混沌の中で選ばれし英雄 ~理不尽な世界を魔法と人型兵器で破壊してやる~   作:氷炎の双剣

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はじめまして、銀氷の魔女です。
稚拙な作品ですが最後まで書くつもりです。
よろしくお願いしますm(__)m

感想や批判、評価は大歓迎です。
もちろん質問も受け付けています。


〈1章 ユーリ 火星編〉
1-1 火星の生活は……


 

 地球から遠く離れた星ーー火星。

 太陽系では地球の隣だが、最速でも1週間掛かる。

 もはや地球から目の届かない場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 -火星 採掘場-

 

 余り広くない採掘所に大きな声が響いた。

 

「ちんたらしてないでさっさと歩け!」

 

 大きな声を出した兵士は強い口調でイラつきを隠さずに言った。

 

 そんな中8歳ぐらいの少女が転んでしまう。

 

 兵士はそれを見て、

 

「ああん? 急げって言ってのに、何這いつくばってんだ!!」

 

 兵士は少女を蹴り飛ばす。

 少女は壁におもっいきり叩きつけられた。

 その衝撃で口から胃の中の物を吐き出してしまう。

 

 兵士がもう一度殴ろうとすると、間に少年が入ってきた。

 少年は手を左右に広げ、叫んだ。

 

「止めろ! 殴る必要は無いだろう!」

 

 兵士は少年を睨みながら言った。

 

「こちらは仕事なんだ。流れを潤滑にしようとしてるだけだが。ん? 何か文句が有るのか?」

「あんたは俺達を人扱いしてるのか!? あんたは俺達を物扱いしてるようにしか感じ無い!」

 

 兵士はふと周りを見渡す。

 周りには沢山の人が兵士を睨んでいた。

 

 兵士は今は分が悪いと思い、

 

「すみませんね、ちょっとやりすぎたかもしれませんね」

 

 と言って奥に引っ込んで行った。

 

 痛みが引いたのだろうか少女は少年にお礼を言った。

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

 少年は照れ隠しで頭を掻きながら言った。

 

「別に良いってことよ。次は気をつけろよ」

 

 少女は花のような笑顔で頷き、手を振りながら列に戻って行った。

 

 その姿を見送る少年の目はどこか悲しそうだった。

 

 

 

 少年はふと見上げた。空は見えない。汚い天井が見えるだけだ。

 

 汚い天井を見て思った。

 俺達は何でこんな事になってしまったのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 2100年……最悪の年と呼ばれている年の事である。

 

 さっきの少年の名前はユーリ=エリクソンという。

 三年前、ユーリは家族と共に火星に行く準備をしていた。

 最低限の荷物を自分のリュックに入れる。

 

「ねえ、父さん。火星ってどんな所?」

 

 と興味津々に聞くユーリ10歳であった。

 

 父さんはユーリの頭を撫でながら言う。

 

「ユーリ、火星は希望の楽園さ。食べ物も沢山あるし、キレイな場所さ。仕事はちょっと辛いかもしれないけど、父さん頑張るからな」

 

 それを聞いて、ユーリは頷く。

 

 ユーリ達は低収入層だった。だが、不幸だった訳では無い。毎日が楽しく幸せだった。

 

 だが、最悪の年によって全て狂った。

 真っ先に食料が尽き、今日のご飯にも苦しむ事になった。

 

 そんな中、[火星に行こう]キャンペーンを見つける事になる。

 もはや、生きる為には応募するしかない。

 

 父さんは必死に応募した。

 もちろん向こうは通す気満々なので、すぐに合格通知が来た。

 

 家族単位という話だったが、遠くに行くのに家族で行く事はあり、別に不思議ではなかった。

 

 また、家族にも食料が出るという好条件はもはやトドメだったに違い無い。

 

 ユーリ達は直ぐに準備を開始した。

 そして準備の出来たユーリ達は迎えに来たトラックに乗って、空港に向かって行った。

 

 そのトラックには自分と同じぐらいの女の子がいた。

 ユーリが女の子に向けた時、目が合った。

 目が大きく、可愛らしい少女だった。

 ショートの赤い髪が印象的だ。

 

 ユーリはしばらく無言のまま、見つめてしまった。

 すると、視線に気づいたのか赤い髪の少女は話掛けて来た。

 

「こんにちは。あなたも火星に行くの?」

 

 突然、話掛けられたユーリは固まっていると父さんがニヤニヤしながらユーリを小突いて来る。

 

「おーい、ユーリ。聞かれてるぞ?」

 

 ユーリは我に返り、慌てて答えた。

 

「ぼ、僕はユーリ=エリクソン10歳です! よろしくお願いします!」

 

 その声は大きくトラック中に響いた。

 

 いきなり大声で自己紹介された少女は一瞬キョトンとして、直ぐに笑い始めた。

 トラック中も少女と同じように笑いだす。

 

 ユーリはそれを見て、拗ねてしまった。

 少女はそれに気づき、ユーリに謝った。

 

「ユーリ君だっけ? 笑ってごめんね。ユーリ君が可笑しかったから」

 

 ユーリはさっきの慌ててように穴があったら隠れたいほど恥ずかしかった。

 

「あ、そういえば私の名前言ってなかったね。私の名前はサラだよ。よろしくね」

 

 サラは可愛らしい笑顔で自己紹介した。

 ユーリはまだ赤い顔のまま言った。

 

「ぼ、僕も火星に行くよ。サラも?」

 

 サラは頷いた。

 

「うん、家族で行くんだ♪ 宇宙楽しみ! 宇宙って無重力なんでしょ? それにお星様がいっぱい見れるんだよね?」

 

 サラはずいっとユーリの顔の前まで近づいた。

 サラの顔が目の前に来てユーリは頭が真っ白になった。

 

 ユーリは必死に頷く事しか出来なかった…

 

 

 

 -----

 

 -地球 宇宙空港-

 

 ユーリ達が空港に着いた時には空港内は人で埋め尽くされていた。人酔いしそうなぐらいである。

 だが、みなの顔は活き活きとしていた。

 そして宇宙船乗り込みの時、ユーリはサラに別れを告げていた。

 

「ユーリ君、一旦お別れだね」

「うん」

 

 ユーリはとても残念そうにしていた。

 それに気づいたサラは出来るだけ笑顔で言った。

 

「大丈夫♪ また会えるから♪」

 

 ユーリは力無く再び頷いた。

 

 サラは手を振って離れて行く……

 

「またね♪ ユーリ君♪」

 

 ユーリも手を振りながら、見送る。

 

「サラ、また会おうねー!」

 

 サラは宇宙船の中に消えて行った。

 

 

 サラを見送り終わったユーリはしょぼくれてると、頭を撫でられた。

 見上げると父さんだった。

 

「ユーリ、また会えるさ。心配するなって」

「うん!」

 

 ユーリ達も宇宙船に入って行った……

 

 

 

 

 

 ------

 

 -宇宙船内-

 

 宇宙船内はそんなに広くはなかった。一人分の座席はエコノミークラスぐらいだろうか。

 座席は全席満席だった。

 だが、これから毎日三食出るのであったから不満はない。

 

 

 ユーリ達は座席に着き、大人しくしていると放送が入った。

 

「当機はこれから火星に向かいます。予定は1週間を予定してます。お困りの際は近くの乗務員まで」

 

 近くには乗務員といえども、ガタイのいい男達しかいなかった。

 やはり、旅行では無いからスチュワーデスとかいないのだろうかとユーリは思った。

 

 もちろん、地球連合国としては監視の意味で兵士を潜入させているだけだが。

 

 

 

 多くの宇宙船が宇宙に上がった。

 周りを見ても宇宙船だらけ。数えきれないほどであった。

 一面が宇宙船で埋まる。

 

 ユーリはそれを見て、喜んだ。

 

「父さん! スゴいよ! まるで、宇宙人が攻めて来るみたいだよ!」

「ああ、スゴいな。これだけの宇宙船が一気に上がったのは初めてだろう」

 

 その時、下から上がって来る大きな船が見えた。

 多数の砲門を兼ね備え、大きさは宇宙船の比では無い。

 

「父さん! 大きい船だね! 地球連合軍の船かな?」

「そうみたいだな。軍が護衛してくれるらしい」

 

 地球連合軍は宇宙船の監視に戦艦3、護衛艦8を派遣していた。

 

 

 護衛にしては大規模過ぎる大艦隊であった。

 護衛の名目は海賊やテロ対策と言っていたが、こんな艦隊に刃向かう者などいるわけも無い。ゲリラならやりようがあるが、見晴らしのいい場所で挑むのは馬鹿らしい。

 

 という訳で宇宙船には大艦隊が護衛に着いたわけだが、連合軍の真意に気づく者はほんの一部だった。

 

 だが、ここで声を上げても誰も耳を貸してくれない。むしろ、追い出されるだけだろう。

 

 ユーリはもちろん気づくはずもなかった。

 

 ただユーリは宇宙船の無重力を、軍艦を、窓から見える星を楽しんでいた。

 

 

 

 

 ------

 

 -火星 宇宙空港-

 

 船内に放送が響いた。

 

「ご搭乗のお客様様にお知らせします。火星に到着いたしました」 

 

 ぞろぞろと宇宙船から人が降りて行く。

 もちろんユーリ達も含まれていた。

 あっという間に空港付近は人で埋め尽くされた。

 

 そして、降ろし終わると直ぐに宇宙船や艦隊は発進し始めた。

 ユーリは艦隊に向かって叫ぶ。

 

「守ってくれて、ありがとうー!」

 

 艦隊が見えなくなるまで手を振り続けた。

 しばらくするとトラックが沢山やって来た。

 迎えだろうか?

 

 人混みを包囲するように止まると、中から兵士がぞろぞろと降りてきた。

 

 そして、横一列に並ぶと

 

「構え!」

 

 の声と同時に銃をこちらに向けた。

 

 この瞬間ユーリ達は何が起こっているのか理解出来なかった。いや、理解出来る訳が無いだろう。

 

 今まで守ってくれた連合軍がこちらに銃を向けるという事を理解出来るだろうか? 国民である彼らに銃を向ける事は有り得ないだろう。

 

 彼らはむしろ、この現状を理解したくないかもしれない。

 理解してしまったら続いて想像してしまうのは地獄なのだから……

 

 異様な雰囲気のまま、拡声器を持った兵士が前に一歩出る。

 

「我々は今から貴様らを人としては扱わん。貴様らは家畜以下だ!

 従わない者は殺す!以上だ!」

 

 それを聞いて群集は騒ぎ出す。

 何が起こってるんだ!? 何故銃を向けるのだ!? 楽園はどうなる!? 等々悲鳴混じりで聞こえる。

 

 騒然としている中、勇気の有る者は前に出て叫ぶ。

 

「それは人権に反している。我々を人と見なさないならば我々は即刻立ち去り、裁判を起こす!」

 

 それを聞いた兵士達は馬鹿にしたように笑いだす。

 

 兵士達に笑われた者は怒り出す。

 

「何が可笑しい!?」

 

 兵士達は馬鹿にしたような顔をした。

 

「我々がわざわざ地球に送ると思うか? 地球に声が届かなければ意味がないぞ?」

 

 それを聞いた男は慌てて電話を取り出す。

 だが、もちろん圏外だ。

 

 火星に基地局など有るわけも無い。

 

 兵士達は笑いを噛みしめながら言った。 

 

「繋がるわけないだろ……ククク……一応衛星電話は繋がるが……渡すわけないだろ?」

 

 そう言われて、男は手からスルリと抜けるように電話を手から取り落とした。

 

 電話は地面を叩いて、虚しい音を出した。

 

 

 

 絶望な雰囲気が辺りに出て来た頃、一人の男が前に飛び出した。

 そして大きな声で叫んだ。

 

「ならば、奪えば良いだろう! 我々は誰にも屈しない! 我々で自由を勝ち取ろう! 俺達の人数は圧倒的だ! 俺に続け!」

 

 その言葉と同時に若者や男達が兵士に襲いかかり始めた。

 最初はあんまりいなかったが、一人、また一人と前に足が動き始めた。

 そして何時もの間にか、ものすごい数が襲いかかろうとしていた。

 

 その中にはユーリの父さんも含まれていた。

 父さんは踏み出す前にユーリに向かって言った。

 

「ユーリ。父さんも戦いに行く! 母さんの事は頼んだぞ!」

「父さん! 僕も!」

「ダメだ! ユーリ! もし俺に何かがあったら誰が母さんを守るんだ?」

 

 そう言われたユーリは返す言葉が見つからない。

 ユーリは覚悟を決め、父さんに言った。

 

「父さん。後は僕に任せて!」

 

 それを聞いた父さんは安心して頷き、走って兵士に向かって行った。

 

 

 

 -----

 

 目の前にはものすごい数の暴徒と化した大量の群集がいる。

 だが、兵士達は冷静だった。

 それはこの事態が想定内だからである。

 

 隊長らしき人が叫んだ。

 

「上からは殺してはいけないとは言われておらん! 家畜共に誰が飼い主か教えてやれ! 撃てー!!」

 

 掛け声と共に銃が一斉に火を噴いた。

 銃弾が群集に向かって行く……

 そして次々と倒れていく群集達……

 

 

 

 そしてガチンッという弾切れの音が聞こえた時には、死体の山が出来ていた。

 

 そして一面血の海である。ユーリの父親も血の海の中である。

 もはや、兵士に向かって行く人は誰も残っていなかった。

 いや、正確には兵士に向かって行く勇気を持った者が。

 思い知ったのである。このまま突撃しても死ぬだけだと。

 

 ユーリは呆然とした。さっきまでしゃべっていた父さんが死んだなんて……理解出来なかった。

 

 いや、したくなかった。

 

 その時、後ろから悲鳴が聞こえた。

 

 叫んだのは母さんだった。

 

「あなた……あなたー!!」

 

 母さんは叫びながら、父さんに向かって行った。

 

 

 だが兵士は見逃すはずも無く、引き金を引き、母さんは父さんにたどり着く前に一つの発砲音が聞こえた時既に崩れ落ちていた。

 

 ユーリはこの状景を見ても声はもちろん涙すら出なかった。

 

 もはや10歳の頭では許容量を超えていた。いや、大人ですら無理だろう。

 

 当たり前だろう。

 一分も経たない間に両親を目の前で殺されたのだから。

 

 この場には兵士達の装填音と遺族の悲鳴だけが響きわたった……

 

 

 

 この時、ユーリは立ちすくんでいた。

 何が起きたか分からないのと両親を失った絶望感を感じて呆然としていた。

 

 だがそんな事お構いなしに兵士は拡声器で叫ぶ。

 

「さあ、まだ主人に楯突くバカ犬はいるか?」

 

 兵士は見回すが、誰もが恐怖を顔に貼り付けて動けない。

 

 誰も動かないので満足したのか兵士は続けて拡声器で叫ぶ。

 

「なら、全員これから豚小屋を案内してやる」

 

 兵士達はユーリ達を急かした。

 ユーリ達は先導する兵士達に付いていく……

 

 

 

 

 -採掘所 住居スペース-

 

「お前はここだ!」

 

 ユーリは強く突き飛ばされ、部屋の中で転んでしまう。

 

 兵士は端末を見て、もう一人を探す。

 兵士の手が止まると同時に、続けてもう一人を呼ぶ。

 

「おい、お前だ! 来い!」

 

 兵士の手は少女に伸ばされ、手を掴み引き寄せて、ユーリの方に突き飛ばした。

 

「キャッ!」

 

 という小さな悲鳴と共にユーリに飛んでくる。

 

 ユーリは少女を受け止める。

 その子は少女はサラだった。

 

 お互いに目を合わせて驚いていると、兵士は扉を閉め、隣の部屋に向かって行った。

 

 足音が遠ざかって行く……

 

 

 

 ------

 

 

 ユーリは驚いていた。まさかトラックで会ったサラにまた会えるなんて。

 そして、あの中死なずに生きててくれるなんて……

 サラのぬくもりがユーリに現実だと認識させてくれる。

 

 最初は驚いていたが、次第に嬉しくて涙が出てきた。

 サラを見るとサラも泣いていた。

 

 ユーリは涙を拭くと、少し震えた声で言った。

 

「良かった……サラが生きててくれて……」

 

 サラはそれを聞いて頷く。

 

「私も……パパとママが死んじゃったから一人ぼっちになっちゃうと思ったけど、ユーリ君が生きてて……嬉しい」

 

 2人とも安心したら涙が出てきた。お互いに抱きしめあった。

 

 お互いに寂しさを埋める為、温もりを感じあっていた……

 

 

 

 

 -------

 

 しばらく抱きしめあっているとユーリはふと今の状況に気付いた。いや、気づいてしまった。

 

 好意を頂いている女の子と抱きしめあっている事に。

 

 サラはとてもいい匂いがする……

 何だろうか、何の匂いか分からないけどいい匂いだ。

 

 同時にユーリは混乱と恥ずかしさのダブルパンチを受けていた。内心はものすごい動揺していた。

 

 そしてとうとう耐えきれなくなって、ユーリは意識を飛ばした。

 

 

 

 

 -----

 

「うっ……う、うん……」

 

 ユーリはゆっくりと目が覚めた。

 

 頭に柔らかい感触が当たっていた。

 いつの間にかベッドに移動したのかなと思って、目を開けると目の前にはサラの顔がどアップだった。

 

「あ、起きた? いきなり倒れちゃうからビックリしちゃった……」

 

 ユーリはサラの言葉を聞いてなかった。今の状況を理解するのに必死だった。

 

 上にはサラの顔、下には柔らかい感触……まさか……

 

 ユーリは飛び上がってサラから離れた。

 

「うわぁぁぁぁぁーー!? 何で、何で!?」

 

「どうしたの? ユーリ君?」

 

「えっ? あ、え………その、何で膝枕してくれたの?」

 

 サラはキョトンとした顔をした。

 そしてクスクス笑いながら言った。

 

「寝ちゃたかなと思ってベッドまで持ってこうと思ったけど、持てなかったし、起こすの悪いかなと思って枕代わりにしたけど……ダメだった?」

 

 と不安そうに聞いてくる。

 

 ユーリは首を横にブンブンと振って必死に否定した。

 

「良かった……ママからこうすると喜ぶと教わったから、ユーリ君に喜んで欲しくて……」

 

 サラのお母さん、グッジョブ!!

 

 ユーリは内心見知らぬサラのお母さんにとても感謝した。

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 しばらくすると放送が流れた。

 

「今いる場所がおまえ等の部屋だ。覚えとけ! 部屋の入れ替えは許さん。点呼した時に一人でもいなかったらその部屋は懲罰だ!」

 

 プツンと前触れも無く放送が途切れる。

 

 ユーリとサラはお互いに顔を見合わせる。

 そしてお互いに笑顔になった。

 

「よろしくね、ユーリ君」

 

「よろしく、サラ」

 

 同じ部屋になって良かった……とお互いに思った。

 

 

 

 ふとユーリは部屋を見渡した。周りにはベッドぐらいしかなく六畳も無いだろう。

 だが二人が生活して行くには十分だ。

 

 食事やトイレは食堂や共同トイレとなる。風呂は入れるか分からない。

 食堂は部屋を出たらすぐだ。

 

 一階には沢山の部屋と食堂、兵士の詰め所がある。

 

 二階以降は部屋だけだ。

 

 一階は子供達だけしかいない。それも年齢が幼いのが多い。

 なぜなら、簡単に人質に出来るからである。

 反乱が起きても子供達が人質だと手を出しにくいからである。

 

 また、男女分けるなど何もない。適当に決めているだけである。

 もし、間違えが起きたら子供は売り飛ばすだけである。

 

 この建物は殺風景な部屋とコンクリートの壁から監獄と呼ばれた。

 

 

 

 この日は何も無かった。

 いや、あっても誰もやる気など起きない。

 

 あんな事が起きた後だから…

 今夜はあちこちですすり泣く声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 ------

 

 翌朝、監獄はシーンと静まり返っていた。

 多少寝息は聞こえるがほとんど音はしない。

 やはり、みんな疲れているのだろう。

 

 起きている人はほとんどいない。

 ユーリ自身も夢でうなされていた。

 

 両親がどんどん遠くに行ってしまう夢だ。

 

 

 

 その時、チャイムが鳴った。

 サラとユーリは飛び起きた。

 

 ユーリはサラを見るとサラも目が赤い。

 

「おはよう、サラ」

 

「おはよう、ユーリ君」

 

 どちらも涙を隠すように起きた。

 

 

 その時、放送が流れた。

 

「全員今すぐに食堂に集合! 5分以内に来ないやつは処刑だ!」

 

 ユーリとサラはお互いに顔を見合わせる。

 そして、同時に頷いた。

 

 ユーリ達はすぐに部屋から飛び出した。

 すると、周りの子供達も同じように扉から出てきた。

 上の階も吹き抜けなので、上の階の扉からバタバタと出てくるのが分かる。

 

 -----

 

 5分後、食堂は人で埋め尽くされていた。

 皆、これから何が起きるか不安がっていた。

 

 兵士が拡声器で叫んだ。

 

「これから貴様らには、餌を与える。食え! それと出てこないやつは死刑だ」

 

 その言葉と共に兵士達は部屋を見回り始める。

 そして、見つかってしまう。

 

「嫌だ! もう何もしたくない! 帰らせてくれ!」

 

 男がイヤイヤと喚く。

 

 すると兵士は笑いながら

 

「良いだろう。今すぐ、帰らせてやろう」

 

 銃を男の頭に向ける……

 

「や、止めて! 死にたくない! お願いします! 何でもしますから!」

 

「ほう、何でもするか。では死ね!」

 

 一つの銃声が響いた。

 男は力無く倒れた。

 

 悲鳴が上がる。また、人が死んだ。こんなにも容易く……

 

 最初の銃声を皮きりにあっちこっちで悲鳴が上がる。そして、何発もの銃声が聞こえた。

 

 兵士はニヤリと笑うと

 

「貴様ら、分かったか? 逆らうと死んでもらう。お前らは蚊と同じぐらいの価値しかない。さあ、餌をさっさと食え!」

 

 殺された人達は見せしめに殺されたのであった。

 

 

 食事は一人当たりパンが一枚、野菜スープ一杯、干し肉一切れが配られた。

 もちろん、一人当たりには足りないがユーリ達が予想してたよりご飯が出た。

 

 ご飯が出ないのではと思われていたが、一応三食出るらしい。

 それも食べていけば、ギリギリ死なない程度の量である。

 

 やはり、あまり人を殺したく無いのだろう。

 貴重な労働力だからである。慈悲ではない。

 

 だから逆らうやつは役に立たないから殺すだろう。

 なので逆らわなければ殺されないで生き延びれると分かり、皆必死に食べる。

 

 ユーリ達も同じだった。

 

 

 

 ------

 

 30分後、

 

「食事は終了だ!」

 

 という声が響いた。

 その頃には皆すでに食べ終わっていた。

 

 こんなに長く食べる時間が与えられるとは思って無かったからである。急いで腹につめこんでいたのだ。

 

 続いて兵士は叫ぶ。

 

「これから作業に入れ。男はこっち、女はこっちだ」

 

 ここで一旦サラと別れる事になるみたいだ。

 

「サラ、また後でね」

「ユーリ君も……」

 

 サラも寂しそうに言った。

 

 

 -----

 

 ユーリと男達が兵士達に連れて行かれたのは採掘現場だった。

 既にそこでは沢山の人がツルハシで穴を掘っていた。

 

 ユーリ達はその様子に眺めていると兵士は叫ぶ。

 

「お前らはここで地面を掘って貰う。やり方はここのやつに聞け。以上」

 

 そう言って兵士はさっさと去っていった。

 

 何をすればいいのかわからずに立ちすくんで居ると、一人の労働者が近いて来た。その男は無精髭を生やし、目は鋭かった。

 

「……お前らが新入りか……全員ツルハシを持ってここを掘れ」

 

 だが誰も動かない。地面を掘る意味が分からないのだ。

 

 すると、その男が叫ぶ。

 

「お前等! 死にたくなければ、すぐにかかれ!」

 

 皆は慌てて穴を掘り始める。

 

 

 

 ------

 

 掘り始めてから1時間後、ユーリはボロボロだった。

 

「はあはあ……全く掘れない……」

 

 ユーリは一時間無心に掘った。

 だけど、1メートルも掘れて無かった。

 

 何だよこれ、こんなの無理だよと思っているとさっきの男が近づいてきた。

 

「……やはり、そんなものか」

 

 この言葉に皆がピキッと来た。

 

 一人が男に近づいて、胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、何で機械を使わないだ! 無駄だろ!」

 

 至極当然の質問に労働者は冷静な顔で言った。

 

「機械? 機械なんてここには無い」

 

 この言葉に皆が驚いた。

 

 労働者は話を続ける。

 

「そんな物は無い。大人しく続けろ。やり方はこうだ」

 

 男はツルハシを持って掘り始めた。そしたらすぐに深くなった。

 

 皆、自分との余りの違いに驚く。

 

 労働者は手を止め、口を開いた。

 

「こうやれ。俺の名はサイオンだ。よろしく頼む」

 

 サイオンは去っていった。

 

 

 

 -------

 

 更に二時間後、やり方を真似してやったら二倍のスピードで掘れたのである。

 大した物である。

 だが代償は死ぬほど疲れるという最悪の贈り物である。

 

 まだ、サイオンには全く勝て無いけど。

 

 

 

 この時、休憩時間だった。

 

 たった30分だけだけど、この疲れにはありがたかった。

 

 

 ふと隣を見ると隣の少年もへこたれていた。

 身体を地面に投げ出していた。

 もはや体から魂が抜けそうである。

 

 ユーリは少年に話しかけた。

 

「大丈夫?」

 

 少年は力なき目で見た。

 

 その様子を見て、ユーリは言った。

 

「大丈夫じゃなさそうだね……」

 

「疲れた! 今日はもう体が動かん! 腕が震えてる!」

 

 少年はうんざりした顔でそう言った。

 

 ユーリは何か気付いた顔をした。

 

「あ、自己紹介して無かったね。僕はユーリだよ」

 

「おう、ユーリよろしく。俺はウィリーだ」

 

「ウィリーか。よろしく」

 

 2人が和気あいあいしようとしている時間はすぐ終わった。

 

 チャイムが鳴り、作業が開始された。

 

 

 

 

 -------

 

 チャイムが鳴り、今日の作業は終わった。

 

「死ねる……今ならすぐ死ねるわ……」

 

 人生が終わったような顔をしながら、ウィリーはトボトボと監獄に向かって歩いていた。

 

 隣をユーリも同じように歩いていた。

 

「僕ももう倒れたい……でもベッドでも寝たい……」

 

 と小さく呟く。

 

 ベッドで横になりたい一心でゆっくり監獄に入っていった。

 2人とも一階だったのですぐに部屋に戻れた。

 

 二階以降の人は大変だなーと思いながら……

 

 

 

 

 扉を開けると中にはサラが居た。

 

 ユーリに気づくと振り返り声をかけた。

 

「ユーリ君お疲れさま。大丈夫?」

 

「サラ……ただいま……大丈夫じゃない……」

 

 ユーリはフラフラとベッドに向かっていた時、ふと視界にサラの周りが目に入った。

 

 サラの周りは血まみれの包帯だらけだったのである。

 

 ユーリはフラフラの頭を覚醒させ、サラに詰め寄る。

 

「サラ! これはどうしたの!? 何かされたの!?」

 

 サラは苦笑いしながら答えた。

 

「実はね……苦手なの」

 

「何が!?」

 

 サラは一呼吸置いた。

 

 そんな間でもユーリは心配で頭がパンクしていた。

 

 もしサラが何かされてたら……怪我したら……

 

 ユーリはあたふたしていた。

 

 そんなユーリにサラはクスリと笑い、笑顔で答えた。

 

「ユーリ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ただ裁縫で失敗しただけだから」

 

「えっ?……裁縫? ……裁縫って何だっけ?」

 

 それを聞いたサラは腹を抱えて笑いだした。

 

「ユーリ……くくく……あははははははははは……ユーリ君落ち着いて? 裁縫は裁縫よ?」

 

 ユーリは自分が馬鹿な質問した事に気付いた顔をした後、心底恥ずかしそうな顔をした。

 

「今日はダメだ。もう寝よ……」

 

「ユーリ君ごめんって。笑い過ぎた……くくく」

 

「もうサラなんて知らない!」

 

 ユーリはふてくされて布団を深く被って寝てしまった。

 

 サラも布団に入り寝ようとしたが寝れなかった……

 今日の仕事の時のせいで……

 

 ユーリは深い睡眠のせいでサラの押し殺した泣き声を聞き逃した……

 

 

 


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