混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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6-B とある休日(閑話)後編

 

 

 これも10分後、ティナがやって来る。目の前に置かれたのはオムライス。ケチャップライスの上にふんわりした卵が乗っている。

 

 だが、肝心のケチャップが無い。もちろんケチャップが無くても良いのだが、有ると更に美味しいのだが。

 

 ケチャップはどこ? という視線をティナに向けるとティナの手にはケチャップが握られていた。

 

 ケチャップはここで掛けるのか?

 

 と不思議に思っていると、ティナが引きつった笑顔で聞いて来る。

 

「お客様、何とお描きしましょうか?」

 

 ーーああ、そういう事か

 

 ゲームの中にあったメイド喫茶のイベントの一つ、オムライスにケチャップで書いてくれるやつか。

 まさかティナがやってくれるとはな。

 

 これから起こる事が分かったラインはにやける。

 

 その怪しい微笑みを見て、ティナは青ざめる。

 

(コイツ、内容を理解して更なる無茶振りをしてくるな!?)

 

 悔しさで拳を握りしめながら、ケチャップを差し出す。

 

 あくまでもお客様と店員の立場を守ったティナに注文する。

 

「猫かなぁ……」

 

 とラインが言った瞬間、ティナの顔が微笑みに変わる。

 しかし、ラインは鬼畜であった。

 

「やっぱりハートは必要だよな」

 

 この言葉にティナの顔は再度凍る。

 

 ……この後もこのやり取りを続け、結局はハート付きの猫とラインの名前を入れる事になってしまった。その時のティナの顔は悔しさに溢れてたという。

 

 

 

 

 

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 普通に美味しいオムライスを食べお腹もいっぱいになった頃、グレンがくつろぎながら提案する。

 

「なあ、何かゲームでもやらないか?」

 

 ゲームか……

 

 ゲームは主に二つに分類される。電源が必要な本体を使ったデジタルゲーム。電源が必要ないアナログゲーム。

 例えばサッカーはアナログゲーム。そして画面を使うテレビゲームはデジタルゲームだ。

 

 グレンは一体どちらを指しているのだろうか?

 

 するとグレンの提案にティナのお父さんが意見する。

 

「じゃあ、野球拳はどうかな?」

「「「野球拳?」」」

 

 グレン以外の3人が頭を傾げる。

 その疑問にはお父さんが答える。

 

「野球拳はジャンケンをして負けたら服を脱ぐというゲームで脱ぐ物が無くなったら負けだ」

 

 ーー服を脱ぐだと!?

 この場でか!?

 

 ラインは男だが、この場で脱げと言われたら嫌だろう。家でも更衣室でも無いのだから。

 

 ふと疑問が思い浮かぶ。

 

 ーーあれ、ティナはどうすんだ?

 

 視線を向けると案の定、ティナは固まっていた。当たり前だ。女性に脱げというのは過酷だ。

 

 ーーてかお父さん、娘が脱がされても良いんですか!?

 

 困惑の視線をお父さんに向けるとお父さんは指を立て、どや顔だ。

 

 いや、自分の娘でしょ!?

 

 ラインは困惑するが、グレンは乗り気だ。

 

「面白いなあ。これは皆スッポンポンで帰るかぁ?」

 

 この言葉にティナが吠える。

 

「ばっかじゃないの!? 女性に脱げなんて可笑しいわよ!! お父さんも!!」

 

 その表情は怒りに満ちていた。それは当然だ。

 

 だがグレンの一言で覆る事になる。

 

「別にやらなくても良いが、敵前逃亡になるぜ?」

 

 敵前逃亡という言葉で顔色が変わる。曲がった事が嫌いなティナには凄い効果てきめんだ。

 

 ティナは体をプルプル震わせ、顔を引きつらせながら答える。

 

「え、ええ。や、やってやるわよ。負けなければ問題無いからね」

 

 頑張って威勢を張っているティナにグレンはにやつく。

 

「さあ、始めようか。野球拳を」

 

 

 

 

 

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 参加者は4人。ライン、グレン、マナン、ティナが参加する。

 

 何故か全員席を立ち、腕まくりするぐらいやる気満々だ。

 まあ脱ぎたくないからな。

 

 さて、いつでも大丈夫なように心構えは出来たが……

 

 グレンのかけ声で始まる。

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「ーーゴッドハンド!!」

「「「ポン!!」」」

 

 グレンがパー、俺らがグー。

 グレンの一人勝ちだ。

 

「やったぜ」

 

 どや顔するグレンに俺らは突っ込む。

 

「何がゴッドハンドだ!?」

「何もしてないじゃないの!?」

「これはやられたね……」

 

 ゴッドハンドというたいそうな名前を言ったが特に何かするわけでは無かった。あれは俺達の心を揺さぶる為か……

 案の定これに引っかかり、グーを出してしまった。

 

 ジャンケンは心理戦という訳か。これはやる気が出るね。

 

 最後の一人になるまでジャンケンを繰り返す。

 結果負けたのはマナンだ。

 マナンが上着を脱ぐ。

 

 ここは空調の整った店内だ。上着を脱いでも問題ない。

 

 

 

 

 

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 さて、第二ラウンドだ。

 グレンを入れ、再開する。

 

 次は何が来るのだうか……ん? 今度はこちらから仕掛けるか。

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「ーーフィニッシュフィンガー!!」

「「「ポン」」」

 

 ラインがチョキ。他グー。

 

 ……一人負けじゃないか。

 

「何がフィニッシュフィンガーだよ」

 

 グレンが腹を抱えて笑う。可笑しい過ぎて地面を転がってる。

 

「フィニッシュフィンガー……終わりの指ね……くくっ」

 

 ティナも堪えているが所々吹き出している。

 

「ホントに終わったね」

 

 と言うマナンも背を向けているが肩を震わせ、笑いが隠せてない。

 

 今、自分の顔が茹でタコみたいに赤いのだろう。穴があったら入りたいというのはこの事だ。

 

 ああ、恥ずかしい……

 

 恥ずかしさを誤魔化すように乱暴に上着を脱ぎ捨て、第三ラウンドの音頭を取る。

 

「さあ、始めるぞ」

 

 3人も笑いを落ち着かせ、次の戦いに備える。

 

 さて次はどうしようか。さっきと同じ手は通用しないだろう。失敗したばかりだし。恥ずかしい。とりあえず様子を見るか。

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「「「「ポン」」」」

 

 あいこだ。今回は誰も何もして来なかった。どういう事だ?

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「「「「ポン」」」」

 

 またあいこだ。まあ偏りが無く、ジャンケンをしていたらこうなるよな。

 そろそろ動き出す頃か?

 

 するとグレンがいきなり宣言する。

 

「俺は次グーで行くわ」

 

 出た!! 宣言!!

 

 これは考えるとスパイラルに陥る。グーに勝つのはパーだがそれを読んでいるかもしれない。チョキが来るのを読んで、グーを出すがここまで読んで、パーかもしれない。それにチョキを出すと最初に宣言されたグーで負けるかもしれない。

 

 という結局はどの手も安全は無いという結論に至るのだ。

 ならばもう掛けるしか無い。

 

 グレンが俺のグーを狙ってると想定して、俺はチョキで行こう。

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「「「「ポン」」」」

 

 俺はチョキ、他はグーというまた一人負け。

 

 やられた……

 

「俺、グー宣言したんだがなぁ?」

「信頼出来ないだろ!!」

「そうか……ラインは俺の事……よよよ……」

 

 まるでどこかの平安貴族のように泣く振りをしやがる。

 憎たらっしい演技だ。

 

 一方マナンとティナは

 

「僕らはあいこでも良いグーだよね?」

「そうね。グレンは信頼出来ないから。でも一応来たら困るからあいこ狙いよ」

 

 ねーと仲良くティナとマナンが喜ぶ。

 お前らもグレン信頼してないんじゃないか。

 

 ますます落ち込むグレン。

 そりゃいつもの態度がねぇ?

 

 しかしすぐに立ち直るグレン。

 

「まあ、負けたのはラインだし。ほら脱げよ」

 

 グレンに催促され、ズボンはマズいから上を脱ぐ。黒地のアンダーシャツ一枚になる。寒くは無いのだが、少し落ち着かない気分になる。

 

 

 

 

 

 

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 さて第四ラウンドの開始だ。

 

 この時点で、ライン二枚、マナン一枚のグレン、ティナ無敗だ。

 次は何が何でも脱がしたい。

 

 次はどうするべきか……

 

 と悩んでいる間にジャンケンは始まってしまう。

 

「「「「最初はグー、ジャンケンーー」」」」

「「「「ポン」」」」

 

 目の前に差し出された手を見ていく。

 俺らはチョキ、ティナがパーだ。

 

 久しぶりの一勝だ……

 

 と感動しているとティナがエプロンを脱ぐ。

 そこにグレンが文句を言う。

 

「エプロン別なのかよ……ズルいなあ」

「ズルいも何もそういう構造なのよ」

 

 ティナも仕方ないと首を振る。

 その様子にグレンも納得したようだ。

 

「まぁ、次はな……」

 

 とニヤリと笑うグレンにティナは呆れる。

 

「……あんたも欲望に正直ね」

 

 この言葉にグレンは自分の持論を主張する。

 

「そりゃあ、可愛い子の下着姿が見れたら良いよなぁ、ライン?」

 

 いきなりこっちに振るか。

 

 一応同じ意見だから頷く。

 

「まあ、見れたら儲けもんだしな」

 

 2人のこの様子にティナはそっぽ向く。

 

「……可愛いと褒めても何も出さないわよ」

 

 そう言うティナの耳は赤い。

 これはチョロイン(おだてればすぐに調子に乗るヒロインの事)ですわ。

 

 

 

 

 

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 その後ティナが負け続け、ニーソを脱ぐのが一枚という暴挙にグレンとティナのお父さんが抗議した後の事である。

 

 連敗したティナはニーソすら失い、脱ぐ物に責められていた。

 

「私が連敗するなんて……」

 

 悔しさに顔を歪めたティナの表情にはこれから起きる事への羞恥心も混じっていた。

 

 後脱げる物は上下の服と下着ぐらいしか無い。

 上下の服を脱いだら下着姿になってしまうのであった。

 

 勿論野球拳始めた時点で、こうなる事は想定出来たはずだが、ここまで連敗するとは思わなかったのだろう。

 

 ティナが答えを出せずに困っているとグレンが提案をしてくる。

 

「なあ、下着が見られるの嫌だったら、今下着脱げば良いんじゃない? 今はそれで凌げるぞ」

 

 確かにグレンの言う通りだ。一枚脱げば良いのだから、下着を脱いでも一枚だ。まあ、また負けたら裸となるのだが。

 

 この発想にティナは顔を青くしたり、赤くなったり忙しかったが、これからの希望に掛け、提案に乗るようだ。

 

 スカートの中に手を入れ、下着に手を掛け、下に下ろすーー

 

 ーーが、そこは女性の嗜み。下着を誰にも見せずに隠す。

 

 だがグレンは見逃さなかった。

 

「く、黒はいかんでしょ、お父さん!!」

 

 少し演技がかった感じだが、そこに乗るお父さん。

 

「な、何と破廉恥な下着だ!! お父さん悲しいぞ!!」

 

 と喚くがティナに睨まれ、すぐに黙る。

 

 黒か……ふむ、扇情的だな。

 

 ティナが黒い下着を着けている姿を想像したら、少し笑えて来た。

 

 ギロッとティナに睨まれ、黙る。

 

 その時、冷たい声がこの場に響き渡る。

 

 聞こえた声の方向はお父さんの後ろだ。

 

 お父さんは錆び付いた機械のようにギギギと振り返るーー

 

 ーーそこには鬼が居た。

 

 鬼ーーティナのお母さんは般若の形相をして、睨みつけている……俺達を。

 

 実力者のグレンですら蛇に飲まれたカエルの状態だ。

 

 お母さんが般若のまま口を開く。

 

「あなたたちは何をしてるのかしら?」

 

 この言葉に全員、体をビクリと震わせる。

 

 何をしてるかって? 野球拳だよなんて言えない……

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 ティナのお母さんに野球拳をしていた事がばれた後、この場にいる全員は正座させられていた。

 

 お母さんは呆れながら話す。

 

「あなたたちはもう少し他の遊びを考えられなかったの?」

 

 はい、ごもっともです。

 私達が浅はかでした。

 

「すみませんでした」

 

 と3人で頭を下げる。

 

 お母さんは視線をティナに向ける。

 

「ティナ、あなたは女として自覚が足りない!! もちろん男ばかりの軍人だけど女という事を忘れないように!!」

「はい……」

 

 しょんぼりするティナ。

 いつもの活発な様子からは想像出来ない姿だ。

 

「まあ、今回は少し羽目を外したという事にするわ」

 

 この言葉を聞いた瞬間、ティナの表情が明るくなるが、お母さんの厳しい表情を見て、顔を引き締める。

 

 そして最後の人に視線が移される。

 

 身体を縮こませ、ガクブル震えるお父さんの前に鬼が立つ。

 

「アナタは一体何してたの? ねぇ?」

 

 その言葉に更に身体を震わせるお父さん。

 

「アナタはこの子達と一緒にやってたと聞いたけどどうなのかしら?」

 

 弁解の機会とばかりにしゃべり出すお父さん。

 

「わ、私は止めようとしたんだけど若い情熱に負けて……」

 

 と話すが、お母さんの表情は変わらない。

 

「へぇ? アナタはこの子達がお願いすれば何でも許すのね?」

「そ、それは……」

 

 困ってこちらに助けを目で求める始末だ。

 

 いや、お父さんも共犯ですから。

 

 般若はお父さんを引きずり、奥に連れて行く。お父さんの断末魔と共に。

 

 ああ、お父さんさようなら。

 

 

 

 

 

 -----

 

 その後、俺らは服を来て帰り支度をする。

 ティナも後片付けしながら談笑する。

 

「今日は楽しかったよ」

「私も楽しかったわ。ちょっと恥ずかしかったけど」

 

 頬を少し赤くして、言うティナ。

 

「ああ、また明日な」

「ええ、じゃあね」

 

 外に出たライン達を照らすのは沈みゆく夕日だった。

 

 

 

 

 

 


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