「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございます」」」

 

 皆の元気な声に満足したのか可愛らしい笑顔を見せるエマ先生。

 

「皆さん元気でよかった。じゃあ今日呼んだ意図を教えるね」

 

 段ボールの中を漁り、紙を取り出す。

 その紙を見せながら、話し出す。

 

「これは前やった試験の結果。結果出たから返すね」

 

 この言葉に教室のざわめきが頂点に達する。それはそうだ。この試験で素質が無いと、その道に進むのが難しいと判断材料になってしまうのだから。

 自分の人生が描かれた紙がそこに在るのだから。

 

 エマ先生はこのざわめきを気にする事無く、結果を返し始める。

 

 ラインの番になり、結果を受け取る。

 

 その結果を見ると、6つの欄が存在していた。

 

 上から、

 体力

 魔力

 格闘

 武芸

 射撃

 HAW

 と分かれていた。

 

 その隣にはアルファベットが書いて在る。

 合わせると、

 

 体力C

 魔力C

 格闘C

 武芸B

 射撃C

 HAWB

 

 と書いてある。

(この結果、これだけ見ても高いのか低いのか分からないぞ……)

 

 ランクが上限がいくつで底辺がいくつなのか分からないと判断しようが無い。

 

 そんな思いで顔を上げると周りのクラスメイトも困惑していた。

 自分の結果に評価付けようが無いのだ。

 

 そう困惑しているとティナが戻って来る。

 

「……これ、良く分からないわね」

 

 と眉間にしわを寄せた所でラインは話しかける。

 

「俺も分からないから見比べないか?」

 

 するとティナは頷き見せて来る。

 

 ティナの成績はこうだった。

 

 体力A

 魔力C

 格闘B

 武芸D

 射撃E

 HAWD

 

 と言う内容だった。

 

 体力Aは俺より高いティナだから上がA?

 そして射撃Eと有るから下はEなのか?

 

 と考えているとティナが文句を言ってくる。

 

「ちょっと、わたしが射撃EなのにラインがCなのよ!! 同じく全然当たらなかったじゃないの!!」

 

 確かにティナの言う通り隣の的に当てる自分と全弾天井のティナとの差が分からない。

 隣に当たったのが点数になったのかしら?

 

 と自虐しながら苦笑いしてるとエマ先生が声を挙げる。

 

「皆、成績返って来た? じゃあ説明するね」

 

 成績は6つの欄に分かれていて、それぞれ体力、魔力、格闘、武芸、射撃、HAWとなっている。

 

 最高ランクはAで、最低ランクはEらしい。

 

 ーーあれ? ティナ射撃Eじゃなかったけ?

 

 チラッとティナを見ると体をプルプル震わせていた。

 

 うん、ティナに射撃は無理だな。

 

 ラインの視線に気付いたのか、睨むティナ。

 やべっ、全く、勘鋭いな。

 

 エマ先生は話を続ける。

 

「ランクはあくまでも、適性です。ランクが高い種目は腕がすぐに上がりやすい、伸びしろが期待出来るというだけです。現状の君たちの力ではありません」

 

 このランクは適性らしい。となると俺のランクはーー

 

 ーー全部微妙じゃねぇか!!

 

 Bは良い方だが、Aのような極めるのでは無いしなあ……

 

 続けて、エマ先生は話す。

 

「そして下位ランクは適性が低いというだけで出来ないという事では有りません。ただ、かなりの努力が必要という事です」

 

 平均程度の実力を付けるには努力すればどうにかなるらしいが、それ以上は適性が無いと厳しいらしい。

 

 なるほど、確かに人生が決まると言っても過言では無いかもしれないな。

 

「今年1年はどんなランクでも同じように勉強して貰います。この成績が間違っているという可能性や、埋もれた才能が有るかもしれないので適性がEでも授業は受けて貰います」

 

 埋もれた才能か……まああの少しの試験だけで分かるとは思えないしなあ。

 俺も何か特徴が欲しいなあ……

 

 と溜め息を付いていると授業が始まる。

 

 ふと見たマナンの落ち込んだ表情が気になったが、授業中なので声をかけれなかった。

 

 

 

 

 

 -----

 

 授業が終わり、昼休み。

 さっきの落ち込みを聞こうとしたらマナンは授業が終わった後すぐに教室を出て行ってしまった。

 何か用事だろうか?

 

 食堂で1人でフィッシュ&チップスを食べる。

 

 フィッシュ&チップスはかなり昔からあった食べ物で、白身魚を揚げた衣付きの魚とポテトフライが入っている。エルス国でも定番のファーストフードだが、カロリーが高いので週1だけしか食べれない。

 

 そんなご馳走を食べていると高い声で声をかけられる。

 振り返るとエマ先生がサンドイッチを皿に乗せて立っていた。

 

「ライン君、相席良い?」

 

 昼休みでは人気な食堂は混んでいるので相席は仕方ない。それに来るなら知り合いが良い。

 

「はい、誰も来ないので大丈夫です」

 

 その言葉にエマ先生は笑顔になる。座席に座るとチビチビとサンドイッチを食べ始める。小動物みたいだ。

 

 その視線に気付いたのかエマ先生は頬を膨らませる。

 

「こら、あんまり女性の食べる所を凝視しないの」

 

 と言いながら、あんまり怒ってないエマ先生。

 俺へのアドバイスだろうか。

 

「すみません、エマ先生と食べるの初めてですから」

 

 その言葉に目を見開く。

 

「あ、そういえば、そうだね。なんかライン君とは何回も会ってるからそんな気がしなくて……」

 

 確かに病院やら色々やらかしてるからな……

 

 苦笑いしていると、エマ先生がサンドイッチを飲み込んで、何かに気づく。

 

「あっ、そういえばマナン君は今日どうしたの? 昼休みも一緒じゃないし……」

 

 と不安げに聞いて来る。

 だが俺にも分からない。

 

「すみません、自分も分からないんです」

 

 その言葉にエマ先生は目を伏せる。だがその間は一瞬で笑顔になる。

 

「そっか……成績が悪くて落ち込む子がこの時期多いからフォローしてあげてね?」

「はい」

 

 ラインが頷くのを見て、満足したのか席を立つエマ先生。

 手に持つ皿にはまだサンドイッチが残っている。

 

 エマ先生はサンドイッチを持ったままどこかに行ってしまった。

 

 わざわざこの事を言いに来てくれたのか……エマ先生、良い先生だ。

 

 時間もあまり無いので、残ったフィッシュ&チップスを急いで食べる。

 

 だがポテトはパサパサしているのでむせる。

 水はどこだ……

 

 

 

 

 

 -----

 

 昼休みが終わり、座席に戻るとマナンが居なかった。エマ先生によると体調崩したらしい。

 成績返ってくるまでは元気だったのに……そんなに悪かったのか?

 

 逸る気持ちを抑え、授業に集中する。

 

 

 

 

 

 -----

 

 授業が終わり、クタクタになりながら部屋に戻る。

 本格的に始まった授業。これから1、2限は基礎体力訓練。3、4限は昼休み後なので座学。5、6限は武芸、格闘、射撃、魔法等の実技訓練だ。

 

 授業時間は一つ、1時間。10時から始まり、5時に全て終わる感じだ。

 

 意外と自由時間は多いが、基本的には自主練するのが当たり前だ。

 

 もちろんしなくても良いが、努力しなければ魔法師には成れない。

 

 人気なのは朝は素振りや、シャドーボクシング等の運動系。夜はHAWや射撃の精密系の練習。

 座学も夜だ。覚える事が多く頭がパンクしそうだ。

 

 溜め息を付きながら、部屋の扉を開けると中は真っ暗だった。

 廊下の明かりを頼りに照明を点けるとーー

 

 ーーベッドに顔を伏せ、泣いてるマナンを見つける。

 

 照明が付いた事でラインに気付いたのか、マナンは顔を上げる。

 その顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。

 

 マナンは震える声でラインに告げる。

 

「もう……ラインとはお別れだね」

 

 悲しそうな笑みを浮かべるマナンにラインは戸惑うしか無かった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。