混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
9/29 改稿
グレンがエマ先生に引きずられながら連れていかれた後、教室では概論をやっていた。
概論とは大まかな内容の説明するのだ。
まず最初に説明されたのはアカデミーの意義。
「まずアカデミーの方針を説明しよう。アカデミーとはエルス国の魔法師、軍人のスペシャリシストを育成する所である」
入学に関して年齢は問われない。だが必然的にある程度若くなるのは仕方ない。
「ここで全員が魔法師になる必要は無い。もちろん魔法師の適性が無い者や他の適性が高い者も居るだろう。皆を適材適所に配置するのがアカデミーの意義だ」
入学した者は皆優れている訳では無い。むしろ劣っている者も居るかもしれない。しかし、エルス国が求めるのは心の強さだった。
「だから君達には多くの事を学んで貰う。その中で自分の得意分野を見つけて欲しい。我々は全力で長所を伸ばすのを支援するつもりだ」
アカデミーは三年間ある。
一年目は基礎を鍛える。
基礎とは体力の増強、戦術の勉強。剣、魔法、銃などの戦闘術の座学と訓練等である。
基本的には全ての事に浅く学んで行く。
二年目は得意分野を伸ばす。
一年目で習った分野の中で得意分野が有ればそれを伸ばして行く。
基本的には得意分野のみの訓練になり、希望や適性が有れば他の分野も訓練する事が出来る。
また指揮能力適性者には指揮部門に入り、育成する。
三年目は他の生徒との連携。
一年目までは同じ事を学び、連携も取りやすかったが、二年目で一人一人個性が出て、連携の難易度は遥かに難しくなる。
例えば、剣士一人に、銃士が三人としよう。もちろん銃士が多いので遠距離中心になるが剣士は何をすれば良いのだろうか? またどういう配置するべきだろうか? 等々、それぞれ戦い方の違う特殊性の高い部隊を率いる指揮能力を試しているのだ。
この訓練は主に指揮部門の練習である。しかし、指揮される方も一人では戦えない。味方と連携を取り、相手との相性を見ながら柔軟な戦い方を問われるのだ。
戦場では予想した相手と戦えるとは限らない。また奇抜な戦術かもしれない。そんな中、柔軟な考え方を出来る軍人が求められている。
このように三年間を終え、卒業すると指揮能力が高い者や魔法師、ずば抜けた能力を持つ者は代表直属部隊に配置される。また普通の者でも普通科魔法師部隊や、普通科小隊長等に着く。
普通科とは一般兵士の事で特に特殊な技量を持たない兵士達の部隊である。
その中に魔法師部隊は組み込まれており、主にウォールシールドや回復魔法等の支援を行う。
代表直属部隊は尖ってる者ばかりの部隊で上手く連携が取れないと各個撃破されてしまうだろう。
だから連携能力を上げる為に三年目では小隊を組み、戦う訓練を行う。
そう一年目では広く浅く、色んな事を学ぶのである。
今回の講義はこれだけ伝えられ終了する。そのまま昼休みだ。
机に広げてる物を片付け、カバンに詰め込み、席を立つ。
するとマナンが話しかけて来る。
「ラインはお昼どうするの?」
その問いにライン腕を組んで悩む。
「弁当は持って来てない(自炊してない)……食堂か、購買でパンのどちらかな」
自炊してないというよりは寮では必要無いからである。
ラインがマナンはどうするんだ?
と聞こうとした瞬間、マナンは目の前に重箱を取り出す。
「はぁ!?」
思わずラインの口から驚きの余り言葉が漏れる。
重箱!? ……何で持って来てんだ? そもそも重箱って学校に持って来る物か!? ピクニックとかだろ!? そして誰が作ったんや!?
頭が様々な疑問で混乱する余り、関西弁になるライン。ちなみにラインは特に関西には関係ない。
そんなラインの頭の中を見透かしたように答えるマナン。
「これは僕が作ったんだよ。一人で全部。……あ、信じてないね?」
問われたラインは首を大袈裟に横に振る。
それをみたマナンはフフッと微かに笑いを零し、ラインを食事に誘う。
「良かったら食べない? 入学最初の日だからなんか作りたくなっちゃって……」
マナンさん!? 思いつきでこんなスゴいの作るの!?
ただラインは驚きとツッコミで心の中を埋めていた。
特に断る理由も無いので席に戻る。
「じゃあどうぞ」
と言われ、ラインは蓋を開ける。
するとラインの目には様々な芸術が入って来る。
黄金に輝く、玉子焼。
可愛いタコさんウインナー。
やはり定番の唐揚げ。
などなど色とりどりの食べ物がラインを待ちかまえていた。
おおー と感嘆の声を漏らしてしまう。
そんなラインにマナンから箸が渡される。
もうラインの心はマナンの重箱に釘付けだった。
箸を手にした瞬間、ラインはかき込んでいた。
旨い!! 旨い!! このほんのりと甘い玉子焼。そして意外としっかり作り込んでいるウインナー。そして冷えても美味しい唐揚げ!!
一人前にしては多いだろうと思える料理。ラインは入学初めての授業でお腹が空いてしまったのか、一人で食べてしまった。
食べ終わった後に気づく。
「あ……全部食べちまった……」
ライブは恐る恐るマナンに振り向くが、マナンは予想に反してスゴく機嫌良さそうにニコニコしていた。
「まさか全部食べてしまうなんて……そんなに美味しかった?」
ラインは拍子抜けしたように頷く。
まさかのマナンは怒る以前に喜んでいるよ……
いまいちなぜマナンが上機嫌だったのか、分からないラインだったがマナンに尋ねる。
「そういえば、マナンお前の飯はどうするんだ?」
するとマナンは横に首を振る。
「ラインが美味しそうに食べているのみたら僕までお腹いっぱいになったよ」
「……そうか」
いまいち納得出来ないが本人がそう言ってるのでラインは気にしない事にしたーーとしたい所だったがラインは気になって仕方ない。
しかし、思い至った頃には食堂も購買も終わっているのでどうしようもない。
またアカデミーの外へ外出するのには色々面倒な申請しなくてはならないので論外。
困ったラインはアカデミー内を歩きながら考えていた。
うーん、やはり誰かに頼むのが良いのかな……
と考えが決まりつつあるとランニングしているティナに遭遇する。
「あれ? ラインでしょ? どうしたの?」
汗をタオルで拭きながら近づいて来る。
不思議とそんなに汗臭くない。
「ああ、ティナか。いや何となく散歩してる感じだ」
へぇ~と相づちを打ちながらカバンからおにぎりを取り出す。
それを見たラインはティナに詰め寄る。
「ティナ!! それはどこで手に入れたんだ!?」
詰め寄るラインに驚いて、ティナは少しどもりながら答える。
「え、ええ。これは食堂の人にお願いして握らせて貰った物よ。……食べる?」
ティナは海苔の無いおにぎりを一つ差し出して来るが、ラインは断り、食堂に向かって走り出す。
その背中を少し不機嫌になったティナが見送る。
食堂ではオバチャン達が片付けをしていた。
その一人に話しかける。
「あの、此処でおにぎりが作れると聞いたのですが……」
するとオバチャンは無言で指し示す。その先には精米された米と炊飯器があった。
「ありがとうございます」
ラインはお礼を言って、米を炊飯器で炊く。
そして炊けた米をおにぎりにする。
周りに有るのは塩だけなので塩握りは確定だ。
やらせて貰ってる身としては文句は言えない。
出来たおにぎりを貰ったラップに包んで持って行く。
マナンは既に部屋だ。
部屋に戻るとマナンが出迎えてくれる。
「おかえり、ライン」
「ただいま」
部屋の机で勉強していたマナンは顔を上げて、言ってくれる。
ふと家族の事が脳裏を過ぎるが振り払っておにぎりを渡す。
「マナン、昼食べてないだろ? 良かったら食べないか?」
するとマナンな目を輝かせて聞いて来る。
「え? これはラインが握ってくれたの? 食べていいの?」
「お前に作って来たんだから食べてくれないと……困る」
頬をポリポリとかきながら、答えるライン。
おにぎりをがっつくように食べるマナン。
口の周りにはたくさんの米粒が付いてしまう。
やれやれと思いながら口の周りの米粒を取って行くライン。
その様子を赤い髪の男が二階の外の壁に張り付いて見ていた。
「まさかの……これは……面白くなってるなあ」
と小さく呟いたのは誰にも聞こえないのであった。