混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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4-4 入学式

 ラインとマナンの部屋にいる赤髪のオールバックの男。

 

 そいつはせんべいをボロボロとこぼしながら、テレビを見て爆笑していた。

 

 それをラインが右ストレートを繰り出すも見ずに避けられる。

 

 続いて、ラインが回し蹴りを繰り出すも容易に受け止められてしまう。

 

 つばぜり合いのような状態になった時、男はラインを驚愕させる事を口にしたのだ。

 

 お前はラインなのか? と。

 

 そう言われ、知り合いなのか? とラインは過去を振り返る。

 高、中、小……

 

 赤髪の男などそうそう居ない。

 

 ふと小学校の頃に赤い髪をした少年を思い出す。

 

 赤い髪……高い身体能力……まさか!?

 

 ラインは目を見開き、赤髪の男に目線を戻す。

 

「お前は……グレン……な、のか?」

 

 すると赤髪の男はニヤリとして足をホールドしていた手を離す。

 

「おう、俺はグレン=アルベールビル。お前とは小学校以来だな」

 

「グレンか!!」

 

 ラインは喜んで、グレンをハグする。グレンも応じる。

 

 そんな中、一人ポツンと残されたマナンが恐る恐る発言する。

 

「……ライン? この人とは……どんな関係な、の?」

「ああ、コイツとは小学校の友人だ。中学は別になってしまったがな。

 ……そういえばグレン、お前は中学はどこ行ったんだ? いきなりその直前転校するからよ」

 

 目線をマナンからグレンに戻し尋ねる。

 

 グレンは一瞬、遠い目をしたが笑顔で答える。その一瞬は余りにも一瞬でラインは気付かない。

 

「俺? 俺は……外国行ってたんだよ」

 

「外国か!? どこ行ってたんだ!?」

 

 ラインは子供のように目を輝かせて質問する。

 

「うーんあっちこっち行ったからなあ。日本とかイギリス、アルゼンチンも行ったな」

「すげえな!!」

 

 まだまだ質問しそうなラインを落ち着かせる。

 

 するとラインは本題に戻る。

 

「……そういえば、お前は何で此処に居るんだ? そして何でこんな様子なんだ?」

 

 するとグレンは頭をポリポリと掻きながら答える。

 

「いや~、此処誰も居なかったし、なかなか人来なかったから誰も来ないと思ってくつろいでたわ」

「……そうか」

 

 ラインは俯き、表情は伺えない。

 

 ふとグレンは思いだしたかのように口を開く。

 

「……そういえば、あのせんべいはうまかったぞー。二枚は残してるから食べ「あーー!?」」

 

 グレンの声をマナンの悲鳴が遮る。

 

 二人がそちらを向くとテーブルのせんべいには合格祝いと書いてあったのだ。それも高いやつだ。

 それが無惨にも10枚中2枚しか残っていなかった。

 

「そうそう、合格祝いのやつだ。俺にもあったけど足りなかったから拝借し「グレン?」」

 

 グレンの声はラインの低い声によって遮られる。

 

「えっ?」

 

 グレンのとぼけた声にラインは怒りを爆発させる。

 

「お前はっ、他人の食べ物を勝手に食べてその言葉か!?」

「やべ!?」

 

 逃げ出すグレンの顔にに先ほどより強い右ストレートが炸裂する。窓ガラスを割り、落ちていくグレン。

 

 この後、部屋の後片付けをしたのはグレンだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 寮への引っ越しが終わった次の日、ライン達は入学式を行っていた。流石に軍人学校に親の参加は無い。

 

 先ほどのホールで誰もが軍服を着ていて、ビシッと整列していた。

 

 しかしまだまだ軍服を着こなせていない者ばかり。もちろんラインもだ。

 

 う~ん。なんか変な感じだな……

 

 とラインは体をゴソゴソと動かしながら、入学式の始まりを待つ。

 

 すると壇上に先ほどのゴリラのような軍人が立つ。目の前にあるマイクを使わず、地声で話すみたいだ。

 

「お前ら……いや、諸君らは見事アカデミーに合格した。これから現場で指導するゴリだ。よろしく頼む!!」

 

 最後の「よろしく頼む!!」の大きな声は耳を塞ぐほどであった。これマイク使ってたら……

 

 ブルッと身体を震わせるラインだった。

 

 

 

 

 

 

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 次に学園長のお話。まあ、良くあるながーいお話。

 

 ある意味、このおかげで緊張がほぐれたのは幸いだろう。

 

 学園長の話が終わり、終わりかな? と思ったがゴリが再度壇上に立つ。

 

「今日、特別ゲストを呼んでいる。きょうつけぇぇ!! 礼!!」

 

 ゴリの大きな号令と共に頭を下げる。

 

 頭を下げるという事はかなりのお偉いさんか……

 

 頭をゆっくりあげると壇上にはーー

 

 

 

 

 ーーブライス=クロンプトンーーエルス国代表、エルス国最高指揮官が壇上に居た。

 

 流石にこれには入学式といえども騒然とする。軍人学校の卒業式に来るのなら分かるが、入学式に来るのは異例だ。

 

 しかし、教員達は平然としている。これは普通なのだろうか?

 

 まだざわついている中、ブライスは話し始める。

 

「いきなり私が現れた事で驚いているだろうが、話を聞いて欲しい」

 

 この一言で、騒然としていた会場はぱったりと音が止む。

 

 ブライスは静まったのを確認して話を続ける。

 

「皆、ありがとう。では話を続けよう。今日、君達はアカデミーに入学する。入学おめでとう」

 

 ライン達は礼をする事で返事する。

 

「さて、このアカデミーは軍人学校。魔法師、パイロット等のスペシャリストを育成する場所だ。君達も卒業と共に各部署で活躍してもらいたい」

 

 ブライスは一面を見渡し、話を続ける。

 

「君達は入学試験を合格したが、何故合格したか分かるか?」

 

 この言葉に誰も答えられない。余りにも試験合格基準が分かりにくく、未だ彼らも合格した実感が無いのだ。

 

「ふむ。まずは試験の意義を説明しよう。あの試験の意義はーー」

 

 ブライスは一旦言葉を止め、一度目線を伏せ、再度目線を上げる。

 

「ーー命令に従わない事」

 

 この言葉で再度騒然とする。もちろんラインにも意味が分からない。ほとんどの生徒が頭にハテナマークが付いているだろう。

 軍人は命令厳守なのが当たり前と思っていたのだ。

 

 そんな中、ブライスは話を続ける。

 

「もちろん、常に命令に従わないのでは軍隊として成りたたなくなってしまう。これは君達が一流の軍人になった話だ。普通の軍人では命令厳守するのが精一杯だ。しかし、戦場では常に送られて来る命令が正しいとは限らない」

 

 もう既に会場は静まり返り、ブライスの話を食い入るように聞いていた。

 

「 君達は卒業後、重要な立場に着くことも多い。だから君達には命令厳守では無く、各自で判断する力を付けて欲しい」

 

 皆、この言葉に頷く。

 

「そしてあの試験はその素質を見極めていたのだ。そう君達は試験によって選ばれたのだ。だから誇りを持って精進してほしい」

 

 ラインは試験を思い出す。

 

 なるほど。『相手を殺せ』が命令。人を殺すという事を拒む良心vs命令&受かりたい欲望だった訳か……

 

 ラインは自分の行いが合ってた事に安堵して、フフッと笑みを零す。

 

 まだブライスの話は続く。

 

「そしてもう一つ、肝に銘じて欲しい事がある。それは……『君達は選ばれたが、ただの人だ』ということを。君達はこれから、普通の人より強い力を手に入れるだろう。だが決して驕ってはいけない。別に君達が特別優れてる訳じゃない。力には責任が付いて来る事を決して忘れるな」

 

 この重い言葉に自分達の浮かれていた心を戒める。

 

 この言葉を最後にブライスは壇上を離れる。

 

 離れるブライスに大きな拍手が贈られた。

 

 そして入学式はこれにて閉式した。

 


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