混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~ 作:氷炎の双剣
9/28改稿
ラインとマナンの部屋にいる赤髪のオールバックの男。
そいつはせんべいをボロボロとこぼしながら、テレビを見て爆笑していた。
それをラインが右ストレートを繰り出すも見ずに避けられる。
続いて、ラインが回し蹴りを繰り出すも容易に受け止められてしまう。
つばぜり合いのような状態になった時、男はラインを驚愕させる事を口にしたのだ。
お前はラインなのか? と。
そう言われ、知り合いなのか? とラインは過去を振り返る。
高、中、小……
赤髪の男などそうそう居ない。
ふと小学校の頃に赤い髪をした少年を思い出す。
赤い髪……高い身体能力……まさか!?
ラインは目を見開き、赤髪の男に目線を戻す。
「お前は……グレン……な、のか?」
すると赤髪の男はニヤリとして足をホールドしていた手を離す。
「おう、俺はグレン=アルベールビル。お前とは小学校以来だな」
「グレンか!!」
ラインは喜んで、グレンをハグする。グレンも応じる。
そんな中、一人ポツンと残されたマナンが恐る恐る発言する。
「……ライン? この人とは……どんな関係な、の?」
「ああ、コイツとは小学校の友人だ。中学は別になってしまったがな。
……そういえばグレン、お前は中学はどこ行ったんだ? いきなりその直前転校するからよ」
目線をマナンからグレンに戻し尋ねる。
グレンは一瞬、遠い目をしたが笑顔で答える。その一瞬は余りにも一瞬でラインは気付かない。
「俺? 俺は……外国行ってたんだよ」
「外国か!? どこ行ってたんだ!?」
ラインは子供のように目を輝かせて質問する。
「うーんあっちこっち行ったからなあ。日本とかイギリス、アルゼンチンも行ったな」
「すげえな!!」
まだまだ質問しそうなラインを落ち着かせる。
するとラインは本題に戻る。
「……そういえば、お前は何で此処に居るんだ? そして何でこんな様子なんだ?」
するとグレンは頭をポリポリと掻きながら答える。
「いや~、此処誰も居なかったし、なかなか人来なかったから誰も来ないと思ってくつろいでたわ」
「……そうか」
ラインは俯き、表情は伺えない。
ふとグレンは思いだしたかのように口を開く。
「……そういえば、あのせんべいはうまかったぞー。二枚は残してるから食べ「あーー!?」」
グレンの声をマナンの悲鳴が遮る。
二人がそちらを向くとテーブルのせんべいには合格祝いと書いてあったのだ。それも高いやつだ。
それが無惨にも10枚中2枚しか残っていなかった。
「そうそう、合格祝いのやつだ。俺にもあったけど足りなかったから拝借し「グレン?」」
グレンの声はラインの低い声によって遮られる。
「えっ?」
グレンのとぼけた声にラインは怒りを爆発させる。
「お前はっ、他人の食べ物を勝手に食べてその言葉か!?」
「やべ!?」
逃げ出すグレンの顔にに先ほどより強い右ストレートが炸裂する。窓ガラスを割り、落ちていくグレン。
この後、部屋の後片付けをしたのはグレンだったのは言うまでもない。
-----
寮への引っ越しが終わった次の日、ライン達は入学式を行っていた。流石に軍人学校に親の参加は無い。
先ほどのホールで誰もが軍服を着ていて、ビシッと整列していた。
しかしまだまだ軍服を着こなせていない者ばかり。もちろんラインもだ。
う~ん。なんか変な感じだな……
とラインは体をゴソゴソと動かしながら、入学式の始まりを待つ。
すると壇上に先ほどのゴリラのような軍人が立つ。目の前にあるマイクを使わず、地声で話すみたいだ。
「お前ら……いや、諸君らは見事アカデミーに合格した。これから現場で指導するゴリだ。よろしく頼む!!」
最後の「よろしく頼む!!」の大きな声は耳を塞ぐほどであった。これマイク使ってたら……
ブルッと身体を震わせるラインだった。
-----
次に学園長のお話。まあ、良くあるながーいお話。
ある意味、このおかげで緊張がほぐれたのは幸いだろう。
学園長の話が終わり、終わりかな? と思ったがゴリが再度壇上に立つ。
「今日、特別ゲストを呼んでいる。きょうつけぇぇ!! 礼!!」
ゴリの大きな号令と共に頭を下げる。
頭を下げるという事はかなりのお偉いさんか……
頭をゆっくりあげると壇上にはーー
ーーブライス=クロンプトンーーエルス国代表、エルス国最高指揮官が壇上に居た。
流石にこれには入学式といえども騒然とする。軍人学校の卒業式に来るのなら分かるが、入学式に来るのは異例だ。
しかし、教員達は平然としている。これは普通なのだろうか?
まだざわついている中、ブライスは話し始める。
「いきなり私が現れた事で驚いているだろうが、話を聞いて欲しい」
この一言で、騒然としていた会場はぱったりと音が止む。
ブライスは静まったのを確認して話を続ける。
「皆、ありがとう。では話を続けよう。今日、君達はアカデミーに入学する。入学おめでとう」
ライン達は礼をする事で返事する。
「さて、このアカデミーは軍人学校。魔法師、パイロット等のスペシャリストを育成する場所だ。君達も卒業と共に各部署で活躍してもらいたい」
ブライスは一面を見渡し、話を続ける。
「君達は入学試験を合格したが、何故合格したか分かるか?」
この言葉に誰も答えられない。余りにも試験合格基準が分かりにくく、未だ彼らも合格した実感が無いのだ。
「ふむ。まずは試験の意義を説明しよう。あの試験の意義はーー」
ブライスは一旦言葉を止め、一度目線を伏せ、再度目線を上げる。
「ーー命令に従わない事」
この言葉で再度騒然とする。もちろんラインにも意味が分からない。ほとんどの生徒が頭にハテナマークが付いているだろう。
軍人は命令厳守なのが当たり前と思っていたのだ。
そんな中、ブライスは話を続ける。
「もちろん、常に命令に従わないのでは軍隊として成りたたなくなってしまう。これは君達が一流の軍人になった話だ。普通の軍人では命令厳守するのが精一杯だ。しかし、戦場では常に送られて来る命令が正しいとは限らない」
もう既に会場は静まり返り、ブライスの話を食い入るように聞いていた。
「 君達は卒業後、重要な立場に着くことも多い。だから君達には命令厳守では無く、各自で判断する力を付けて欲しい」
皆、この言葉に頷く。
「そしてあの試験はその素質を見極めていたのだ。そう君達は試験によって選ばれたのだ。だから誇りを持って精進してほしい」
ラインは試験を思い出す。
なるほど。『相手を殺せ』が命令。人を殺すという事を拒む良心vs命令&受かりたい欲望だった訳か……
ラインは自分の行いが合ってた事に安堵して、フフッと笑みを零す。
まだブライスの話は続く。
「そしてもう一つ、肝に銘じて欲しい事がある。それは……『君達は選ばれたが、ただの人だ』ということを。君達はこれから、普通の人より強い力を手に入れるだろう。だが決して驕ってはいけない。別に君達が特別優れてる訳じゃない。力には責任が付いて来る事を決して忘れるな」
この重い言葉に自分達の浮かれていた心を戒める。
この言葉を最後にブライスは壇上を離れる。
離れるブライスに大きな拍手が贈られた。
そして入学式はこれにて閉式した。